救出作戦開始
拙作ですが読んで頂けると嬉しいです。
コドルさんが各所に連絡を回し、私達の元へ戻ってきてから1時間が経過した。
救出作戦の話を聞いて集まってくれた村人は33人となった。
その中には私達がこの村に来て最初に声を掛けてくれたオラルドさんの姿もあった。
集まってくれた村人の内の3分の2が救出部隊として私達とともにゴブリンの元へと行き、残りの3分の1が村に残り防衛に徹することとなった。
その人選はウォリアが村人達の体型や実力を見て行ってくれた。
この救出作戦にはタイムリミットがある。日が沈むまでのおよそ5時間程度だ。
日が沈むとゴブリン達にとって有利となる。奴らは夜目が効くらしい。
私達は早々に出発する必要があったが、ゴブリン達の居場所がまだ判明していなかった。
「誰か、ゴブリン達の居場所について心当たりはないか?」
ウォリアの問いかけに村人達は皆首を捻っている。心当たりはないようだ。
私にはゲームの知識がある。ゲーム内でゴブリン達は遺跡のような場所に巣食っていた。多少不自然さは否めないが背に腹は代えられない。そのままズバリ訊ねてみることにした。
「村の近くに遺跡のような所はないですか?」
コドルさんは少し考えて首を振った。
「遺跡ですか……。いえ、この辺りにはそういったものはないと思いますが」
おかしい。そんなはずはない。まさかゲームと違うのか?
それでは私の持つアドバンテージは失われたも同然じゃないか。
「遺跡じゃないが、森の中に放置された砦ならあるぞ」
村人の1人、斧を持った木こり風のおじさんが手を上げて教えてくれた。
「その砦はどこに?」
「村から北へ1時間程歩いた辺りだ。儂は場所を覚えているから案内できるぞ」
「ゴブリン達が逃げるところを目撃した者の話によると、奴らは集団で北の方へ走っていたそうなので、方向としては合致します」
コドルさんがそう言って補足してくれた。
「砦を目指そう」
「ああ、今の所そこが1番可能性が高いようだ」
砦に向かうことをほぼ決めていた私達にプリスが意見する。
「ねぇ、やっぱり手分けした方がいいんじゃないかしら。もし、その砦がゴブリン達の根城じゃなかったら大きな時間のロスになるのよ? だって一刻を争うじゃない。攫われた女性達は……」
私の顔を見た彼女はそこで言葉を切り、下を向く。
それが正論なのは私にも分かる。常に最悪を想定して行動することは必要だ。
しかし、彼女が考える最悪と私の考える最悪は異なっている。
「ウォリアも言ってたでしょ、ゴブリンは侮れないって。私は戦力を不用意に分散させるのは得策じゃないと思う。私だって村の人達を助けたいけど、それは皆が怪我やそれ以上の傷を負わないことを前提とした上の話なんだよ。勇者としては失格かもしれないけど、私は皆を守ることを何よりも優先するから」
私もそこだけは譲れない。
「分かったわ。リーダーであるあなたの指示に従います」
「大丈夫だよ。もし違っていてもいいように砦まで走っていけばいいんだよ。それなら砦まで20分くらいで行けるよね」
「ファイさん、森の中をそんな3倍の速さで走れませんよ。というか森の中じゃなくても無理ですよね。ね? ファイさんなら行けそうで怖いですが」
「ヒイロさん、大丈夫ですよ〜。私達は強いですから〜」
「まぁ、なんだ、そんなに気を張り詰めなくてもいいだろ。散々脅したアタシが言うのもなんだけどな。アタシらにはオマエがいるように、オマエにもアタシらがいるんだ。仲間ってそうやって助け合うもんだろ。……なんだよ。オマエら変な顔でアタシを見るんじゃねえ!」
どうも私は思い詰めているように見えるようだ。
皆が慰めようとしてくれている。
……実際、思い詰めていたのかもしれないな。
勇者ヒイロになってまだ数日しか経っていない。
なのに私の中で彼女達は大きな存在になっていた。
それはまるで昔からの友人であるかのような感じだ。
XXX XXX XXX XXX XXX XXX XXX
コドルさんに村の防衛を任せて、私達救出部隊は森の砦へと出発した。
道中、オラルドさんが話し掛けてきた。
「おお、あんたら。さっき振りだな」
彼は最初に会ったときよりも元気になっている気がした。
