真実の告白
ユーリと会ってから、ジェーンの毎日は変わった。
掃除、洗濯、ドラゴンたちとの生活にユーリたちと話す時間が加えられた。
この国のことも、外の国のことも本でしか知らない彼女は、ユーリにたくさんのことを聞いた。
本で書いてあったことが真実だったり、違ったり。
本に書いていないことまでユーリは教えてくれた。
また、魔法についても語り合った。
私が全属性の魔法適性があるという話をしたとたん、どんな魔法が使えるか見せてくれ!とせがまれいろいろな魔法を見せた。
面白い、すごいとはしゃぐユーリの姿はまるで子供のころ初めて魔法を見た自分のようで、親近感を覚えた。
ユーリは私に魔法を見せてとせがむだけでなく、自身でも使える魔法を見せてくれた。
ドラゴンたちではやらないような魔法の使い方を教えてくれた。
剣に魔法をまとわせるとか、魔法で剣や槍を作り飛ばすとか。
新しいことが知れて、ジェーンは楽しくて仕方なかった。
ジェーンはいつの間にか、ユーリが来るのが楽しみになっていた。
ある日、いつもの時間に来たユーリたちに、ジェーンは質問をした。
「ねぇ、ユーリたちはいつも同じ時間にちゃんと来るけど、暇なの?」
そう聞いた瞬間、ユーリは腹を抱えて笑った。
突然笑い出したユーリに、ジェーンは困惑した。
「なに?いきなりどうしたの?」
「いや、まさかそんなことを聞かれるとは思わなくってな。」
「なにそれ。」
「暇か、だったな。いいや、暇じゃない。これでも忙しい身だからな。」
「じゃあ、なんでいつも同じ時間に来てくれるの?」
「時間を作ってるからだよ。俺にとってこの時間は大事な時間だからな。」
「ふーん……。」
ジェーンはユーリの言葉を聞いて、微笑みを浮かべた。
ユーリはその様子を見て幸せな気持ちになる。
ユーリはわかっていた。
この気持ちが何なのか。
自分がまさか持つことになるとは思ってもいなかったが。
これだけ幸せなら悪くないと思った。
王宮に戻ってから、ユーリは書類を片付ける。
すると、部屋のドアがノックされる。
「どうぞ。」
「失礼いたします。シャルロッテ様がいらっしゃっております。」
「通してくれ。」
キーンはドアを開け、シャルロッテを招き入れる。
シャルロッテは一礼をして、中に入った。
「ユーリ様、失礼いたします。」
「ああ、シャルロッテ様、来てくださりありがとうございます。ですが、私はまだ執務が残っておりますので…。」
「最近そればかりではないですか!ユーリ様、仲を深めるためにもっとお話がしたいのです。明日は一緒にお茶をしませんこと?」
「すみませんが、明日も予定が詰まっていまして。」
「そんな……。」
「申し訳ありません。」
そっけないユーリの態度に、シャルロッテは涙をこらえながら部屋を出た。
それと入れ違いにジュニアスが入ってくる。
手には手紙を持っていた。
手紙を持っていることに気づいたユーリは、ジュニアスに駆け寄る。
「返事が届いたか!」
「はい。本国より手紙が届いております。」
その手紙は、以前ジェーンのことについて書いた手紙への回答だった。
黒を忌み嫌う悪しき風習を打開するために、一つの提案をしたのだ。
ユーリはジュニアスから手紙を受け取り、中身を見た。
一通り読み終えた後、ユーリはニヤリと笑った。
「どうやら、許可が下りたようですね。」
「ああ、ジュニアスがジェーンについて調べてくれたおかげだ。」
「お役に立ててよかったです。」
ユーリは、ジェーンと話すようになってから彼女の食事を運ぶ王宮の侍女を特定し、彼女たちからジェーンがどういった存在なのか聞き出すようにジュニアスに命じていた。
ジュニアスは口の堅い彼女たちを何とか懐柔し、ジェーンが王族の娘で死産と国民には伝えられているが、一部の人間には生きていることが知られているということを聞き出した。
それまでには長い時間がかかったが、期待以上の情報が得られた。
