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名無しの黒姫  作者: 天桜犀 海陽
2/11

黒姫の知識欲

黒姫の生活は、掃除や洗濯のことを知り一変した。

ご飯を食べてから、洗濯をして、掃除をする。

そんな日々が続いた。

最初は長い時間できず、掃除は途中で終わっていた。

それでも続けていくうちに、体力がつき、掃除もうまくなり、自分が使うところだけの掃除がその日のうちにできるようになった。

それまでは、疲れたところで寝てしまっていたから、何度もご飯が食べられないことがあったが、今ではちゃんと1日2食、食べれる様になった。


そうして、毎日掃除をしていると、あまり汚れやゴミが出ないようになってきたことに気づいた黒姫は、定期的に掃除を行うようになった。

そうすることで、時間の余裕を作り、また冒険に出たいと思い始めたからだった。


抜け道を使い、王宮に向かった黒姫は、隠密行動が得意になっていた。

もともと、気づかれないように顔を見られないようにと言われていた彼女は、掃除と洗濯も気づかれないように行っていたからだ。

護衛は後宮の出入り口にしかいないし、侍女もご飯を運ぶときにしかいないが、見られたらまた乳母のように何かされるのではと彼女は恐怖していたのだ。

彼女にとって人は怖いものになっていた。

乳母しかちゃんと話したことも暮らしたこともない彼女は、それ以外の人間がいることを知らなかった。


彼女は、王宮の召使たちについてみているうちに、何か紙に書かれているものを持っている人を見つける。

あれは何だろうと興味を持った黒姫は、先ほど書かれていたものが後宮にもないか探しに出かけた。

前に一度だけ見た気がしたからだ。


後宮に戻った黒姫は、ある部屋につく。

そこは図書室だった。

図書室にある本を一冊取り出して開いてみると、そこには先ほどと同じものがたくさん書かれていた。

だが、彼女にはそれが読めない。

乳母が教えてくれたものの中に、文字はなかったからだ。

彼女はいろんな本を取り出してみた。

しかし、どれも意味の分からないものの羅列に頭を抱えた彼女は、もう一度王宮に向かった。


王宮の召使たちが住んでいる場所で、彼女は同じものが書かれているものを探した。

もちろん見つからないようになので、全くと言っていいほど見当たらなかった。

必死に隠れながら探していた時、廊下に折りたたまれた紙が落ちていたのを見つける。

そこには、黒姫が見たものと同じものが書かれていた。

これだ!と思った彼女は拾ってしげしげとみていたが、足音が聞こえ、とっさに柱を登り、()()()天井裏にある隠し通路に隠れた。

すると、侍女が2人先ほど紙を拾った場所に向かってきた。



「ねえ、落としたのってどんなものなの?」

「メモよ、メモ。“明日の2の鐘の時刻に、調理室の外の庭に待ってます。”って書かれたやつ。」

「なぁに?呼び出し?すごいじゃない!」

「だから、大事にしたくって。」

「わかった、私も探すわ。」



黒姫は、その言葉を聞いて、これが“明日の2の鐘の時刻に、調理室の外の庭に待ってます。”と書かれたものだと知った。

うれしくなった黒姫は、その紙を持ち帰った。


そして、後宮の図書室にある本の中で、1文字1文字分けて書かれた本があったことを思い出す。

それと、この紙の文字を見合わせてみた。

すると、これがが「あ」、これが「し」、これが「た」と書かれている文字がわかってきた。

彼女が見つけたのは、文字の読み書きを学ぶための子供向けの本だった。

一つのメモからその読み方がわかり、他の文字や数字の読み方も理解していくほど黒姫は頭がよかった。

学んでいくうちに、時間を忘れしまい気づいたころにはあたりが暗くなってしまっていた。

また、ご飯を食べ損ねてしまったのだ。

仕方なく、彼女はお水を飲み眠った。



次の日から、彼女のルーティーンに文字と数字の勉強が入った。

洗濯をして、掃除をして、部屋に持って行った本で文字と数字の勉強。

文字と数字の勉強が楽しすぎて、たまにご飯を忘れることもあったが、彼女はどんどん文字と数字を理解し、様々な本を読めるようになっていった。

植物の本や、動物の本、別の国について書いた本なんかは知らないことが知れて楽しかった。

小説なんかも置いてあったが、彼女にはよくわからなかった。

なぜなら、彼女にとって人間とは怖いものだからだ。

だから、小説の登場人物たちの気持ちなんてわからなかった。


黒姫は、この国のことを知った。

ドラゴニア王国という名前で、後宮から見えるあの山にはドラゴンが住んでいること。

町には多くの人がいて、他国との交易が盛ん。

海産物が名産品である。


知らないことを知ることは楽しくて仕方がなかった。

ただ、後宮の図書室には、黒いドラゴンと少年の話の書かれた本はなかった。



後宮のすぐ裏にある山にドラゴンがいることを知った黒姫は、ドラゴンに会ってみたいと思うようになった。

ドラゴンについては、恐ろしいだとかいろいろ書かれていたが、実際に遠くからでも見てみたいと思ったのだ。

山のほうを見ているとたまに空を飛んでいるあの影が、ドラゴンだということはなんとなくわかった。

その大きさから、大したことはないだろうと黒姫は思ってしまったのだ。

ドラゴンについて詳しく書かれた文献は後宮にはなく、また、遠近法について書かれた本なんてものも無かったのである。



黒姫は、山側にある城壁の一部が壊れ、穴が開いていることを知っていた。

そこから山へ行き、あの頂上まで行けばドラゴンに会えると、彼女は勇んで歩いて行った。

歩いて、歩いて、歩き続けたが、いつまでたっても目的地に着かず、疲れ果てた黒姫はあきらめ元の道を戻っていった。



次の日。

昨日は朝からいかなかったからだと思い、朝ご飯を食べてから彼女は山へ登って行った。

しかし、上っている途中で疲れてしまい座り込むと、彼女はその場で寝てしまった。


気が付いた時には夜になっており、彼女は急いで後宮に戻った。

もちろんご飯はなく、疲れていた彼女は泥のように眠ってしまった。


さらに次の日から、体力がないことが原因だと思った黒姫は、毎日山に少し疲れるくらいまで登り、後宮に帰るという日々を過ごした。

もちろん、定期的な掃除と洗濯、読書は欠かさなかったが。


何日も、何日も。


それを繰り返していくうちに、体力も付き、山の深くまで登れるようになっていった。

繰り返している間に、どこに何があるのか地図を描き、果物や水のある場所で休憩しながらどんどん登っていけるようになった。


書物で読んだ毒が含まれている植物を見かけて、獰猛な動物やモンスター、ドラゴンにも会うんじゃないかと思っていたが、黒姫が会うことは全くなかった。



なぜ黒姫が動物やモンスターたちに出会わなかったのかというと、黒姫がその名の通り黒を纏っていたからだ。

動物やモンスターたちも黒いドラゴンの王について知っており、また森の中で黒色を纏っているものは他の者たちより強い傾向にあったからだ。

その経験則から、森にいるはずの獰猛な動物やモンスターたちは黒色を纏う黒姫を恐れ、見かけたらすぐ逃げていたというのが黒姫が動物やモンスターたちに遭わない答えだが、その事実を黒姫が知るすべはない。


また、ドラゴンに出会わなかったことについてだが、これは完全な偶然である。

ドラゴンたちがたまたま、彼女のいた場所まで降りてこなかったというだけだ。

彼女はとびっきり運がいいのだが、それに気付くのはだいぶん先になる。


そして、ついに彼女は山頂まで登れるようになる。


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