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文化祭①

 中間テストの関係で、桜宮先生の婚約者役からは、一時的に下りていた。


 学生の本分は勉強。恋愛にかまけて成績を落としたら、元も子もない。そんなぐうの音も出ない言い訳ができるおかげで、平穏な日常を過ごしていた。


 桜宮先生からテストに出るかもしれない範囲を超重点的に補習してもらったことで、今回の中間テストはそこそこ自信がある。

 特に、毎度赤点を取りかねない現国に関しては、下手すれば学年一位を取るんじゃないかという出来栄えだ。まぁ思っきしズルしてるけども‥‥‥。


 それはさておき、中間テストの最終日を終えると、クラスは一層賑やかになっていた。

 テストから解放された喜びもあるだろうが、それ以上に文化祭が近づいている喜びが大きい。


 俺もそこそこ楽しみな行事だ。

 なにより授業が一週間近く潰れるからな。


 ともあれ、文化祭関連が本格化するのは来週から。今日はさっさと帰って寝不足を解消しよう──と思っていたのだが。


「‥‥‥どうしようどうしようどうしよう!」


 現在、生徒指導室にて。

 深々と頭を抱える桜宮先生と対峙していた。目にはうるうると涙が浮かんでいる。


「どうしよう瀬川くん! 私、文化祭のミスコンに出させられそうなんだけど⁉︎」


「なぜそれを俺に相談するんですか‥‥‥」


 放課後に生徒を呼び出してすることか、これ。


 もはや婚約者関連でもないじゃねぇか。


「だって瀬川くんには私の内部事情色々話してるし、もはや心の中みたいな?」


「勝手に人をモノローグ扱いしないでください。言ってる意味よくわかんないし」


「なんというか、瀬川くんは頼りやすいんだよね」


「‥‥‥っ。そうですか」


 まぁ、そう言われて嫌な気はしないが。

 男の子はチョロいからな。頼りにされると、何故かそれに応えたくなってしまう。


 話くらいは聞いてあげるか。


「えっと、で、文化祭のミスコンに出るかもって‥‥‥嫌なら出なきゃいいじゃないですか?」


「それがそうもいかないんだよ。教師陣から一人は出なきゃダメな暗黙のルールがあってさ。去年までは、天野先生が出てくれてたんだけど、今年異動になっちゃったから、それで私が標的に‥‥‥」


 なるほど。桜宮先生は、美人だからな。


 立候補がいないなら、推薦という形で桜宮先生に白羽の矢が立つのもわかる。


「ま、普通に出たらいいんじゃないですか。桜宮先生なら優勝できますよ」


「ヤだよ。絶対いや!」


「どうしてですか?」


「恥ずかしいからに決まってるじゃん!」


 物凄く普通の理由だった。

 特別な事情は特にないようだ。


 順当な理由すぎて、特に文句も出てこない。


 そりゃ、よほど承認欲求が強くない限り、晒し者イベントに出たくはないわな。


「だからって、俺に言われてもどうすることもできないですよ」


「そう、なんだけども。どうにかならない? 瀬川くん」


「生徒の俺に出来ることは何もないです。他に出てくれそうな先生いないんですか?」


「いない‥‥‥」


 視線を落として、しょんぼりと答える桜宮先生。

 その様子を見るに、誰かに代わってもらうのは難しそうだな。


「本当にどうにもならない?」


「ならないですね。‥‥‥あ、てかいいこと思いつきましたよ俺」


「え?」


 ふと、天啓が降りたように閃く。


「そのミスコン使って婚約者探したらどうですか?」


「どういうこと?」


「ミスコンは一般参加のある二日目に行われますし、大勢のいる前で『旦那さん募集してます』みたいなこと言えば、立候補が募ってくるかと」


「本気で言ってる?」


「まぁ冗談ですが。でも、桜宮先生なら割と何人か集まりそうな気がしますけどね」


「うーん‥‥‥まぁ、婚活パーティみたいなのに参加するよりは、アリかな。生徒受けも狙えそうだしね」


 割と適当に口走ったのだが、案外採用されそうな流れになる。まぁ、出会いは大切だからな。


 どんな形であれ、積極的に異性と関わりを持つのは悪いことではない。婚約者を探している桜宮先生なら尚更だ。


「でもやだなぁ‥‥‥ミスコンなんて出たくない‥‥‥」


「これもうただの愚痴ですよね。俺、帰っていいですか」


「だめ。もうちょっと付き合って。他に発散できるとこないの」


「金貰いますよ」


「いいよ、いくら?」


「そこで乗っかられると困るんですけど」


 俺は頬を引き攣らせながら、ため息混じり吐く。


 冗談で言ったのに、本当に金を支払ってきそうな雰囲気に焦る。俺、桜宮先生相手なら騙して金取れると思う。絶対しないけど。


「あ、そうだ。気のもちようを変えたらどうですか。ミスコンが終わったら何かご褒美を自分に与えることにするとか」


「あー、それは名案かも。‥‥‥じゃあさ、ミスコン終わったら、シィちゃんと会わせてよ!」


 桜宮先生は、ピンと人差し指を立てると、前のめりになって提案してきた。


「え、なんでですか‥‥‥」


「だってシィちゃん可愛いじゃん。なんていうのかな、こう、課金したくなるっていうか! なんでも買ってあげたくなる感じ、わかんない?」


「わからなくはないですけど」


「私の課金欲発散の場をください。そしたら、ミスコン乗り越えられる気がする!」


「課金欲って‥‥‥」


 まぁ、シィちゃんは変に遠慮をせずに素直にモノを欲しがるし、ちゃんと喜んでくれるから、色々買ってあげたくなる。その気持ちは、従兄弟の俺がよく理解しているところだ。


 それで桜宮先生の気の持ちようが変わるのであれば、いいか。


「わかりました。じゃあ、シィちゃんに掛け合ってみます」


「ホントっ、ありがと」


 嬉しそうに喜ぶ桜宮先生。そんな彼女をみて、自然と俺の頬も緩む。


 ‥‥‥いや、待てよ。もし桜宮先生とシィちゃんが会う場合、俺もついて行かなきゃダメなのか? 


 それはちょっと面倒だな‥‥‥。いっそのこと家に来てもらおうか、と密かにそう思う俺だった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公とイチャイチャが完全になくなった^^; そもそもハッピーエンドじゃない予感。 [一言] ミスコンって、最近は下火というか、いろいろ問題になってきてる気がする。 たぶんこの小説の…
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