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名無しの黒姫  作者: 天桜犀 海陽
3/11

ドラゴンたちの住処

黒姫は、朝ご飯を食べた後、地図と水筒を持って山へと向かった。

水筒は召使たちの部屋で見つけたものだ。


今まで書いた地図を頼りに、水場や果物など食べれるものがあった場所に寄り休憩しながら登っていく。

ご飯が恋しくなるが、取った果物などを食べ、暗くなってきたら木の葉をかぶり木の上で隠れ寝た。

そうやって山を登り始めてから3日目、黒姫はようやく目的地であったドラゴンたちの住まう山頂へとたどり着いた。


想像していたより大きく、そしてかっこいいその姿を見て、黒姫は興奮した。

文献に書いてある恐ろしさよりも、彼女にとってはその美しさの方が目に留まったのだ。


黒姫は惹きつけられるように、ゆっくりとドラゴンたちの住処へと入っていった。

無意識に、彼らの縄張りの中へ足が向かっていた。


ドラゴンたちも黒姫に気づき、驚く。

なぜなら、彼女が王であるドラゴンと同じ色を纏い、そして強大な魔力を持っていたからだ。

普通のモンスターなどは感知することはできないが、ドラゴンには魔力を感知することができる。

突然現れた強大な存在に、ドラゴンたちの間に動揺が広がる。

ただただ広場の中央へ進む黒姫を眺めるドラゴンたち。


黒姫が広場の中央まで来たとき、空から大きな影が横切った。

それに気づいた黒姫とドラゴンたちは、空を見上げる。

すると、黒い巨体を持つドラゴンの王が広場へと降りてきた。

ドシンという着陸した音と同時に、地面が少し揺れる。


黒姫は現れた黒いドラゴンに釘付けになった。

巨体を覆う黒い鱗。

鋭い金色の瞳。

口から覗く鋭い牙。

手の先にある大きなかぎ爪。

彼を構成するすべてに目を惹かれた。



「強大な力を持つ人間よ。なぜここにいる。」

「……。」



返事を返さない黒姫に、ドラゴンの王は語気を強め言い放つ。



「なぜここにいると聞いているのだ人間よ!」

「…はっ!あ、ごめんなさい。すごく綺麗だったから……。」

「綺麗だと?」

「そう!あなたの体を覆うその鱗も私を見つめているその金の瞳も、手の先にある大きなかぎ爪も、口から除く鋭い牙も、全部が全部すっごくきれいだと思ったから。他のドラゴンたちも、もちろんきれいだけど、あなたのそれは別格!ええ、まさにこのドラゴンの中で1番の美しさを持っているよ!ああ、あなたが動くことで鱗に光が反射してまた違った輝きを見せてくれる。なんて美しいの!」



黒姫の早口にドラゴンたちは驚かされる。

もちろんドラゴンの王も例外なく。

幼い人間からスラスラと出てくる誉め言葉に、ドラゴンの王はたじたじになり、怒りも飛んで行った。



「わ、わかった、私が美しいというその言葉、嬉しく思う。だが、なぜここにいるのか、話してはくれないか。」

「あっ!そうだった。ここに来た理由を聞かれたんだった。えっと、私、本で読んだドラゴンが飛んでいるのを遠くから見て、どうしても近くで見たくなって、一目見ようとこの山を登ってきたの。」

