1章 第3話 海賊への処分とナーロウ式チェス
真っ白な部屋の中、VRゴーグル一体型のヘルメットをすっぽりと装着させられた海賊たちが、並んで椅子に座った状態で拘束されている。
その様子を見渡して満足そうに頷いたエリザベスXは、少し離れた位置にある赤いスイッチの前に立っているライトに指示を出した。
「さあ、ライト・ノベル。スイッチを入れてください。
……ああ、彼らに命の危険はありませんからそこは安心してください」
「えっと……本当に危険は無いんだよね? じゃ……じゃあ押すよ?
……はい、ポチッと」
今、行われているのはエリザベスXの言う『穏便で人道的な方法』というヤツである。
具体的に言えば記憶の改竄だ。
彼らはこの場所やここでエリザベスXたちに出会った記憶などを消去された後、宇宙船に乗せて、近くの無人パトロール機の巡回ルートのど真ん中に向けてへ発進させる事に決まった。
アンドロイドたちは、かけられた制限によって殺人を犯せない。
人間であるライトには制限は無いが、性格的に殺人など犯せない。
かと言って海賊たちをこのまま解放する訳には行かないという、この状況で取れる対処方法としては、まあ妥当なものてあろう。
……記憶の改竄が人道的かどうかは、少々判断に困るところであるが。
ライトがスイッチを入れると、海賊たちの装着しているヘルメットのゴーグルの中に、怪しいちょび髭オヤジが映し出された。
《ハーイ、コレを見てくだサーイ。目を離しちゃダ~メダ~メよー? では、スタートデース!》
ちょび髭オヤジは、着ていた真っ赤なスーツの内ポケットから穴の空いたコインに糸を通した物を取り出し、それを振り子の様にユラユラと揺らし始める。
《ヘーイ! アナタはダンダン眠くナール! 眠くなっちゃいなヨ、YOU!
そして、目が覚めタラ、コノ場所と、ココで見たモノと、昨日の晩御飯のメニューを忘れちゃいマース!》
三分ほど経った辺りで、室内にイビキや寝息が響き出した。
どうやら海賊たちは、催眠状態になって眠ったようである。
「眠りましたわね。今のうちに宇宙船に押し込んで発進させてしまいましょうか」
エリザベスXが指を鳴らすと、ゴブリンロボットたちがモヒカンたちを担いで海賊の宇宙船に運んで行った。
「さて、後はゴブリンたちに任せて医務室に行きましょうか。
ミリィちゃんが小型船の乗組員を医務室に運び込んだようですから、そちらの様子も確認しておかなくてはいけませんわね。
……もし、そちらも面倒な相手であれば、もう一度この催眠式記憶改竄装置装置……『キオク・イジルマン伯爵』を使う必要がありますし」
「キオク・イジルマン伯爵!? コレってそんな名前なの!?」
そんな会話をしながら、医務室に向かうためこの部屋を後にする二人。
……その後ろで、ゴブリンに運ばれている海賊のリーダーが、僅かに薄目を開けていた事には誰も気づいていなかった。
ーーーー
「入ってもいいかな?」
ライトが医務室のドアについたマイクに声をかけると、返事は無かったがドアが開かれた。
医務室ではミリィちゃんと、見慣れない女性型のアンドロイドと向かい合っていた。
そのアンドロイドの首の後ろと、ミリィちゃんのこめかみの間がコードで繋がっている。どうやらデータのやり取りをしているようだ。
あ、こういう場面を見ると、やっぱりミリィちゃんもアンドロイドなんだって再認識するなぁ……と、ライトが変に納得していると、見慣れないアンドロイドにエリザベスXが近づき、無遠慮にじろじろと見つめた。
「このアンドロイドは、あの小型船に乗っていたのですか?
