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悪役令嬢型アンドロイド・エリザベスX ~ ティータイムは宇宙要塞で ~  作者: 鷹山 涼
5章 進撃の社長 ~ アタック・オブ・マエザー ~
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5章 第8話 前哨戦

遅れました、すみません。

 マエザーの宇宙船から出撃した戦闘ドローンたちは命令に従い、研究所の方向へと進軍していた。

 だが、その途中で敵と思われる反応をキャッチし、搭載させた小型のマシンガンをその対象へと向ける。


 対象をロックオンしたことを確認して銃弾を発射しようとした次の瞬間、そのドローンは真っ二つに切断され、状況を把握する暇すら無いまま永遠にその機能を停止させた。



 それをやったのは、ドレスと甲冑が混ざったような衣装に身を包み、剣を構えた女性……クッコローネRである。



 「遅いっ! 次!」


 彼女は宇宙空間を飛び回りながら、その手に持つ剣で戦闘ドローンの群れを次々にを斬り裂いて行く。

 

 「さあ次の相手は……むっ……!」


 次に彼女の前に現れたのは身長二メートル以上の人型の存在であった。

 人間と同じ骨格でバイクに跨がり、右手には高周波ブレードを持っている。


 サイズや形から、その存在がパワードスーツをまとった人間である事も考えたクッコローネRは、一度相手をスキャンしてみた。


 人型の存在はスキャンのために剣を止めたクッコローネRに向けて容赦なく高周波ブレードを振り下ろすが、彼女は難なく回避した。

 空振りしたことでその存在には大きな隙が出来たが、クッコローネは反撃をせずにそのままスキャンが終わるのを待つ。


 そしてその存在が再びブレードを構え直したところで、クッコローネRの頭の中にスキャンの結果が表示された。


 「……生体反応は無しか。内部まで100%機械仕掛けのようだな」


 生きた人間を斬るわけにいかないと警戒していたクッコローネRだったが、相手がロボットであると確認できたことで安心した。


 「生物ではないのならば遠慮は要らないな。 ……行くぞっ!」


 気合いと共に斜め上から降り下ろした一撃目でブレードを持つ右手を斬り飛ばし、続く薙ぎ払いで胴体を横に真っ二つにする。 


 このロボットは宇宙用バイクに乗っての高機動戦をコンセプトに造られた戦闘ロボットで、生産コストはドローン十機分以上である。

 コストが高い分当然ドローンよりも戦闘力は高いのだが、クッコローネRからすれば雑魚であることに変わり無い。


 「この程度か。……と言いたい所だが、数が多いな」


 続けて更に二体のロボットと十機ほどのドローンが現れたが、彼女はそれも撃破していく。

 戦闘内容を見ればクッコローネRが圧倒的に押しているのだが、実のところ彼女にも余裕はあまり無かった。



 クッコローネRには宇宙空間で高速移動するための推進装置は搭載されておらず、普段は宇宙空間を移動する際は泳ぐ事が多い。

 だが、それではどうしても動きが遅くなるため、先ほどの戦闘では足元にエネルギーで数センチほどの小さな足場を作り出し、それを蹴って高速移動していたのだ。


 数センチのサイズとはいえエネルギーを足場にできる強度で実体化させているのだから、当然消費は馬鹿にならない。

 そして二メートル以上のロボットを容易く切断するような攻撃を放つにも、それ相応の消費はしているのだ。



 (それほど長くは続けられないな。なんとかライト卿を回収するまでの囮の任は務めたいのだが……)


 

 クッコローネRは忌々しそうに視線を一点に向ける。その先には、このドローンたちを指揮しているモヒカン男がいた。


 モヒート・モヒカンダルだ。

 クッコローネRの一番の目的は、ライトを安全に回収するためにこの男を邪魔にならない場所に誘導することだったのだが、モヒートはクッコローネRが派手に暴れても食いつかないのだ。


 (ふむ……まだ距離が離れているから私に気づいていないのかもしれないな)


 そう思ったクッコローネRは、もっと近づいてから直接呼びかけて勝負を挑もうと考え、足元にエネルギーの塊を作り出すと、それを蹴ってモヒートの方へと跳躍し、舞台女優のようにハッキリした発声で呼びかける。