「ドラゴンのことを知っているのであれば、なぜ許可証もなく登ってきた。」



ドラゴンの王は、許可証がなく山へ入ることは人間の間で広まっているものだと知っていたため、許可証もなく立ち入った人間の子どもに興味がわいた。



「許可証?何のこと?もしかして、ここって勝手に入っちゃいけなかったの?」

「許可証のことを知らないのか!?」



許可証について知らない人間の子どもに、ドラゴンたちはざわめいた。

許可証を渡してから、それを持たずに山に立ち入った人間など1人もいなかったからだ。



「そんなに大事なことなの?許可証を持っていることは。」

「それがそなたたち人間の国とした約束だからな。」

「そう、そうなんだ……。知らずに入ってきてしまってごめんなさい。」

「いや、知らなかったのなら構わん。しかし、普通の人間ならドラゴンの恐ろしさに慄き、真っ先に逃げるのだがな。そなたは不思議だ。」

「恐ろしくなんてないよ。美しいし、見れてよかったって思ってる。」



その言葉が黒姫の心からの言葉だと分かったドラゴンたちは、どんどん彼女に興味がわいていく。



「本当ならばこの山に許可証なく入った人間は、襲われても文句は言われないのだが。そなたは、本当に知らなかったのだな。なぜ誰も教えてくれなかったのだ。」

「それは教えてくれる人がいなかったから。」

「それはまことか!?」



予想外の言葉に、ドラゴンたちはどよめいた。



「なぜ誰もいなかったのだ?」

「だって、私の住むところには基本的に入ってきていいって許可をもらっている人以外は誰も入ってきちゃダメなんだ。」

「許可がなければ入ってはいけない?どのような環境でそなたは過ごしてきたのだ?」

「……。」



黒姫は思い出したくない過去を聞かれることに、言葉を詰まらせた。

その様子を見たドラゴンの王は彼女に話しかけた。



「いや、言いたくないのならいい。」



その言葉を聞いた黒姫は、驚き顔を上げる。

ドラゴンの王の瞳を見た彼女は、彼が本心からその言葉を言い、彼女のことを考えてくれているということに気づいた。

黒姫はその事実に、涙があふれた。

突然泣き出した黒姫に、ドラゴンの王は慌てる。



「ど、どうした人間。私が何かしただろうか?」

「ううん。違うの。そんな言葉かけられたのが初めてで、嬉しくって……。」

「……っ!?」



黒姫の言葉に、ドラゴンたちはさらに絶句させられた。

気遣いの言葉がかけられるのが初めて?

そんなことがあるのだろうか。

いや、あるから彼女はこんなに泣いているのだ。

理解していくうちに、ドラゴンたちは黒姫に同情し、彼女を泣かせるほどひどい仕打ちをしたであろう人間に怒りを募らせた。

ドラゴンは仲間意識が強く、家族を、仲間を大事にするのだ。

だからこそ、黒姫にされた所業を許せない。



「人間よ。今までどのような暮らしをしてきた。答えられる範囲でいい、答えてみよ。」

「……うん。私が赤ちゃんの頃、私を育ててくれた人は、私が泣くのが嫌だったみたいで、よく枕で私の顔を押さえつけて泣き止ませてたの。あと、泣くときも叩いたり、つねったりしてた。それで、お漏らしをしてしまった時も殴られて怒られてた。ダメなことだってわかってからは、ちゃんと我慢したり、すぐ泣き止むように頑張ったの。それから、私が立てるようになったら、一通りのことを教えてくれたの、トイレの仕方、食事の仕方、着替え方、お風呂の入り方、行っていい場所といけない場所。あと、人ととは絶対会っちゃいけないこと。それをすべて教え込んでいってから、彼女は出て行って二度と戻ってこなかった。1人になってからは、住んでる建物の使ったことのない場所を探検したの。いろんなものがあって楽しかった。ある日隠し通路を見つけて、別の建物に行く道を見つけたの。そこで私は掃除と洗濯について知って、それをできるようになるまで何度も掃除と洗濯を繰り返したんだ。やっとできるようになって余裕が出てからは、もう一回もう一つの建物に行っていろんな人たちの動きを見てたの。そのうちの1人が紙に文字が書かれているものを持っているのを見かけて、私は文字を知ったの。それから、独学で文字を学んで本が読めるようになった。そして、ドラゴンのことを知ったの!山の方を見てドラゴンの影を見つけて会いたくなって、ここまで来たんだ!」

