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悪役令嬢型アンドロイド・エリザベスX ~ ティータイムは宇宙要塞で ~  作者: 鷹山 涼
5章 進撃の社長 ~ アタック・オブ・マエザー ~
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5章 第4話 ライト救出作戦・準備開始

いつもより少し短いです。

 マエザーの車は、ライトを乗せて走り去った。


 イヌイにはスライム弾やエリザベスXのスタン機能つきフルーレのような、人間を殺さずに制圧できるような装備はなく、人間を相手にする場合は素手で取り押さえるくらいしか選択肢は無い。

 それでも主であるライトが正式に命令したならば彼女に出来る限りの手段を使って戦ったであろう。

 だがライトは、あの状況で勝算の無い反撃に出ることは望んでいないようだった。

 だからイヌイは、ライトがマエザーと共に行くのを大人しく見送ったのだ。


 そう、物理的には抵抗しなかった。

 ……だが、それは目の前でライトが連れて行かれたのに、何の手も打たないという訳ではない。

 イヌイはキョロキョロと辺りを見渡して、この周辺で一番高いビルを見つけると、すぐさまその中へと駆け込んだ。



 エレベーターでビルの屋上へと登ったイヌイは、空を見上げる。

 ここはスペースコロニーであり、今見上げている空も作り物にすぎないが、それでも構わない。見つめる先が宇宙へと繋がってさえいれば使えるはずだ。

 自分の身体に取り付けてある機能なのだ。使用条件を満たしているかどうかは、本能的に理解できる。



 実はイヌイは、エルメスTに魔改造された時に、研究所への連絡用の小型機を呼び出す機能を与えられていたのだ。

 それはイヌイから研究所へ片道でメッセージを送信するだけのもので受信はできない不完全な連絡手段なのだが、ライトが捕まったことを皆に知らせるには十分だ。


 イヌイは、空へと向かって両手をバンザイするように掲げると、キーワードを唱えた。



 「べんとらー、べんとらー、べんとらー、べんとらー……」



 イヌイがその言葉を何度も繰り返していると、やがて周囲の音が段々と小さくなっていき、代わりにキィーンという耳鳴りのような音が鳴り始めた。


 そして、なんと次の瞬間、空から円盤型の飛行物体がチカチカと点滅しながら降りてきた。



 それは漫画などで登場する最もオーソドックスなUFOの形をしていたが、そのサイズは直径30センチほどで、形とサイズのせいでナベのようにも見える。


 それはイヌイの頭の高さまで降りてくると、ニュッとコードを伸ばす。

 イヌイがそのコードをパクりと口にくわえると、その飛行物体の表面に『通信中』と表示された。


 数秒して『通信中』の表示が消えると、飛行物体はまた空へと登って行き、一度ピカッと強い光を放つと姿を消した。



 「これでよし、です。私の記憶データをコピーして持って行ってくれたはずです」


 そう言ったイヌイではあるが、一つの疑問が頭をよぎった。


 「……うーん、でも皆さんの所に到着するまでどれくらいかかるです? 流石にあの距離じゃあ一時間や二時間というわけにはいかないですよね……」



 ここから研究所までは宇宙船でもそれなりの時間がかかる距離だ。

 あの飛行物体が速いといっても、一時間や二時間では到着しないだろう。

 

