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救いのない現実に救いの手を

読んで頂けると嬉しいです。

「村長! この村に医者はいるか?」

 屋内に戻ったウォリアはコドルさんに開口一番そう訊ねた。

「お医者様ですか? 退役された軍医の先生がいらっしゃいますが」

「軍医か! そいつはいい。その先生をここへ呼んでくれ」

「どなたか怪我をされましたか? それとも体調が?」

「詳しい話はその先生が来てから話す。とにかく呼んでくれ」

「……分かりました」

 ウォリアの一方的な要求に釈然としていないようだがコドルさんは従ってくれた。本当にいい人だ。押しに弱いだけかもしれないけど。

「ねぇ、怪我なら私の奇跡で治せるわ。わざわざお医者様に来て頂いて協力を仰ぐ必要はなくない?」

「オマエの奇跡ではどうにもならない分野の話なんだよ」

 ウォリアは核心部を濁してプリスに伝えた。

「随分な言い草ね。自慢じゃないけど死者相手でなければ大抵なんとかできるわよ」


 コドルさんはすぐに戻ってきた。

「他の者に言伝を頼みました。先生はすぐに来てくれると思います。それで、どういうことかお話頂けますよね?」

 ウォリアが私を小突く。

 私は1つ咳払いをして、先程出した選択の結果をコドルさんに伝える。

「私達にこの村を救うお手伝いをさせてもらえませんか?」

「え?」

「ご迷惑でなければですが」

「迷惑だなんて! そんな。ですが、どうして? 皆さんはただこの村を訪れただけの冒険者なのですよね」

「それは……」

 私はウォリアに視線を向ける。

 彼女の方が私よりもうまく説明できると思ったのだ。

 溜息を1つ吐いて、ウォリアがコドルさんへ話し掛ける。

「村長さんはゴブリンについてどれだけ知っている? なんで奴らが人を攫うかについては?」

「いえ、存じ上げませんが……」

「これから話すのは酷な話だ。覚悟して聞いてくれ」

 ウォリアは先程私に聞かせてくれた話を皆の前で話し始めた。

 彼女なりの心遣いなのだろう。生々しい表現を避け、言葉を選んでくれていた。



「そういうわけだ。事態は一刻を争う」

 ウォリアは一通りの説明をそう結んだ。

 プリスが青い顔をしている。自分の奇跡でどうにもならないと言われた意味を理解したらしい。彼女はウォリアの話を聞いて少し涙目になっている。

 それ以上にショックを受けているのはコドルさんだ。

 話の途中からどんどん顔は青くなり、椅子に項垂れていた。今は両手で顔を覆い、時折思い出したかのように嗚咽を漏らしている。

「ああ、アリサ……っ!」

 アリサというのが奥さんの名前なのだろう。

 その悲痛な様子に私はなんと声を掛けていいか分からなかった。


 激しい音とともに、玄関の扉が勢いよく開かれた。

 驚いて目を向けると玄関口に背の高い初老の女性が立っていた。

 彼女はずかずかと室内に入り込み、私達を値踏みするように見回す。

「何だい、揃いも揃って辛気臭い顔してここは野戦病院かい?」

 医者ジョーク? 恐らく、この女性がコドルさんの呼んだ先生だろう。

「アンタが医者の先生か?」

 彼女はウォリアの問いかけを無視してコドルさんに話し掛けた。

「おい、村長! 何だい、このガキ共は?」 

「……ああ、先生。よく来てくださいました」

 半ば放心状態だったコドルさんが答える。

 やはり彼女が例の医者らしい。

 完全に無視された形のウォリアは医者に噛み付く。

「おい、アタシが喋ってんだろ! 無視すんな」

 医者はぎろりとウォリアを睨みつける。

「初潮もまだ来てないようなガキは少し黙ってな」

「な! か、関係ないだろ、そんなこと!」

 ウォリアが顔を赤くする。

 この先生はウォリア以上に荒々しい人のようだ。

 というか、医者だからって一目見てそんなことが分かるのか。

 医者はきょとんとした顔した後すぐに笑い出した。

「何だい、本当にまだだったのかい? あたしはおまえさんの貧相な体を揶揄したつもりだったんだが。悪い悪い」

「貧相で悪かったな! というか、あっちのもっと貧相な奴はもうとっくに来てんだから関係ないだろ」

 ウォリアがプリスを指差す。

「ねぇ、私をオチに使うの止めてくれない」

 プリスが何とも言えない遠い目をして抗議する。



「あたしはこの村で医者をしているマリアだ。よろしくな、嬢ちゃん達」

 マリアさんの登場はドン底まで暗くなった雰囲気を少しだけ明るくしてくれた。

「マリアさんは……」

「ああ、マリアでいいよ。さん付けされるのは性に合わないんだ」

「ええと、マリア……先生は軍医の経験があるとか?」

「ああ、5年前まで王国軍に勤めてたのさ」

 ウォリアは彼女が軍医であることが良いと言っていた。

 その理由はウォリアがマリア先生に訊ねたことで私にも理解できた。

「アンタが軍医なら医療設備が乏しい環境下でも手術はできるだろ?」

「まぁ、ある程度ならね」

「なら、緊急で手術が必要になるから協力してくれ。アンタもこの村がゴブリンに襲われて何人かの女の人達が攫われたことは知っているだろ? アタシ達は今からその人達を救出してくる。だからその人達を……」

 ウォリアの言葉をマリア先生が遮る。

「中絶か、間に合わなければ切開手術が必要だね」

 その言葉にウォリアが驚愕する。

「アンタ!? 知ってたのか?」

「ああ」

「じゃあ、どうして!」

「どうして村人達に教えなかったんだとでも言いたいのかい?」

「当然だろ」

「言ってどうなる」

 ウォリアが唖然としている。

「何だって?」

「村人達に真実を伝えてどうなるってんだ。攫われた奴らを助けにゴブリンの元へ行けっていうのかい? 村の奴らの大半は嬢ちゃん達のようには戦えないんだよ。ミイラ取りがミイラになるだけさ。であれば、自身の不甲斐なさに震えながらいつ来るか分からない助けを待つよりも何も知らない方が救いはあるとあたしは思うんだよ」

 マリア先生は溜息を吐いた。

 その顔は沈痛な面持ちだ。

「救いのない現実を告げても酷なだけさね」

 ウォリアはまだ納得していないようだったが、これ以上反論する気はないようだ。

 マリア先生が顔上げて、私達を改めて見つめた。

「だが、嬢ちゃん達が来てくれた」

 彼女は穏やかな顔をしていた。安堵しているようだった。

「あたしは神様なんてのは信じない不信心者だが、今はこの好機を与えてくれた誰かさんに心から感謝したい」

 突然マリア先生が私達に頭を下げた。

「ゴブリン共に攫われた娘達を頼む」

 彼女の急な変貌ぶりに驚いたウォリアだったが、その目を真っ直ぐ見据える。

「アタシ達にできるのは助け出すところまでだ。そこから先はアンタの仕事だぜ」

「ああ、1人残らずあたしが救ってやるよ」

 その様子を見ていたコドルさんも深々と頭を下げる。

「改めて、私からもお願いします! どうか、私たちを助けてください!」

読んでくださりありがとうございました。

面白いと思って頂けましたら評価とブックマークをよろしくお願いします。



この話の場にはジェスもいるはずなのですが完全に空気になってます。

途中で気付いたのですが絡ませるのが面倒になったので放置しました。

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