 

 「そこの大男よ! 私の名は姫騎士型アンドロイド・クッコローネR! 貴殿に一騎討ちを申し込む!」


 「ああん?」


 モヒートは彼女の顔を見たが、すぐに「チッ」と舌打ちをしてつまらなそうな顔をする。


 「悪いが俺が戦いてえのはお前じゃねえ! あの人を小馬鹿にしたような顔をしたドリル女なんだよ! アイツを連れて来いや!」


 そう言うとモヒートはクッコローネRを無視し、研究所の方に釘バットを向けて大声で怒鳴った。



 「ドリル女、出てこいやぁ! 勝負だぁ! 以前の礼をしてやるぜぇ!」




 ーーーー



 「怒鳴っていますわねぇ」

 「怒鳴っているのじゃ~」


 研究所では、エリザベスXとノジャロリーナSがモニターを通して様子を見ていた。

 釘バットをこちらに向けて怒鳴るモヒートを見たエリザベスXは、面倒くさそうに呟く。


 「わざわざ一騎討ちに応じる義理も無いのですが……こういう状況ではクッコローネRはあの男を攻撃できないでしょうね。 はあ……面倒ですが、仕方ありませんか」


 武人の誇りを重んじるクッコローネRは他人の戦いを邪魔する事を好まない。

 エリザベスXと戦いたいと言っているモヒートに対して横から攻撃を仕掛けるような真似はしないだろう。



 「……研究所の守りは問題ありませんわよね?」


 「事前にトラップは準備しておるし、スティーブン舞倉とシェフ、それにゴブリンロボットたちもいるからしばらくは平気なのじゃ。

 ……行くのじゃ?」


 「ええ。私が出撃している間、ここの事はお任せしますわ」


 「了解なのじゃ!」



 ーーーー



 「出てこねえならしかたねえ、建物にモヒカンミサイルをブッ放してやるまでだぜぇ!」


 モヒートの装置しているパワードスーツの、肩の装甲の一部がスライドし、そこから発射口がニョキッと飛び出した。

 

 横やりを入れるつもりの無いクッコローネRも、流石に研究所にミサイルを打ち込まれるのをむざむざと見ている訳にもいかず、剣を持つ手に力を込めた。

 とはいえモヒートを攻撃するためではなく、発射されたミサイルを蹴り払うためだ。


 だが、モヒートはニヤリと笑うと、発射すること無く肩のミサイルをしまい直した。

 研究所からエリザベスXが出てくる姿を見つけたのだ。


 エリザベスXは研究所の屋根についているカタパルトから飛んだあと、更に自力で加速してモヒートのそばまですぐにやって来た。


 彼女は推進装置を搭載していないクッコローネRと違い、ハイヒールの踵から火を吹いてジェットのように飛ぶ事ができるため、宇宙空間でも高速移動が可能なのだ。



 「お望み通りに来て差し上げましたわよ。……クッコローネR、予定変更です。貴女は研究所の守りに戻ってください」


 「うむ、承知した。では私は一度戻るとしよう」


 クッコローネRは頷くとすぐに研究所の方へと引き返す。

 武人として一騎討ちを最後まで見届けたいという気持ちも無くはないのだが、エリザベスXが抜けた分、手薄になった守りを固めるほうを優先したのだ。


 モヒートからすれば背中を向けたクッコローネRに不意討ちするという選択肢もあったかもしれないが、彼は立ち去るクッコローネRの事は気にもせず、エリザベスXの方だけに意識を向けていた。



 「会いたかったぜぇ、ドリル女ぁ! 前回はちょいと腹の調子が悪かったから負けたが、今回は前のようにはいかねぇ! 勝負を着けようぜ! ヒャッハー!」


 「勝負ならこの前に着いたと思いますが……まあ良いでしょう。その挑戦、お受けいたしますわ。では早速……と言いたいところですが……」


 エリザベスXはそこで言葉を止めて、少し離れた場所を漂う瓦礫をチラリと見たあと、視線をモヒートに戻して言葉を続けた。


 「せっかくの決闘なのですから、広くて戦いやすい場所でやるとしましょう。さあ、こちらへどうぞ」


 そう言って移動を始める。

 広くて戦いやすい場所などと言っても、ここはすでに広大な宇宙空間だ。わざわざ場所を変える必要は無さそうなのだが、単純なモヒートはそんなことには気づかずに素直にエリザベスXを追って移動した。


