第2王女の誕生
新しく思いついた作品を始めます!
どうぞ楽しんでください。
「昔々、あるところに、1人の少年がおりました。
その少年は村の誰よりも強く、たくさんの魔力を持っていました。
その少年が暮らす村は、ドラゴンに怯えながら暮らしておりました。
ドラゴンは村の人たちを襲いに来ることがあるからです。
そんな村の人たちを見ていた少年は、ドラゴンに怯えないためにドラゴンを倒してくるとみんなに言いました。
村の人たちはそんなことは無理だと引き止めます。
しかし、少年は聞かずドラゴンの住処へと旅に出ました。
少年は何日もかけてドラゴンの住処へと到着し、ドラゴンの王、黒いドラゴンに戦いを申し込みます。
ドラゴンの王は住処まで来た少年をたたえ、その戦いを受け入れました。
激しい戦いがはじまり、少年は何度も倒れそうになります。
そのたびに村の人たちを思い出し、立ち上がったのです。
そして、悪さをしてきたドラゴンの王をその少年は倒しました。
少年はドラゴンの王に言います。
『これからは悪さをせず、この山の中で暮らしてくれ!』
ドラゴンの王は少年の言葉にこう返しました。
『わかった。もう悪さはしない、この山の中で暮らそう。ただし、この山の中に、今からお前にやる私の鱗を持たずに入ってきた人間は襲うぞ。』
そう言いながら、ドラゴンの王は鱗を少年に渡しました。
少年は鱗を受け取ります。
『その約束、必ず守ってくれ。』
『ああ、もちろんだ』
約束をした少年は、村に帰り、村人たちにもうドラゴンは襲ってこないことを告げます。
それに大喜びした村人たちは彼をたたえ、お祭りを開きました。
ドラゴンのことをほかの村にも伝えたところ、ほかの村の人たちも少年のもとに集まり感謝しました。
その日集まった村人たちから、この村をまとめる王様になってくれと少年に伝えます。
少年はそれを受け入れ、その日からドラゴニア王国ができたのでした。」
「わぁっ、すごーい!」
「ふふ、すごいでしょう。」
「うん!私、この男の子みたいに生まれてくる子を守って見せる!」
「あら、頼もしいわ。シャル、この子のこと大切にしてあげてね。」
「はーい!」
「黒い悪いものには負けないようにね?」
「もちろん!黒い悪いやつには負けないわ!」
そういい、王妃であるヘレナ・ドラゴニアは、娘のシャルロッテの頭をなでる。
ここはドラゴニア王国。
険しい山と海に囲まれた島国。
国は今、新しい王族の誕生に沸き立っていた。
王国には今第1王女のみしかおらず、国は次こそ男児では?いや、女の子でもきっとかわいらしい子が生まれるだろうとはやし立てていた。
国中の期待を背負ったその日がやってきた。
「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」
生まれてきたのは女の子だった。
「お、王妃様……。女の子が、女の子が生まれましたが……。」
震える手で、助産師が王妃に子供を見せる。
疲れ切ったはずの王妃は、その子を見た瞬間疲れすら忘れたように、大声を上げた。
「いやぁああ!!」
その大声を聞き、近くに控えていた王が駆け込んでくる。
「どうしたの、だ……。」
王は生まれた子供を見て絶句した。
――その子は黒目黒髪の女の子だった。
「なんということだ!王族から黒の色を持つ子が生まれるとは!」
王は叫んだ。
それもそのはず。
この国では、黒は悪しきものの象徴として忌み嫌われる色だったからだ。
しかも、それは大昔民衆を襲ったドラゴンの王の色だ。
王は王妃を抱きしめる。
王の色は金髪碧眼で、王妃の色はプラチナブロンドの髪に、ピンクの瞳だった。
どうやっても、黒色なんか生まれるはずがない。
王は静かに告げた。
「この子は死産とする。そして、後宮にて一生を過ごしてもらう。みな、この子供のことは誰にも口外せぬように。」
「「はっ。」」
その場にいたすべてのものが、王の言葉に従った。
「マルタ様……。」
弱弱しい声で王妃が王の名を呼んだ。
「大丈夫だ。何とかなる。いや、何とかする。」
「はぃ……。」
王妃は安心するように、眠りについた。
マルタは彼女の頭をなで、急いで周りに指示を出した。
そして、国中に死産だったことが伝わる。
国は悲しみに包まれたが、致し方ないことだと真実を知る者たちは納得していた。
月日が流れ後宮に移されてから、乳母に育てられた第2王女は、すくすく成長した。
後宮にはすぐさま警備が敷かれ、許可されたもの以外の出入りができなくなった。
