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1章 第5話 ティータイム、そして迫り来るマエザー

 結局、畑でしっかりと作物を育てるには水が足りないという結論になったが、なにも育てないのでは環境が変わらない。


 なので、栽培にあまり水が必要の無いニンニクを少しだけ育てる事に決まった。

 収穫すれば、とりあえずカレーに入れる材料は一つ増えるだろう。

 今はまだ他の作物を育てるのはやめておくことして、部屋に帰ることになった。


 スティーブン舞倉には、植えたニンニクを見守ってもらっている。

 ……別に見守る必要など無いのだが、彼自身がその場にいたそうにしていたので、生産プラントのパトロールの任務を与えておくことにしたのだ。



 「うーん……水が少なくてもトマトとかなら育てられると思ったんだけど……」


 部屋に戻って来たライトは、ベッドに横になって本を読みながらそう言った。

 相変わらずミリィちゃんが近くで見つめている事が気になって集中できなかったが、幸いナーロウ博士の小説コレクションは、頭を空っぽにしても読める作品が多いため、集中していなくても何となく読み進められるのだ。


 ライトの言葉に、後ろにいたミリィちゃんは少し困ったような笑顔を浮かべた。


 「あはは……ナーロウ博士はトマトが嫌いだったから、種を用意してないんだ。

 博士って好き嫌いが多かったから、用意されている種も偏ってるみたいなんだよね」


 その時、コツコツというハイヒールの足音が近づいて来て、そしてドアが開く。


 「まあ、仕方がありませんわ。ここの生産プラントは、万が一何かが起きた時に、博士と数人のスタッフがしばらく自給自足するために用意されたものです。

 博士とその身内だけのための施設である以上、博士の好みに合わせてあるのは当然と言えば当然でしょう」


 そう言いながら、エリザベスXが部屋に入って来た。

 合図も無しに行きなり入って来たことに、「……俺のプライバシーは?」と呟いたライトだが、常にミリィちゃんが近くに待機している事を考えれば、今さらかと思い直す。


 さすがに風呂とトイレと寝る時は一人にしてもらっているが。



 部屋に我が物顔で入ってきたエリザベスXが奥の椅子に座ると、続けてさらにシェフも「いらっしゃいませ」と言って部屋に入って来た。


 「いや、いらっしゃったのはそっちだよね? えっと……二人とも何か用?」


 ライトの質問に、いつもより少し不機嫌そうな表情でエリザベスXはこういい放つ。


 「今すぐ面白い事をしなさい」


 「無茶ぶりだっ!? それプロの芸人でも困るヤツだよ!?」


 驚くライトだが、ミリィちゃんは理解したようだ。


 「あっ、優先順位の高い仕事は終わっちゃって、やることが無くなったんだね。ここに来たってことはシェフもやること無くなった?」


 「ああ、食器洗いも夕食の準備も終わってしまった」


 シェフは、仕事が終わった事を残念がっているようだ。

 よく見るとエリザベスXの仏頂面も、ヒマをもて余した子供が不貞腐れている時のような表情に見える。……そんな指摘をしたら何を言い返されるか分からないので、ライトはあえて指摘しなかったが。


 「つまり、二人ともヒマになったから遊びに来たって事?」


 「貴方が思っているほど軽い事ではありませんが、まあ(おおむ)ねそんな所ですわね」



 軽い事ではないという言い方にライトは少し不思議そうにしたが、しばらくしてその意味に思い当たった。


 与えられた役割に違いはあっても、アンドロイドとは皆、仕事をするために生み出されたものだ。

 与えられた仕事をこなす事が存在意義なのだから、当然ヒマな時間を楽しむという考えなどあるはずもない。

 アンドロイドにとってヒマな時間というのは、人間が考える以上に苦痛なのだろう。


 エリザベスXもシェフも、意識してなのか無意識なのかは不明だが、もしかすると唯一の人間である自分が、仕事を与えてくれると期待してここに来たのかもしれない。

 そう考えたライトは、何か頼むような仕事がなかったかと考えてみたのだが、そんなにすぐには思いつかなかった。


 どうするか悩んだライトは、横目でチラリとミリィちゃんを見る。

 彼女はニコニコと機嫌良さそうにしている。

 その笑顔を見た時、ライトの頭の中で一つピンと来るものがあった。


 仕事がなくなったエリザベスXとシェフが不満そうにしていて、よく自分と会話しているミリィちゃんはいつも機嫌が良さそうにしているということは、アンドロイドにとっては人間の話し相手になるということも、充分にやりがいのある事なのだろう。