 彼が率いていたドローンやロボットたちはモヒートについては行かず、マエザーからの指示を優先して研究所へと進軍して行ったようだった。





 ……そして誰も居なくなり静かになったその場所で、先ほどエリザベスXがチラリと見ていたあの瓦礫の裏側で、ユラリと空間が揺らぎ、そこに2つの人影が現れた。



 「行ったようだな。……もういいぞ、ライト」


 「ふう……怖かった。でもカルマの迷彩機能って俺に対しても使えるんだね、助かったよ」


 

 その人影は、ライトと禍流真Wだった。

 船を抜け出した彼らは、逃げている最中にモヒートたちが接近している事に気づき、瓦礫の裏側で光学迷彩を使って隠れていたのだ。



 「当然だ。……とは言っても他人に使う場合は動くと効果がすぐに切れてしまうから、今みたいに息を潜めて隠れるくらいしかできないがな」


 「あ、姿を隠したまま逃げるって訳には行かないのか。それじゃあまたマエザーの一味と遭遇しないように気をつけて移動しないとね。

 瓦礫の陰に隠れながら慎重に移動とかしたほうがいいかな……」


 「いや、もう逃亡手段の心配はいらないさ。あれを見ろ」


 禍流真Wがそう言って示した方からは一隻の小型船が近づいて来ていた。

 人間であるライトの視力では鮮明には見えていなかったがパワードスーツのカメラをズームにすることで、その船が見慣れた研究所の船であることも、その中からミリィちゃんと五所川原Jが手を振っていることも確認できた。


 それを見て笑顔を浮かべたライトだったが、その笑顔はすぐに凍りつく事になった。


 「……後ろっ!!」


 ここから叫んだところでその声は届くはずもないのだが、それでもライトは反射的に叫び声をあげてしまった。

 ミリィちゃんが操縦する小型船を、マエザーの船が追いかけていたからである。


 本来のスピードなら研究所の小型船の方がずっと速いはずなのだが、ライトを回収するために一度停止する必要があるため、あまりスピードを出していないのだ。


 マエザーの船は前面に付いた機銃を小型船に向けた。

 動きを止めるつもりなのか、それとも撃墜するつもりなのかは分からないが、攻撃するつもりなのはたしかだろう。


 「逃げてっ!」


 必死で声をあげるライト。

 だが、パワードスーツを着ているとはいえ人間であるライトが気づいたことをナーロウ博士の自慢のアンドロイドが気づいていないはずもなかった。

 五所川原Jはすぐに対応策を取った。

 ……だが、その対応策はあまりにも意外な手段であった。


 なんと五所川原市Jは航行中の船から飛び降り、マエザーの船の前に立ちはだかったのだ。


 そして数秒後、五所川原Jは前進するマエザーの船に撥ね飛ばされて、勢い良く近くの小惑星に頭から突き刺さった。



 「ええぇ!? 何やってるの、五所川原J!?」


 意味が分からなかった。

 戦った結果として負けたのならば仕方ないが、今の行動は戦闘ですらない。

 あれではわざと大ダメージをくらいに行ったようなものだ。


 「……ん? わざと大ダメージを? あっ、もしかして……」


 ライトはある可能性に思い当たった。そしてその次の瞬間、ライトのその予想が正解だと示すように、強い光が放たれた。

 場所は、五所川原Jが頭から突き刺さったあの小惑星からだ。



 バコンと小惑星が内側から砕かれると、そこには左手を腰に当て、右手は目のそばで横ピースするポーズで立っている黒髪の少女の姿があった。



 「みんな、お待たせー! TS転生聖女モード起動! きゅるん☆」


 『転生システム』を搭載している五所川原Jは、機能停止するほどのダメージを負うことで、真の姿となって再起動するのだ。


 少女の姿に変わった五所川原Jは、ミリィちゃんの操縦する小型船の上に飛び乗ると、マエザーの船の方向に手をかざす。


 その手のひらからバリアが展開されるのと、マエザーの船の機銃が弾丸をばら蒔くのはほぼ同時であった。


 雨のように連続で発射された弾丸だったが、それらは全て五所川原Jのバリアに受け止められて船体までは届かない。

 このまま弾丸が空になるまで撃ち続けたとしても、恐らくこの機銃ではバリアを破ることはできないだろう。


 マエザーの船にはマエザーメガ粒子砲という強力な主砲が搭載されており、それを使えばバリアを破ることも可能だったかもしれないが、強力だからこそこんなに接近している相手に撃っては自分が危険過ぎて使えたものではない。