それはもちろん、召使たちもだった。
出産のとき立ち会ったのは助産師と、医師、それを手伝ったメイド数名と王、王に付き添った執事のみだった。
そのため、後宮には掃除するものも、洗濯するものもいない。
日に日にほこりが積もっていくばかりだった。
乳母はそのことに異議を申し立てたが、誰にも知られないためだとバッサリ切られてしまった。
ただ、乳母が第2王女に優しかったかといえば、それは否だった。
乳母は自分が過ごす場所が汚くなるのがいやだったから、異議を申し立てたのだ。
いい待遇で過ごすことができると思っていたのに、1人で赤子を、しかも忌子を育てさせられ苛立ちが募っていった。
その苛立ちはついに赤子へ向かった。
赤子が泣けば、叩きさらに枕で顔抑え泣き止ませる。
それで今まで死ななかったのが奇跡なほどに。
お漏らしをしてしまえばつねったり、殴ったりしていた。
そんな中で成長した第2王女が1人で立てるように、硬いものも食べれるようになると、乳母は必要最低限のことを教え込み、出ていったのだ。
乳母が出ていくと告げられた侍女長は、お金を渡し、出ていかせた。
そして、口の堅いメイド数名を選び、後宮へ食事を運ぶ係をさせることにした。
第2王女に出されるものは、召使たちと同じものだった。
それは、第2王女が生きていると知られないためでもあった。
そんな環境の中、第2王女は元気に成長した。
乳母がいなくなってからしばらくして、乳母に負わされたけがも治ったころ、彼女は後宮を見て回った。
それまでは乳母の言うことを聞いて出入りしていたところ以外は、全く知らなかったからだ。
後宮には、お風呂や図書室、召使たちの部屋、調理室等々、様々な場所があり、自由になった第2王女にとって大冒険だった。
そんな日々を過ごしていたある日、隠し通路を見つける。
気になった第2王女はその道を歩いて行った。
すると、王宮の廊下に出ることができた。
今まで知らない場所に行くな、人に会うな、顔を見せるなと言われていた彼女は慌てて身を隠した。
通り過ぎた侍女が布をたくさん持っているのを見て、彼女はそれについて行った。
バレないように、隠れながら。
彼女は、侍女たちが庭で洗濯物を洗い、干しているのを見た。
洗濯物の中に、召使たち着替えや大きなシーツがあるのを見た第2王女は、それをやってみたいと思い、急いで後宮に戻った。
彼女は以前見つけた洗濯桶と洗濯板、石鹸、物干し竿を取り出し、今まで洗わずに着ていたボロボロの服を何着か洗い、干してみた。
すごくすがすがしい気持ちになった。
今まで来ていた服がきれいになったのを見て、第2王女は感動した。
そして、乾くのに時間がかかるのに気付いた王女は、また抜け道を通ってこっそり王宮の廊下に出た。
誰にもバレないように、こっそりと。
そうすると、いたるところで召使たちが掃除をしているのを見つけた。
それを見た第2王女は、またそれも真似しようと、後宮に戻った。
今まで乳母がいなくなってから後宮を見て回っていた彼女は、とても体力がついていた。
掃除を始めるために、箒と雑巾、バケツを持ち出し、掃除をしてみた。
ちょっとずつだけどみるみるきれいになる自分の部屋に、楽しくなった王女はどんどん掃除をした。
自分の部屋が終わったところで、疲れた第2王女は、ベッドの上で寝てしまった。
夜になり、目が覚めた彼女はご飯の時間がとうに過ぎていることに気づく。
慌てて部屋の扉を開くと、そこには何もなかった。
第2王女は、落ち込み、空腹を紛らわすためにお水を飲んで、もう一度寝ることにした。
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「ねえ、また黒姫、ご飯食べなかったわよ。」
「最近たまにあるわよね。」
第2王女のご飯を運ぶ担当の侍女たちがひそひそ話をしていると、侍女長が近づいてきた。
「こら!彼女の話はしないように言ったでしょう!」
「「すみません。」」
小さな声で叱られた彼女たちは、侍女長が現れたことに驚きすぐさま謝った。
黒姫とは侍女たちの中で話すときの第2王女の呼び名である。
彼女たちも以前は第2王女と呼んでいたが、それだと誰かに聞かれたときに大変なことになるので、あだ名をつけたのだ。
なぜ名前で呼ばないかというと、彼女は死産として扱われることになったので、彼女に名前は付けられていないからだった。
だから、第2王女のいる後宮担当の護衛と侍女たちの間では、彼女のことを『黒姫』と呼ぶようになったのだ。