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夢魔ルルウォの伝説  作者: 雪ノ下セツノ
4/19

路地裏に住まう子ら

少女は走っていた。自分の家――と呼んで良いのかは分からないが、自身の仲間の待つ住処に向かって。

入り組んだ道を息を切らして走り、後ろから誰か追ってこないかを気にするように時々振り返りながら、ボロボロのマントを押さえ押さえ走っていた。


手には空っぽの布袋を持っている。その中に入れるはずだったものは先程ぶつかった相手に押し付けてきた。手に持ったままだと少々都合の悪いものだったからだ。あとで取り返す機会はいくらでもある。とにかく今は追っ手を振り切り、住処で他の仲間たちに話さなければ。そう思いながら少女は少しずつ走るスピードを下げていく。


少女は路地裏の行き止まりに辿り着いて足を止める。

 家と家に挟まれた薄暗がり。影になった細い道の終着に、四人の子供達が座り込んでいた。

 少年3に少女が1。


 いずれもボロボロの服を纏い、髪はボサボサで、薄汚れた肌とこけた頬が哀れを誘う。だが脱力した体と対照的に目は力強く光り、突然の来訪者を鋭く見返す。


少女の仲間たちと、その住処だった。

仲間であるはずの彼らが、なぜか知らない相手を見るような目で自分を見つめてくる。

少女は仲間たちの警戒の視線に困惑の色を浮かべた。

 何か言おうとして、手に持っていたボロ布をギュッと握り、その質量のなさに本来そこに入っていたはずの中身の行方を思い出したのか固まる。恐る恐る口を開こうとしたその時。

 一番年長と思われる14、5歳の少年が他の子供たちを守るようにズイッと一歩前に出て、少女に先んじるように鋭い声を出した。


「サンセ!その女、誰だ?」


 サンセと呼ばれた少女は、ビクリとして少年の視線の先を振り返る。

 すると、そこにはサンセよりも上等そうなマントのフードをかぶった少女が立っていた。やや背が高く、視線を下から送るサンセからはフードの中の青い瞳が見える。美しい顔に力強い笑みを浮かべた少女は、クイッとフードの先を押し上げた。艶やかな金髪が一房流れ落ちて揺れる。

 少女は少年たちの警戒を気にも留めず、朗々と名乗った。


「妾はルルじゃ。主らはなんと言う?」


 16、7くらいに見えるルルと名乗った少女が見かけによらず古風な話し方をするので、少年たちは面食らった。リーダー格の少年はルルの調子に巻き込まれないよう、低い声を出す。


「お前……俺たちに何の用だ?サンセを尾けてきたのか?ここら辺のやつじゃないだろ」


 鋭い語調で繰り出された質問に、ルルは首を傾げた。

 

「用は……おにごっこじゃな。そこの娘……サンセと言うのかの?がたっちしてきたゆえ、妾はオニになって追いかけてきた。それに、そうじゃの。妾はかなり遠いところから来た。よく分かったのう」


 なぜ分かった?と不思議そうな顔をするルルに、「そんな綺麗な金髪の子、この辺にはいないよ!」と答えたのは目の大きな少女だった。少年の後ろからピョコンと顔を出し、好奇心に目を輝かせている。


「あ、おいジェシー。怪しいやつと話すんじゃねーよ!」


「だって、この人いい人そうじゃん!可愛いし!」


「はぁ?可愛いのは関係ないだろ!」


「……可愛いのは認めるんだ」


 言い争いを始めた二人の後ろからヌッと言葉を挟んだのはむっつりした表情を浮かべる少年。

 その腕の中には五人の中で飛び抜けて幼い、頬のふっくらした5、6歳の少年が座っている。初めは突然現れたルルに怯えていたようだったが、年上の少年たちがいつも通りの言い争いを始めると、安心したように無邪気に笑った。


「ねぇねぇイーツにいちゃん」


 幼い少年がむっつり顔の少年の袖をひく。


「……何」


 イーツと呼ばれた少年はむっつりしたまま返事をする。幼い少年はその態度を気にする風でもなく、ニコニコして言う。


「サンセねぇ、今日めりんげもらってきたんでしょぉ。はやくたべたいよ」


「ああ……そっか」


 イーツは頷くとサンセを見やった。

 サンセはルルを振り返ったまま固まっていたから、イーツらに見えたのは背中だった。

 幼い少年の言葉を聞いていたリーダー格の少年とジェシーもサンセを見やる。

 サンセの背中が丸まり、縮こまっているのだけが見えた。

 

