魔道士戦争
―――エクステリア王朝暦113年
アデルカデル大陸は『マドー』と『ヘーキ』と呼ばれる大国家により二分されていた。しかし、些細な争いから国境線を巡る戦いが激化し、遂には戦力を総動員する大戦争へと発展を遂げた!
今ここに……血で血を洗う戦争という悲劇が幕を開ける―――!!
「火球魔道隊! 三段に構え!!」
黒いローブを纏い樫の杖を握り締めた大量の魔道隊は、長い隊列を成し前列が初級火球魔道を放つ。その間に中列は中級火球魔道の詠唱へと入った。後列では偉大なる魔道士達が上級火球魔道の詠唱に入っている。詠唱時間の差を利用した波状攻撃。相手に攻め入る隙を与えずに絶え間なく火球を降り注ぐ作戦だ。
「焦るな。奴等の手の内は全てお見通しだ……」
初級火球を盾で防ぎ前進を進める軽歩兵。縦に長い隊列を組み、少しでも火球の被害を押さえる作戦だ。
初級火球は前進。中級火球は待機。そして上級火球は防御。こうやって最小の犠牲の下に確実に敵陣へと歩み寄る。最大の責め場は上級火球が止んだ瞬間だ!
「今だ! 矢を放て!!」
―――ジャーン!!!!
鳴り響く銅鑼の音を合図に弓兵が天高く弓を引く。放たれた矢は雨となり、魔道隊の頭上から嵐の如く降り注いだ!
「今だ! 進め進め!!」
「治療隊!! 雷撃魔道隊準備!!」
黄色いローブに身を包み、天へと杖を掲げた魔道隊。晴天の空から激しい稲妻が敵へと落ちる! 金属に身を包んだ重装兵達や剣や槍を手にした軽歩兵達は次々と感電し地面へと倒れていく!
「くっそぉ! 次から次へと……!!」
稲妻に蹴散らされる兵士達を馬上より指揮する男、名をアンサーといった。彼は国境沿いの最前線を任された若き指導者である。
「重傷者から治療を頼む!」
一方、マドール所属の魔道隊を指揮する女性、名はクエス。魔道学校を異例の飛び級で卒業し、ずば抜けた魔道の才能で国家魔道戦略隊の指導者として最前線を任されていた。
一身攻防の戦闘は日が落ちるまで行われ、夜には昼間の戦火が嘘のように静まり返るのが日常となっていた。
「チクショウ! いつまで経っても戦争が終わらない!!」
アンサーはフラリと訪れた国境沿いの酒場で、終わらぬ戦争に苛立ちを憶えていた。かなり酒も進んでおり、頭はフラフラとしている
「……隣、良いかひら?」
そこへ現れたのはクエス。彼女のかなり酔っており呂律が回っていない。偶然にも敵国の指導者同士が隣同士で座ってしまった―――!!
「あなた……戦争はきらいにゃの?」
「好きな奴なんていないさ。アンタもだろ?」
「しょうね……はりゃく終わらにゃいと……」
「ああ……モタモタしてたら犠牲が増えるばかりだ」
「我が軍は万全の筈にゃのに何故か上手くいかにゃいのは……にゃんでにゃのかにゃぁ……?」
「火球隊を三段にしたら、あれじゃあ『詠唱に時間が掛かります』って言っている様なものだからな……」
「え!?……マジで?」
「マジマジ」
「でも敵の金属兵を狙った雷撃魔道隊は良かったよね!? ね!?」
「アレは良かったと思うぜ」
「明日はどぅしようかにゃぁ……?」
「俺だったら地面に罠を張って敵が足止めを喰らった時に一網打尽にするかな?」
「それじゃあ、明日は蜃気楼の魔道で地面に細工しちゃおう♪」
「で、敵が剣や槍で地面を確かめながら進むと足が遅くなるから、その隙に攻撃したい放題だな!」
「え~っ、やだ~! あんた天才ねぇ!」
「ハハハハハ! 何処の誰かは知らんがあまり褒めても何も出ないぞー!」
「キャハハハハハ!!」
――次の日――
「うっぷ……昨日は飲み過ぎた。ヤバい、何も覚えてないぞ」
馬上で項垂れるアンサー。昨夜は飲み過ぎて、帰ってからトイレで寝てしまい今に至る。
「うっぷ……幻惑魔道隊始め!」
こちらも昨日の記憶が定かでは無いクエス。地面からモワモワと怪しい靄が出始めるも、アンサー率いる軽装兵達は幻惑魔道の左様で罠の存在に気付くことが出来ない。
「全軍止まれー!!」
アンサーの声に歩みを止める兵達。アンサーは踵を返すと、拠点へと引き返し始めた。
「何故か知らんが罠の匂いがする。帰るぞ」
兵達は引き返し、今日の戦いは一滴の血も流れることなく幕を下ろした。
「……何故罠がバレたのかしら?」
クエスは腑に落ちず頭を悩ませるも、二日酔いの頭痛でそれどころでは無かった……。
――その夜――
「お隣いいかすら……?」
「え、ええ……」
こうして毎晩記憶を無くすまで飲み明かす指揮官二人は、お互いの知らぬ間に互いの作戦をバラしてしまい戦争はより長引くのであった…………
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