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<選択肢>アカネ村を救いますか? 救いませんか?

読んで頂けると嬉しいです。


本話には少々胸糞悪い表現をしている部分があります。

苦手な方はその部分をさっと読み飛ばして頂けると幸いです。

「ゴブリン?」

 ファイが意外そうな顔をした。

「ゴブリンって。あのゴブリンだよね? 緑色で、ちっこくて、弱っちいあの雑魚モンスターの?」


 そう、あのゴブリンである。

 様々なゲーム作品に登場する雑魚モンスターの筆頭だ。その雑魚さはかのスライムと並びゲーム界の2弱と言っても過言ではない。

 このアカネ村はそんな雑魚モンスターのゴブリンに襲われていたのだ。

 私がプレイした『メスガキパーティー』のゲームではメスガキ勇者パーティーはゴブリン退治のために彼らの巣穴へ潜入する。そこでうっかり油断してやられてしまい、散々雑魚モンスターと侮ったゴブリン達に集団でわからせられてしまうのだ。


 ファイの言葉を聞いたコドルさんが「やはり」と呟く。

「あなた方は私がギルドに出した要請によって来てくれた冒険者ではないのですね。詳細についてはご存知なくても、討伐するモンスター自体を知らないなんてことは有り得ませんから」

 コドルさんは合点がいったと頷いている。

 まぁ普通ならばそうだろう。ファイに限っては全然有り得る話なのだが。

「何より私がギルドへ要請を出せたのは一昨日の話です。緊急で要請したと言っても早すぎるとは思っていたんです」

「すいません。嘘をつくつもりはなかったのですが。成り行きでこうなってしまって」

「頭を上げてください。オラルドさんですね。あの人はいい人なのですが、少々思い込みが激しいところがあるんです」

 私は謝罪し、コドルさんは快く許してくれた。


 さて、これで誤解を解くことはできた。

 ゴブリン退治の依頼を受けて冒険者がやってくるにはもう少し時間が掛かるだろうが、所詮は雑魚モンスターである、村の人達でもしばらくは対処できるだろう。

 後はお茶のお礼を言ってお邪魔しよう。


「ゴブリンは確かに雑魚モンスターだが、集団になると侮れない奴らなんだよ」

 私が席を立ちかけたとき、ウォリアが急に語り出した。

 ん?


「冒険者の教訓に『駆け出しとベテランは1人でゴブリン退治依頼を受けてはいけない』てのがあるんだ」

「駆け出しは実力不足だから分かりますが、ベテランもですか〜?」

「初心忘れるべからず、慣れてきたときが1番足元を掬われやすいってな。そういう意味の教訓だ。ここにゴブリンが使われているのは雑魚モンスターだから油断し易い代表だからっていうことと、もう1つ意味がある」

「それは?」

「ゴブリンはこちらの予想外の行動をすることがあって油断ならない奴でもあるんだ。経験豊かなベテランでもやられかねないってことだ」

 ごくりと喉が鳴る。

 ゴブリンってただの雑魚モンスターではなかったのか。


「パパ!」

 突然部屋の奥から小さな子どもの声がした。

 驚いて声のした方を見ると、そこに5歳くらいの男の子が立っていた。

「ママは帰ってきた?」

「ハル!」

 コドルさんは男の子の側に駆けていく。

「すいません、息子のハルです。ほら、ハル。あっちの部屋に戻っていなさい」

「嫌だ! ねぇ、ママは? パパ〜、ママはいつ帰ってくるの?」

 ハルは今にも泣き出しそうだった。

 メイがしゃがみ込んでハルに話し掛ける。

「ハル君、こんにちは~」

「誰……」

 ハルはメイに警戒してコドルさんの後ろに隠れる。

「私はメイお姉ちゃんですよ~。いいですか~? 見ててね、えい!」

 メイはハルの前に握った両手を差し出して注目させ、合図とともに手の平を開いた。

 途端、手の中から青白く光り輝く幾匹もの蝶々が舞い上がる。

「わぁ、すごい! お姉ちゃん、これ何?」

「ふふん、お姉ちゃんは魔法使いなのです。どう、すごいでしょ。もっと色んな魔法を見たくないかな?」

「すごい! うん、見たい、見たい!」

「じゃあ、お姉ちゃんと一緒にあっちのお部屋へ行こうか」

「うん!」

 メイはハルの手を握り奥の部屋へと連れて行ってくれた。

 プリスがファイに声を掛ける。

「メイだけだと不安だからファイも付いて行ってあげてくれない?」

「うん、分かった」


「すいません。ありがとうございます」

「あの子のお母さんは……」

 プリスが訊ねる。

 コドルさんの顔が悲痛に歪む。

「……あの子の母親、私の妻はゴブリンに攫われました。妻を含めて、村の若い女達18人が、ゴブリンに攫われたんです」

 プリスが息を呑んだ。

 この場にいる誰もが言葉を無くした。


「女の人達が攫われたのはいつだ?」

 ウォリアが沈黙を破り、コドルさんに訊ねる。

「? 4日前ですが……」

「そうか……」

 ウォリアが舌打ちする。


「おい、ヒイロ。こっちへ来い」

 私はウォリアに促され家の外へ出た。

 コドルさんの家の前はバルコニーになっている。

 ウォリアは備え付けられたベンチに腰掛け、重たい溜息を吐いて項垂れた。

「ゴブリンがなぜ人間の女を攫うか知ってるか?」 

「女の人限定?」

「男を攫う場合もあるらしいが、ほとんどは女なんだよ」

 ゴブリンについて考えたことなんて全くない。

 抜きゲー的な理由では勿論ないだろうし。

「ううん、知らない」

 私は首を振る。

「あいつらはほとんどが雄なんだ。極稀に雌のゴブリンも生まれるそうだが、それは奴らの十数世代に1匹とかいうレベルらしい」

 嫌な予感がする。

 それはつまり……。

「じゃあ、奴らはどうやって繁殖するのか? つまりそういうことだよ。繁殖のために人間の女を利用するんだ。胸クソ悪い話だが、あいつらは人間の女を孕ますことができんだよ」