 サンセは震えていた。目まぐるしく色々なことを考える。

 ルルと名乗った少女に先ほど自分は菓子を押し付けた。それは憲兵に捕まった時言い逃れするつもりだったからで、後で回収することは店から盗み出すよりもよっぽど容易に思えた。

 まさか、追いかけてくるとは思わなかったのだ。

 しかもそれに自分が気づかないなんて。住処に帰るときはいつだって十分警戒してしているはずなのに。 オニが何とかとか言っていたが、実際どうしてわざわざ追いかけてきたのだろう。

 サンセは考える。

 ルルは良い暮らしを送っていそうだ。だからもしかすると、めりんげには興味がないかもしれない。

 少し希望が頭をもたげる。

 ルルが大変なお人好しで、もしかして、落とし物として届けに追いかけてきたのかもしれない。

 そんな期待に顔を上げる。


 すぐそこにルルの目があった。俯いていたサンセを覗き込むように顔を近づけていたらしい。

 サンセが思わず後ずさると、ルルは舌舐めずりをしながら一歩一歩近づいてくる。

 サンセの緊張が頂点まで高まった時、ルルがニイッと笑って言った。


「サンセよ、実は妾はめりんげのためにこの国に来た。どこで手に入れたか、教えてくれるのう?」


 ゆっくりと発された言葉に、サンセは「ああ、ダメだった」と思いながら意識が遠のいていくのを感じた。







 




「ほう、それではソマが最年長で、トルドゥが一番下なのじゃな?」


「そうだよ!それで、アタシが10で、サンセが11、イーツは14……13だったっけ」


「……覚えてない」


「イーツにいちゃんは大体ソマにいちゃんと同じくらいだよぉ」


「おまっ、大体同じって何だよ!俺がいっちばん年上でいっちばん偉いんだからな!」


「……ソマは抜けてるから……」


「あはは!抜けてるって!抜けてるって!」


「ジェシー、指差すな!」


 サンセは意識が覚醒し始めると、いつも通りの仲間の声が耳に届いて胸を撫で下ろす。

 憲兵には通報されなくて済んだようだ。ゆっくり目を開ける。


「あっ、サンセ目覚ました!」


「……大丈夫?」


「サンセねぇ、めりんげ食べるぅ?」


「急にぶっ倒れて、どうしたんだよ?」


 口々に心配する声に、自分が倒れた原因を思い出したサンセは、ハッとして周りを見渡す。

 すると、すっかりフードを脱ぎ去り、トルドゥを膝に乗せたルルが何くわぬ顔で輪に混ざっていた。


「お腹が空いていたのかの?めりんげ……妾も食べたいが……」


「しつこいなお前……これは俺たちの大事な食料だって言ってんだろ!」


「明日、他のものを持ってくるのじゃダメかの?今、目の前にあるのに食べられないのは存外悲しい……」


「ダメだダメだ!そう言って、絶対持ってこないね」


「ソマー厳しくない?ルルは絶対そんなことしないって!こんなに美人なんだよ!」


「なんで美人に甘いんだよ!」


「……美人なのは認めるんだ」


 ソマがグッと詰まり、顔を赤くする。チラとルルを盗み見れば、小首を傾けるルルの金髪がさらりと流れ、金の睫毛に縁取られた透き通るように青い瞳と形の良い鼻、ピンク色の唇が真っ白な肌の上に絶妙なバランスで乗っている。

 文句なしに美人だった。マントの裾からは真っ白な太ももがスラリと伸び、襟元に覗く鎖骨が妙に艶かしい。

 もう14のソマには、やや刺激が強いほどの露出度である。ソワソワと落ち着かなげに目を逸らしながら、「うるせー」とイーツを小突く。


 すっかり懐いた様子でルルにしがみ付いてめりんげを美味しそうに食べているトルドゥに、可愛いものに目がなくルルをキラキラした表情で見つめるジェシー。普段なら一番人見知りをするイーツでさえ、自然体で振る舞っている。


