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悪役令嬢型アンドロイド・エリザベスX ~ ティータイムは宇宙要塞で ~  作者: 鷹山 涼
5章 進撃の社長 ~ アタック・オブ・マエザー ~
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5章 第6話 開戦の時

ギリギリで間に合いました。

 「むむむ……まだなのじゃ? まだなのじゃ?」


 ノジャロリーナSはコンピューターの前に座り、モニターとにらめっこしていた。


 まばたきすらもせずにジッと画面を眺めていた彼女は、メッセージの受信を知らせるランプが表示がされたのを見て、狐耳をピョコンと跳ねさせると、すぐにメッセージを開いて内容を確認する。


 「……! 合図が来たのじゃ! 禍流真Wが潜入に成功して、ライト兄上と接触したのじゃ!」


 「まず、計画の第一段階は完了ですわね。転移した禍流真Wは目覚めたばかりでまだ本調子ではありませんでしたから、不安要素はあったのですが……成功して何よりです」


 跳び跳ねるノジャロリーナSの後ろで、エリザベスXが頷きながらそう言った。

 すると、その言葉の中にあった『本調子ではない』『不安要素はあった』という部分を聞いて、クッコローネRが顔色を変えた。


 「リスクのある策を取ったたのか? 確かに緊急時ではあるが……」


 「ああ、ご心配なく。不安要素と言っても、考えられる可能性はせいぜい転移の目標地点がずれる程度でしたから。

 流石に一発で禍流真Wが大破するようなリスクがあれば、転移はさせませんわよ」


 エリザベスXはクスリと笑ってそう言った。 

 それを聞いてクッコローネRは安心したようだが、エルメスTが不思議そうに首を傾げる。


 「あら~? 今、私が計算し直してみたけど~、今の禍流真Wのコンディションだと~、転移事故で即時大破の可能性が32%もあるわよ~?」



 「……今、なんとおっしゃいましたか? まさか、私がそんな重大な計算ミスをするはずが……あら? 本当ですわね?」


 エリザベスXはもう一度計算しなおしてみたが、確かにエルメスTの言う通り計算を間違っていたようでだ。

 よりによって安全確認の部分で計算ミスをするという洒落にならない失敗をした事に、流石のエリザベスXもばつが悪いようで、懐から取り出した扇で口元を隠しながら目を逸らした。


 「私とした事が少々お茶目なうっかりをしてしまったようですわね。オホホホホ……」



 禍流真Wは作戦立案から準備までをエリザベスXに任せていたため気づいていなかったが、どうやら彼は『お茶目なうっかり』で大破する危険性があったらしい。



 「ま、まあ、現に成功しているのですから、失敗した時の話をしても仕方ありませんわ。 そんな話をするよりも、今はライト・ノベル救出計画を進める時だと思いませんか?」


 「う、ううむ……誤魔化して話題を変えようとしているのは見え見えだが、言っている事は正論だ。確かに今はライト卿を救い出す事が先決だな」


 「のじゃ。敵の船は、まだレーダーの範囲外なのじゃ。近くに来るまではもうしばらくかかるはずじゃから、準備する時間はもうちょっとあるのじゃ」


 

 言いたい事が無いわけでなはいが、ミスを糾弾したところで何も得るものも無い。

 ノジャロリーナSとクッコローネRは話題を作戦の準備の方へと戻した。



 「そうね~。なら~、やれることは~、ギリギリまでやりましょ~。

 私も頑張れば~、時間までに防衛ロボットの一体くらいは作れると思うし~」

 

 エルメスTがそう言うと、隣にいるスティーブン舞倉もカクカクと頷いた。

 この二人ならば、残りの限られた時間にでもそれなりの物を作ることはできるだろう。


 だが、エリザベスXは待ったをかけた。



 「いえ、無理をしてまで防衛ロボットの一体や二体を増やすより、私達が万全のコンディションで挑む事の方が重要です。

 なので、一度全員でメンテナンスをしておきましょう」


 「うんうん、確かにイベントバトル前にパーティー全員を全回復させておくのはRPGでも基本だよね」


 エリザベスXの提案に五所川原Jが賛成の意を示す。

 ゲームと一緒にして良いのかはさておき、検査も兼ねてメンテナンスしておく事は正しいだろう。他のメンバーからも反対意見は出て来ない。


 ただクッコローネRは賛成しつつも、気にかかることがあった。


 「休める時に休んでおくのも戦士の仕事の内だな。……だが、全員が一斉にメンテナンスに入ってしまえば、もしも何かがあった場合、素早く対処できない可能性は無いだろうか?」


