MMW-103
時間はかかったけど、蓋を開けてみれば俺たちの圧勝。
こちらには撃破の判定は1機も出なかった。
残ったのは勝利の味と、どこか物足りない不思議な感覚。
試合会場から戻った俺たちを待っていたのは、ソフィアたちと……ベリルコロニーの人間。
最初は、悪感情をぶつけてくるかと思いきや、そうではなかった。
どちらかというと、強いな!という賞賛だ。
(けど、それは俺たちには少しばかり、奇妙だ)
俺以外も、その勢いに押されながらあいまいに応対する。
戦士だったのか、関係者だったのかもわからない彼らはすぐに立ち去り、俺たちだけが残ることに。
俺も、みんなも、ぽかーんと見送るしかない。
「ええっと……動きは、良かったですよね?」
「うん。あっちの……ランク5とか6はあったんじゃないかなあ? 結局、次があるかどうかが決め手だったんだよね」
ソフィアの問いかけに答える形で、彼女と両親に向けて思ったことを話す俺。
周囲の戦士たちも、同意とばかりに頷いている。
弱くはない、弱くはないのだ。
例えば、外で探索をするぐらいなら十分すぎる強さだ。
しかし……。
「コランダムコロニーだとさ、すぐ戦士は死んでしまう。だから、強さって生きることなんだ。でも……」
「こちらでは、戦士の死亡は事故扱いだからね」
「死が遠いのは、悪いことではないんですけれど……」
ソフィアの両親が、俺の言葉に続ける。
そう、自分たちが死ぬところだったという自覚が薄いのだ、彼らは。
代わりが生産される俺たちコランダムコロニー、ある意味大事にされるベリルコロニー。
大きく違うように見えて……。
「要は、戦士が道具、資源ってのは変わらないわけだ。笑えてくるぜ」
顔をしかめたリングの言葉は、みんなの気持ちを代弁していた。
その後、ベリルコロニーからの呼び出しがあるまで雑談を続けていく。
「それにしても、みんな強いよね? アデルは、ぬるま湯だ。退屈だって感じだけど……十分強くない?」
「逆さ。これぐらいしかいないんだよ。で、殺しがあり得る中じゃ、毎度同じ相手になりやすい。それはお互いにごめんってことだよ」
俺の疑問は、あっさりと解決した。
確かに、それはちょっとばかり大変だ。
その話題を皮切りに、いろんなことを話し込む。
気が付けば、呼び出しがあった。
MMWは置いたままで、話したい人がいると誘われる。
一応の武装は許されており、案内についていく形で移動。
その間も、やはりこぎれいなコロニー内部を観察する俺。
過ごすには、問題ない生活空間が広がっている。
『今感じている感覚が、正解だ。外に向いてないだろう? コランダムコロニーとは別の意味で』
(うん……ここが世界、そういう感じだ)
コランダムコロニーも、どこか未来をあきらめているというか……違うな。
明日があるかわからないからと割り切っている、という感じだ。
でも、ベリルコロニーの雰囲気は違う。
今が正常、どうにか言葉にするならこんな感じだろうか?
「戦士セイヤ、いざとなったら君と飼い主だけでコロニーに逃げるように」
「はあ? 冗談でしょ。そんなの、戻っても俺たち借金だらけになっちゃうよ」
突然の発言に、俺も驚きを返す。
何より、周りにまだ人が……あれ、いない?
思わずきょろきょろと見渡してしまう。
いくつかの塀のようなものを通過したのは覚えているけど、いつの間にこんな……。
いや、案内役はいるじゃないか。
「なるほど、そういうことか。セイヤ、これもこっちなりの試験ってやつだ。わかってる戦士か、戦うだけのやつかってな。この会話自体も、その対象なんだ」
「面倒な話だね。人間同士、一緒にやりたい、でいいじゃん」
俺自身を人間に入れることはせず、思ったままに口にする。
と、前を行く案内役が反応した気がした。
彼?彼女?らも戦士なのだろうか?
「ふふ、私もそう思います。協力して、人の領域を広げたいものです」
「ソフィアが望むなら、手伝うよ。空に舞うついでにさ」
ソフィアの考えは、甘いという人がいるかもしれない。
賛同する人もいるかもしれない。
今は何とも言えないけど、いつか、きっと。
人が青い空とやらを取り戻せるなら……。
(空は、今も青いんだろうか?)
人類が、地下に逃げ込んだ理由。
いまだにはっきりしないその理由は、恐らくとても大変なものだ。
それだけ大変なものなら、地上、空は無事とは思えない。
もしかしたら、地下よりも地上世界のほうが……。
「ついたようだ」
俺の思考は、誰かの口にした到着の声で中断されるのだった。