 和気藹々とでも評すべき仲間の様子にサンセは目を白黒させた。


「ど、どうして……?」


 状況が飲み込めない様子のサンセに気づいたソマが、何がだ?と尋ね返す。

 サンセは言葉に詰まりながら胸に渦巻く疑問を口に出す。


「だ、だって……その人、誰だか分かったの?だ、大丈夫なの?めりんげが欲しかったんじゃ……盗んできたって分かって問い詰めようとしたんじゃ……」


 ルルはキョトンとして答える。


「妾はルルじゃ」


「そ、そうじゃなくって……」


「めりんげは主らから取らんでも手に入るじゃろう。盗んできた……のは頂けんが。しかし、主らには見たところ親がいないようじゃ」


 首を傾げるルルにジェシーが大きく頷く。トルドゥは「にいちゃんたちがいるよぉ」とほんわかした笑顔を浮かべ、イーツはむっつりと黙り、ソマはヒョイと肩をすくめる。

 それぞれの反応を見たルルはサンセと向かい合うと、ニヤリと口の端を吊り上げた。


「子供は親が養うもの。親は王に養われるもの。では、親のいない子供は?もちろん、それも王が養うものじゃ。そのために国はある。子の罪は親がかぶる。親なし子が腹を空かせればそれすなわち王の責任。子供が甘いものを食べられずに泣くような国など滅んでしまっても良い。そうであろ?」


 サンセは目をパチパチと瞬かせた。視界の端でイーツが「……過激思想」と首を振っているのが見えたが、そんなのなんのその、サンセには魅力的な意見に聞こえた。


「お、親がいない子は……王様が親になるの?」


「そうじゃ。国に住むすべての民のために存在するが故に王はふんぞり返っていられる」


「甘いものたくさん、食べてもいいの?」


「そうじゃのう。王の責任とはいえ、あまり盗むと店の主人が悲しむかもしれぬ。主にわかるかの?毎日頑張って作ったものが、勝手に持ち出されてしまう気持ちが。よく考えてみよ。自分のことだと思って」


 サンセはギュッと目を瞑って考えてみる。自分のことだと思って。店の主人の気持ちを自分が考えるなんて今まで思いつきもしなかった。うんうん唸って、頭の中でめりんげを作ってみる。めりんげの作り方など分からなかったが、なんとかして作り上げた。サンセは満足してそれを台に並べる。すると台の下からヒョイっと手が伸びてきて、誰かがめりんげを持っていく。自分が頑張って作っためりんげが、知らない誰かにーー「やだ!」


 サンセは自分の出した声に驚いたように目を開けた。

 妙にリアルだった。甘い匂いがしたような気がした。


 サンセはなんだか不思議そうな顔でルルを見つめる。


「や、やだった」


「そうかの」


 ルルがそうじゃろう、というように深く頷いた。


「じゃが、主らは王に食べさせてもらえないがために自力で腹を満たさねばならぬ。金が手に入らなければ盗むしかない。悪循環じゃ」


「じゃあ、ど、どうすれば」


「選択肢は三つある。王を廃するか、国を出るか、盗むのをやめるか」


「お、おい!」


 暫くルルとサンセのやり取りに呆気に取られていたソマが割り込んだ。なんだか強烈な選択肢が出てきたので思わず、といった具合で。ソマは割り込んだはいいものの何を言うか決まってなかったようでポリポリと頭をかき、少し詰まりながら言葉を探す。


「えーっと、あのさ。国を出る?なんて、結局他の国でも同じだろうし、王様を……って、物騒なこと言うなよ。捕まるぞ?」


「ふむ、では盗みをやめる選択肢を取るかの?」


「……盗まなくていいなら元からやってない」

 

 イーツがむっつりとしたまま答える。ルルはそうかの?とイーツに笑いかける。


「菓子屋の主人に聞いてみたことは?手伝いをするからその報酬として少し分けてもらえないかと。今盗んでいる程度のものはもらえるのではないかの?」


「……一回、やった」


「ほう」


 眉を上げたルルが、それで?と促すようにイーツを見つめると、イーツはむっつりした顔をさらにむっつりさせて、渋々口を開いた。


「……トルドゥが、熱出したことがあって、全然治らなくて、医者は金がないと診てくれないし……色んな大人に頼んだ、けど。雪の中頭下げて、今までのことも謝って、これからなんでもするから、働かせてって……何か暖かいご飯か毛布だけでもって……まあ、ダメだったよね」


