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母と息子

「水川セレナです。お忙しいのにすみません、わざわざ時間を取ってもらって」

「そんなことはいいんです。とにかく蓮人を探してもらわないと困るんです!国の将来、私はあの子に託しているんです!」

「落ち着いてください。蓮人くんは俺達が探しますから」


 助手の言葉に納得したのか、お母さんは座ってくれた。


「蓮人くんが行きそうな場所知りませんか?公園や私の事務所以外に」

「いいえ、何も知りません」


 何も知らない?そんなはずはない。親なら子供が出かける場所の一つや二つ知っているのに。そう思った私はもう一度同じ質問をした。


「私は何も知りません!大体、勉強もせずに遊んでばかり。成績もまともじゃない。そんな子に期待した私が愚かだった。でも蓮人は見つけてください。お願いします」


 ……随分身勝手な人だと思った。子供は道具なんかじゃない。なぜそんな扱いをするのか理解できない。


「わかりました。蓮人くんは何日以内に――」

「警察も探偵も信用できないわ!帰ってきたらもっと言う通りにさせないと……」


 お母さんはぶつぶつ言っていたが、そう言うと部屋の奥に消えた。ここらが頃合いだろうと判断した私は、一旦助手を連れて引き上げることにした。



「蓮人くんは半径一キロ圏内にいるらしい。とにかく探すことから始めよう」

「そうですね。お母さんにも、蓮人くんにも理由を話してもらわないと」


 行動範囲は私の方をちょっと広くした。蓮人くんが一番慕っているのが私だと聞いたから。まあ、私情も少しあるが。


「行こう。じっとしてても彼はどうなっているかわからない」

「はい、セレナさん!」


 私達は蓮人くんの捜索を開始した。


「蓮人くーん!返事してくれー!」

「おおーい!蓮人くーん!」


 警察の人達も出向いて蓮人くんの捜索活動は行われた。ただ、私達は個で活動している。見つからないようにしなければならない。

 警察にバレるかと思ったが、暗くなったためその日は打ち切られた。


「ああっもうっ!!」

「助手。焦ってはいけない。蓮人くんの心配も大事だが、一番大事なのは自分の命だ。遠足は帰るまでが遠足って言うだろう?」


 助手は頷くと水を一口飲む。


「お母さんの様子は?」

「電話には出ない。心配しているとは思えないね」


 イライラが募ってしまう。子供の心配をするのが親の役目だと思うが。そんな私の気持ちを静めろと言わんばかりに、今度は雨が降って来た。


「雨……!」

「…………助手。勝手な行動を取るが、構わないか?」

「なにを、ってまさか一人で行くとか言い出さないですよね!?」

「その通りだ。私は一人で行く。なにかあれば連絡をくれ。では!」



 私はそう言ってテントを飛び出した。


「蓮人くん!居たら返事をするんだ。蓮人くん!!」

 声は聞こえない。雨音が響き、視界も音もかき消していく。


「ああ、もう。私も体力をつけておくべきだった……。まあ、今になっては遅いかもな……!」


 そんな愚痴をこぼしながら、私は進んでいく。


「蓮人くん、そろそろ返事してくれ……。私が大変なんだ~」


 本当に大変だ。大変っていうか、ヤバい。死にそう。こんなことになるくらいなら行かなきゃよかった。助手に任せればよかった。そんな考えが頭をよぎる。


「こ、こ…………」

「……?」


 今、なにか聞こえたか……?


「おねえ、さん。ぼく、ここ…………」


 蓮人くんか!


「蓮人くん?ここか!蓮人くん!」


 蓮人くんは私の姿を見つけると頷いた。安心したのか、蓮人くんは動かなくなった。



 蓮人くんを抱えて戻ってきた私を見て、助手は安心したようだった。だが、すぐに様子を聞いてきた。


「蓮人くんの様子はどうなんですか!?」

「大丈夫だ。安心して意識を失っただけだし、雨に濡れたのも私だけだ。今日は体を暖かくして寝ないと困るな…………はっくしょん!」


 ああ、風邪ひいたかも。無理するんじゃなかった。でも、一人の尊い命が救われたんだ。早速お母さんに報告するため、電話をかける。


「蓮人は助かったんですね」

「はい。助かりましたよ。家から五百メートルほど先にある林の中でボーっとしていました」

「……なんなのあの子。私に迷惑ばかりかけて。恥ずかしいと思わないのかしら」

「というか、なんで蓮人は家を出て行ったのかしら。私に何も言わないなんておかしいのよ」

「私は蓮人の育て方を間違ったのかしら。私は()()()()()()()()()()()()


 その言葉に、私の堪忍袋の緒が切れた。


「いい加減にしろ!」


 私が放った一言に、お母さんが怯んだのが電話越しにわかった。間髪いれず、言葉を重ねていく。


「あなたは本当の蓮人くんを見たことがあるんですか?いつも自分の理想を押し付けて、子供の考えを否定している。それ自体は悪いことではない。ただ、度が過ぎればこういう行動が起こってしまうのが自然なんだっ!どうしてそのことを理解してあげないんだ、あなたは!」

「それの、それのなにが悪いのよ。私はただ、蓮人を愛しているだけなのよ!愛の形は人それぞれでしょう。あなたこそ、私に考えを押し付けているじゃない!」


 確かにそうだ。だが、今はそういう話ではない。子供の思いに親が答えてくれるか、そういう話をしているのだ。


「気を付けた方がいいですよ。今度蓮人くんを縛ったら、どのような行動をするかわからないと思いますから」


 そう言って、また後日伺うと約束した私は電話を切った。


「セレナさんも怒るんですね。俺、びっくりしました」

「…………あんなことを言われて怒らない人間がいないはずがない。とは言い切れないな。だが」


 息を整えて、続ける。


「どうしても言いたかったんだよ。蓮人くんのためにね」

「……俺も、ちょっとスッキリしました。ありがとうございました。まあ、直接言ってたらもっとスッキリしたんですけど」


 苦笑し、礼はいらないと手を振る。助手と別れた私は、気晴らしにコンビニのスイーツを買った。アンパンとコーヒー牛乳。そして、肉まん。肉まんはスイーツじゃないが、食べたくなったから買った。


「…………おいひい」


 ほかほかの肉まんを一口食べた私の口からは、温かい息と感想が漏れた。


 翌日。私ではなく、なぜか助手が風邪を引いた。

 これも神からのお導きだろうか。とても運がいいと思ったのだった。

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