 

 メンテナンス中であっても、何か緊急事態が起こればメンテナンス作業は中断されて目を覚ますようには設定されているが、やはりそうなってから対処に動いてもある程度の時間のロスは避けられないだろう。


 

 「あっ。だったら、私とシェフが起きてるよ♪ ほら、残念だけど私たちは戦いで出来ることは少ないし、せめてこういう事くらいやらせて欲しいな♪」


 ミリィちゃんが、授業中の学生のように手を挙げて発言する。

 発言こそしなかったがシェフも気持ちは同じなのだろう。ミリィちゃんの言葉を聞いてから静かに頷いた。


 二人は戦闘用のアンドロイドではない。

 それでも基礎スペックのおかげで一般の戦闘アンドロイドよりは強いが、他のメンバーと肩を並べて最前線に立つには心もとない。

 ならばせめて見張りや雑用のような細かい仕事でも良いから、皆の力になりたいと考えたのだ。


 エリザベスXもその気持ちは理解できたため、余計な遠慮などすることなくミリィちゃんの言葉に甘えることにした。


 「では、そうさせていただきましょうか。何かあればメンテナンス中であっても遠慮なく報告してくださいね」


 そう言ってエリザベスXはメンテナンスルームへと向かう。

 他のメンバーも少し遅れてからぞろぞろと部屋を出て行った。 




 人数が減り、一気に静かになった部屋で、ミリィちゃんは胸元でグッと拳を握って気合いを入れた。


 「さて! みんなが休んでる間、レーダーのチェックくらいはしないとね♪

 シェフはカメラの映像の方をお願い♪」


 「ああ、任せてもらおう」



 二人は座席に座り、モニターを睨むようにジッと見つめた。





 その頃、マエザーの船では……




 


 与えられた部屋の中で、ライトはただ一人、テーブルの前に座っていた。


 ……もしかしたら禍流真Wが光学迷彩状態で近くに潜んでいるかもしれないが、見つけたら見つけたでまた変な空気になりそうなので探していない。

 彼はスタイリッシュに何処かへ立ち去った。そういう事にした方がライトも禍流真Wも気まずい思いをしないで済むので、そういう事に決めたのだ。


 なので、向かいのソファーの一ヶ所が誰かが座っているかのようにへこんでいる事にはライトは気づいていないフリをしていた。



 (くっ……知らないフリ知らないフリ。視線がソファーの方に向かないように気をつけないと……)


 なんとかポーカーフェイスを維持しながら視線を逸らすライト。

 だが、禍流真Wの方はまだ自分がライトに気づかれていないと思っていた。


 (やれやれ……人間とは鈍いものだな。オレがこんな近くにいるというのに、全く気がつかないとはな……。

 まあ、力を持つ者の存在に気づかないというのも、凡人にとってはある意味幸せな事と言えるか)


 

 なにやらウザい事を考えながら、彼はテーブルの上にあった煎餅を食べ始めた。

 迷彩のおかげで姿は見えていないが、バリバリと煎餅をかじる音ははっきり聞こえている。



 (きっ……気になる……! でも、きっと俺の護衛のために近くにいてくれているんだろうから、文句を言っちゃいけないよな)


