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第55話 俺と幼馴染が帰省することになった件(2)

竜二が実家で、母親と近況を話すだけのお話です。婚約の話はまた後で手てくるかも。

 さて、3LDKの我が家に帰宅した俺。荷物を、自室にぽいぽいと置いて、リビングに出る。


「それで、竜二(りゅうじ)。大学生活はどう?お金は足りてる?」


 母さん(本名は高遠幸子(たかとおさちこ))が聞いてきた。


「大丈夫。仕送りも十分過ぎるくらいだよ。ほんと、助かる」


 なにせ、家賃は別に払った上で、月7万円もの仕送りをしてくれているのだ。免許や車のことを考えなければ、仕送りで十分だ。


「ああ、ただ。今度からバイトすることになってさ。車持ちたいから」

「まあ、大学生にもなると車は欲しくなるものね」

「母さんも大学生のときに免許取ってたの?」

「私はペーパードライバーだけどね。一応取ってたわよ。ほとんど、友達の車に頼りっきりだったけど」

「やっぱり、免許証があると便利だから?」

「そうねえ……免許証があると身分証明証として使えるからね」


 そうすると、車に乗らなくても免許はやっぱり取っておいて損はないだろう。


「そういえば、父さんは?」


 姿が見当たらないので気になっていた。


「お盆休みが終わったから、もう出社してるわよ」

「あ、そうかー。もうちょっと、早く帰省してりゃ良かったか」


 大学生基準でつい考えてしまっていたが、社会人には、長い夏休みなんてものはないのだ。


「あの人も夜には帰ってくるから、気にしなくていいわよ」

「最近暑いから、通勤とか地獄だろうなあ……」


 東京の満員電車の辛さは身を持って味わっている。


「あの人は技術職だから、フレックスで時差通勤できているからまだましみたいよ」

「ああ、フレックスって、なんか、決めた時間以外は出社しないでいいんだっけ」

「私もよく知らないけどね。そういうことみたいよ」


 このくそ暑い中、満員電車に揉まれずに済むなら良いことだ。


「それよりー。美優(みゆう)ちゃんの事だけど、付き合い始めたんでしょ?」

「あれ、言ってないはずなんだけど、なんでわかったの?」


 うちと美優の家は付き合いが深いから、様子だけでわかったんだろうけど、それにしても不思議だ。


「外からちょっと声が聞こえてきたからね。ああ、これは付き合ったんだなって」

「それだけで、そこまでわかるとは、恐るべし」

「それにしても、別にお付き合いくらい報告してくれてもいいのよ?」

「いや、母さんたちに改まって報告するのも恥ずかしいし」

「相変わらず照れ屋さんなんだから。美優ちゃんも大変ね」

「いやいや、俺の方が大変だって」

「美優ちゃん、昔っからあなたの事大好きだったのよ?」

「あ、ああ。それは聞いてるけど」

「なのに、お隣さんに住んでも気づいてくれないって愚痴ってたわよ」


 ミユの奴、そんなことを。


「いや、あれは俺が悪かったから。それ以上は勘弁」

「ま、今が良ければそれで良しだよね。とにかく、おめでとう」

「うん、ありがとう」


 しばしの沈黙が満ちる。


「それにしても、こうなると美優ちゃんとの結婚もそう遠くないかしら」

「な、なんでそうなるんだよ。第一、美優とは同棲を始めたばかりだし……」


 言ってて、しまった、と思った。


「ううん?同棲?私、そんな事聞いてないわよ?」

「えーと、実はさ……」


 と前置きして、ミユとの同棲に至った経緯を話す。


「あらあら。美優ちゃんも情熱的ね」


 話を聞いた母さんは楽しそうに笑っていた。


「怒ったりしないのか?」

「元々お隣さんだったもの。そのくらいとやかく言わないわよ」

「それなら助かるよ」


 それにしても、と。


「もう、竜二も美優ちゃんももう大人ねー」

「いやいや、まだ自分で稼げてないわけだし、早いと思うけど」

「でも、同棲するんだから、やりくりの仕方も決めてるんでしょ?」

「まあ、それくらいは」

「なら、もう十分大人よ」

「そうなのかなあ……」


 少し納得がいかない。


「たとえば、私は専業主婦みたいなものでしょ。竜二は大人じゃないと思う?」


 母さんは最初は共働きだったけど、俺を産んだ後に退職して、今は時々パートをしている程度だ。


「そりゃ、家計を支えてやりくりするって仕事してるし、他にも家事とか……」

「それと一緒よ。経済的に自立しているだけが大人、じゃないと思うわよ」

「そうかも……」


 大人と子どもか。ほんと、どこに線引きがあるんだろうなあ。


「美優ちゃんにはもうプロポーズしたの?」


 そんな母さんの言葉に麦茶を吐きそうになった。ごほ、ごほ。


「いや、それは早すぎだろう。第一、まだ色々お金が足りないしさ」

「婚約自体でそんなにお金がかかるわけじゃないわよ。それより、美優ちゃんみたいないい子、二度と現れないでしょうから、ちゃんと捕まえておかないと」

「今でも恋人だし、それで十分だと思うけど」

「不安になるのが乙女心っていうものよ。私としては、婚約しちゃっていいと思うわよ」

「親としてそれでいいのかよ……」

「母は、息子の幸せが一番重要だからね。私も早く孫の顔がみたいもの」

「ま、孫って早すぎだろ」

「それは冗談よ。婚約といっても、何かするわけじゃないし。美優ちゃんとは長い付き合いだから、お互いの良いところ、悪いところ、よく知ってるでしょ?私はいいと思うわよ」

「父さんが反対しそうなんだけど。せめて、大学を卒業してからとかなんとか」

「あの人なら、適当に言いくるめちゃえばいいのよ」


 その言葉に苦笑してしまう。


「ひょとして、母さんもそんな経験したことがあったりするの?」

「実はね。父さんを捕まえておきたくて、大学に在学中に婚約しちゃったの」

「道理で」


 実経験があるからこそのアドバイスか。それにしても、ミユと婚約か。実際、あいつ以外と結婚する未来以外なんて考えられないし、やぶさかではないのだけど。問題はあいつがどう思っているかだよなあ。


(あとで聞いてみよう)

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