「…っ。」



最後の方になるにつれて、黒姫の声は元気になっていった。

彼女は赤ん坊のころの記憶を今でも覚えているという珍しい事象を話しているのだが、そのことを圧倒するひどい生い立ちを聞いたドラゴンたちは言葉が出なかった。

人間は自身の子どもにひどい仕打ちができるなんて、知らなかったからだ。

一番長く生きていて、多くのことを知っているドラゴンの王でさえ知らなかった。


ドラゴンの王は、ここにこれたこと、ドラゴンがこんなにも美しいということを話し続ける黒姫を見て、ある決意をした。



「人間よ。良ければここで一緒に暮らさないか?様々なことを私が教えよう。」

「えっ!?いいの!?」



衝撃の発言に周りのドラゴンたちはざわついたが、それでも王の言葉ならと受け入れ始める。

黒姫も驚いていたが、うれしいと思いそれを受け入れようとしたが…。



「…ううん。やっぱり無理だよ。ごめんなさい。」

「無理とはどういうことだ?」

「私、もうずっと自分の部屋に帰ってないから、もしいないことがばれたらきっと怒られちゃう。それは嫌だから、すっごくすっごくうれしいけれど、もうそろそろ帰るね。」



ドラゴンたちは黒姫がまた怒られるという言葉に悲しみを感じた。

もう彼女のことをドラゴンたちは、仲間のように思っているからだった。



「ならば仕方がない。そなたに魔法を教えよう。」

「えっ?魔法を?」



黒姫は突然魔法を教えるということを言われ、驚きます。

なぜなら、魔法なんて本の中でしか知らないものだったから。

王宮の召使たちが魔法を使っているところを見たことがないので、使える人はいないと思っていたからだ。

黒姫は魔石を利用した魔道具はあるが、それと魔法は違うということを本で読んで知っていた。



「ああ、そうだ。魔法だ。そなたには膨大な魔力がある。それを使えばこの場所とそなたが住むところとの行き来など容易いものだ。」

「魔法を使えれば、ここにまた簡単に来れるようになるの?」

「もちろんだ。」

「……じゃあ、教えて!私、またここに来たい!」



黒姫はここに来たいという気持ちが抑えられず、魔法を教えてもらうことにした。

ドラゴンの王も、その返事にうれしくなった。



「では、時間も少ないだろうから早速始めよう。まずは体の中に流れる魔力を感じ取ることからだ。目を瞑ってみてくれ。」

「うん。」

「そして、体中に流れる温かいものを感じるのだ。」



黒姫は言われたとおりに目を瞑ってみるが、温かいものを感じることはできなかった。

しばらく感じ取れないか、目を強く瞑ってみるが全くわからない。



「わからないか?」

「…うん。ごめんなさい。」

「謝らなくてもよい。最初は皆そういうものだ。しかし、時間がないことに変わりはない。ならば、今度は私が手伝ってあげよう。わたしに触れてみてくれ。」

「わかった。」



黒姫はドラゴンの王に近づき、彼の体に触れた。

冷たくて、つるつるした感触が手に伝わる。



「今から魔力を私からそなたに流す。それを感じ取ってくれ。」

「うん。」



目を瞑って魔力が流れてくるのを待っていると、手のひらからどんどん温かい何かが流れてくるのを感じた。

そして、それが体の中を流れていくのも。



「わっ、すごい!あったかい!」

「そうか、もう感じ取れたのか。私たちの魔力の相性がいいのだろうな。どうだ、もう私は魔力を流すのをやめているが、まだ温かいものを感じ取れているか?」

「うん!体中に温かいものが流れているのを感じるよ!」

「それはすごいな。初めてすぐここまでできるとは、才能があるかもしれないな。これなら、今から教える魔法もすぐできるようになるだろう。」

「ほんと!?」

「ああ、本当だ。」



黒姫は、体に流れる温かい感触に、そして教えてくれる魔法もすぐできるようになるということに喜ぶ。

本で見たものが、自分でもできるんだと。



「それでは早速、魔法を教えよう。今流れている温かいものが、そなたの魔力だ。その魔力が全身の力を強くするイメージをしてご覧。」

「強くするってどういうこと?」

「そうだな、例えば今まで持ち上げられなかった岩が、力がついて持ち上げられるようになる感覚だ。」

「持ち上げられなかったものが、持ち上げられるように……。」



黒姫は、掃除のバケツが昔は運ぶのに苦労していたが、今では簡単に持てるようになったことをイメージした。