 イーツが鼻で笑うと、ソマが当時を思い出したのかチッと舌打ちをする。ジェシーは困ったようにあははと笑い、サンセは悔しげに唇をかみしめた。

 トルドゥだけがキョトンとして周りを見渡し、ルルに頭を撫でられてヘニャリと笑う。


 ルルは「大変だったのう」とのんびり言ってトルドゥの顔を覗き込み、「主はどうして助かったのじゃ?」と尋ねながらそのふっくらした頬をプニプニ摘んだ。


 トルドゥはくすぐったそうに身を捩らせ、えへへと笑って答える。


「えっとねぇ、ソマにいちゃんとイーツにいちゃんがお医者さんとこから薬盗んでくれたの!」


 ニコニコと悪気のなさそうなトルドゥに、ソマがアチャーと額を押さえた。

 サンセは目を泳がせ、イーツは強張り、ジェシーが何か弁明をしようと口を開きかける。

 すると。


「ははは!そうかそうか、盗んだとはの!そうじゃな、礼を尽くしてもダメなら相応の対応じゃな!盗んだのを謝った直後に!ふはっはは!」


 ルルが愉快そうに笑い出したから、四人は呆気に取られた。

 

「……なんで?」


 ルルから呆れか叱責が来るだろうと身構えていたイーツは、訝しそうに目を細める。

 ルルが笑いすぎて涙の滲んだ目元を拭いながら、「なんでとはなんでじゃ」と尋ね返すと、イーツはむっつりした顔で黙り込んだ。代わりにジェシーが疑問渦巻く表情で横入りする。


「だってさ!盗むのはよくないんじゃないの?」


「どうしてそう思うのじゃ」


「どうしてって……人のものを取るのは悪いことって決まってるんでしょ?」


「そう定めている国は多いのう」


「じゃ、ダメなんじゃん!どーして笑うの?」


「ふふ、ジェシーよ。妾に叱ってほしいのかの?」


 ルルはおかしそうに続ける。


「残念じゃがご期待には添えんのう。妾は面白いことが好きじゃ。笑えればなんでもよい。反対に、人が悲しむ顔は嫌いじゃ。

盗みが人を悲しませるのではいけない。しかし、もし今語られたのが『昔小さい男の子がもう一人いたのに高熱から助け出せなくてーー』なんてものじゃったら、妾は大人たちを叱りにいかねばならんところじゃった」


 生きていて良かったのう、と言いながらルルがトルドゥの頬をうりゃうりゃ〜とする。

 キャッキャと笑う二人を眺め、イーツがため息をつきながら声を発した。


「……結局、盗みはしょうがないってこと?」


「むう。まあ、主らは最低限の努力を行い、その対価が払われなかったのじゃから、礼儀知らずどもからは盗むしかないのう」


「……危険思想」


「そうかの?」


「……法を守らなくなったら国は立ち行かない」


 ルルは感心するように何度も頷く。肩から髪がこぼれ落ち、それを耳にかけながら自分の考えを述べる。


「イーツは物事をよく考えておるのう。そうじゃな、確かに国は民が法を守ることで成立する。

しかしよく考えてみよ。民はその国に属するがために法を守る。法を守らなければ国の秩序から弾き出される。法を守ればその国に属していられる。善悪とはその国の中で通ずるルールに過ぎず、同じ共同体に生きる人間の利害関係に慮るものじゃ。


では、主らは?国が主らを守ってくれぬのに、主らは国が定めたルールを守らねばならぬじゃろうか。国の中で生きる者相手に、国から見放された主らは同じルールを押し付けられて、泣き寝入りしてもよいものか」


「……暴論」


「はは!よいのじゃ、妾がそう思うだけじゃからの!」


「……でも、気に入った」


「そうかそうか。それは嬉しいのう」


 イーツの気に入ったはすっごい褒め言葉なんだよー!とジェシーがからかうように言うと、イーツはすました顔でそんなことない、と返す。イーツの後ろからソマが飛びつき、首に手を回して「こいつ、耳の後ろ赤い!」とさっきのお返しのようにはやし立てると、イーツが目の端も赤く染めてソマに飛びかかる。