……ふうん。これが今の時代のアンドロイドだというなら、どうやら50年以上経ってもアンドロイド技術はナーロウ博士のレベルには追いついていないようですわね」
口には出さなかったが、ライトもそれは感じた。
その女性型アンドロイドは決して雑な造形では無いのだが、この研究所で出会ったミリィちゃんやシェフ、そしてエリザベスXと見比べてしまうと、作り物っぽさが目立ってしまう。
ミリィちゃんが、こめかみから端子を引き抜いてこちらを振り向いた。
「このアンドロイドの彼女の他にも女の子が一人乗っていたんだけど、気を失っていたんだ。
で、彼女から事情を聞こうと思ったんだけど、あんまり会話が得意なタイプじゃないみたいだったから、直接データを送ってもらったんだよ」
受け取ったデータによると、彼女は護衛と家事の両立を目指して調整されたアンドロイドで、現状では一体しかいない試作機であり、主人に与えられた通称はシルキィ。
乗っていた宇宙船は、ライブゲート社が身内用に少数のみ生産したもので、ノーブルキャリッジと言う名前の船らしい。
乗ってた少女は主人らしいが、詳しい素性についてはノーコメントだと言う。
「貴族の馬車ですか。
それはまた、賊に襲われそうな名前ですわね。……まあ、実際に襲われていたのですが。
それにしても、ライブゲート社の身内用の宇宙船に乗っていて、ライブゲート社のアンドロイド……しかも、一般に販売されていない試作アンドロイドが護衛についているという時点で、あの少女はライブゲート社の関係者だと言っているようなものなのです。
そこまで暴露しておいて『素性はノーコメント』も何も無いと思うのですが……彼女は少々ポンコツなのでは?」
目の前で自分がポンコツと言われても、シルキィというアンドロイドは無反応だ。
だが、それもそのはず。普通のアンドロイドは、周りの雑談に自分から参加してゆくようには設定されてはいない。
明確に自分に話しかけている言葉にしか反応しないのが標準設定なのだ。
ライトは、アンドロイドとはそういうモノだという事を改めて思い出した。
シェフはまだしも、エリザベスXとミリィちゃんは自分からガンガン話しかけてくるので、普通はアンドロイドは積極的に話さないという事を忘れかけていたようだ。
(エリザベスXたちと出会ってから俺の中のアンドロイドの基準がおかしくなって来てるな)
ライトが、そう思って苦笑したその時、少女を寝かせてあるカプセル型ベッドの横にある機械から、ピピッ! という聞こえた。
「あっ! あの女の子の健康状態のデータが出たみたいだね。さて……悪いところが無ければいいんだけど」
ミリィちゃんは、そう言ってモニターに表示されたデータを確認する。
ライトがなんとなくそれを目で追っていると、ミリィちゃんが怒ったような顔でモニターを隠した。
「ちょっとー! お客さん! 女の子のデータを覗き見するなんてエッチだよ!?」
「わっ! ご、ごめんっ!」
エッチ扱いされ、焦って横を向こうとしたライトの肩が、エリザベスXの体にぶつかる。
その直後、周囲に先ほどとは違うアラームが鳴り響いた。
「うわっ!? もしかして、なんか変な所にぶつかったかな? ごめん、大丈夫? どこか壊れてない?」
「落ち着きなさい。別に私の体からアラームが鳴っているわけじゃあありませんわ。そもそも、私が貴方のような軟弱ボディがぶつかって来た程度で壊れるようなポンコツに見えますか?」
「あっ……うん、そうだよね。君は象の群れが一斉に踏んでも壊れないイメージだよね」
「……間違いではありませんが、淑女としてはそのイメージは心外ですわ。
……まあそれより今はアラームの事ですわね……場所は格納庫ですか。
海賊のリーダーがライト・ノベルの乗っていた脱出ポッドで逃げたようです。
どうやら催眠装置の効果が弱かったようですね」
「ああ、エリザベスXに不具合が起きたわけじゃないなら良かったよ。
ん? ……あっ、良くないか! 君たちの事が外に知られちゃうかも!?」
顔色を変えるライトだったが、エリザベスXは、ニヤリと悪そうな笑顔を浮かべた。
「フフッ……よりにもよってあの脱出ポッドを使うとは、お馬鹿さんですわね。
アレは、ライト・ノベルが乗って来てから補給をしていませんから、生命維持装置もあまり長く持ちませんわ。
大人しく記憶を失っていれば命だけは助かったというのに、無駄な抵抗をした結果、このまま宇宙空間で野垂れ死にする事になるでしょうね。
まあ、私の手を煩わせた報いとしては、当然の末路と言うところでしょうか?