 それ以上攻撃らしい攻撃もできず、マエザーの船はただ付かず離れずの距離をキープしたまま追跡してくるだけとなっていた。

 そしてミリィちゃんの操縦する船の方もついてくるマエザーの船を攻撃することはなかったため、敵同士が整列して移動を続けるという奇妙な光景になっていた。





 「ライトきゅん! 無事に再会できて良かったよー!」


 船の上に乗った五所川原市Jが嬉しそうな声でそう言った。

 もちろん何かあればすぐにバリアを張れるように、その目はマエザーの船を警戒したままだ。


 「うん、会えて良かった。……俺が捕まったせいで迷惑かけてゴメン」


 助かった喜びより先に、自分が捕まったことで皆を戦いに巻き込んでしまったという申し訳なさを強く感じていたライトは、そんな事を言ったが、そこで船からミリィちゃんの明るい声が聞こえてきた。


 「いいよいいよ、気にしないで♪ それよりほら、早く乗って。

 禍流真Wもご苦労様ー♪ 二人とも大変だったでしょ? 中で休んでね」


 

 ミリィちゃんも五所川原Jも、迷惑をかけられたなんて思っていないようで、心からライトの無事を喜んでくれているようだ。

 ライトは一言「……ありがとう」と言って、船に乗り込んだ。



 「任務完了か。……やれやれ」


 ライトが船に乗り込んだことを確認したあと、禍流真Wが面倒くさそうに呟きながら船へ乗り込み、ドアが閉められる。

 そして船は研究所へと向かって再び進み始めた。



 ーーーー




 「ヒャッハー! 食らいやがれぇ!」


 「お断りいたしますわ」


 ヒート釘バットを振り回すモヒートと、それをヒラリと回避するエリザベスX。

 先ほどから何度も繰り返された光景だ。


 「てめぇ! 避けてばかりじゃねえか! やる気あるのかよ!?」


 「やる気ですか? ……ありませんわね。オホホホホッ、悔しいのなら少しは私を本気にするだけの芸を見せていただけますか?」



 モヒートを小馬鹿にしたような態度でのらりくらりと避け続けるエリザベスXの頭の中に仲間からのメッセージが届いた。

 すると彼女は安心したように、そのいつもの冷たい表情をフッと弛めた。



 「……ライト・ノベルを保護しましたか。 ……良かった……」


 「何をぶつぶつ言ってやがる! 真面目に戦いやがれぇ!」


 モヒートが怒鳴りながら少し屈むようなポーズをすると肩の装甲がスライドして開き、そこからミサイルが発射された。

 先ほど一度使いかけたモヒカンミサイルというやつだろう。

 何の意味があるものかは不明だが、確かにミサイルの側面にはモヒカンのような飾りがついていた。

 

 『ヒャッハー!』という風切り音をあげながら飛んで来るそのミサイルは、それなりのスピードではあったが、エリザベスXにとって回避できないほどの物ではなかった。


 「まあまあの攻撃ですが、この程度では…… っ!?」


 ハイヒールのジェットを駆使して避けったが、そのミサイルはたまたまそばにあった瓦礫に当たり、爆発したことで爆風の一部がエリザベスXに当たってしまった。



 (不運……いえ、私の不注意ですわね、反省しなくては。 さて、ダメージは……軽微ですか)


 エリザベスXに当たったのは爆風のごく一部だったようで、ダメージは皮膚に火傷を負っただけであった。

 中の機械部分が無事であれば、アンドロイドにとっては皮膚が焼けたくらいはダメージの内にも入らない。


 (ふむ……ですが、ライト・ノベルを保護するまでの囮という目的を果たした以上は、今ここでこれ以上の戦闘を続ける意味もありませんし、ここは……一つお芝居といきましょうか)