サンセはトルドゥに差し出されためりんげを食べてその甘さに口元を緩ませ、ジェシーが元気よく「ワタシにももう一個―!」と手を出す。

 ルルがふざけた調子で「妾もー」と手を差し出すと、それに気づいたソマがイーツをいなしながらルルの手をベシッと叩いた。


「むう、だめかの」


「明日別のもん持ってきたら考えてやる」


 フンっと腕を組んだソマに、ルルはニンマリと笑う。


「明日まで、妾の分を残してくれるということかの?」


「ソマも美人に甘いでしょー!」


「ばっ、ちが!きょ、共犯だよ!盗みが悪くないとか言い出すから、お前も共犯にすんだよ!」


 アセアセと言い訳めいた口調をするソマの顔はイーツよりもよほど赤く、ジェシーとサンセがニヤニヤニコニコ見守る。


「お前ら、変な目で見んな!お、お前もさっさと帰れ!」


「ソマは人の名前が覚えられんのかの?」


「覚えてるわ!覚えてっけど、お前はお前で十分だ!」


 ルルはそうかの、と言うとトルドゥを膝から下ろしてサンセに預け、いたずらっぽい笑みを浮かべて立ち上がった。


「ということらしいのでの。サンセ、ジェシー、イーツ、トルドゥ、主、また明日来る。何か美味しいものを探してくるゆえ、待っておれ!」


「あっ主ってなんだよ主って!俺はそーー」


「バイバーイ!」


 文句を言うソマの腕を掴んでジェシーが大きく手を振り、サンセはトルドゥの小さな手を持ってフリフリと振った。イーツは軽く手をあげ、すぐに目を逸らす。


 ルルは笑顔で手を振り返すと、フードをかぶりながら走り、一瞬で角を曲がり見えなくなった。


「なんか、嵐みたいだったねー!」


「……また明日来るって」


「まったく、誰だよあんなの呼び込んだの。どう見たって俺たちと住む世界ちげーだろ」


「あ、明日来るのは、ソマが、呼んだんだよ」


「呼んでねーよ!」


「……いや、呼んでた」


「呼んでた呼んでた!」


「よんでたよんでたぁ〜」


「トルドゥは真似すんな!」


 お前ら、最年長に対するソンケーが足りねー!と怒るソマに、イーツが肩をすくめて「尊敬する要素がない」と言うと、また二人の取っ組み合いが始まりかけたが。

 イーツが今にも飛びかかってきそうなソマを手で制し、いかにも重要な問題を告げるかのように周りを見渡し重々しく口を開く。


「……で?めりんげ一人二つずつで丁度だったんだけど。誰の分残しとくの」


「げっ嘘だろ」


 トルドゥはパチパチと目を瞬かせ、ジェシーは手に持っていた二つ目のめりんげに目を落とす。


「わ、私。今一つ食べたばっかりだから。あの人のために、残しても、いいよ」


 サンセが言うや否や、ジェシーが顔をギューっと顰めて何かに耐えるようにブルブルと震えながら、手の中のめりんげを押し出す。


「うー!アタシも!ルルは可愛くて美人でかっこいいから!アタシの取っといてあげる!」


「ぼくもぉ」


「えっ!トルドゥは食べなよー!」


「ううん。ルルねぇにあげるぅー」


 いい子に育ったねー!とジェシーが感極まったように叫びながら、トルドゥと、トルドゥを抱いていたサンセに抱きつく。

 

「……だってさ。ソマは?」


「俺は最年長で偉いからな!しょうがないからあいつに残してやる。大体、トルドゥが食べないのに食べられるわけねーだろ?」


「……まあわかってたけど。じゃあ全員一個ずつルルさんにあげるってことで」


 はーい!とジェシーが元気よく手をあげ、トルドゥも真似して手をあげる。

 

「楽しみだねー!何か用意するものあるかな?」


「は、花とか……?」


「はあー?なんであいつのために花なんか!」


「……河原に生えてたかも」


「お花〜青いのがいいなぁ青いの〜」


「だーっ、花なんて要らねーって!」


「トルドゥ、どうして、青いお花がいいの?」


「んっとね、ルルねぇの目が青くてすっごいきれいだったから!」


「いいねー!確かに真っ青で綺麗だった!」


「おい、お前ら聞いてんのか?おい!」

 

「……それじゃ、ソマ置いてさっさと行こう」


「いこいこー!」


「あっ置いてくなよ、おい待てって、俺は最年長―ー」


「ねーねー!黄色と青とかーー」


「じゃ、じゃあーー」


 5人はワイワイと騒ぎながら、誰もが楽しそうに並んで歩いていく。

 何事もない明日を心待ちにして。


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