 ……そんな風に考えているイヌイは、ナーロウ研究所の技術レベルを舐めていたようだ。





 ーーー それから一時間や二時間後 ーーー



 研究所の中枢にはエリザベスXを始めとして研究所の主要メンバーが集まっていた。

 ライトがいたときならば、皆が集まれば騒々しいほどに盛り上がっていたであろうが、今は以前の様子からは想像できないくらいに暗く、重苦しい空気が漂っていた。


 エリザベスXはデータのチェック、ノジャロリーナSは施設の制御と、それぞれの仕事を淡々とこなしている。

 クッコローネRは瞑想でもしているようにただ目を閉じていて、五所川原Jは部屋の隅でひたすら漫画を読み続けている。

 皆に共通して言えるのは、そこに笑顔が無いということだ。


 普段から微笑んでいるエルメスTだけは今も笑顔だが、彼女のその笑顔もどこか空虚なものに見える。


 ライトを帰すという選択は、皆も納得した上の事だったのだが、それでもやはり唯一の人間が研究所からいなくなったという事実は皆の心に影を落としているようだ。



 会話の無い部屋にドアの開く音、そして二人分の足音が響く。

 シェフとミリィちゃんが部屋に入って来たのだ。



 「突然の来客に備えて、食料庫に残っていた食材を保存食に加工した。これで料理人としてするべき仕事は終わった」


 「うん。だから私たちは、カプセルに戻って眠ろうと思うんだ。……やっぱり役割を果たせないまま起きつづけているのは……つらいんだよね」



 人間が居ないのであれば食堂は必要ではない。

 そうなると当然、食堂の従業員であるこの二人も必要とされないということだ。


 「そうですか。……そんな気がしていましたわ」


 「……気持ちは理解できる。すべき事が無いというのは、我々にとっては一番の苦痛だからな」


 眠る事を選んだ二人を、エリザベスXとクッコローネRは止めはしなかった。

 稼働し続ける意味を失った二人の気持ちは理解できるのであろう。



 ここで研究所の管理権限を持つエリザベスXかノジャロリーナSのどちらかが許可を出せば、シェフとミリィちゃんの休眠は正式に決定される。

 ……だが、そこで小さく響いた『ピッ!』という音に、皆の意識が集中した。

 レーダーが研究所に高速接近する飛行物体の反応を捉えたのだ。


 

 ノジャロリーナSが研究所のレーダーの感度を上げて、その飛行物体の正体を探ろうとしたが、それよりも先にこの飛行物体の方からデータ通信を求めて来た。


 「……のじゃ? 友軍の信号を出しておるが、研究所のデータベースには登録されていない機体なのじゃ。いったい誰なのじゃ?

 ……のじゃっ!? 何かのデータを送って来たのじゃ! だ……大丈夫なのじゃ? ウイルスとかじゃないのじゃ?」



 「え~? どれのこと~?」


 驚いてワタワタするノジャロリーナSに代わり、エルメスTがモニターをチェックする。



 「ん~、ウイルスではなさそうね~、って……あ~っ! これって私がイヌイちゃんにあげた連絡用小型機だわ~」


 「するとこれはイヌイからの連絡ということですか。……なにやら嫌な予感がしますわね……確認いたしましょう。 ノジャロリーナS、早速受け取ったデータを解凍して表示してみてください」


 「のじゃ」


 ノジャロリーナSが、受け取ったそのデータを解凍してモニターに表示させた。



 「……なんだと!?」


 それを見たクッコローネRが表情を険しくする。

 そのデータは、マエザーがライトを連れていく直前からの様子をイヌイの視点から記録した動画であったのだ。


 「ライト君を拐うだなんて~……やっぱり狙いは私達かしら~?」


 そう言ったのはエルメスTだ。

 彼女はいまだにのんびりした雰囲気ではあるものの、珍しくその顔は真顔であった。


 「クッ! やはり私がライト卿について行くべきであったか……」

 

 グッと力を込めて剣を握り、悔しそうに歯を食い縛るクッコローネRだったが、それを見たエリザベスXは僅かに苛立ちの色を感じさせる声で言った。


 「何を言っているのですか? 私達にはこの研究所を守る使命があります。

 それに私達の体は外の技術ではまともにメンテナンスもできないのですから、この研究所から長く離れる訳に行きません。

 だからライト・ノベルについて行くことはできないのです。

 ……ついて行く事ができるのならば、私だって……いえ、今のは忘れて下さい」


 そこで一度言葉を止めて苛立ちを抑えた後で、エリザベスXが再び口を開いた。


 「それにしても……ライト・ノベルを狙わずとも我々の居場所を掴めるように、あえて移動前の場所にヒントを残しておいて差し上げたのですが、あの男は気が付かなかったのでしょうか」


 「む……。あえてヒントを残す? そんな事をしていたのか」


 クッコローネRは意外そうな顔をした。


 研究所の位置が分からなければ、それを知るライトが狙われるリスクが高まる。

 そのためエリザベスXは、わざと情報を知らせることで、少しでもライトが狙われ難くしようと考え、以前に研究所があった位置にヒントを残していたのだが、その事はクッコローネRも初耳だったようだ。



 「ええ、気づいてもらえなければ意味がないので、シンプルに隕石の表面にあぶり出しで置き手紙を書いておいたのですが……」


 「のじゃ? あぶり出し?」


 「ええ、火で表面をあぶると文字が浮かび上がるものです。小学校の授業でも習うような最も初歩的な知識の筈なのですが……そんな初歩的な物も読み解けないとは、あの男を少々買い被っていたようですわね」



 確かにあぶり出し自体は子供でも知っている初歩的な技術かもしれないが、いったい誰が宇宙空間に漂っている隕石を火であぶるとメッセージが浮かび上がるなどと気づくだろうか。


 エリザベスXは優秀な頭脳を持っているのだが、その頭脳を与えたナーロウ博士が常識知らずの変人だったため、時々こういった感覚のズレが生まれることがあるのである。



 「経緯などはどうでもいい。今、重要なのはライト卿が敵の手に落ちたということだろう。

 出撃の準備を急ごう。力づくででも助け出さなくては!