ユーリは、その情報と彼女の生い立ちを父であるブレクム国王に伝えたのだ。
ユーリの気持ちと願いを添えて。
そして、その願いは叶えられることとなった。
ジェーンを王族へと引き戻し、彼女を認めさせることで黒という色が忌み嫌うものではないということを知らしめるのだと。
次の日。
ユーリはいつものようにジェーンのもとへ向かった。
ユーリのいつもとは違う様子にジェーンは首をかしげる。
「どうしたの?何かあった?」
「ああ。いいことがあったんだ。」
「ふぅん。それはよかったね。」
その話はそこで終わり、その後はいつも通り様々な知識の交換という名の談笑が続いた。
そろそろユーリたちがいつも帰る時間になったとき、ユーリはジェーンの前に膝をついた。
「ユーリ?」
「ジェーン。」
ユーリはジェーンの名前を呼んで、片手を取った。
「君と話をしていると、幸せな気持ちになる。君が笑うとこちらまで笑顔になる。俺にとって、君の姿かたちだけでなくその知識も魅力的だ。」
「ど、どうしたの、急に。」
ジェーンはユーリの言葉に動揺し、手を引こうとした。
しかし、ユーリは手を離されないようぎゅっと握った。
「ジェーン。私は君と話していくうちに惹かれていった。好きだ。愛している。どうか私と結婚してくれないか。」
「えっ!?」
ジェーンはユーリの言葉に驚き頬を染め固まった。
ユーリは、ジェーンが返事をするまでじっとジェーンを見つめる。
ジェーンは動揺し目が泳ぐ。
しばらく沈黙が続いた後、ジェーンは気持ちを決めた。
「私も、ユーリと話すのがいつの間にか楽しみになってて、ユーリが笑顔になると胸がふわふわするの。たぶん、これが好きってことなんだよね。私でよければ、よろしくお願いします。」
「!!ありがとう!」
ジェーンは気恥ずかしそうに結婚の申し込みを承諾した。
その瞬間、ユーリはジェーンを抱きしめた。
ジェーンもゆっくりとユーリの背中に手を回す。
しばらくして、ジェーンは顔を上げユーリを見つめ不安な顔をした。
「でも、私はここから出ていけないよ。どうするつもりなの?」
「ああ、それは知っている。大丈夫だ。俺が何とかする。」
「何か策があるの?」
「それも伝えるために、今日ここに来たんだ。」
ユーリはジェーンの両肩に手を添え、彼女と向き合った。
そのまま肩を抱き、ジェーンを椅子に座るようエスコートする。
ジェーンが席に着いた後、ユーリも席に着く。
「実は、ブレクム王国に送った手紙の返答が来たんだ。」
「手紙を送ったの?」
「ああ。そこにジェーン、君の境遇を書いて送った。」
「そんな!!」
ジェーンは自分の知らないところで、あのつらくて苦しかった話が誰かに知られていたことに驚き、知った人に嫌な思いをさせたと苦い顔をした。
「すまない。だが、この国の現状を知ってもらうためだ。…それだけじゃない。この国の現状を変えるために君との婚約を認めて欲しいということも書いていたんだ。」
「婚約するのに許可がいるの?」
「そういえば言っていなかったな。俺はブレクム王国第1王子、ユーリ・ブレクムだ。」
「ええっ!?そんな、王族だったなんて……。今まで無礼を働いてしまい申し訳ございませんでした。」
「やめてくれ!俺が知られたくなくて話さなかったんだ。今まで通り接してくれ。俺たちは夫婦になるんだから。」
「……うん。でも、それなら私なんかじゃこの国の現状を変えるなんて無理じゃないかな。」
「それは気にしないで大丈夫だ。」
「どうして?」
「それは、君が王族だからだ。」
「はぁ?何言っているの?私が王族なわけないじゃない。」
「いや、本当だ。君はこの国で死産とされている第2王女なんだ。」
「え……。」
ジェーンは衝撃の事実に言葉が出なくなった。
今までの出来事や、どうして今まであんな目に遭わなければならなかったのか、王族なのにどうしてという思いが沸き上がり、気持ちがぐちゃぐちゃになった。
