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ありきたりなやり尽くされた始まり



 目を覚ますと、そこには見知らぬ空間が広がっていた。

 辺りを見渡しても道の先が見えず、輝はその場に呆然と立ち尽くす。


「えっと、……ここどこ?」


 そんな相手のいないただの独り言を呟くと、上空から神々しく眩い光が現れ、輝は思わず目を背ける。


「ふぉっふぉっふぉ。ここは黄泉の国じゃよ、峰野みねの てる君」


 光に段々と慣れ、声のする方向に目を向けると、細身の年老いたお爺さんが杖を使いながらのろのろとこちらに駆け寄ってくる。


「えっ? 俺、死んだの!?」


「まぁまぁ、短い人生で思うところもあるんじゃろうが、少々落ち着きなされ。ほれ、饅頭でも食うかい?」


 お爺さんから差し出された饅頭を「あぁ、どうも」と何気なく受け取り、口に頬張りながら今の状況を冷静に考える。


 高校三年生になり、大学受験という壁から目をそらしながらダラダラと悠々自適な生活をして生きていたら、いつの間にか俺は死んだのか……。

 そう考えると、いくつもの疑問が浮かび上がって来る。


「ふご、ふっご、ふんごっ」


「そんなに焦らんと、これでも飲みなさい」


 饅頭を口に含みながら慌てふためく輝に、お爺さんは湯飲みに入ったほうじ茶を手渡す。

 輝はそれを一気にぐびっと飲み干すと、


「俺、これからどうなるんですか?」


「ん? あぁ、そのことなら気にせんでもいい。お主なら天国行きじゃったよ。神のワシが言うのじゃから安心せい」


 緊張の面持ちを浮かべる輝に、神と名乗るお爺さんはは優しくにこやかな笑みを見せる。


「は、はぁ。でも天国って何をする場所なんです?」


「まぁ、何をするでもないのぅ。ただただ次、赤ん坊として生を受けるのを待つ、ただの待合室みたいなものじゃ」


 神様から天国の話を聞き、良い印象を持たなかった輝は、生きていた頃からの夢を口に出す。

 輝の夢。それは友達のいない俺が家で一人、読んで、聞いて、見て、憧れ続けていたこと。『異世界転生』だ。


「あ、あの、できたらでいいんですけど、この記憶を保持したまま、前いた世界とは違う異世界に行けたりなんかしませんかね?」


「むぅ、最近はやたらとそんなことを言う若者が増えてをるのぅ」


 腰を低くして問いかける輝を見据えて、神様は目を細めながら自身の長く白い顎髭をいじる。

 神様の顔が険しなったのを見て、輝は目に見えて怖気付くが、夢への渇望に背中を押され、勇気を出して口を開く。


「……そ、それで、異世界転生はできるんでしょうか?」


「結論から言うと、…………できる」


「うぉっしゃぁ!」


 神様の発言を聞いた瞬間、輝は拳を高らかに振り上げ、歓喜に酔いしれる。


「ふむ、だからと言ってこの選択はあまりお勧めではないのじゃ……」


「ど、どうしてですか?」


「異世界に転生した者のほとんどは、一年足らずでまたここに戻ってきてしまうのじゃからのぅ」


 神様は、これまでの転生者の顛末を思い出しているのか、より一層険しい表情をしながら腕を組む。


「!? ……で、でも俺は異世界で果たしたい夢があるんです。その為ならどんな苦難も乗り越えてみせます!」


「ほぉぅ、お主の心意気、気に入った。異世界転生を認めてやろうぞ」


 神様は輝の熱意に当てられ、口端を吊り上げながら深く頷く。


「じゃが、本当に異世界は厳しい。なので一つ、冥土の土産を選ぶがよいぞ」


「えっ!? 冥土の土産?」


「ああ、そうじゃ、なんでもよいのじゃぞ。「あ、じゃあ、メイド服でお願いします」伝説級の剣でもよし、銃でもよし、盾でもよし、いかなる物でも一つだけ持って行って…………はて、今、何か言ったかいのぅ?」


 異世界に何かを持っていけると聞いて、輝はいの一番にとある服を懇願する。


「あ、はい。俺の生涯の宝、メイド服でお願いします」


「本当にそんなもので良いのかぇ!? 最新設計の戦車や軍艦などでも良いのじゃぞ?」


「はい、大丈夫です。いや、でも猫耳とかも迷ったんですけど、異世界だし標準装備してても意味ないしなぁとか思ったんで、はい」


「それはメイド服とやらでも同じように思うのじゃが……?」


「いえいえ、全然違いますよ!メイド服を装備したらどんな敵でも目を奪われ、瞬時に虜になってしまう魅了を纏ってるんですから!」


「うぅむ、……まぁ、お主がそこまで言うのであれば授けてやろうかのぅ」


 輝の奇天烈な物乞いに困惑しながらも、神様は願いを受諾し、手に持っていた杖を振った。

 すると、足元に紋章の青白い光が浮かび上がり、体が宙に吸い寄せられるかの感覚がする。


 期待と不安が入り乱れる中、神様は「あぁ、そうじゃったそうじゃった」と、何かを思い出したかのように続ける。


「あとお主に一つだけ言い忘れておったのじゃが、転生場所はランダムじゃから、いきなり魔王城なんてこともあるかもしれんので、気を張って頑張るのじゃぞ」


「えっ? それってすげぇ重要なことじゃねぇぇぇぇえぇぇえええ!?」


 神様が呑気に手を振る最中、輝は驚愕と焦燥を入り混ぜたような表情で、光に吸い込まれて行くのであった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 輝が異世界に転生され、一人になった神様はすっかりぬるくなったお茶を一口啜り、次に現れる人間を待ってた。


「じゃが、あんな冥土の土産では相当苦労するじゃろうしのぅ……」


 思い返してみれば、メイド服なんかを持っていったところで、てんで役に立たないだろう。

 すぐまたここに帰ってきて、また仕事が増えるのを嫌った神様は、もう一口お茶を飲んで一息ついた後、立ち上がって杖を振った。


「少しくらい能力を付加するくらいが丁度いいかいのぅ」


 そう呟いて杖を下ろした神の元に、また人間が現れる。

 今度は金髪の小柄な女の子。さっきのような変な申し出ではないことを祈って、神はまた上空へと舞っていった。



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