 シェフとミリィちゃんも、こうなっては眠らせてなどいられん。ライト卿の救出のために力を貸して貰うぞ!」


 すでに戦闘モードに切り替わりかけているクッコローネRのやる気に当てられたのか、シェフとミリィちゃんも迷うことなく頷いた。

 


 食堂の従業員という役割を与えられている二人は、戦闘行為は好まない。

 だが二人は食堂の従業員である前にアンドロイドなのだ。

 人間であり、自分に好意的に接してくれた友人でもあるライトを救出するためならば、専門外の仕事であっても力を尽くすつもりである。



 「うーん、わっちも気持ちとしては同じなんだけど、今すぐに攻めこむのは反対かなあ?」


 クッコローネR、そしてシェフとミリィちゃんの三人が、ライト救出の目標に向けて気合いを入れかけていたその時、五所川原Jが慎重論を口にした。


 闘志に水をさされた形になったクッコローネRは五所川原Jをギロリと睨む。



 「五所川原J……ライト卿の危機だというのに、まさかこんな時まで『働きたくない』とか言うつもりではないだろうな!?」


 「待って待って! 違うよ! わっちもライトきゅんのことは助けたいさ! でも、こっちから攻撃するのは不安要素があるから、もっと考えようって言いたいんだよー!」



 五所川原Jは手をバタバタさせながら説明するが、勢いと迫力で完全にクッコローネRに押されていた。

 だが、その流れはすぐに変わることになる。


 「う~ん、私も五所川原Jの意見に賛成よ~。自分から人間に攻撃するのは~、制限が多すぎて現実的じゃないわ~」


 エルメスTが、出撃に待ったをかける。

 すると、その意見にエリザベスXも続いた。


 「焦らなくとも、マエザーの狙いは私たちなのですから、ライト・ノベルに案内させて、いずれこの場所までやって来るでしょう。

 彼の目的がナーロウ博士の遺産を手に入れることである以上、遠距離からの砲撃は控えて、突入して直接ここを占拠する事を選ぶはずです。

 準備を整えて確実に迎撃し、そこでライト・ノベルを救出いたしましょう」



 「むっ……確かに、その方が確実か……。よし、その方向で作戦を立てよう」


 説明を聞いているうちにクッコローネRも冷静さを取り戻し、迎撃する方に意見を変えた。


 「そうと決まれば準備を整えましょうか。戦闘能力を最優先に考え、残された時間の限りでできるだけ施設を強化いたしましょう」


 パンパンと手を叩きながらエリザベスXが指示を出す。

 するとノジャロリーナSが張り切ってコンピューターを起動し、施設の機能制御画面を開いた。


 「了解なのじゃ! ならばバリアやレーダーの出力も最大にしておくのじゃ、出血サービスなのじゃ! エネルギー残量は二の次なのじゃ!」


 「……いえ、ノジャロリーナS。施設の余剰エネルギーは、『彼』の起動に回してください」


 「のじゃ!? 彼って……アイツなのじゃ?」



 エリザベスXが彼と呼んだ人物が誰なのか理解すると、ノジャロリーナSが目をまん丸くして驚いた。

 何も言わなかったクッコローネRも僅かに眉毛をピクリと歪ませていたし、なにより、言い出しっぺのエリザベスX自身も嫌そうな顔をしている。


 どうやら『彼』とやらは、仲間内でもあまり好かれてはいない存在のようだ。



 「……私も彼と絡むのは少々めんどくさいのですが、戦力として頼りになるのは確かですわ。ライト・ノベルの救出を成功させる確率は、少しでも上げておくべきでしょう」


 「……了解なのじゃ。あやつと会うのは気が進まないのじゃが、これもライト兄上のためなのじゃ。我慢するのじゃ」


 ノジャロリーナSは、嫌そうにしながらも、エネルギーを『彼』の起動に回した。

 

 

 


 こうしてエリザベスXたちは、戦いの準備を開始した。



 ライト救出をかけた戦いが……

 そして、わりと色々とめんどくさい性格であるエリザベスXが、ガチに嫌そうな表情で『めんどくさい』と評価する存在……。

 北斗七星(グローセ・ベーア)の切り札の、復活の時が近づいていた。




 



次回の投稿も金曜日の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 「彼」とは、いったい何者なのか! 眼帯をした伝説の傭兵っぽくて、いつもミッション対象が絶体絶命に成るまで待たせてしまうあの人みたいな奴ならどうしよう(笑)
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