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甘えん坊幼馴染と過ごすイチャイチャ大学生活  作者: 久野真一
第7章 アルバイト始めました
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第64話 俺たちのバイトが低レベルだった件について

バイト編初日です。専門用語がばりばり飛び交いますが、そこは雰囲気でなんとか。

 今日は8月22日の土曜日で、いよいよ、λ□(らむだきゅーぶ)株式会社でのバイトの初日だ。


「しかし、何のプログラム組むんだろうな」

山崎(やまざき)さんは、考えておくと言ってたけど、ドキドキするよね」


 λ□への道すがら、そんな事を話す。


「ミユも、さすがに製品作ったことは……ないよな」

「あるわけないよー。自分用に色々作った事はあるけど」

「その自分用に作ったのが、凄いんだけどな」


 昨今、便利なソフトが色々無料で手に入るが、ミユはそれでも満足できない場合は自分で作ることがあって、フリーソフトウェアとして公開している。


 金銭的な報酬が手に入るわけじゃないが、ミユのGitHub(ぎっとはぶ)アカウントを見ると、★が1000を超えているソフトウェアがいくつもあるし、その中には★5000超えのものもあって、びっくりしたことがある。


 ちなみに、GitHubというのは、プログラマ向けのSNSみたいなものだが、ソースコードを公開して皆で改良する仕組みがあって、今どきのプログラマはGitHubで何かを作っていることが多い。その中でも、「いいね」を表す、★という仕組みがあって、★5000もあれば結構使われていると言える。


「そういえばさ、山崎さんにお前のGitHubアカウント教えたか?」


 最近はプログラマがTwitterでGitHubのアカウントを公開していることも多くて、就活の時にGitHubアカウントを聞かれることもあるらしい。


「ううん。聞かれなかったし」

「言ったらきっとびっくりすると思うぞ」

「リュウ君、それは過大評価だってば」


 渋い顔で否定するミユ。


「自覚がないのは性質が悪いな」


 いや、謙遜なのかもしれないが、どっちにしても性質が悪い。


 ★5000というのは、誰もが使っている有名なソフトウェアというレベルではないにしても、それだけである程度の能力を保証されているとも言える。


 正直、一緒にバイトしても、ミユだけ出来て俺が置いてけぼりになるなんてことすらあるんじゃないかと思える。


 そんな事を話していると、いつの間にかλ□のオフィスにたどりついていた。


 インターフォンを鳴らすと、ぱたぱたと事務と思しき人が出てきて、応接間に案内された。


「ね、ね。今日は、結構人居たよね。それに、皆デュアルディスプレイだったよ」

「あれ、かなり高そうだったよな。俺たちだとお財布がつらそうだ」


 途中、ディスプレイに向かって何かを打ち込んでいたり、何かを話し合っている人たちを10人程みかけたが、座り心地の良さそうな椅子に、デュアルディスプレイという環境で仕事をしていて、びっくりした。


 そんな事を話しながら、少し待っていると、ドアを開けて山崎さんが入ってきた。


「今日からよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 今日からお世話になるのだからと、しっかりと頭を下げる。


「いいよ、いいよ。そんなにかしこまらなくて。緊張するのはわかるけど」


 笑顔でそんなことを言う山崎さん。


「は、はい。すいません……」

「いやだからね。まあ、大学1年生だと仕方ないか」

「やっぱりそういうものですか?」

「人によるけどね。働くのが初めてで、がちがちに緊張する子もいるよ」


 こういうのが、俺たちだけじゃないとわかって、少しほっとする。


「それで、私たちの仕事ですけど、何をすればいいんでしょうか?」

「ちょっと待ってね。今、資料を開くから」


 手慣れた様子で、タイピングをすると、応接間のスクリーンにプレゼンテーションソフトで作られた資料が投影される。というか、いつの間にか電気が消されていた。


「本題の前に、一応確認なんだけど、君たち、C(しー)言語は使えるよね?」

「ええ、少しですが」

「私も、少しは」


 ミユの言葉にウソつけ、と思ったが言わないでおく。C言語は、今あるプログラミング言語の中でもかなり古いものだが、未だに用途によってはバリバリ現役で使われていると聞く。


「それじゃあ、大丈夫そうかな……」


 考え込む様子の山崎さん。


「ということは、C言語で何かソフトウェアを作るんですか?」

「そうだね。アプリケーションじゃなくて、ライブラリだけど」


 ライブラリ、というのは、アプリと違って単体で動作するものではなく、プログラマが呼び出すためのソフトウェアを指す言葉だ。今、俺達が使っているアプリにも、凄く多くのライブラリが含まれている。


「ちょっとピンと来ないんですけど、具体的には何を?」


 ライブラリを作るというのだと、少し曖昧過ぎる。


「実は、君たちの通ってる筑派(つくは)大の金城研(きんじょうけん)が今回のお客さんでね。あ、守秘義務はちゃんと守ってね」

「は、はい」


 守秘義務、という言葉を聞いて少し緊張感が高まる。それにしても、その名前は-


「あの、ひょっとして、金城先生がお客さんなんですか?」


 ミユも同じ事を思ったようで、そんな質問を投げる。


「ああ。金城先生が最近開発してる、HyperEther(はいぱーいーさ)って通信方式があってね。君たちは、Ethernet(いーさねっと)といってわかるよね?」

「はい」

「なんとなくは」


 Ethernetは、現代のネットワークを支える規格の一つだ。特に、物理的なケーブルなどについても決められていて、細かく分けると、100BASE-T、1000BASE-Tなど、色々な種類がある。


