第10話 幼馴染と東京にお出かけする件について(2)
翌日。4月30日の昼前。つくなみ駅でミユと合流した俺は、二人でTEXに乗ることにした。スカイツリーまではTEXで秋葉原まで行って、総武線に乗り換えて3駅、半蔵門線に乗り換えて1駅だ。
「こうやって二人で遠くにお出かけって久しぶりだよね」
TEXに揺られながら、昔を懐かしむように言うミユ。
「そうだな。あの事件以来だな」
あれからミユは俺以外との付き合いはめっきりなくなってしまい、その俺とも、近所で遊んだり家でごろごろしたりというのが多かった。
「うん。だから、今日はほんとに楽しみ」
俺にもたれかかりながら言うミユ。空席は空いているというのに、こいつはとなりに詰めて座って、もたれかかってくる。こいつなりに甘えてるのはわかるから、何も言わないが。
乗り継ぎを2回経て、スカイツリーのある押上駅に到着した俺たち。
「つくなみからだとちょっと遠いね」
「昼からだと遅かったかもな」
押上駅の地下からソラマチに入っていく。
「わわ。エスカレーターがおっきい……!」
押上駅地下から、ソラマチに入るエレベーターはフロアぶち抜きで、飾りつけもふんだんにされている。
その様は本当に圧巻というしかなくて、俺もミユもエレベーターの周りの景色に見とれていた。
それよりも、目を輝かせて景色を見ているミユを見ているのが楽しかったのは秘密だ。
スカイツリーのあるフロアに着いた後は、ミユと手を繋いで歩く。こういうところに出るとこいつはすぐ迷子になるのだ。
そんなこんなで歩くこと数分。スカイツリーのすぐ下に到着したのだった。
「間近で見るのは初めてだけど。キラキラしてて、凄く綺麗……!」
「そうだな……」
しばらく、二人でぼーっとスカイツリーの麓から上を眺めていたのだった。
気を取り直して、入場口でチケットを渡して中に入る。ゴールデンウィーク中だけあってかなり混んでいた。予約を取っておいて良かった。
しばらく歩いていくと、「手荷物検査」と書かれたゲートが目についた。
「まるで空港みたいだな」
「セキュリティのためじゃないかな」
簡易な手荷物検査を受けて、展望台につながるエレベーターに向かう。
「そういえばさ。春夏秋冬って四つのエレベータがあるらしくて、どれになるかはわからないらしいぞ」
「へえ。初めて知ったよ」
まあ、こいつは、直感で楽しむタイプであんまり下調べはしないしな。
俺たちが案内されたエレベーターは「春」。春をイメージしたのか、エレベーターの壁一面に桜が散りばめられていた。
「桜が綺麗だね」
「ほんとの桜はもう散っちゃったがな」
「そういうこと言わないの!」
小声で言いあっていると、エレベーターが凄い速度で上昇していく。壁面には、速度と現在の高度が書かれていて、目まぐるしく数値が変わる。
「……」
「……」
俺たちは黙ってその様子を眺めていたのだった。
展望台にエレベーターが到着すると、人でごった返していた。さすがに、ゴールデンウィークだ。手を繋いで、順路を歩いて行く。
「いい眺めだね。ありがと」
「まだ途中だぞ」
早過ぎるお礼に苦笑いしながら、順路を歩き続ける。
「あ、そうだ」
鞄から2枚のチケットを取り出して、片方をミユに渡す。
「え?これって」
「天望回廊のチケット。もっと上に登れるんだと」
スカイツリーのことを調べていたときに、展望台の上に展望回廊があるのを知って、ひそかに準備していたのだ。
「でも、追加料金は私も出すよ」
「それくらい俺が出すから」
幾分強い口調でいう。甘えん坊なところがあるけど、基本的には律儀なので、ちょっと強く言わないと、自分も出すといいかねない。
「リュウ君。そういうところ、強情だよね」
「別にいいだろ?」
「うん。ありがとう」
天望回廊へ続くエレベーターに乗ると、青白いライトに照らされる。建物の中が吹き抜けで見えるような構造になっていて、神秘的だ。
「サイバーパンクっぽいんだね」
彼女らしい表現に苦笑いだ。とはいえ、俺ももなんだか不思議な気分になる。
天望回廊は、展望台より人が少なくて、静かだ。
「あれ、筑派山じゃない?」
「言われてみりゃ。ほんと目がいいな」
俺の視力は1.0といったところだが、彼女は裸眼で2.0だ。景色を堪能しながら、螺旋状になった通路を歩いていく。天望回廊からの景色はまた別格で、とても遠くまで見える。
「ほんとにいい景色だ。ありがとうな」
「変なの。誘ったのはリュウ君じゃない」
それでも、一緒に来てくれたからこの眺めが堪能できたのだと思う。
(何より、一緒だから、楽しかったんだしな)
その言葉は口にしないでそっとしまっておくことにした。