 だとすれば、会話をすることで仕事への渇望を少しでも誤魔化せるのでは? とライトは思ったのだ。



 「……ねえ、ヒマなら少し話でもしない? みんなの事を聞かせてよ。出会った時に簡単な自己紹介をしてもらっただけだから、もっと色々な事を知りたいな」


 エリザベスXは、虚を突かれたようにキョトンとした後、何かを理解したように、

 「成る程……」と呟いたあとで、責めるようなジト目をライトに向けた。


 「……そこで私が『はい』と言ったら、『んー? 色々な事を教えてくれるって言ったよなぁ? ゲヘヘのへ』とか言いながらセクハラのような質問をするわけですね? 呆れたゲスですわね」


 「ひ……酷い言いがかりだっ! というか、キミの中では、俺って『ゲヘヘのヘ』っとか言うようなイメージなの!?」


 「フフッ……冗談ですわよ。ではライト・ノベルの要望にお応えして、雑談でもいたしましょうか。それではミリィちゃん、紅茶とお菓子を用意してくれますか?

 どちらも缶詰めの保存食で構いませんわ」


 「よろこんでー♪」


 笑顔で紅茶とお菓子を取りに行くミリィちゃんを見ながら、あれ? シェフに頼むんじゃないんだ? と疑問に思ったライトだったが、缶詰めの保存食と言ったことを思い出し、そう言えばシェフは手抜きした食べ物を客に出すことができないという制限があるんだったか、と納得した。


 駆け足でパタパタと部屋を出るミリィちゃんを見送ったエリザベスXは、その後くるりとライトの方向に顔を向ける。


 「……さて、本人のいない間に訊いておきましょうか。

 質問です、ライト・ノベル。ミリィちゃんは役に立っていますか?」


 「えっ? 急になに? 役に立っているかどうかって言われても、少し難しいけど……」


 「それはあまり役に立っていない、ということですか?」


 「いや、そういう意味じゃなくて……うーん、なんて言えばいいかな? ほら、俺はミリィちゃんの事を友達みたいに感じてるんだよ。で、友達に対して『役に立つかどうか』っていう視点で見たりしないからどう答えればいいか難しいって事で……。でも、どうして急にそんな事を?」


 「貴方の世話をミリィちゃんに任せたのは私の判断ですからね。ちゃんと彼女が役に立てているかを知っておく必要があるかと思っただけの事ですわ。

 博士や研究所のスタッフが居ない現状では、私がここの責任者ですから、客人をしっかりとおもてなし出来ているかは知っておくべきでしょう?」


 ライトは最初、エリザベスXの口から『客人をおもてなし』という言葉が出たとき、嘘くさいと感じたのだが、彼女の表情が真面目な事に気づき、今の彼女は本心で話しているのだと思った。


 困った言動の多い彼女だが、文句を言いながらも仕事は真面目にやっているのだ。責任者としての自覚もしっかりとあるのだろう。

 

 「そう言えば、責任者ということはエリザベスXがここのアンドロイドたちのリーダーなの? 考えたら、俺が来たときに起きていたのはキミ一人だけだったし」


 「いいえ、私たちに特定のリーダーはいませんわよ。私は北斗七星(グローセ・ベーア)のメンバーの中で一番消費エネルギーが少ないのでずっと起きていただけですわ。

 ……まあ消費が少ないとはいえ、流石に50年以上フル稼働は厳しいので、省エネモード……クッコローネRのオートモードみたいなものですが、その状態にしてありましたが」


 省エネモードという話を聞いて、ライトは一つピンとくる事があった。

 

 まだ出会ってから数日しか経っていないが、それでもエリザベスXが自分の仕事はしっかりとこなす性格なのは分かった。

 それを考えると、この研究所の稼働状態や物資の残量等は小まめに確認していてもおかしくないのだが、食料プラントを見た時のエリザベスXの反応などを見ると、なぜか彼女も施設の状態を初めて知ったようなリアクションをしていた。