 

 エリザベスXはモヒートの前で、余裕を失い、焦ったような表情を作って見せる。


 「くっ……なるほど。大した攻撃でしたが……私を倒すには僅かに威力が足りなかったようですわね。……もしも同じミサイルが後1~2発あれば私も危なかったところです……」


 その言葉は当然演技なのだが、そうとは知らないモヒートはニヤリと笑って勝ち誇ったように言った。


 「ヒャッハー! 誰がモヒカンミサイルが一発だけだと言った? モヒカンミサイルは左右の肩に2発ずつある!

 つまり、まだ後3発残っているんだぜぇ!」



 エリザベスXは『なるほど、後3発ですか。覚えておきましょう』などと考えながら、驚愕したような演技をして見せる。


 「ま……まだあの攻撃が撃てると!? これは計算外ですわ! ……くっ! 撤退いたします!」


 そしてクルリと身を翻し、ハイヒールのジェットで研究所へ向かって逃げ出した。

 ……モヒートが追い付けるか追い付けないかのギリギリ……という微妙なスピードに加減し、たまにフラフラと力無く揺れたりもしてみる。


 「ヒャッハー! 逃がさないぜぇ? 待ちやがれぇ!」


 自分が有利だと思い込んだモヒートは疑いもせずにエリザベスXを追いかけ、研究所へと向かって行った。



 ーーーー


 「ふぅぅ……」


 風船が萎むような音をたて、ライトは溜め息をついた。

 まだまだ戦いが終わった訳ではないが、それでも仲間たちと合流したことで安心したのだろう。

 

 そして尻餅をつくようにドスンと椅子に座り込むと、外の様子を映すモニターにチラリと視線をやって困ったような表情をする。


 「ついて来てるなぁ……このままでいいの?」


 マエザーの船のことだ。

 もうそろそろ研究所に到着するというのに、今もまだついて来ているのだ。


 「……問題無いさ。全て計画通りだ」


 心配そうにするライトに、禍流真Wがボソリと言った。

 ……壁に寄りかかるように立ち、腕を組んで少し俯いて目を閉じたままそう呟く彼は、実に香ばしかった。

 

 「計画通り?」


 「ああ。このまま研究所まで連れて行き、そこでケリをつけるのさ。エリザベスXも今頃あのモヒカン男を研究所に誘導している頃だろう」


 ライトは、なるほど……っと納得しかけたあと、何か疑問を感じたように首を傾げた。


 「でも、拠点の中まで敵を誘導するのって危険だよね? なんでわざわざ……」


 すると禍流真Wは呆れたようなフンッと鼻を鳴らしてから説明を始めた。


 「分からないか? 奴らを無力化するにはパワードスーツの機能を停止させるのが一番手っ取り早い。パワードスーツは奴らにとっては武器であり、防具でもあるからな。 だが、あれは宇宙服の機能も兼ねているから、宇宙空間で機能停止させると中の人間は確実に死ぬだろう?」


 「あっ……そうか、アンドロイドは人間を殺せないから……」


 「理解したか? だから生命維持装置が機能している研究所の中で戦うのさ。

 あそこならパワードスーツを破壊しても中の人間が死ぬことは無い」


 「うん、理解できたよ。 でも……あれ? という事は、研究所に入ってもまだ安全じゃないって事?」


 「ああ。今までは前哨戦だ、むしろ戻ってからが本番って事さ。……覚悟を決めておくんだな」



 ライトはその言葉を聞いた時、とても不安だ、と思いかけたのだが、ふと自分が意外と落ち着いていることに気づいた。

 そして少し考えて、その理由に思い当たる。



 (……そっか。これがみんなの作戦通りの展開だっていうなら……負けるわけないよね)



 仲間たちの想定している通りに動いているなら、失敗などしない。

 ライトはそう思うほどに仲間たちを信じていたのだ。

 だからライトは落ち着いていられた。



 だが……この時のライトは、後にその信頼する仲間たちですらも想定していなかった事態が起こる事を知らなかった。

次回も金曜日の投稿予定です。

……ですが、最近遅れがちなので少し不安かも。もしもまた遅れたらすみません。

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