ブリーフィング中はお静かに
拙作ですが読んで頂けると嬉しいです。
夢を見ていた。
夢の中で私はわからせおじさんだった。
夢の中で私はメスガキ勇者だった。
私は私に弄ばれ罵倒され蔑んだ視線を向けられた。
私は私から強烈な腹パンをくらった。
腹部に鈍痛を感じて、目が覚めた。
ファイが私の上に馬乗りになっていた。
「何してんの……」
「おはよー。目覚めた?」
「ファイ……おはよう。覚めたよ」
この世界に来てもう何度目かの目覚め。
今回はシチュエーション的に喜ぶべきなのだろうか。
生前には考えられなかった美少女による朝起こしイベントである。
……実際にやられるとあまり嬉しいものではないな。
「もう皆朝ごはん食べてるよ。早く食堂においで~」
宿屋1階の食堂に行くと私に気が付いたプリスが手を振ってくる。
「おはよう」
「おはよ。集合時間よりは遅かったけどね」
「うん、ごめんなさい」
「私、ヒイロさんの気持ち分かります。これからしばらくは野宿ですからね。柔らかいベッドに少しでも長く留まりたいですよね。私もそうでしたから」
メイが見当外れではあるけれど私を擁護してくれた。
「そうか? アタシは横にさえなれればどこでも良いけどな」
「ウォリアさんのそれは特殊ですからね。何でしたっけ? 何とかの中で寝たとかどうとかって話」
「ああ、グリーンデスワームの腹の中で寝た話か。ちょうど冬で寒かったから寝袋みたいで割と快適だったぜ。まぁ、その後はヌメヌメの体液と胃液に塗れたせいで臭いし気持ち悪いしで最悪だったけどな」
「食事中にそういう話は止めて!」
私も彼女達と同じテーブルに付こうとして、ファイとジェスがいないことに気付いた。
「あれ? ジェスは?」
ファイは私を起こしに来てくれた訳だが、トイレだろうか?
「あなたと一緒よ。寝坊」
宿屋の2階から騒がしい声と共にジェスとファイが降りてくる。
ファイはジェスの髪の毛をわしゃわしゃと掻き乱していた。
「わー、わー、止めてください~。もう、起きてますから~」
「うりゃうりゃ、さぁさぁ、早く朝ごはんを食べるのだ~」
ファイは朝から元気だな~。
朝食を終えた私達は早々に出発の準備を整え、ブリーフィングを行うため私の部屋へと集まった。
「さて、皆。この2日間はゆっくり休めたかしら?」
「おう」
「おかげさまで」
「うん」
「はい~」
私は無言で頷く。
「さて、それじゃあブリーフィングを始めましょう。メイお願いできる?」
ポンと手を叩き、プリスが場を仕切る。
「はい、準備できてます」
指名されたメイは一昨日私に見せてくれた地図をテーブルに広げた。
「私達はこれからアネロ港を目指します。その最短ルートはルーセル街道とウォーム山道を経由したこのルートです。ひとまず、ここからルーセル街道を北上します。次の補給地点はここ、アカネ村になります。それまでは目ぼしい集落がないので野宿となりますが、順調に行けば5日程度で着けると思います」
メイは私にした話をより詳細に説明してくれた。
皆頷いて聞いているから異議はないようだ。
問題があるとしたらやっぱりアカネ村だ。スチル回収イベントをうまく乗り切れるだろうか。
「ただ1つ問題がありまして」
「え、アカネ村に?」
私は考えていたことを指摘され、思わずそれを言葉にしてしまう。だがどうやら違うようだ。
「いえ、問題はその先の話です。昨日、プリスさんが入手してくれた情報によるとウォーム山道は崖崩れによって現在通行不能になっているそうです」
プリスが頷く。
「教会の諜報員が集めてきた情報だから確かよ。安全に通行できるようになるのに3ヶ月以上掛かるそうだからこのルートは使えないわ」
「じゃあ、山越えは止めて森を抜けるか」
ウォリアが山を囲む形で広がる大きな森を指でなぞる。
「森ですか……」
「ああ、直線距離で山を超えられなくなる分、日数はかなり余分に掛かってくるだろうがな」
距離的には山道ルートの倍以上になる。加えて森の中の道なき道を行くことになるから馬車は使えない可能性が高い。そうなると日程はさらに伸びてしまう。
地図を見つめて考え込むメイにウォリアが続けた。
「今更だが、最初からアタシは山越えは反対だったんだ。この時期、下手をするとドラゴンと遭遇する可能性があるからな」
「ドラゴン? ドラゴンはもっと標高の高い山にいるものじゃないんですか?」
「通常はな。だけど今はドラゴンの発情期なんだよ。この時期になるとドラゴン達は比較的標高の低い山にも現れるんだ」
「ドラゴンも発情するものなの?」
「あいつらも生き物だからな。規格外過ぎて全然実感が沸かないが。まぁ大抵山から降りてくるのは若いドラゴンだから最悪ぶちのめすこともできなくもないが、割りに合わないからな。出会わないに越したことはないさ」
「確かにドラゴンと戦うのは避けたいわね」
ドラゴンてどう考えてもあのドラゴンだよな。
コモドドラゴン!みたいなオチではないよな。
それをぶちのめすと言えるウォリアも十分規格外だ。
「私もウォリアさんの案には概ね賛成です。ですが、森抜けにかなりの日数が掛かる以上、補給面に不安があるのが懸念点ですね」
「? 何言ってんだ。森は食材の宝庫だぞ。採り放題の狩り放題なんだから喰い物の心配なんてする必要ないだろ?」
「ウォリアさん基準で物事を図らないでもらえます? はぁ、でもやっぱりそれしかないよな〜。何日間かは魔物料理か〜。はぁ」
その後もウォリアとメイを中心にブリーフィングは続いた。
「ねえ」
プリスが私に声を掛けてくる。いや、私達3人にだ。
「あなた達も参加しなくちゃブリーフィングの意味がないでしょ」
私はファイとジェスと顔を見合わせた。
「あ、お構いなく」
「同じく」
「です~」
「はぁー。あなた達は……」
何事も適材適所です。
プリスとメイがこういうことに長けているのは分かるけれど、ウォリアがこれほどの知識と見解を持っていて熱心に議論を交わすとは意外だった。
ブリーフィングは恙無く終わった。
後半の議論のメインとなったウォーム山道越えの代替案としては、ウォリアの森抜けが採択された。
メイは最後まで「魔物料理は……う〜ん」と言って渋っていたが、最終的にはプリスに説得される形で折れた。この先で状況が変われば別のルートも考えましょう、と彼女は未来に一縷の望みを託しているようだった。
まぁ、私はゲームの知識によって断片的にではあるがこの先の展開を知っているため、森抜けが避けられないことは分かっているのだが。勿論説明できるはずもないので黙っておこう。
しかし、メイがここまで嫌がる魔物料理とは一体……。
その後、私達は宿屋を引き上げ、必要な食料品や消耗品などを購入し、昼前には町を出立した。
目指す次の目的地はアネロ村。
私にとっての第一関門である。
読んでくださりありがとうございました。
面白いと思って頂けましたら評価とブックマークをよろしくお願いします。
評価とブックマークありがとうございます。本当に励みになっています。
本日中にもう1話投稿できそうなのでがんばります。