 つまり……


 「ねえ、もしかしてエリザベスXが本来のモードになったのって、すごく最近?」

 

 「あら、よく分かりましたわね? 確かに私が通常モードになったのは、貴方が流れ着く数時間前ですわ。恐らく貴方の生体反応を感知したのが切っ掛けだったのでしょうが、あの時に突然私の人工知能が非常事態という判断を下したためにモードが切り替わったのです。

 そして、何が起きたのかと調査している時に貴方を見つけたのですわ」


 「そっか、そのお陰で助かったんだね。……もう一度お礼をいうよ、ありがとう。

 ところで、もしかして生産プラントの管理状態が良くないのって、キミが省エネモードだったのも関係してる?」


 「おや? なかなか勘が良いですわね? 省エネモードでは最低限の仕事を機械的に……アンドロイドが『機械的に』というのも妙な話ですが、とにかく優先度の高い仕事だけをやります。

 私の人工知能は、人間が居ない状況なら生産プラントの優先度は低いと判断したようですね、ほとんど整備していなかったようです」


 「あ、やっぱりそうだったか。キミならもう少しきちんと管理していそうな気がしたから、少し不自然に感じてたんだよね」


 「あら、貴方は私がきちんと仕事をすると評価しているのですか? フフッ、悪い気は致しませんわね」


 そう言って微笑んだエリザベスXの珍しく毒の無い笑顔に見とれそうになったライトは、照れくさくなってついドアの方へと目を逸らした。

 すると、その時にちょうどドアが開き、ティーカップとクッキーを乗せたカートを押しながら、ミリィちゃんが部屋に入って来る。


 「ただいま♪ お茶とお菓子を用意してきたよ。でも長期保存用のやつだから味はあんまり期待しないでね」

 

 そう言いながら全員分の紅茶を注ぐミリィちゃんを見て、ライトは何気なく言った。


 「そう言えば、みんなは人間と同じ物を食べたり飲んだりは出来るんだね。

 たしかエリザベスXも初めて会ったときに紅茶かなんかを飲んでたし」


 ライトは思い出す。自分が目覚めたとき、エリザベスXはソファーに腰かけてティーカップを口元に運んでいたはずだ。


 「ああ、あれですか。確かに私は飲食は出来ますが、自分でお茶を用意するのは悪役令嬢らしくありませんから、実はあの時のティーカップは空でしたわ。

 あれは演出のための小道具です。貴方との初対面のシーンでは令嬢キャラを全面に出そうかと思いまして、一人でエア・ティータイムを楽しみながら、貴方の目覚めを待っていたのですわ」


 「一人でエア・ティータイム!? なにその悲しいワード!?」


 「……貴方が目覚めるまで2時間27分38秒間。フフフッ……長かったですわ」


 「うわぁ……ゴメン。 なんかゴメン。 多分俺は全然悪くないと思うけど、なんだか凄く申し訳ない気がするから謝っておくよ」


 エア・ティータイムとやら2時間以上続けるエリザベスXの姿を想像して、なんとも言えない気分になったライトは、その件を深く追及するのはやめて、別の話題をふることにした。