オ~ッホッホッホッホッ!」
高笑いをしながら、楽しそうにそんなセリフを言うエリザベスXを見て、ライトはドン引きだ。
「うわぁ……それ、完全に悪役のセリフだよね……」
「私、悪役令嬢ですので」
何か問題が? とでも聞き返しそうな態度にライトが苦笑いを浮かべたところで、ミリィちゃんがパタパタと手を振りながら、「ねえ! ちょっと!」 っと騒ぎ出す。
「これを見てくれる? ……あっ、お客さんは見ちゃダメだよ? エリザベスXだけね。
これ、あの女の子のデータなんだけど、ココとかソコとかの数値って……」
「おや? これは……成る程。これはしっかりと調べておく必要がありますね」
内容は気にはなるけど、下手に近づいてまたエッチと言われるのは避けたい。
そんな気持ちから、どうして良いか分からなくなっていたライトにミリィちゃんが話しかけた。
「後の検査はエリザベスXがやってくれるって言うから、ご飯を食べに行かない? シェフがカレーをたくさん作ってるから、良かったら食べて♪」
「でもエリザベスXだけに仕事をさせておいて、俺だけ食事をしてるっていうのも悪いんじゃ……」
どうするか迷っていたライトに、エリザベスXが微笑んでから口を開いた。
「貴方がここにいても無駄で無意味で無価値です。後ろからねっとりとした視線で舐めまわすように見られていても、ただひたすらに気色悪くて邪魔なだけですので、私の事は気にせずに、どうぞ食事に行ってくださいな」
「……それ、前半の暴言は必要かな? 後半の『私の事は……』以降の部分だけ言ってくれれば、それで良いと思うんだけど」
ライトが口元をピクピクさせながら言った言葉に、エリザベスXは不思議そうに首をかしげた。
「後半だけ……ですか? それでは本題である『貴方の視線がねっとりと気色悪い』という部分が伝わらないではありませんか。それでは意味がありませんわ」
「そこが本題なの!?」
一瞬、「俺の視線ってそんなにねっとりしてるの!?」とミリィちゃんに訊こうとしたライトだったが、もしもミリィちゃんにまで肯定されたらショックなので、それ以上の追及はせず素直に部屋から出て食事に行くことにした。
「いらっしゃいませ」
部屋に戻ったライトに、シェフが一礼する。どうやら食堂ではなくて、ライトの部屋で食事の支度をしていたようだ。
ベッド脇の小さなテーブルには、すでにカレーライスと水が用意してあった。
「あれ? 俺が戻るタイミングが分かってたの?」
「はい。ミリィちゃんから通信機能で連絡がありましたから」
ライトの質問にシェフが答える。
する、続けてミリィちゃんも説明を始めた。
「ナーロウ博士のアンドロイドは、一般的な通信回線と仲間内で使う回線を持ってるんだけど、私とシェフは元々セットで運用するために作られたアンドロイドだから、直通の通信機能もあるんだよ♪
タイムラグは完全にゼロ。通信の妨害や傍受にも強くて、エネルギーの消耗普通の通信機能よりも少ないっていう優れものなんだ♪
ピンポイントで強力なジャミングをかけられた状況であっても、お客さんのオーダーを厨房にいるシェフに確実に伝えられるようにつけられた機能だよ♪」
「客のオーダーを伝えるためにそんな高性能な通信機能いらないよね!?
わざわざ食事のオーダーを妨害や傍受する人とかいないと思うよ!?
というか、ピンポイントで食堂に強力なジャミングをかける状況ってどんな状況!?」
「あはは♪ 確かに私もまだジャミングの中でオーダーを取った経験は無いなぁ。でも、これもナーロウ博士のこだわりなんだって」
「あー……それも博士のこだわりなんだー……」
普通なら『もっと他の所にこだわるべきだ』と言いたい所だが、ナーロウ博士の場合は、ちゃんとスペックもこだわって最高品質に仕上げてあるのだ。
少しくらいふざけた事をしていても、やるべきことをキッチリとやっている以上は強く文句は言えない。
(ああ……そういう所って、なんだか少しエリザベスXに似てるかも。流石は生みの親というべきかな?