「どうやら王族でさえ、黒色は忌避される色だということで、君が生まれた時王たちは生まれたことをなかったことにした。ただ、君を殺すことはできないから、今まで使われていなかった後宮に閉じ込め誰にも会わないようにしたんだ。」
「そう、なんだ…。」
ジェーンはユーリの説明を聞いていくうちに、気持ちが落ち着いていった。
この国では誰しもが黒を忌み嫌っていることは分かってはいたが、ユーリの話を聞いたことでより黒色が忌み嫌われているものだと実感した。
「だからこそ、君の存在が重要なんだ。」
「重要?」
「ああ、王族が黒色を纏っていること、しかも、竜王様が言っていたことが本当であれば、初代国王が凶悪なドラゴンを倒した話ではなく、ドラゴンたちと和解したということになり、黒は忌み嫌われるような悪者ではないということになる。」
「それをどうやって証明するの?」
「ジェーン、君から竜王様に城まで降りてきてもらうことを説得してもらえないか?君が王族で、俺と結婚することで黒色が忌み嫌われるものじゃないと証明することを伝えてくれ。」
「……なるほど、それならジェーンドゥも協力してくれるかも。」
「本当か!?」
「うん。ドラゴンたちはみんな私にはやさしいもの。」
「そうだったな。」
「だから任せて。絶対にジェーンドゥを説得して見せる。初代国王様みたいにね。」
「ああ、楽しみにしてる。」
「それじゃあ、俺たちはそろそろ帰るよ。」
「わかった。またね。」
「説得、頑張ってくれ。」
「うん!」
ユーリたちが帰った後、ジェーンはさっそく行動に移した。
急いで山を登った。
ドラゴンたちの住処までついたとき、急いでるんだから転移魔法を使えばよかったことに気づいて、習慣って怖いなと少し思った。
そんな思いをかぶりを振って払い、ジェーンはジェーンドゥのもとへ向かった。
「ジェーンドゥ!」
「ん?どうしたジェーンそんなに急いで。」
「話があるの!」
ジェーンドゥはいつもと様子が違うジェーンに首をかしげる。
「どうしたんだ、ジェーン。話してみてくれ。」
「うん。私ユーリと結婚することにしたの。」
「なに!?」
ジェーンの衝撃的な発言に、ジェーンドゥは大声を上げ驚く。
その大声に、周りにいたドラゴンたちも何事だとジェーンたちの様子をうかがった。
「け、結婚だと?」
「重要なのはそこじゃないの!」
「いや、そこ意外に重要なことがあるのか!?」
「あるの!ユーリが調べてくれたんだけど、私この国で死産ってことになってた第2王女なんだって。」
「なに?それは本当か?」
「うん。それでね、私とユーリが結婚することをこの国に大々的に宣言することで、黒色が忌み嫌われるものじゃないって広めるの。」
「なるほど、それほどの立場にあの男はいるということか。」
「うん、ブレクム王国の第1王子なんだって。」
「そういうことか。他の国では黒色は忌み嫌われていないということだな?」
「そうなの。よくわかったね。」
「話の流れから推測できるからな。」
「そこで、ジェーンドゥに協力してもらいたいの!」
「私の協力が必要なのか?」
急な話の展開に、ジェーンドゥはまた首を傾げた。
ジェーンはうなずき、話を続ける。
「ジェーンに、初代国王様のお話をしてほしいの。」
「あやつのか。」
「そう!今伝わってる史実と全然違うの!」
「なに?それは本当か?」
「本当!だって、初代国王様がジェーンドゥを倒したことになってるんだよ!?」
「なんだって!?そんなわけないじゃないか!」
「だから、王宮まで降りてきて、そのことを話してほしいの!」
「なるほど、そういうことなら協力しよう。」
「!!ありがとう、ジェーンドゥ!」
ジェーンは思いっきりジェーンドゥに抱き着いた。
ジェーンドゥも抱き返しながら、必ず今の王族に今までのジェーンへの仕打ちを思い知らせてやると思った。