「それで、そのHyperEtherだけど、モノはあるんだけど、ライブラリがなくてね」

「ライブラリがないとどうなるんですか?」

「システムコールを叩かないといけない。って、システムコールはわかる?」

「実は、ちょっと自信がないです」

「私もです」


 単語は聞いた事があるような気がするけど、思い出せない。


「そのうち講義でやる話だけどね。君たちは、ファイルを読む時にライブラリを使っていると思うけど、その《ライブラリ自身》は、どうやってファイルを読んでいると思う?」

「それは、さらに別のライブラリを呼ぶんじゃ」

「じゃあ、その別のライブラリはどうやって、ファイルを読むの?」

「えーと……」


 ライブラリがライブラリを呼んで、さらにそれが別のライブラリを呼んで、となると、理解がちょっと追いつかない。


「あ、つまり、そこで「ファイルを読む」のを最終的に実現するのがシステムコールなんですね?」

「そうそう。さすがだね」


 ミユはすぐに正解にたどりついたらしい。確かに、言われて見れば、直接「ファイルを読む」誰かは必要なはずだ。理解力の無さに少し悔しくなる。


「まだ1年だからね。すぐわからなくても仕方がないよ」


 山崎さんはそう慰めてくれるが、忸怩(じくじ)たる思いは消えない。別に思い上がっていたわけじゃないけど、全然理解したことの無い用語を出されて、改めて自分が何も知らないんだ、ということを気がついた気分だ。


「それで、システムコールといっても、おおざっぱに言えばライブラリを呼ぶのとそんなに変わりがないんだけど、普通のプログラマがそれを直接呼ぶのは大変なんだよね」

「なるほど?」


 すぐに理解は追いつかないが、俺達が便利にこき使っているライブラリの下に、泥臭い作業をしてくれるシステムコールがあると考えればなんとなくイメージできる気がする。


「とにかく、システムコールを直接呼んでもらわないとHyperEtherの検証実験ができないのは不便で仕方がない。で、うちに、ライブラリの開発依頼が来たわけ」

「ということは、私達の作業は、その……システムコールを代わりに呼んで、開発者が便利になるライブラリを作る、ということでしょうか?」

「もうちょっと細かいところを言えば、色々あるけど、そんなところだね。って、高遠君、だいじょうぶかい?」


 心配そうな目で山崎さんに見られる。


「ちょっと色々整理できてなくて、ごちゃごちゃしてました」

「いきなり過ぎたかな」

 

 まあ、と続けて。


「幸い、納期に余裕はあるからゆっくりやってもらっていい」

「納期って……どのくらいですか?」

「細かいところは調整が効くけど、納品まで3ヶ月以内ならOKだそうだ」

「3ヶ月……さすがに、それだけあれば、出来そうな気がしてきました」


 細かいところは色々勉強しなければいけないだろうけど、気合でなんとかしよう。


「それだけ納期が長いから、ちょうどいいと思ったんだけどね」


 さすがに、大学生に最初に振る仕事ということで、考えてくれているらしい。いや、しかし、難易度が高い気もする。


「ちょっと無茶振りかもしれないから、無理そうだったら言って。仕事に取り掛かるのは次回からでいいから」


 というわけで、金城研のHyperEtherの資料をUSBメモリに入れて渡される。落とさないように注意、ということを言われて、大事な仕事を任せられているんだ、という気になって来た。


 あとの時間は、PCのセットアップをして、最低限のアプリだけを入れて、あとは帰っていいよということになった。ちなみに、HyperEtherの資料を読む時間も、働いた時間としてつけていいよ、と言われたので、


「それって自宅で作業してもいいってことですか?」


 そう尋ねると。


「HyperEtherのモノは金城研かウチにしかないから、動作確認はこっちでやってもらう必要があるね」


 ただ、と。


「資料の読み込みは自宅でやってもいいから。あと、ちゃんと作業時間をつけてね」


 という返答だった。バイトがさぼったりするとか考えないんだろうか。 


◇◆◇◆


「はあ……」


 帰り道で、もう何度目かというため息をついた。


「リュウ君、元気ないけど、大丈夫?」

「いや、正直、わからない用語だらけでやってけるのかな……」

「リュウ君の理解力なら、勉強すればすぐだって」


 慰められているのはわかるのだが、やはり不安は拭えない。


「ミユはわかったのか?」

「私も全部は無理だよ。だから、一緒に勉強しよ?」

「そっか、そうだな。頼むわ」


 実力差が歴然としている中で意地を張っても仕方がないので、ここは素直にミユに頼るしかない。しかし、なんとも格好悪い。よし。


「今日から、色々勉強するぞ!」

「やる気が出たのはいいんだけど、どうしたの、急に?」

「だって、ミユに頼りっぱなしだと情けないだろ」

「気にしなくてもいいのに」

「俺が気にするの」

「そっか。そういうがんばり屋なところ、好きだな」


 ミユとしてはさらっと言ったつもりなんだろうが、唐突にそんな事を言われると、なんだか落ち着かない。


「別に、これくらい、普通だろ、普通」


 照れくさくなって、そっけない返事をしてしまうが、正直、嬉しかった。でも、だからこそ-


(これから、もっと技術力をつけるぞ)


 一方的におんぶだっこにならないように、そう決意したのだった。


※「低レベル」は、機械ハードウェアより、という意味です

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