だとしたら、助手とか研究所のスタッフとかは、振り回されて大変だったんだろうなぁ)
ライトは、顔も知らない研究所スタッフたちに同情しながらカレーを食べた。
ーーーー
「はい♪ 次はお客さんだよ」
「うーん。じゃあ俺は……ここだ」
カレーを食べ終えたライトはミリィちゃんとチェスをしていた。
最初は本を読んでいたのだが、読者している間も彼女はすぐ隣でジーっと待機していたのだ。
アンドロイドとは言え、同年代の可愛い女の子がすぐそばに座って自分を見つめているのだから、思春期の少年にとってはいろんな意味で落ち着かない。
読者に集中できなくなったライトが、無言で見つめてられるよりは一緒に遊んだ方がまだ変に意識しないだろうと思い、二人で遊べるものは無いか? と訊いたらどこからかミリィちゃんが持って来たのだ。
ミリィちゃんは、高性能の人工知能を持つアンドロイドだ。
こういうゲームは強いだろうと思っていたライトだが、意外と勝てそうな展開になっている。
(あ……ミリィちゃん、もしかして手加減して接待プレイしてるのかな?
うーん……なら、下手に指摘しても気まずくなりそうだし、手加減に気づいてないフリをして、素直に勝って喜んでみせるべきだよね)
そう考えたライトは、そのまま本気でチェスを続けた。
だが、最初は押していたライトだったが、終盤にミリィちゃんのビショップが味方のポーンとナイトを生け贄にして勇者召喚をした所から一気に逆転された。
転移魔法で好きなマスに瞬間移動する上に1ターンで3回行動するチート勇者に何もできずにライトの軍は全滅させられたのだ。
ちなみに、戦いが終わり、用済みになった勇者はクイーンの陰謀で追放され、迷いの森の奥に姿を消したらしい。
唖然としたライトが、「あれ? コレ、俺の知ってるチェスと違う……」と呟いた所で、部屋のドアが開きエリザベスXが入って来た。
「あの彼女について分かった事……それと、今後の事について話し合いたいのですが、全員揃っていますか?」
「私とお客さんはいるよ♪ でもシェフは食器を片付けるって言って食堂に戻っちゃったけど」
「そうですか。まあシェフはいなくても良いですわね。
彼はどうせ食べ物関係の話以外は、まともな意見は言わないでしょうし」
軽くシェフをディスったエリザベスXは、椅子に座ると前置きも無く衝撃的な発言をした。
「小型船に乗っていた、あの彼女ですが……サイボーグですわね」
予想はしていたのか、その言葉を聞いてもミリィちゃんは「あ、やっぱり」と言っただけだったが、ライトは驚きに目を丸くした。
「えっ? サイボーグ? アンドロイドじゃなくて、サイボーグ!?
それは……珍しいね。本当にいたんだ……」
まだ人類が地球のみを生活拠点にしていた時代の定義では、サイボーグは肉体の一部を機械で代用した生物全般を指していた。
つまり広い意味では義手や義足をつけただけでも、その義肢がコンピューター制御するタイプであればサイボーグに含まれていたのだが、現在では医療目的の範疇であれば肉体を機械化していてもサイボーグには含まれない。
医療の範疇を明らかに越えた高性能の機械化によって、超人的なスペックを手に入れた生物のみがサイボーグとして扱われるのだ。
当然、金さえあれば誰もが超人的スペックを手に入れられるというのは大問題なので、軍の特殊部隊などの限られた人間以外はサイボーグ手術は禁止されている。
そして、その限られた少数のサイボーグも完全に組織の管理下に置かれて、一般社会からは隔離されているためライトのような一般人は、サイボーグの存在は知っていても本物を見る機会などそうあるものではないのだ。
「なので、彼女は人間用の医務室ではなく、メンテナンスルームに移しておきました。
ただ彼女の場合、生身の人間の部分もありますから、完全に機械の修理と同じ方法というわけにもいきませんし、治療には少々時間がかかりそうですわね。……ああ、面倒な事ですわ」
「そっか……早く治れば良いね。
そう言えば、あの護衛のアンドロイドの方は何をしてるの?」
「彼女も細かいダメージがあったようなので、休眠状態にしてメンテナンスルームのリペアポットに寝かせておきましたわ。サイボーグの少女が目覚めると同時に再起動するように設定してあります。
……ついでに爆弾付きの首輪をはめ込んでおきましたから、もしも敵対関係になったなら、スイッチ一つで一瞬にして汚い花火に変える事ができますわ。フフフッ」
「前半は親切なのに、なんで最後で悪魔の所業を!?」
「私、悪役令嬢ですので」
実は、エリザベスXはサイボーグの少女の方にも爆弾を仕掛けるつもりだったのだが、どうやらエリザベスXの人工知能はサイボーグを人間として分類するらしく、エラーが起きて機能停止しかけたので諦めたのだ。
だがアンドロイド相手なら爆弾を仕掛けても制限はかからないようである。
「信用できないうちは保険をかけるのは当然の事ですわよ? まあ、彼女たちが敵対しないとハッキリすれば爆弾は解除すると約束いたしますから、その点はご心配なく。
とりあえず彼女の件は一時これまでにして、今度の事について話をいたしましょうか」
「う、うん。本当に後で爆弾を外してあげてよ? 約束だからね?