 ライトは彼が自分を守るためにそばに待機していると考えているのだが、実は違ったりする。


 禍流真Wは、後で姿を現した時に『やれやれ……気づかなかったのか? オレはずっとここに居たと言うのに……』とか言ってカッコつけるためにそばにいるのである。


 当然、ライトが自分に気づいているのに空気を読んで知らないフリをしてくれているなんて事は、想像もしていない。




 コンコン


 その時ドアがノックされ、一呼吸置いてマエザーが入って来た。


 彼はライトにとっては敵であるはずなのだが、一人で見えないフリを続ける事に苦痛を感じ始めていたライトは、内心マエザーを歓迎したい気分であった。


 「お邪魔するよ。 ……ん? 少しホッとしたような顔をしたかい?」


 「い、いや、気のせいだよ。それで何か用?」


 ライトの誤魔化し方は適当だったがマエザーは特に気にしなかったようで、そのまま話を続けた。


 「ああ、これから食事を用意しようと思うんだが、カップ麺、トーストセット、カレーライスのどれが良いかな?」


 「……それじゃあカレーライスで」


 ライトがカレーライスを選ぶと、マエザーは意外そうな顔をした。


 「カップ麺じゃなくて良いのかい? 遠慮はいらないよ?」


 不思議そうな様子でそういうマエザーだが、ライトからすれば、むしろその反応が不思議だ。



 「えっ? いや、別に遠慮とかじゃなくてカレーで」


 「……カップのカレーラーメンかい?」


 「いやいや! なんでそんなにカップ麺を選ばせたがるの!? 普通にカレーライスをお願い!」


 「ふむ……僕のお気に入りのカップ麺をオススメしたかったんだけどね。まあいい、カレーライスを用意させよう、少し待っていたまえ」


 マエザーは少し残念そうな顔をしたが、それ以上カップ麺を強要することはなく、大人しく部屋から出て行き、数分後には食事の載ったカートを押しながら再び部屋へと入って来た。



 「やあ、待たせたね」


 マエザーはにこやかに笑いながらカレーライスをライトの前に置き、そして自分もソファーに座ると、カートからカップ麺を出して食べ始めた。


 「ええっ!?」


 

 ライトは驚いた。

 マエザーが同じ部屋で食事を始めた……というのもあるが、一番驚いたのはマエザーが座ったのは、迷彩状態で姿を消した禍流真Wが座っていると思われる席だという事だ。

 おそらく今マエザーは、禍流真Wのヒザの上に座っているはずだ。 


 (いや、気づこうよ! 何で平然とカップ麺を食べてるの!?)



 ライトはツッコミたい衝動に襲われるが、プルプルしながら堪える。

 ……とてもじゃないがカレーライスなど食べていられない。


 「ん? どうしたんだい? ライト君。 食べないのかい?」


 「あ、いや……うん、いただきます」


 幸運にも、マエザーはなぜかこの状態でも禍流真Wの存在に気づいていない。

 なのに自分が変な動きを見せて怪しまれる訳にはいかない。

 それに、後で船から逃げ出すときの体力を蓄える意味でも、食べられる時には食べておくべきだ。

 そう思ってライトはカレーライスを食べ進める。



 「う~ん……しかし、このソファーは座り心地が良いな。オーダーメイドで作った甲斐があったよ」


 「ぶほっ!」


 マエザーの呟きに、ライトがカレーライスを吹き出した。


 「おっと、急いで食べてるのは良くないな、少し落ち着いて食べたまえ」


 (ううっ……ツッコミたい! 何でそんなに落ち着いているのさ!?)



 ライトはその後、なんとかカレーライスを完食したが、味は覚えていなかった。




 食事を終えてしばらくすると、再びドアがノックされ、今度はオールバックの男とモヒカンの男が部屋に入って来る。


 「社長、まもなくフリマ・メルカリィに到着します」


 オールバックの男がそう言うと、マエザーがライトの顔を覗き込むようにしながら確認した。


 「ライト君。研究所は、フリマ・メルカリィの近くの暗礁宙域に隠れているんだね? 疑う訳ではないが……もしも嘘を言っているようなら、僕もいつまでも優しくはしていられないよ?」


 「別に信じなくてもいい。実際に行って見れば分かるよ」


 こうして話している今もマエザーは禍流真Wのヒザに座ったままだ。

 ツッコミと笑いを我慢しているせいでライトの口調はいつもよりぶっきらぼうになってしまった。

 だがマエザーは気にすることもなく会話を続ける。


 「ふむ。嘘を言っている顔ではないね。協力的で何よりだが……正直な所、少し意外だったな。君はあのアンドロイド達をかばって口を割らないかとも考えていたよ」


 その言葉にライトが何か言う前に、モヒカン男……モヒート・モヒカンダルが口をはさんだ。


 「ヒャッハー! それは考え過ぎだぜ、旦那。所詮コイツはまだガキだ。自分の安全のために仲間を売ったんだろうさ!

