最高の結末
後書きに重大発表がありますので、最後までご覧いただければ幸いです。
後日、私は蓮人くんを事務所に呼んだ。理由は一つ。なぜ家出をしたのか聞くためだ。本当であればお母さんも一緒に居てくれた方が良かったが、それだと怖かったため一人で来てもらった。
「蓮人くん。どうしてこんなことをしたんだい?」
「勉強が嫌だったから」
それだけ言うと何も話さなくなった。だが、話題は引き出すもの。向こうが出してこないなら、こちらから出すように仕向けてやろう。
「蓮人くん。好きな探偵はいるかい?」
「えっ……」
「誰だっていい。私じゃなくても。別に、私を選べと言っている訳じゃないんだ。ただ確認しておきたかっただけだからね」
笑顔でそう言うと、蓮人くんも笑顔で答えてくれた。
「シャーなんとかって人!」
「なるほど。蓮人くんはその人のどんなところが好きなんだ?」
蓮人くんはうんうん唸って悩んだ後、絞り出すように答えた。
「推理してる時のカッコよさ……が好き」
ああ、私もだ! と言いたくなったが、ここは我慢。蓮人くんに話を合わせよう。
「本当に探偵が好きなんだな、蓮人くんは」
「うん。僕探偵大好きなんだ!」
こんなに笑っている蓮人くん、今まで私は見たことがない。それだけ私に心を開いてくれた証拠でもあるということなのだろう。だから、真実を話してくれるか聞いた。
「蓮人くん。どうして家出したのか、聞いていいかい?」
「わかった」
蓮人くんは、私に全てを話してくれた。
父が何かにつけて偉い人だったため、病死した後は自分に責任が回ってきたこと。母から出来ない奴は追い出すとまで言われ、心が病んでいる時に出会ったのが探偵だったこと。自分もいつかそうなりたいと思っていたけど、あんなことになって希望が持てなくなってしまったから、家を飛び出したことも。
「……蓮人くん。辛くないのかい。親の言いなりにさせられて。自分の道を、進めなくて」
「お母さんが、ダメだって言うからダメ……なんだって」
蓮人くんをどれだけ束縛すれば気が済むんだ……! 怒りからの震えが体を襲う。
「でもね、お姉さんは悪い人じゃないから大丈夫なんだ!」
「それは誰の判断で……?」
「僕の判断です」
相変わらず食えない子だ。
「まあ、キミに笑顔が取り戻せてよかった。私は嬉しい」
「これからもよろしく、お姉さん!」
差し出された手を握る。……そうだ。丁度いい願い事がある。
「蓮人くん。頼みたいことがある」
「なに?」
「勝手だが……。私の、ライバルになって欲しい」
「いいよ!」
二つ返事だった。私の方が驚いた。
「……お母さんとはゆっくり話しておく。だから安心して遊びに来てくれて構わない」
「ほんと!やったー!!」
はしゃぐ蓮人くんを見て、私はお母さんの説得に、改めて気を引き締めるのだった。
「あの時はのような口を聞いてしまって申し訳ありませんでした」
「いえ、あなたではなく蓮人が悪いのです」
蓮人くんは恐らく謝っていない。だからお母さんはあの時のことを許したわけじゃない。だが、言い方くらいは考えてもらわないと。
「……それは置いておきましょう。今は、あなたに大事な話をするために来ましたから」
私は家に上がらせてもらうと、そのままリビングに連れられた。なにをされるかわからなくて心配したが、ちゃんと話は聞いてくれるようで本当に良かった。
「今日お伺いしたのは他でもない、蓮人くんのことです」
お母さんは不愉快な表情をしたが、黙っていた。聞き手になるということだろうか。
「蓮人くんは自分の人生を歩みたいと言っています。あなたに強制された人生ではない、自分の人生を」
「私はただ蓮人の将来を考えているだけです。父の意思を受け継ぐ立派な子に育てたい、それだけです」
「蓮人くんのこと、信じられませんか?」
その質問に、お母さんは黙ってうつむいていた。恐らく、お母さんも縛られている。父の意思を受け継ぐ立派な子に育てるという使命。それがきっと原因。
「蓮人くんはもうすぐ高校生です。それでも、まだ子供のようなあどけなさが残っている。あなたの育て方が間違っていると、一概には言えません。でも」
言葉を切り、お母さんの目を真っ直ぐ見つめる。
「子供のわがままを、たまには聞いてあげてもいいと思いますよ」
私の言葉に、お母さんは何も言わなかった。関係ない他人が家の事情に踏み込んでくるなと言いたげな顔だったが、言いたいことは言えた。私はお母さんにお礼をし、粗品を渡して帰った。
あれから一ヶ月経ち、六月になった。
梅雨の時期というだけあって湿気が多い。洗濯物は乾かない、理由はないのに気持ち悪い。そんな症状に悩まされることが多々ある。
「助手がいてくれたらな~。助かるのにな~」
届かない声。そう。助手は来ない。
用事で来れないと留守電に入っていた。こうなると人肌がなぜか恋しくなる。
「ん?」
事務所に向かって歩いてくる人影が見えた。機嫌がいいのか、スキップしているように見える。
「……蓮人くんかな?」
カランコロン
「お姉さん、僕だよ」
なぜ来た。
……いや、歓迎しよう。私のライバル。
「いらっしゃい。来たってことは」
「お母さん、いいって言ってくれた。今までのこと謝って、僕のやりたいようにしていいって。でも、勉強はちゃんとやってねって言われた」
「そうか……じゃあ、思う存分遊ぼう!」
蓮人くんに手を引かれ、私は公園に向かった。その後は喫茶店で話をしたり、事務所に戻って探偵の話をしたりと、こんなに動いたのは初めてというくらい動き回った。
「今日はありがとう、お姉さん!」
「ふっ……水川セレナだって教えただろう?」
「ありがとう、セレナお姉さん!」
セレナお姉さん。蓮人くんにそう言われて、ちょっと嬉しかった。
「これからもよろしく、私のライバル」
「ライバル……。うん! よろしく!」
蓮人くんは駆け足で家に帰っていった。途中振り返りながら私に向けて手を振ったので振り返した。
蓮人くんを見届けた私は事務所に戻り、椅子に座って一息つく。
「…………」
疲れからか、眠気を感じた頃には意識が途絶えたのだった。
かるとるんです。
「美少女探偵水川セレナは事件を解決しない」ですが、この話を持って一旦更新を停止します。ここまで読んで下さった方には最大限のお礼を。
新しく読んで下さる方、また帰ってくることを約束します。
それでは。