力がついたとは、そういうことなのではと思ったからだ。

そのイメージは間違いなく魔力に作用し、魔法を発動させた。

発動した瞬間、体がオレンジ色の光で一瞬包まれた。



「おお、どうやら成功したようだな。それは一時的に力を強くしてくれる魔法、“ブースト“だ。」

「ブースト…。力がすごくある感じがする!」

「ああ、そうだろうな。では、次に移ろう。」

「あれ?教えたかったのは、この魔法じゃないの?」

「この魔法が一番わかりやすいと思ったので、先に教えたのだ。」

「なるほど。」

「次は、風のように速く駆け抜けるイメージをしてくれ。」

「風のように……。」



黒姫は強い風が吹いた日を思い出し、その日は落ち葉がすごい勢いで飛んで行ったことをイメージした。

すると、体が一瞬水色に光り、体が軽くなった。



「もうこちらもできたか、その魔法は“アクセル”という。」

「アクセル…。体が軽くなったよ、すっごく速く走れそう。」

「ああ、その魔法が続くうちに、早く家へ帰るんだ。来た時の何倍もの速さで家に着くことができる。」

「うん!ありがとう!…じゃあ、またね!絶対また来るから!」

「ちょっと待ってくれ。」

「ん?どうしたの?」

「帰る前に、そなたの名を教えてくれ。」

「……。」



名前を教えてくれ、その言葉は黒姫にとってよくわからないものだった。

みんなが名前で呼び合うということは知っていた。

でも、自分自身がその“名前”で呼ばれたことは一度もないからだ。



「どうした?名を教えてはくれないのか?」



ドラゴンたちは嫌な予感がしていた。

まさかと思ったが、それはないだろうと。



「私、名前がないの。」

「っ!そうか、名がないのか……。」

「ごめんなさい。」

「謝るな。謝る必要はない。……名前がないのなら、私が名付けても構わんな?」

「えっ…!つけて、くれるの?」

「ああ、もちろん。嫌だったか?」

「ううん!そんなことない。すっごくうれしい!!」



黒姫はまたうれしくて涙をこぼした。

それを見て、ドラゴンたちはまた人間に怒りを募らせる。

そして、彼女を絶対に守ってみせると思った。



「では、名をつけよう。…実はな、私も昔、名がなかったのだ。」

「そうなの!?」

「ああ、生まれたばかりの私は体が弱くて、力がなく、当時のドラゴンは弱肉強食で弱いものは淘汰されていたからな。あ、今はそんなことはないぞ。私が力をつけて王となったことで、その風習を変えたからな。」

「そうなんだ。」

「だから、私も昔親に名をつけてもらえず、王になってからもただ竜王と呼ばれていた。そんな私に、ある人間の男が名をつけてくれたのだ。」

「人間が?」

「ああ、その人間は強く、そして優しい心を持っていた。ドラゴンを説得させ、大昔に許可証があれば人間を襲わないと約束させたのはその人間だ。」

「へぇ、すごいなぁ。」

「その人間が、私が名がないことを知ると、名をつけてくれたのだ。」

「何て名前なの?」

「名無しから、“ジェーンドゥ”という名前を付けてくれた。」

「ジェーンドゥ?どういう意味なの?」

「そのまま、名無しを言い換えたものだ。」

「なにそれ、ひどい!」

「いいや、私はそれを気に入ったのさ。この世界にはない言葉で、ジェーンドゥという名無しの意味を持つ言葉があって、今まで名がなかったんだからそれがピッタリだろと、皮肉も入れていたが、私はその言葉の響きが気に入ったのだ。それがいいというと、本人もいや、「冗談なんだが!?」と慌てていたが、私がいいといったのを聞いて、ジェーンドゥと名付けてくれたのだ。」

「そっか、大切な思い出が詰まった名前なんだね。」

「ああ、だから、お前の名は、私の名前の一部をとってこれからは“ジェーン”と名乗るといい。」



名づけをした瞬間、ジェーンとジェーンドゥの間に何か強いつながりができた気がした。

それを感じ取ったジェーンは胸が熱くなった。


「名無しのジェーン…。……うん、私も気に入った!ありがとう!ジェーンドゥ!」

「こちらこそ、ジェーン。これからよろしくな。」

「うん!……それじゃあ、私帰るね。ううん、行ってくるね!」

「ああ、行ってらっしゃい。」


そうして、黒姫ジェーンはアクセルの魔法をかけ、走って後宮まで帰っていった。


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