 「えっと、みんな俺の事は名前くらいしか知らないよね? 俺もみんなの事をあんまり知らないし、お互いの事を詳しく知るために、改めて自己紹介をしたいと思っているんだ。

 ……とりあえず俺から言うよ?」


 そう言うとライトは、一度コホンと咳払いをしてから自己紹介を始める。


 「俺はライト・ノベル。十七歳の高校生で、中規模居住コロニー『オレッツ・A』に住んでいた。

 夏休みにやった積み荷搬入のアルバイトでゴタゴタがあって、その結果ここに流れ着くことになったんだ。

 好きな食べ物は具を挟んだパンかな、サンドイッチとかハンバーガーとかね。

 趣味や特技はコレといって無いんだけど、友達の趣味に色々と付き合った事があるから、まんべんなくスポーツ系も文科系も経験あるよ。

 ……全部中途半端な腕前だけどね」


 「……成る程。趣味や特技がなくて、色々と出来るけれど全て中途半端というあたりが、実に貴方のイメージ通りですわね。器用貧乏で毒にも薬にもならなそうですわ」


 エリザベスXはそんな微妙に引っ掛かる感想を言って、シェフとミリィちゃんは、


「具を挟んだパンがお客様の好物ですか。では材料が手に入り次第、お作り致しましょう」


 「そっかー……うん。サンドイッチくらいなら私でも作れるね♪」


 と、ライトの好物を作る事を考えているようだ。




 「次は私ですわね。私は悪役令嬢型アンドロイド・エリザベスXですわ。

 ショウ・セツカ・ナーロウ博士に生み出された最終シリーズ、『北斗七星(グローセ・ベーア)』の一人で、能力的には汎用タイプに分類されますが、細かいスペックについては機密情報ですのでお答えしかねますわ。

 趣味は……暴言・悪ふざけ・嫌がらせなどを少々(たしな)んでおります。

 食事はしなくても平気ですが嗜好品としては、紅茶とスコーンが好物ですわね」


 「あ~……やっぱり、趣味ってそういう方向なんだね……予想はしていたけど。

 実は意外と可愛らしい趣味とかが出てくる事を少しだけ期待していたんだけどね」




「では、改めて自己紹介させていただきます。私は料理人型アンドロイド・マスター・アジヤです。いつも通りシェフとお呼びくださって結構です。

 開発時期としては北斗七星(グローセ・ベーア)の二世代前のモデルですね。私のスペックの大半は料理に関わる事に振られているので、生産職タイプに分類されています。

 趣味も仕事も、料理一筋でございます。食べ物の好き嫌いはありませんが、興味という意味では珍しい食材に心()かれますね」


 「ああ、やっぱり趣味も料理一筋なんだね。じゃあ早く色んな作物を生産できるようにして、色んな種類の料理が作れるようになればいいよね。

 俺もカレー以外にもシェフの料理を食べてみたいしさ」


 


 「じゃあ私の番だね♪ 私は看板娘型アンドロイド・ミリィちゃんだよ。あっ、知っているだろうけど、『ちゃん』までが名前だよ? シェフのサポートとして作られたんだ。

 私はコミュニケーション能力に特化した、特殊タイプに分類されるね。 

 開発時期は一世代前ってことになるのかな? 一応は北斗七星(グローセ・ベーア)以外では最新モデルだよ。

 好きな食べ物は甘いもの。趣味はチェスからテレビゲームまで、人と一緒に遊ぶゲームが好きだよ。

 今度、また一緒にチェスをやろうね♪」

 

 「あー……チェス……。ミリィちゃんとチェスかー……うん、アレかぁ……。

 ……うん。機会があったら……ね?」




 「これで私たちの自己紹介は終わりましたが、今ここにいないスティーブン舞倉(マイクラ)の事も改めて紹介しておきましょうか。

 彼はアンドロイドではなくてロボットですが、感情を持った人工知能を搭載してあるので、ちゃんと趣味や物の好みなどもありますわ。

 趣味は釣りと畑仕事と穴ほりです。食べ物の好き嫌いはありませんが、アップデートされて昆布が食べられるようになったときは、よほど嬉しかったのかしばらく昆布ばかり食べていましたわね」


 「……アップデートされて昆布が食べられるようになるっていうのが、まず意味不明なんだけど?」


 「何を目指してわざわざそんなアップデートをしたのかは私にも不明ですが……博士はわりと思いつきで行動する方でしたので、おそらく特に深い考えは無かったのだと思います」


 エリザベスXの言葉にミリィちゃんとシェフも頷いているところを見ると、ナーロウ博士が適当な性格だと言うのは、少なくとも身内の間では共通認識のようである。


 「あとは……クッコローネRについては、本人が会話できるようになったら改めて聞くよ。

 彼女も、話した事もない男が自分の事を知っているっていうのは気持ち悪いと思うし、まずはちゃんと初めましてって挨拶するところから始めないとね」


 「おや? 貴方は、自分が気持ち悪いという自覚はあったのですね? 少し感心しましたわ」


 「違うよ! 俺が言ってるのは知らない異性が自分の事をあれこれ知っていたら気持ち悪いって話で、別に俺が気持ち悪いって話じゃあ……って……えっ? ていうか俺って気持ち悪いの? ど、どこが!? 冗談だよね? えっ? 本当に?」


