表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢魔ルルウォの伝説  作者: 雪ノ下セツノ
5/19

誘拐

「おーい、こっちに四人いたぞ!」


「一人はずいぶん小さいが……あと女も一人」


「あー、ま、とりあえず全員だ。王は、『あの色狂いの好みなんて分からんから全員捕まえてこい』っつってたからな」


「こいつらも可哀想にな。親がいないせいで、不運だったな」


「じゃあお前が育ててやれよ」


「なんで俺が。親の仕事だろ」


 ちげーねぇ!と下品な笑い声を上げる男が3人。突然路地裏に現れたその男らは揃いの上着を羽織り、腰に剣を下げて立派な体格をしていた。


 昼下がり。よく晴れて、日が眩しいほどに照りつける時間。表通りを多くの人間が明るい顔で通りすぎ、対照的に路地裏は暗い。表が明るければ明るいほど、路地裏はますますその影を濃くして人の目から隠される。そういう時間だった。


 その暗がり。細い道の行き止まり。ソマたちが住処としているこじんまりとしたスペースに、男たちがズカズカと入り込んでいる。遠慮なく踏み荒らし、子供たちに手を伸ばし、まるでただの作業にすぎないかのようにヒョイヒョイと捕まえていく。

 一歩前に出て棒切れを構えていたソマは簡単に殴り飛ばされ、物陰から何かの袋を引き出そうとしたイーツは後頭部を思い切り剣の腹で殴られ、パタリと気を失った。


「ソマ!イーツ!」


トルドゥを守るように抱きしめていたジェシーは、必死に逃げ場を探してじりじりと下がる。


「うお、なんだこれ!魔法陣じゃねえか?このガキ、あぶねーもん持ってんじゃねーよ」


 イーツが取り出そうとしていた袋の中身を覗いた男が、うへえと口を曲げて足元に転がるイーツを蹴る。


「おー、まじか。盗んできたんだろーな。ろくなガキじゃねえ」


 「魔法陣なんてどっから盗んでくんだよ」「そりゃお貴族様だろ」「この辺じゃ手に入んねえもんな」なんて、男らは雑談しながら気負いなくジェシーに近づき、あっけなく捕まえる。ジェシーがトルドゥを離そうとしないため、めんどくさそうに二人をまとめて縛る。


「見つけて縛るだけの簡単なお仕事だ」


「おいおい、大変なのは夜だろーが」


「あーあ。なんで俺らが肥太ったブタと200超えのババアのお守りしなきゃなんねーんだ」


「お前、不敬罪で殺されるぞ」


「はー?誰が王族サマの話なんてしたよ」


「はは!わりーやつだな」


「ガキ縛ってる兵全員わりーやつだ」


ちげーねぇ、とまた下品な声で笑いながら男たちはソマたちを連れて去っていく。

その様子を、サンセが震えながら見ていた。丁度外から戻ってきたところで知らない声と大きな音に驚いたサンセは、人見知りの性質がゆえにとっさに物陰に隠れていたのだ。

路地の壁が少し崩れたところに蹲み込んだサンセは指先一つ動かせないまま、仲間四人が連れて行かれるのを茫然と眺める。

笑いながらすぐそばを通り過ぎる足を体を強張らせて見つめ、助けなければという思いと見つかりませんようにという願いがせめぎあって泣き出しそうだった。自分だけ助かっても生きていけないのに、自分だけ助かりたいという思いがどうやっても消せない。

男たちはあっという間にサンセの目の届かないところへ去ってしまった。


「ま、待って……!」


 サンセは、今更遅いのに、と唇を噛みしめ、しかし思わず走り出す。


「わ、私、一人じゃダメなの……!」


 でも怖いの。助けられっこない。もう追いつけないのに追いかけて、自己満足?


「違う、違う違う……」


 違わない。自分が助けられるはずないって分かってる。力じゃ叶わないし、頼りにできる人もいない。


「だ、誰も……」


 サンセは、表通りが近づいてくるにつれて徐々に失速する。


「だ、誰か……」


 路地裏と表通りの境で足が完全に止まった。影から一歩足を踏み出す、そんな簡単なことができない。表通りに出たって、いるのはあの男たちの味方ばかりだ。

親のない子供を守るのは王ーー昨日聞いたばかりの言葉が頭を過ぎる。

王は、全員捕まえてこいと仰せーーついさっき聞いた言葉も浮かんでくる。

 

「お、王様は助けてくれないのに……!わた、私たちには、いないのに……!」


 ドンっと何かがぶつかった。表通りから曲がって入ってきた少女が、サンセにぶつかりキョトンとする。


「なんじゃサンセ。昨日とは逆ーーん?」


 サンセは、ルルの姿を見た途端泣き出していた。心の中では、昨日たまたま会っただけのこの人が助けてくれるなんて甘い考えだと冷静に主張する自分もいるのに、涙は止まらない。

 表通りに出たって誰も助けてくれないと動かなかった足が、ルルを前にすると勝手に進む。 

 『自分でどうにかできないなら、人に助けて貰えばよい。そうじゃろ?』なんてニヤリと笑ってくれるのじゃないかと期待してしまう。


「どうしたのじゃ。何故泣いておる?妾は笑った顔が好きじゃと言っておろう?」


 ルルがサンセを覗き込むと、サンセは慌てて涙を拭い、とにかくこの状況を聞いてもらおうと口を開く。


「あ、あの。ソマたちが……そ、ソマとイーツとジェシーとトルドゥが、へ、兵士に……連れてかれちゃったの」


「……なんじゃと?」


 ルルはフードの下の美しい顔を険しくさせる。


「兵士とは?連れて行かれた場所に心当たりは?理由は?いや……その前にどっちに行ったのじゃ?追いかけながら聞く!」


 矢継ぎ早に質問を繰り出したルルはサンセの腕を掴むと、グイッと引っ張った。たったそれだけで、サンセは光を踏んでいた。強い日差しに目を眩ませながら、サンセはなんだ、と思う。

 こんなに簡単だった。光の中にも、迷いなく助けの手を伸ばしてくれる人がいた。

 サンセは目に滲む涙をゴシゴシと擦り、「こ、こっち!」と繋がれた手を引っ張る。

 

「……助けてくれる人、いた……!」


 ソマたちを助けるのだ、とサンセは決意を固めて気持ちを奮い立たせる。

 一人じゃなければそれは不可能じゃないように、その瞬間だけは思えたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