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甘えん坊幼馴染と過ごすイチャイチャ大学生活  作者: 久野真一
第7章 アルバイト始めました
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第68話 俺と幼馴染が重食喫茶に行った件

 8月もいよいよ後半になってきた、ある夜のこと。


「なあ、君たちは、クラシルという店を知っているか?」


 夜中に、部室で作業に勤しんでいると、(しゅん)さんが問いかけて来た。周りの部員は当然、スルー。最近思うんだが、俊さがやたら俺たちの面倒を見たがるのって、他の部員に「ああ、いつものね」とスルーされるのが寂しいんじゃないか?


「噂には聞きますよ。重食喫茶(じゅうしょくきっさ)って奴ですよね」


 クラネットは、看板に「軽食喫茶(けいしょくきっさ)」と書いてある、古式ゆかしい喫茶店……に一見見えるのだが、入ってみると、油ものがてんこ盛りのメニューがあるらしくて、「重食喫茶」とネタにされていると聞く。


「体専の人たちがよく行くって聞くよ」

「なんか、量が命みたいな人たちだよなあ」


 体育専門学部の人たちは、毎日激しい運動をしているせいか、やたら量が多いところに行くというイメージがある。


「で、行った事がないのなら、行ってみないか?」

「なんか、あそこって評判が凄すぎて躊躇するんですが」

「私も、ちょっと……」


 まずくは無いらしいが、とにかく量が多いという評判だ。


「じゃあ、俺が奢ろう。どうだ?」

「じゃあ、行きます」

「奢りなら……」


 大学生、特に1年生は奢りという言葉に弱い。バイト代が出るのもだいぶ先だし。


「じゃあ、早速出発するとしよう」


 夏の夜長のキャンパスを、こうやって3人で歩いていると、何か妙な気分になるが、これも筑派大学という場所の魔力かもしれない。


「そういえば、今日は珍しく涼しいですね」


 夜とはいえ、外を歩いていて、涼しいと感じるのは久しぶりだ。


「今日は、昨日より5℃以上下がったんだって」

「それなら、涼しくもなるか」


「高遠、暑いからってあんまり部屋に籠もってるとかえって体力が衰えるぞ」

「うぐ。わかってはいるんですけどね……」


 衰えないために、ミユなんかは毎朝ジョギングをしているくらいだ。俺も、ちゃんと運動した方がいいのだろうか。


「って、そう言いつつ、重食喫茶に誘うのは筋が通ってなくないですか?」

「細かい事は気にするな」

「はい……」


 夕食をおごってもらえるだけでも儲けものだろう。クラシルは甘久保三丁目(あまくぼさんちょうめ)にあるので、実は俺たちのアパートからも近く、あっという間に着いてしまった。


 というわけで、クラシルを外からまじまじと見てみるが……


「やっぱり、喫茶店にしか見えませんね」

「その辺は色々噂があるが、とりあえず入ろう」


 ドアを開けて中に入ると、恰幅のいいおばさんが、空いている席を勧めるので、そこに座る。メニュー表がなんだか汚れてて、大丈夫かな、という気持ちになる。


「で、俊さんのオススメは?」

「ない」

「は?」


(大きな声では言えないが、オススメ「できない」のはある」

(なるほど)

(それ以外なら、大丈夫だ。多いのを残すと、おばちゃんが怒るから注意だ)


 とりあえず、「避けるべきリスト」をスマホ越しに送られたので、それを見て、程々の量ぽいのを選ぶ。


「じゃあ、海老天丼(えびてんどん)をお願いします」

「私も、それを」

「俺は肉天重(にくてんじゅう)を」


 頼むと、おばさんが厨房に入って調理を始める。


「あの、肉天重って何ですか?」

「天丼の天ぷらマシマシといったところだ」

「天ぷらだらけって事ですか?」

「大体そんなところだ。しかし、海老天重とは無難なところを行ったな」

「無難じゃないのって、さっきの?」

「ああ」


 期待よりも不安が勝ってきたが、こうなるともう待つしかない。10分程待つと、大きい丼ぶりに、海老天がどっさり乗っているものが運ばれて来た。並盛でこうなのだから、大盛りはもっと恐ろしいのだろう。


 そして、肉天重はといえば、天ぷら、天ぷら、天ぷら。所狭しと色々な天ぷらが並べられて、しかも、油でギトギトになっている。怖い。


「俊さん、それ、お腹壊しません?」

「まあ、大丈夫だ。たぶん、な」


 そこはかとなく不安な台詞を言う俊さんをさしおいて、おそるおそる海老天とご飯に口をつける。って、普通に美味しい。


「普通に美味しいじゃないですか」

「だよね。もっと、凄いものかと思っちゃった」

「別にまずいと言ったつもりはないが」

「言われてみれば、そうですが」


 これなら、幸い、食べきる事ができそうだ。肉天重の方は大変不安になるが、俊さんが言うなら大丈夫だろう。


 クラシルは、食べながら談笑するような場所ではなくて、無言でパクパクと食を進める。そして、食べ終えた後には、すっかりお腹いっぱいになってしまった。


「ほんと、並盛で良かったですよ。大盛り食べられる人ってどんなですか」

「体専の連中御用達だから、奴らは食べられるんだろう」

「うへえ」


 体力をつかう人たちは、それだけ食べる量も違うということだろうか。ダイエットとか考えなくていいんだろうな。そう思っていたら。


「そういう人たち、ダイエットとか考えなくていいんですね。うらやましい」


 ちょうど同じ事を考えていたらしいミユが言った。


「カズもその類だぞ。確か、一般人並の食事量にしたら、1日で0.5kg減ったとか」


 カズこと山田和人(かずと)さんの名前を挙げる。


「カズさん、そんな凄いんですね。って、登山全国大会一位だから当然か」


 スケールの違いに驚いている横で、ミユはといえば、


「もっと、ダイエット頑張らないと」

「別にダイエットする必要はないだろ。昨日だって」


 もが、と口を塞がれる。


(リュウ君はわからないと思うけど、ちょっとお腹がぷにぷにして来てるの)

(いや、昨日エッチした時も、別にそんな感じしなかったが)

(こんな所でそういうこと言わないで)

(おっと。ごめん)


 外からはわからない所で、ミユも色々悩んでいるらしい。


「で、仲がいいのは、いつものところだが、そろそろ出よう」


 俊さんの声に、我にかえると、店のおばちゃんが凄い形相で俺たちを睨んでいた。というわけで、そそくさと退散。


「じゃ、また明日な」


 ということで、俊さんと別れて帰宅する。


「しかし、クラシルね……」

「ほんと、凄かったよね。量もだけど、色々」

「ああ、周りの客、皆体育系の人だったよな」


 店の中では言わなかったが、他の客は鍛えられた身体をもった猛者が多かった。


「とりあえず、クラシルは、もういいや」

「そうだね……」


 好奇心の強いミユも、さすがにアレは当分いいや、という気持ちになったらしい。


 そんな、微妙な体験をした夏の一夜だった。

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