チュートリアルは突然に
拙い内容と文章ですが読んで頂けると嬉しいです。
私は死んだのだろうか。
人は死ぬとどうなるのだろうか。
人は死んでも思考できるものなのだろうか。
……私は死んでいないのだろうか?
曖昧模糊な思考。
頭はぼんやりとしている。
徹夜明け翌日の朝の寝起きを100倍濃くしたようなぼんやりだ。
ともすれば、思考は再び闇のように暗い泥沼へ沈み込んでいくようだ。
そのとき、声がした。
親の名前よりも聞いた言葉があった。
「ザコ、ザーコ、ザーッコ! ハハハッ!」
「!?」
私の意識は急速に浮上、完全に覚醒した。
例え死の淵を彷徨おうとメスガキの声を聞かば目覚めざるを得ない。
わからせおじさんとはそういうものだ。
やはり私は死んでなどいなかった。
私の耳は音を聞いているし、肌は冷たさを感じている。
そして私の目はビキニアーマーを着た少女を見ていた。
少女は私に背を向けて立っている。
ほとんど丸出しでは?と思える少女の後ろ姿は目に毒だった。
やりすぎ幼女コスプレイヤーかな?
「おまえ、その程度の強さで本当に大人の男かよ! 情けねぇな!」
いいや、メスガキだ!
間違いない! 私には分かる。
しかし、これはやはり夢なのだろうか。
あんなに焦がれたメスガキが目の前にいる。
しかも目を覚ましただけでこんなにあっさりと出会えるなんて都合が良すぎる。
私の願望が形になった夢だと言われた方が納得がいく。
呆然と立ち尽くす私のすぐ横を3つの影が通り越していく。
「ねぇ、まだなの?」
「そうですよ、早くしてください」
「はい、はーい。次は僕! 僕がやる!」
彼女達は先のビキニアーマーの少女に対して口々に意見しているようだ。
生唾を飲み込む。
一目見て彼女達もメスガキであると確信した。
私は驚きを飛び越えて戦慄している。
私の前にメスガキが4人もいるという現実に頭がまともに働かない。
……しかしだ。
仮に夢だったとしてもそれがなんだというのだ。
夢なら夢で構わない。
私の40年間は今この瞬間のためにあったと言っても過言ではないのだ!
私の興奮はピークに達し、思わず前かがみになり股間を抑えた。
「?」
おや?
何だろう、違和感がある。
……えっ!?
「ないっ!」
あれ、私の声、高過ぎじゃない?
いや、そんなことよりも! ない! 40年間磨き続けた私の大切なものがない!
……いやいや、そんなわけがない。気が動転した故の勘違いだ。
混乱する私をよそに、先の私の叫び声に反応したメスガキ達がこちらを振り返る。
際どいミニチャイナ服の武闘家。
どう見てもネグリジェの僧侶。
ヘソと脇丸出しローブの魔法使い。
あからさまなビキニアーマーの戦士。
そのとき、私の股間……ではなく、脳裏に電流が走る。
私はこの4人を知っている。
古い記憶が色鮮やかに蘇る。
武闘家のファイ。
僧侶のプリス。
魔法使いのメイ。
戦士のウォリア。
そうだ、彼女達は『メスガキパーティー』に出てくるメスガキ達だ!
『メスガキパーティー』とは同人ゲームサークル『聖壁のポチョムキン』が生み出した美少女ゲームである。同サークルの代表作『わからせシリーズ』の第4弾として発表されたのが『メスガキ勇者パーティーをわからせろ!』であり、通称『メスガキパーティー』だ。
この『メスガキパーティー』こそ、私が初めて触れたメスガキわからせ作品で、この道に生涯を捧げることを決意させた原点でもある。
そういえば、ゲームの主役である勇者がいない。見た目も、性格も、1番王道なメスガキである勇者。確か名前は……。
「どうかしたの、ヒイロ?」
ファイが首を傾げながら私に向かって話しかけてきた。
そうだ、勇者の名前はヒイロだ。
しかし勇者の名前を呼びながらファイが話しかけた相手は私だった。
……? いや、ヒイロが近くにいるのか?
周囲を見回す。私がいる場所はどこかの路地だった。ヨーロッパの国を思わせる石畳造りの路地だ。路地の窓ガラスにきょろきょろと周囲を見回す少女の姿が映った。
ピンク色の髪、ツインテール、小悪魔のような顔、ミニスカエプロンドレス、どれも記憶にある勇者ヒイロのものだった。
あれが……私か? そんなわけはないか。
手を振ってみる。窓ガラスの中のヒイロが手を振っている。
「????」
改めて股間を触る。
「!?」
違和感はあった。いや、実際はなかったのだ。アレが。
やはり気のせいや勘違いではなかった。
愕然としている私を見てファイが不思議そうにしている。
「何? 急にどうしたの? オシッコ我慢してるの?」
「ち、違う!」
「別に恥ずかしがらなくてもいいのに」
ファイは私の耳元に顔を寄せる。
「漏らしちゃった方が恥ずかしいよぉ」
そう呟き、意地悪そうに笑うのだった。
「……っ!!」
「皆さ~ん、ここにいたんですか~」
背後から間延びした声が聞こえた。
「置いていかないでくださいよ~」
ふらふらとした小走りでネコ耳レオタード姿の少女が私達の元へと駆け寄ってくる。
彼女は……遊び人のジェスだ。
「ようやく追いついてきたの? 遅いじゃない」
「そう思うなら私のペースに合わせてくださいよ~」
「いえ、文句ならウォリアさんに言ってください。泥棒だって言って急に走り出したのはこの人なんですから」
「あれ、さっきの泥棒おじさんは?」
「ああ、無様に逃げてったよ。散々アタシが痛めつけてやったからな。へへ、あれは最後腰抜かしてたんじゃねえか」
私は目の前の光景によって本日何度目かの思考停止に陥っていた。
私が理想と思い描いていたメスガキ達が、笑い、怒り、会話している。
何これ尊い。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
ずっと黙ったままの私の顔をファイが心配そうに覗き込んでくる。
先程の意地悪そうな顔ではない。本当に心配しているようだ。
いや、顔が近いっ!
思わず顔を引いてしまう。
その勢いが強過ぎて路地の壁に思い切り後頭部をぶつけ、その痛みと反動で、今度は顔を勢いよく前へ突き出してしまう。
そこにはファイの顔があった。
「わっ。チュウしちゃった。えへへ」
ファイは恥ずかしそうに笑う。
その笑顔がトドメとなり、私の理解力の許容量は完全にオーバーした。
「きゅ~」
私は気を失った。
そのとき私の口から、40歳のわからせおじさんとは思えない、可愛らしい声が出た。
読んでくださりありがとうございました。
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タイトルはチュウと現実というダジャレでした。