 「オホホホホッ! さて、どうでしょうね?」



 キモいヤツ疑惑に焦るライトの様子を見て高笑いするエリザベスX。

 そんな二人を見て「楽しそうだねー♪」とニコニコ笑うミリィちゃん。

 それを無言で眺めているが、口元が笑うように上がっているシェフ。


 テーブルに並ぶ紅茶とお菓子は明らかに安っぽい味であったが、それでもこの賑やかなティータイムにはそれぞれの笑顔が並んでいて、それぞれにこの時間を楽しんでいるようであった。



 「あはは♪ 楽しいな~、この素敵な時間がずっと続けばいいのにね♪」


 「いや、ミリィちゃん……そんなフラグみたいなセリフを……」



 「……そのツッコミが私たちが聞いた、少年ライト・ノベルの最後の声となったのでした。

 翌朝、彼があんな事になるとは、この時は誰も予想していませんでした……」


 「そこっ! 不吉なナレーション入れないでよ!」



 「では私はお先に失礼いたします。……なあに、すぐにまた会えますよ。

 まだお客様には私の特製パイナップルサラダを召し上がっていただいておりませんからね」


 「シェフまで変なフラグっぽいセリフを!? えっ、なに!? みんな事件でも起こってほしいの!?」



 三方向に連続ツッコミを入れたあと、ライトは肩をすくめて呟いた。


 「まったく、みんな冗談が過ぎるよ。事件なんてそうそう起きるわけが無いじゃないか。ハハハッ……」



 ライトは、自分も充分にフラグっぽいセリフを言っている事に気づいていなかった。






 ーーーー



 その頃、一隻の宇宙船がライトたちのいる宙域に近づいて来ていた。

 そう、それはマエザー・ユサックの乗る、あの宇宙船である。



 「ヒャッハー! マエザーの旦那ぁ! このまま真っ直ぐ進むと例の場所だぜぇ! 座標を見る限り間違いねぇ!」


 ハイテンションでモヒカンが叫ぶが、レーダーを見ていたオールバックの男は半信半疑だ。


 「本当か? 熱源、生体反応、金属……どのレーダーを見ても反応が無いが……」


 オールバックの男が言う通り、レーダーの反応を見る限りは近くに怪しいものは無さそうに思える。

 だがマエザー社長は、そのレーダーを見て何かに気づいたようであった。


 「いや、これは……ふむ、なるほどな。確かに何かありそうだな」


 「……本当ですか? いえ、社長を疑うつもりはありませんがね」


 「良く見るんだ。この辺りには多くの漂流物が集まっていて、中にはかなりしっかりと形が残っている宇宙船の残骸なんかもあるだろう?

 なのに、あらゆるレーダーに全く何の反応も無いというのは逆に怪しい。何かの細工がされている可能性があるね。僕はモヒカン君を信じてみるよ」


 そう言ってマエザーがモヒカンに向かってニコリと笑顔を向けると、モヒカンはニタリと笑い返す。


 「ヒャッハー! 信じて貰えるとは嬉しいねぇ! ……でもなぁ、俺は確かにモヒカンだが、名前はモヒカン君じゃねえぜ?」


 「おっと、確かにいつまでも名前を呼ばないのは失礼だったな。

 知っていると思うが、僕はマエザー・ユサックだ。君も名前を教えてくれるかな?」


 「おう! 俺の名は、モヒート・モヒカンダルだぜぇ!」


 「……それはもう『モヒカン君』で、ほぼ正解じゃないか? ……まあいい。

 では、モヒート君。このまま案内してくれたまえ」


 「了解だぜ! レッツ・モヒカン! ヒャッハー!」



 そのまま宇宙船はモヒートの指示する方向に進み続け……そして……

 

 ナーロウ博士の研究所で、ティータイムを楽しむライトたちの平和な時間を踏みにじるかのように、機影接近を知らせるアラームが鳴り響いた。


 

次回も金曜日の予定です。

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