 人間らしくて分かりやすい理由じゃねえか!」


 その言い分にライトはカチンと来たが、何も言い返さずに聞き流した。


 挑発してからかうつもりだったのだろう。ライトが反応を示さないのを見て、モヒートはつまらなそうに舌打ちしたが、それ以上は何も言って来なかった。



 「社長、そろそろ戦闘準備を整えておいたほうが良いのでは?」


 オールバックの男がそう耳打ちすると、マエザーは「ではそうしよう」と言って立ち上がる。

 


 「……ライト君、余計な事をせずにここで大人しく待っているんだよ」


 去り際にそんな言葉を残して、マエザーたちは部屋から出て行った。


 


 静かになった部屋で、ライトの脳裏にモヒートの言葉が甦る。

 


 「……仲間を売った、か。そう思われても仕方ないよな。……でも」



 こうして敵に情報を洩らしているのは事実だ。

 その事でエリザベスたちに責められるなら甘んじて受け入れるつもりであるが、ライトは裏切ったつもりなど無かった。

 

 ライトが抵抗せずに研究所の位置を教えたのは、自分の保身のためなどではない。

 情報が漏れようが、自分が人質にされようが、きっと彼女たちなら何の苦労もなくアッサリと解決するだろうという信頼しているからなのだ。


 

 「みんな……迷惑かけてゴメン。……でも信じてる」


 ライトは小さく呟いた。



 ちなみにソファーの方は見ないようにしていた。

 ……笑ってしまいそうだから。






 ーーーー



 「バリア展開完了。これより暗礁宙域に侵入します」


 オペレーターがそう言うと、マエザーは「ああ」とだけ返事をする。

 その服装は、戦いに備えてすでにパワードスーツ姿だ。 



 「社長、レーダーには人工物らしき反応はありませんが、本当にここにあるのですかね?」


 マエザーにそう尋ねるオールバックの男も、同じくパワードスーツ姿だ。


 「僕としてはライト君は嘘を言ってはいないと思っているんだが……さて、どうかな? まあ、行ってみれば分かるさ」



 辺りは大小様々な瓦礫が漂う暗礁宙域で、研究所らしき建造物は見当たらない。

 だが、船がある地点を越えた瞬間に周囲の景色が一変した。


 今までの光景は立体映像か何かだったのだろうか? 先ほどまで視界を覆うほどの量であった瓦礫の数々は何処にも見当たらなく、広く開けた宇宙空間に浮島の様な大きな岩盤が一つ浮いていた。


 そしてその浮島には、以前マエザーが訪れた時よりも立派な姿となった研究所が建っている。


 「これは……」


 しばらく呆然としていたマエザーだったが、しばらくするとニィッと満面の笑みを浮かべた。


 「……素晴らしい。 50年以上前の技術でありながら、現代のそれを凌駕している。まさにロマンの塊だ」


 その時、うっとりしたようなマエザーのその言葉をかき消すかのような大音量で、宇宙空間に女性の高笑いが響き渡った。



 《オーッホッホッホ!》


 

 分かる人には一発で誰だか分かる、特徴的な笑い声が収まると共に何処からともなくパイプオルガンの演奏が聞こえ始め、そして宇宙空間に巨大な立体映像が映し出された。


 クラシックなドレス姿に、ドリルツインテールの少女……エリザベスXである。


 《よくぞここまで来ましたわね、マエザー・ユサック。 以前痛い目を見て惨めに逃げ帰ったというのに、まだ懲りていなかったのですか? 学習能力が足りていませんわね》


 立体映像のエリザベスXはそこで一度言葉を止め、紅茶を一口飲んだ後、冷たい微笑みを浮かべて言葉を続ける。


 《よろしいでしょう……ならばまたお相手して差し上げます。……さあ、おいでなさい、私が真の恐怖と消えぬ後悔を、たっぷりとその魂に刻みつけて差し上げましてよ! オーッホッホッホ!》



 

 「フッ……僕を以前の僕と同じと思わないことだな。 ……行くぞ! 総員、戦闘態勢!」


 「「「了解!」」」

 「ヒャッハーッ!!」



 マエザーとその部下は、装着しているパワードスーツを起動した。



 こうして戦いの火蓋は切って落とされた。





 ーーーー


 

 「相変わらずラスボスにしか見えないなぁ……」



 部屋の窓から様子を見ていたライトが呟いた。

 その表情は呆れて脱力しているものだったが、不思議と優しく微笑んでいるようにも見えた。

次回も金曜日の投稿予定です。

……最近遅れがちなので気をつけたいですねー。

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