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第40話 幼馴染とお隣さんになる時のあれこれについて

 昼食をとろうということで、水着売り場を後にした俺たち。

 

「で、どこで食べる?」


 新宿ともなれば、そういう場所には事欠かないだろうと思って、

 調べていなかった。


「それだったら、ハンバーガーとかどうかな?」

「マッグか?まあいいけど」


 世界中にチェーン店がある有名ハンバーガーチェーン店を思い浮かべる。


「違う違う。近くに、評判のグルメバーガーのお店があるんだよ!」


 ミユが力説する。


「ひょっとして、調べてたのか?」

「当然。せっかく新宿まで出てきたんだし」


 胸をえっへんと張るミユ。


「じゃあ、そこにしましょうか。私も初めてなので、楽しみです」


 というわけで、新宿駅南口からほど近くにある、そのグルメバーガー店に移動。


「意外と空いてるな」


 30分待ちくらいは覚悟していたが、すんなりと入店できた。


 お勧めらしい、オリジナルバーガーのセットを3人とも注文することに。

 そして、待つこと約10分。おいしそうな匂いとともにメニューが運ばれてきた。


 分厚いバンズに挟まれているのは、しっかり焼き上げられたハンバーグにアボカド、

 レタス。見るからにおいしそうだ。


 まずはパクリと一口とかじりつく。


「うまっ。こんなに美味しいハンバーガー、初めて食べたぞ」

「はー。幸せです。ちょっと多いですけど」

「うんうん。やっぱり、当たりだったね」


 三者三様の感想を述べる俺たち。しかし、ふと気が付いたのだが。


「こうやって三人で食べるの、久しぶりだよな」

「前は俊先輩も一緒でしたからね」

「もう半年以上になるのかな」


 高校3年生の時のことを思い返す。


「前は、受験の事で頭がいっぱいだったよなあ」

「ほんと、皆浪人せずに済んで良かったですよね」

「またまたー。(みやこ)ちゃん、模試全部A判定だったのに」

美優(みゆう)さんも、同じくらいだったような?」

「優等生組がなんか言ってるな」


 B判定とC判定の間をうろついていた俺にしてみれば、雲の上の話だ。

 かなり必死に受験勉強をしていた覚えがある。


「そういえば」


 ふと思い出したように、都が言う。


「竜二君と美優さんってお隣に住んでるんですよね」

「あ、ああ。そういえば、言ってなかったな」

「なんだか羨ましいです。恋人同士でお隣なんて」


 俺たちの状況にどこか憧れるような、そんな表情で都が言った。


「って言っても、その時はまだ付き合ってなかったしなあ」

「不思議なんですけど、なんでお付き合いもしてないのに、隣に住むことに?」

「うぐ。いや、それはだな」

「リュウ君、私の必死のアピールをスルーしてくれたんだよ」


 その時の事を思い出したのか、恨みがましい目つきで睨まれる。


「いや、悪かったって」

「別に、もう気にしてないからいいよ。でも、ちょっと懐かしいね」


 そんなミユの言葉に、当時の事を思い返す。


◇◆◇◆


 筑派(つくは)大学の二次試験に受かった俺たちは、住居を探すために

 つくなみ市を訪れていた。


 秋葉原(あきはばら)から電車で揺られること45分。

 そこからバスでさらに20分という、田舎のようなそうでないような微妙な距離。


 俺たちの通う事になる計算機学部棟まで目と鼻の先。

 学生には十分過ぎる程広い1DKの部屋に、家賃も3万円足らず。

 近くにはコンビニもある。そんな魅力的な条件だったので、

 即決した俺だったが、問題なのはミユだった。


「あの。隣の203号室って空いていますか?」


 内見(ないけん)している202号室で、業者さんに尋ねるミユ。


「え、ええと。空いてはいますが……」


 なんだか、何か言いづらそうな業者さん。今にして思えば、高校生の男女が、保護者も

 なしに2人で大学に通うための新居を探しに来るという状況に、どういうことを言えば

 いいのか、決めあぐねていたのだろう。


「じゃあ、私もそれにします!」

「おいおい。いいのかよ。ちゃんと、おまえも内見してからの方が……」


 これから住む予定の部屋を見もせずに即決するミユに不安を抱いた俺は、

 ちゃんと見た方がと説得しようとしたのだが、ミユはといえば。


「大丈夫!部屋の構造は同じ、ですよね?」

「ええ。だいたい同じですが」

「じゃあ、やっぱり203号室にします。それに、リュウ君が隣だと安心だし」

「そ、そうか。それならいいが」

「……わかりました。では、戻りましょう」


 という事で、不動産屋で申込書類を記載して、つくなみ市を後にした俺たち。

 詳細な説明は、審査が通った後に、という事で電車で帰路につくことになった。

 業者さんがなんだか困惑したような、何か言いたそうな表情をしていたのが 

 気になったが。



「業者さん、なんだか困ってるような感じだったよな。なんでだろう」


 帰りの電車の中で、どうもその様子が気にかかった俺はミユに尋ねる。


「リュウ君、それ、本気で言ってる?」


 驚いた様子のミユ。声の大きさに驚いた俺は、静かに、と口をふさいだ

 後に言う。


「あ、ああ。ミユはそう見えなかったか?」

「そういうことじゃなくてね。高校生の男女2人が……」


 言葉を濁すミユに対して、俺は、


「ああ!保護者が居なかったせいか、ひょっとして」


 業者さんが確認のためにと、母さんに電話をかける場面があったのを思い出す。


「それもあるんだけど、そうじゃなくて」


 何か言いたげな、もどかしそうなミユ。


「どうした?何か悩んでるなら、相談に乗るが」

「ううん。大丈夫。私が解決しないといけないことだから」

「そ、そうか。そうまで言うなら。でも、あまり一人で抱え込むなよ」


 心配になった俺はそんな言葉をかけたのだが、


「うん。ありがとう。頑張ってみるね」


 ぎこちない笑みとともにそんな言葉が返ってきたのだった。


◇◆◇◆

 


「それは、ちょっとどうかと思いますよ、竜二君」


 話を聞いた、都が、ビミョーな目つきになる。


「いや、あれはほんと俺が悪かった」


 いくら付き合いが長いと言っても、お隣の部屋に住むことを即決したことに

 何も感じなかった俺は、さすがにどうかと我ながら思う。


「それでもお付き合いするに至ったわけですよね。やっぱり、美優さんから?」

「実は、リュウ君からだったんだよ。意外でしょ?」

「いや、意外ってな」

「一体どんな心境の変化があったんですか?竜二君」


 興味深々という様子の都。


「さすがに、ちょっとはずいんだが」


 いくら付き合いの長い友達とはいえ、そういうあれこれを細かく話すのは抵抗がある。


「後学のために、お願いします!」

「俺と俊さん、全然タイプが違うし、参考にはならないと思うんだが」


 というわけで、ハンバーガーをつつきながら、入学してから付き合うまでの色々を

 話したのだった。途中、適当にお茶を濁そうとしたのだが、ミユの奴がむしろ

 暴露するものだから、恥ずかしいの何の。


「どうだ?全然参考にならないだろ?」

「いえ。参考になりましたよ。色々と」


 意外にも、話を聞き終えた都の感想はそんなものだった。


「ええ。どこが?」

「結局、相手の事をきちんと考えるのが、重要って事ですよ」


 なんだか、少しすっきりした表情でそう言う都。


「一般論としてはそうだろうが、うーむ」


 どこが参考になったのかは、さっぱりだったが、恥ずかしい思いをしたのだから、

 せめて俊さんとうまく行ってくれることを願うばかりだ。

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