………それで、もう一つの話題の、『今後の事』っていうのは何の話?」
「先ほど海賊から頂いた大型バッテリーのお陰で、ある程度のエネルギー補給ができましたから仲間を再起動しようと思っているのですわ。
現状を考えると、修理や生産などが得意な機体を起動するべきかと考えています。
貴方に意見があるなら尊重するつもりだったのですが……その顔を見る限り、意見も知性も甲斐性も無さそうですから、私の予定で進める事にしましょう」
「酷いな!? 確かに意見は無いけど、知性と甲斐性は……いや、まあそれも自信をもってあるとは言えないけど、今の話の流れでそこをディスる必要ないよね!?」
ツッコミを入れるライトを見てミリィちゃんが笑った。
「あはは♪ やっぱりお客さんとエリザベスXは仲が良いねー♪
それで、誰を起動するの? 修理や生産って言ったら、やっぱりエルメスTかな?」
エリザベスXと仲が良いと言われたライトはリアクションに困ったが、ミリィちゃんがエリザベスXと話を始めたので、そのまま黙って聞いていることにした。
「いえ、エルメスTの再起動はもっと後にしましょう。
確かに彼女の生産技術は私たちの中でも随一ですが、上質な材料や機材があってこそという部分がありますから、彼女の起動は生産プラントで材料を量産できるようになってからのほうが良いですわね。
ここは基本的な生産や修理を広く浅くできる機体を選ぶべきでしょう」
「あ~……そういえばそうだね。
それにエルメスTは北斗七星だからエネルギーの消費も多めだし。
う~ん。基本的な生産と修理ができて、エネルギー消費も少なめといえば……」
「条件を考えると、ここは彼がベストですわね。
今、再起動して連れて来ますので、少し待っていてもらえますか?」
そう言ってエリザベスXは、部屋を出て行った。
待てと言われて、素直にボーッと待っていたライトにミリィちゃんが話しかけた。
「ねえねえ、お客さん。ただ待ってるのもヒマでしょ?
もう一度チェスでもしようか♪」
「あー……うん。でも、ここのチェスは俺の知ってるルールと……ちょっとだけ違うみたいなんだよね。
悪いんだけど、あの『勇者召喚』ってやつは無しにしてもらって良いかな?」
「分かったよ♪ ゲームって地方によってルールが違ったりする事があるもんねー。ほら、確かローカルルールっていうやつだよね?」
チェスで勇者召喚する事を『ローカルルール』の一言で済ましていいモノか? と言う疑問はグッと呑み込んで、ライトは「ハハハ……」と曖昧に笑ってチェスを始めた。
数分後…… チェスの結果はミリィちゃんの圧勝だった。
どうやらミリィちゃんの軍のポーンの中に一人、
『騒がれるのが面倒だから実力を隠して最弱のポーンのふりをしているけど、実はレベル999のソードマスターで、ランクSSSの冒険者だった伝説の男』
というのが混じっていたらしく、そのポーンが本気を出した瞬間、ライトの軍は壊滅させられていた。
「おかしいな?……俺は、自分がなんのゲームをしてるんだか分からないよ……」
遠い目をしたライトはポツリと呟いた。
次回も金曜日の投稿予定です。