深夜のラジオ
俺は浪人1年生。
あまり前途に希望が持てない。
受験に失敗し、まだそれを引き摺っている。
そして、勉強よりラジオに意識が行ってしまっている。
このラジオも、予備校が深夜の英語講座を放送しているから聴くようにと支給したものだ。
でも俺は民放の放送を聴いている。
予備校の講師達に言わせれば、「ダメな人間」なのだろうが、別に構わない。
五月蝿い親、煩わしい世間体。
どうでも良かった。
別に大学に行くだけが人生じゃない。
負け犬の遠吠えと言われても気にしない。
俺の人生は俺が決める。
そんな途方もない思いに耽っていた時、ラジオからの呼びかけにギョッとした。
「君、そんな考えじゃダメだよ。だから君は浪人したんだ。もっと視野を広げないと」
「え?」
何だ? このパーソナリティ、俺に呼びかけてるのか?
「ハハハ、驚いたようだね。そう、君だよ。君に呼びかけてるんだよ。ああ、何も言うな。言いたい事はわかる。しかし、まずは俺の話を聞け」
「関係ないよ」
俺はついラジオに反応してしまった。するとそのパーソナリティは、
「関係なくないよ。しっかり聞け。君の将来がかかってるんだ」
「あ、ああ」
またつい反応する俺。
「どうした? 疑ってるのか? ラジオの向こうとこっちで話せるわけがないと? じゃあ、何か質問してくれ。俺はそれに答えるから」
質問? 突拍子もない事を尋ねれば、絶対答えられないだろう。
「俺は来年の今頃にはどうしているかな?」
どうだ。まさかそんな事を訊かれるなんて思っていないだろう?
俺はパーソナリティがトンチンカンな答えをするのを待った。
「そんな事はわからない。それは君自身がこれからどうして行くかで決まる事だ。仮に俺に千里眼の能力があっても、わかる事ではないと思うよ」
俺は開いた口が塞がらなくなった。
どういう事だ?
何で俺の質問がわかるんだ?
「どうだい? これで俺を信じる気になったかな? もっと未来に希望を持とうよ」
「はい」
返事も変わった。
何故か知らないが、このパーソナリティの言葉に魅了されて行った。
予備校の会議室。
深夜にも拘らず、講師達が会議を開いていた。
「我が校のカリキュラムについて来ようとしない連中の洗脳はこの方法である程度成功すると見ていいようですな」
講師の1人が言った。
「反抗的な人間ほど、実は信用させれば後は思うがままなのですよ」
別の講師が狡猾な笑みを浮かべて言った。
「まさかラジオが盗聴器も兼ねているとは夢にも思わないでしょうからね」
女性の講師が笑った。