「この村を助けてくれてありがとうな。実は俺の娘もあいつらに攫われたんだ。そのせいでここ数日生きた心地がしなかったんだが、あんたらが来てくれたおかげで娘も助かるよ」
彼はどこまで事情を知っているのだろうか。娘さんが今どうなっているのかをしっているのだろうか。
「……いえ。一刻も早く、娘さんを助け出しましょうね」
私は何と答えたものか判断しかねて、当たり障りのない返しをするしかできなかった。
森を進むこと1時間、件の砦が木々の隙間に見えた。
砦まで後少しというところでウォリアが一行の進軍を止めた。
「一旦ここで待機してくれ。アタシが様子を見てくる」
ウォリアは砦を見渡せる高さの木に登り遠眼鏡で様子を窺っている。
しばらくして彼女が小さくガッツポーズをするのが見えた。
「どうやらアタシらの日頃の行いが良かったみたいだな」
木から飛び降りた彼女が嬉しそうに呟いた。
「間違いない。あの砦にはゴブリンの一団が巣食っている。賭けはアタシらの勝ちだ」
「ねぇ、ゴブリン違いでごめんなさいってことはない?」
ファイの発言は独特で分かり辛いが、つまり、村を襲ったのとは別のゴブリンの一団である可能性はないかと聞いているのだろう。
ウォリアがそれを否定する。
「ゴブリンは縄張り意識が強いから複数の群れがご近所で仲良くすることはない。だから村の周囲にいるのは村を襲った1グループだけだと思うぜ」
ウォリアは偵察した砦の様子を説明してくれた。
まず、敷地の中央は荒れ地になっている。そこをゴブリン達がキャンプとして使用している形跡があり、薪の残骸や動物の死骸が大量に散乱している。
その奥に石造りの堅牢な建造物がある。外観から判断するに恐らく2階建てであると思われ、森の中の砦ということで周りの木々に溶け込ませるため敢えて低く建造されているのだろう。そうなると、地下にも居住空間が広がっている可能性が高い。
中央の荒れ地を取り囲むようにして左右に城壁があり、その上には見張りと思われるゴブリン達がいる。
「中央の荒れ地にも何匹かのゴブリンがいたが、本隊は最奥の建物内だろうな。攫われた村の奴らもそこにいるはずだ。……さて、ここをどう攻めるか」
「突撃しよう!」
「却下だ。いくらアタシらでも無策に突っ込んだら、ただじゃあ済まない。ましてやあそこは奴らのホームだ。地の利は圧倒的にこっちが不利なんだよ」
提案を即答で却下されたファイがしゅんとする。でもさすがに突撃はない。
「私の魔法で全て一掃できればいいんですが、流石に攫われた人達を助けるまでは手が出せません」
要救助者がいなければ砦ごと吹き飛ばすつもりなのか。メイも何だかんだ言って発想がぶっ飛んでいるな。
「一匹ずつおびき出して各個撃破できないかしら?」
「ゴブリン共がお行儀良く一列に並んで順番に出てきてくれたら行けるかもな。最初の何匹かをやった時点で気付かれて、後は乱戦になるのが目に見えてるさ」
なるべく乱戦になるのは避けたい。1匹1匹は弱いゴブリンだが集団になると侮れないと散々ウォリアにも脅されたのだから。
ウォリアが煮詰まった様子で頭を掻く。
「数的にもアタシらが圧倒的に不利だからな。そもそも乱戦になるのを避ける事自体が無理な話なんだよ。取り囲まれるような最悪の状況だけは回避するとして、正面から奴らとかち合って、こちらの火力で押し切るしかないよな〜」
「はぁ〜結局……」
「いつも通りの力押しなのね、私達って」
呆れ顔のメイとプリス。
「分かりやすくていいんじゃないですか〜」
「うん、シンプルなのが1番だよ」
納得顔のジェスとファイだった。
私は1人でまだ考えていた。少しでも戦闘のリスクを下げる方法を。
メイとプリスの能力を使えば、少なくとも序盤の戦況を有利に運べるのではないか?
「ねぇ、ウォリア。ゴブリン達は攫われた人達を人質にしたりすると思う?」
ウォリアが首を振る。
「そんな知能はないだろうさ。奴らにとって人は繁殖のための道具か、食いでのある餌でしかないからな」
ならば行けるか。
「ねぇ、私にいい考えがあるの。メイ、プリス、この方法が実行可能かどうか意見を聞かせて」
読んでくださりありがとうございました。
面白いと思って頂けましたら評価とブックマークをよろしくお願いします。
明日はお休みなので複数話を投稿する予定です。
お時間があるときに読んで頂けましたら幸いです。