「……」

「ゴブリンの繁殖力は異常だ。奴らは7日間で産まれてくると言われてる」

「そんなに早いの?」

「ああ、そして問題はだ。人間の女はゴブリンの出産に耐えれないんだよ」

「どういうこと?」

「出産すると大抵母体が死ぬんだ。ゴブリンは多産で、双子、三つ子なんていうレベルじゃない。加えて奴らは人間でいう2、3歳の体格で産まれてくる。大抵は腹を引き裂かれて命を落とし、例え体は無事だったとしても衰弱死や発狂死するんだ」

 想像以上に深刻な話だった。

「あの村長が呼んだっていう冒険者が来るのにどれだけ早くても後3日はかかるだろう。だが、そいつらが到着する頃には今攫われている人達は……」

 ウォリアはそこで言葉を切った。

 彼女は考えている。自分たちが何をすべきか、何ができるかを。

 彼女の中には考えるまでもなく、すでに答えはあるのだろう。真っ直ぐ私の目を見据えた。

「あの子の母親や他の人達の命を救うためには、ここにいるアタシらが今やるしかない」

 その目には強い意志が見えた。


「待ちなさい」

 背後を振り返る。プリスとジェスが立っていた。

「話を勝手に進めないで頂戴。私たちには重要な使命があるのよ。こんなところで油を売っていられないわ」

「何だって?」

「私たちは魔王を討伐するの、よ。だから、その、こんなところで油を売ってる場合ではなくて、その……」

 プリスはウォリアに向かって捲し立てるのだが。

 おや?

「ああ、オマエの言う通りだ。アタシらの使命は重要だ。世界の命運を握っている。それに比べれば、辺境の、小さな村の、数人の命なんてカスみたいなもんだよな」

「え、えええ、いやそこまで言っては……じゃなくて、そうよ。だからあなた1人の勝手な思いで、決めて欲しくないの、よう」

 2人のやりとりにジェスはおろおろと、していない。

 プリスに相対するウォリアにしても、さっきまでの思い詰めた感じが和らぎ、若干笑っている。


 やっぱりプリスは芝居が下手だな。

 彼女は敢えて憎まれ役を買おうとしている。

 その証拠に言葉の端々にぎこちなさがあるし、私の方をずっとちらちら気にしている。


 理由は分からないが、ウォリアはこの村を救うことに対して強い思い入れがあるようだ。

 だから、ウォリアの発案によりこの村を救うという選択したことで、もし私達の誰かに何かがあったとき、彼女だけが責任を感じなくてもいいように、とプリスは気を遣っているのだろう。

 本当によく気が回る聖女様だ。

 何度も言うが、ネグリジェ姿でさえなければ完璧だ。


「……だからね、って何笑ってるのよ!」

「いや、悪い。オマエもやっぱり良い奴なんだなって思ってさ」

「な!?」

「そうだな。確かにアタシ1人で決めていいことじゃないな」

 顔を赤くしているプリスを尻目にウォリアが私に向かって言う。

「ヒイロ! アタシらのリーダーはオマエだ。オマエが決めてくれ。プリスもそれならいいだろ?」

「ええ、まぁ。パーティー全体の決定であるなら私に異存はないわ」

「はい〜。ヒイロさん決めてください〜」


 3人の注目を浴びる私は静かに目を閉じて考える。

 その内心は全く穏やかではない。


 いや、なんでこうなった?

 私はスチル回収イベントを避けたいだけだ。

 そのためにはゴブリン退治イベントを受けるべきではない。

 だが、この状況で「村を見捨てて旅を続けよう!」なんて言えるわけがない。

 

 私だってこの村の人達助けたい。

 だが、リスクとして私たちの貞操や命に危険が迫ることが分かっているのだ。

 危険な可能性がある、ではない。

 確実に危険なのだ。

 一方でこの村を見捨てる選択をすれば仲間達の信頼を失う確率が高い。

 ウォリアはもちろん、プリスもこの村を救うという選択に疑いを抱いていない。

 私のように先の展開を知らなければ普通はそうだ。

 恐らく、他の仲間達も同じ考えだろう。


 どうする?

 村を救う? 救わない?

 どちらを選択しても楽な道ではないのは確実だ。


 生前、こんなにも女の子達に熱い視線で見つめられ、人生を左右する選択を迫られたことは一度もない。

 悩みすぎてハゲそうだ。いや、もうハゲてたか。いや、今はハゲてないか。

読んでくださりありがとうございました。

面白いと思って頂けましたら評価とブックマークをよろしくお願いします。



1日1話連続投稿をぎりぎり継続中です。

投稿時間が不規則なのは私が遅筆だからです。

1日1話以上投稿をずっとやってらっしゃる方はすごいと思います。

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