第15話 幼馴染とジョギングに行く件について
少し太ったという指摘を受けた竜二。美優と一緒にジョギングをするの巻です。
5月15日水曜日。そろそろ、気温も高くなってきて、昼間もやや暑くなってきた。
「ちゃんと準備運動をしようね」
「了解」
アパートの下で俺とミユはストレッチをしていた。きっかけは昨夜に遡るー
――
「リュウ君、ちょっと太った?」
夕食をつついている最中、ミユの発言が突き刺さる。
「ええ。マジか……」
ミユが脇腹をぐいぐいとつまみ出す。
「うん。やっぱり、少しだけど太ってるよ」
「太ってないはずなんだが」
数日に1回は体重計で体重を測定しているけど、70kg前後くらいで維持できているはず。
「体重は増えてないのかもだけど、少しお肉がついてるかも」
「うーん。ちょっとダイエットした方がいいか」
ミユも言う程気にしては居ないようだけど。
「じゃ、明日からジョギングしよ!」
ここ、筑派大学には、体育専門の学部が存在しているくらいで、体育に対する力の入れようは凄い。大学内に、ジョギング専用のコースがあるくらいだ。
「じゃ、やってみるか」
そうして、ジョギングをすることが決まったのだった。
――
というわけで、今に至る。思えば、週1の体育の授業以外、あんまり運動をしていない気がしてきた。
「よし。準備運動終わり!」
「俺も終わったぞ」
二人揃って準備運動を終える。
「それじゃ、行くよー」
ミユの元気な掛け声でジョギングが始まった。俺達のアパートがある甘久保三丁目は、ちょうどジョギングコースがある道路の途中にあって、大学に通学するときに、ジョギングをしている学生に鉢合わせすることもしばしばだ。
朝の澄んだ空気を吸い込みながら、ゆっくりとしたペースで走る。
「ジョギングは、久しぶり、だけど」
走りながら言葉を紡ぐ。
「意外と、気持ちが、いい、な」
「自然が豊かだしね」
横を見ると、ミユは涼しい様子だ。息一つ切らさずに返事を返してくる。
しばらく、お互い無言で一緒に走る。ジョギングコースは大学のキャンパスの外周をぐるんと回ってくるようになっていて、全長5.3kmだ。一周走れば結構な運動になるだろう。
「はっ、はっ、はっ」
少し、息が苦しくなってくる。
「大丈夫?」
「まだまだ平気」
まだ1/2も走り切っていないのに、息が切れ気味なのは情けないので、少し強がる。
「しんどかったら言ってね?」
「ああ」
ミユは心配そうだったが、とりあえずは何も言わないことに決めたらしい。
続いて、さらに10分程走る。
「はぁ。はぁ。はぁ」
さすがに、少し堪える。
「ちょっと休憩しようか」
「助かる」
立ち止まって呼吸を整える。しかし、ミユも大学に入ってから、そこまで運動していないように見えるのに、息一つ切らしていないのはどういうことか。
「ミユはなんで平気なんだ?」
「身体の動かし方にコツがあるんだよ」
そう言って、身体の上下動を抑えることや、歩幅の意識など、いくつかのコツを教えてくれた。
「実践するのは難しそうだ」
「すぐには難しいかも。1ヶ月くらいやってみれば慣れるよ」
「いつの間に……」
高校の頃、ミユがジョギングをやっていたとは初耳だ。
「昔、ちょっとダイエットをしたときにね」
「太ってたことあったか?」
「あの出来事があった後、あんまり外出歩かなかったでしょ。それで、ね」
言われてみると、あれから皆で外で遊ぶことは減った気がする。それでも体型を維持していたのは、そんな努力があったとは。
「ミユは凄いな」
あの出来事は、ミユに相当なダメージを与えたに違いないのに。
「そ、そんな褒めることじゃないよ。普通だよ、普通」
ミユは褒められたのが照れくさいようで、表情がふにゃけている。
「しっかし。だったら、俺も頑張らないとな」
肩をぐるんと回して、息を大きく吸い込む。
「よし。そろそろ、再開しようぜ」
「うん!」
そうして、俺達はジョギングを再開。とはいえ、すぐにテクニックの差を埋めきれるわけもなく、何度か休憩を挟んでもらったのだが。
そして、約40分後。
「着いたー!」
ようやく、一周のジョギングを終えて、ミユとハイタッチ。
「あー。いい運動になった」
ストレッチをしながらつぶやく。
「でも、定期的に続けないとね」
「う。まあ、頑張るか」
それに。こうやって、二人で一緒に走るのも、デートのようで悪くない。その言葉は口に出さなかったけど。




