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嘘つきのキノピオ

「助手。季節はもう五月だ。本当にあっという間だな」

「そうですね、あっという間ですね。特にセレナさんといるとそう思いますよ」


 その発言は正直言って恥ずかしい。告白しているわけでもないのにそのような言葉が自然と出るということは、天然の女たらしなのかもしれない。

 だが今はそんなことを言っている場合ではない。私たちが何より大事にしているのは事件だ。

 カランコロン

 事務所に来客を告げる合図が鳴り響いた。


「こんにちは東川さん。今日のご機嫌はいかがですか?」

「最悪ね。こっちの事情も考えずにいきなり呼び寄せるなんて」

「それは本当に申し訳ないと思っています。ですが、あなたというピースがピタリとはまったことで、事件は一気に解決へと導かれたのです」


 何を言っているのかわからない。という顔をした東川さんに、私は推理を話した。


「二人が殺害された。そう聞いた時は本当におかしなものだと思いました。なぜ二人が急に殺害されたのか、その二人を恨んでいた人物がいたのではないか。色々なことを考えました。ですが、真実は簡単でした」


 言葉を一旦止める。


「この事件、互いが互いを殺害するという特殊な状況になったのです」


 まるで意味がわからないという顔で私のことを睨む東川さん。


「立ち話もなんです。座ってください」


 私は東川さんに座ってもらうよう促した。


「助手。例の紙を三枚」


 私の指示に助手が見せた三枚の紙。それは、保福男と酒井雄二の血液型と使われた凶器の紙だった。


「互いが互いを殺害する。最初に聞いた時は本当に不思議に思ったんじゃないですか? もちろん私も不思議に思いました。ですがそれは、あなたの愛ゆえに起こったことなのです」


助手が不思議そうな顔をした。それも当然。本当に不思議なことだったからだ。


「はっきり言いましょう。この事件、保福男が私に依頼を持って来なければ起こり得なかった。酒井雄二の不倫を暴くのは、他の探偵でもよかった。ただ、依頼者が保福男だったから起ってしまったのです」


 そこまで言うと、私は助手にあるものを持ってこさせた」


「これはあなたが落としたハンカチです。このハンカチから二人の血液が検出されました。もうお分かりですよね?」


「私がそこまで言うと、東川さんは口を開いた。


「保さんがあなたに見せた写真には女性が写っていましたよね。あの女性は私なんです。それに気付いた彼は酒井雄二を呼び出して襲ったんです。その結果、彼らは亡くなったんです」

「本当にそれがすべての真実ですか?」


助手が困ったような顔をして私の顔を見た。


「私を疑うんですか?」

「ええ、疑いようのない事実が保さんの背中についていますから」


私が話終わったその時、ちょうどいいタイミングで助手が一枚の紙を持ってきた。


「これが何の紙かお分かりですね? これでもう言い逃れはできませんよ、東川さん」


 その紙は、保福男の背中に東川さんの手形がはっきり残っていることを示した紙だった。東川さんは更に不機嫌そうな顔になった。もうシラは切れないと思ったのか、ため息をして自分の行動を話し始めた。


「あの男達、私が女だからって取り合いしようって考えてたの。私はそれが気に入らなくて、酒井と保を潰してやろうって考えた。始めに酒井に話した。私は保と付き合ってるんだけど、あなたと付き合わせてって。でも酒井は不倫になるんじゃないかって言ってたけど、私にはそんなこと関係無かった」


 髪をいじりながら、話を進める。

 

「保にホテルで待ってって言って、あいつが来た瞬間、私は酒井に抱き着いた。そしたらあいつ、普通に写真を撮って逃げた。だから次は保にこう言ったの。酒井が私を取ろうとしてるって。その後はお察しの通り」


 そこまで話すと、東川さんは私の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけるように言った。


「どうするの探偵さん、ここで私の事を裁く? それとも無能な警察に私を預ける? まあどっちにしても私は捕まるわけじゃない。あいつらが勝手に自滅しただけだから」

「そうは問屋が卸しませんよ東川さん」


 そう言ったのは助手だ。


「何、男が偉そうに」

「あなたの行いは立派な犯罪なんです。自分の罪を自覚してるからここに来たんじゃないんですか?」

「私はそんなこと思ってない。あんなやつら、ただのクズよ」

「そんなこと言っても、俺にはわかります。その言葉も嘘だってこと」


 東川さんの頬から涙が一筋こぼれているのがわかった。

 必死に涙をぬぐっているが、止まることを知らない涙は大粒になって床にこぼれ落ちていく。


「東川さん。本当は好きだったんですね、二人のことが。でも、選べなくてこういうことを……」


 そうか、助手。キミはそこまで気づいていたんだね。


「助手の言う通りです。あなたは確かに直接手を下していない。ただ、間接的になら手を下したことになる。罪は裁かれるべきだ」


 そして私は、決断を下した。


「私の決定を持って、あなたを逮捕します」


 東川さんは最後の最後に笑うと、こう言った。


「私も嘘が得意だと思ってたのに。……悔しいなぁ」



 今回の報告書は私が自ら担当した。流石に荷が重い内容になったからというわけではなく、神崎さんがハワイに行ったせいで事件解決にとんだ労力を使うことになったからだ。音信不通だったのはそのためらしい。警察に電話も出来ず、とにかく神崎さんの帰りを待つことになった。

 東川さんは酒井に暴力を振るわれたことがあり、男に対して嫌悪感を抱いていた。一方、保は包容力ある男だったので受け入れようと思ったものの、虚言癖がバレてからはそれさえも嘘だと発覚。自分の立場を利用すれば二人まとめて殺害できると踏んだ東川さんはこのような犯行を起こした。

 手形については、確実に酒井と保を殺すために押したものだと証言した。

 これが今回の事件の真相だ。


「電話の練習しますか?」

「い、いい。なんて言えばいいかわからないからいい。しない」


 私には推理が向いている。


「というか、事件解決してたじゃないですか! 嘘つきですねセレナさんって」

「…………今回はほとんど助手がしてくれたじゃないか。私は陰でこそこそしていただけだ」

「怪しまれましたよね。本職の警察に」

「キミの方が探偵とか本当にとばっちりだ。探偵は私なのに、どうしてなんだ」


 文句を言いつつも実際の所、私は安堵していた。これで、事件解決になったのだから。

 だが、次の依頼は意外な所からやってきてもおかしくない。用心しなければ。と、思った二日後。


「ねえ、お姉さん。僕と勝負しようよ」

「……子供に事件が解決できるわけないだろう? さあ、帰るんだ」

「帰らないよ。僕も探偵だから」


 探偵を名乗る少年が現れたのだった。

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