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悪役令嬢型アンドロイド・エリザベスX ~ ティータイムは宇宙要塞で ~  作者: 鷹山 涼
5章 進撃の社長 ~ アタック・オブ・マエザー ~
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5章 第2話 彼女の手紙と招かれざる客

 「ふふっ、イヌイちゃんは本当に良い子ね」

 「えっと、お母さまにそう言ってもらえて、とても光栄です」



 自室のベッドで眠っていたライトは、近くから聞こえる話し声で目を覚ました。


 「……ん……今の声は、イヌイと……母さん?」


 ライトが目を擦りながら声の方を見ると、部屋の入口のところでイヌイと、ライトの母・ラブの二人が立ち話しをしていた。

 

 「二人ともそんな所で話してないで、中に入るかリビングに行くかをして話せばいいのに……」


 そう呟いたライトにラブが経緯を説明をした。

 それによると朝食の準備ができたためラブがライトを起こしに来たのだが、イヌイが『ご主人さまは気持ち良さそうに寝ているから、まだ寝かせておいて欲しいです』と言って部屋に入れなかったらしい。


 ならばイヌイにリビングに来てもらってお喋りでも……っと誘ったのだが、今度は、『寝ているご主人さまを残してここを離れるのはできないです』

 と言って断ったというのだ。


 アンドロイドが自分の提案を二度も続けて拒否するというのは、人によっては腹を立てかねない事なのだが、ラブはむしろライトに忠実に尽くそうとしている態度を見てイヌイの事を気に入ったそうだ。


 アンドロイドは明確な敵以外の人間には友好的なものだ。

 ましてや主人の母親が自分に好意を向けてくれれば、より友好的に接しようとするのは当然だろう。そしてラブは元々お喋り好きな性格である。


 お喋り好きなラブと、笑顔で話を聞いてくれるイヌイの相性が噛み合った結果、立ち話しに花が咲いてしまったというわけだ。



 (俺を起こさないように、って事から始まったお喋りで俺の目が覚めたんだから、ちょっと本末転倒な気もするけど……)


 そんな事を思ったライトだったが、せっかく二人が仲良く話しているのだから細かいことを言うのも野暮だと思い、黙ってベッドから起き上がり、洗面所へ顔を洗いに行った。





 顔を洗ったライトがそのままリビングに向かうと、ラブがサンドイッチの載った皿を見せつけるように、掲げて言った。

 

 「ライトが帰って来たから、久し振りに手料理を作ってみたのよ。さあどうぞ。

 ……あっ、ごめんね、スープだけは手作りじゃなくてインスタントなの」


 少し申し訳なさそうに言いながら、彼女はライトの前に食事を並べる。


 手料理が久し振りだと言ったが、彼女が特別にズボラだというわけではない。

 技術の進化により加工や流通などのコストが下がったため、この時代では出来た料理を買って来たり、宅配を頼んだりすることが一般的になっており、料理をしない主婦というのはさほど珍しくないのだ。

 なのでたまにでも料理をするラブは、この時代の主婦としては及第点はやや越えていると言える。



 「じゃあ、いただきます」


 ライトはサンドイッチを手に取り、かぶり付く。

 ……具材のバランスは適当で、野菜の水分でパンがベチャッとしている。

 

 シェフどころか、ミリィちゃんの料理よりも明らかに雑だ。

 だが、ライトはその大雑把なサンドイッチが妙に美味しく感じた。



 「美味しい……なんか安心する味だよ」


 続いてスープを一口飲む。 ……不味くはないが、薄っぺらい味だ。


 (まあ、インスタントならこんなものだよね。高級品ならインスタントでも美味しいかもしれないけど、これは近所のスーパーで安売りしてるようなヤツだし。

 ……あっ、そういえばインスタントといえば……)


 ライトは、ふと思い出した。

 研究所を離れる際に、お土産としてレトルト食品を持たされていたのだ。



 「母さん、そういえば俺、お土産に食べ物をもらったんだ。後で持ってくるから昼か夜にでも食べてよ」


 「あら、お土産って、ライトをかくまってくれた施設の? 何かしら。楽しみね!」


 ラブは食いしん坊ではないが、新商品や地域限定食品など、新しい物や珍しい物に目がないタイプだ。

 謎の施設からもらったお土産と聞いて興味津々のようだ。


 ライトは朝食を終えると、一度部屋に戻り、荷物の中から研究所でもらったお土産を取り出した。

 その中には一人前ずつ包装されたレトルト食品がたくさん入っている。


 だが、レトルト食品だからといって甘く見てはいけない。なにせこれはシェフの料理をエルメスTの技術でレトルトに加工した物なのだ。

 ちょっとした有名店の料理よりも味も栄養バランスも上だろう。

 

 「こっちはカレー、こっちはリゾットか……シェフの料理がレトルトで食べられるってのは贅沢だよね」

 


 シェフの料理はとても美味しかったから、両親も気に入るだろう。

 ライトはそれをリビングに持って行こうとしたところで、後ろでイヌイがジーっと見ているのに気がついた。


 「ジーっ……です」

 

 ……見ているというか、すでに口に出していた。

 なんだかエサの前で『待て』をされた飼い犬のような雰囲気だ。


 仕事を頼まれるのを期待しているのだろう。



 (うーん、これくらい俺一人でも持てるんだけど……)


 自分一人でできることを他人に頼むのは気が引けるのだが、アンドロイドは仕事をもらえるほうが喜ぶと学んだライトは、途中まで持ち上げかけた荷物をまた床に下ろしてイヌイに声をかけた。


 「……イヌイ。このお土産をリビングまで運んで欲しいんだけど」


 「はいです! お任せくださいです!」


 イヌイは嬉しそうにしっぽを振りながら返事をすると、荷物を抱え上げた。



 「あれ? ご主人さま。違うものも紛れ込んでますけど、これもリビングに持っていくですか?」


 「違うもの? そんなのあったっけ?」

 

 ライトはもう一度お土産を確認すると、確かに片手に収まるくらいの小さな箱があった。

 それをヒョイっと手に取り、何気なく裏返してみると、そこには『お土産ですわ』と書いてある。

 ……名前は書いていないが、飾り付けのリボンがぐるぐる巻いてドリルの形になっている。



 「あー……『ですわ』と書いてあってリボンがドリルかぁ……嫌な予感しかしないなぁ」


 「どうするです? 持っていくです?」


 「い、いや、やめておくよ。そのお土産が俺の想像する彼女からのものだったとしたら、両親の前で開けたら家族会議に突入するようなブツが飛び出してくる可能性がある。 とりあえず置いておいて、後で心の準備をしてから開けよう」


 「ず、随分と信用してないですね……?」

 

 「いや、むしろ『絶対に変なことをしてる!』という方向で信用してるけどね。

 ……まあそういう訳だからその不審物は後回しにして、今はレトルト食品だけリビングに運んでくれるかな?」

 

 「はいです」




 


 リビングに戻ると、父・ノクターンが食事をしていた。

 先ほどはいなかったから、ライトが部屋に戻る時に入れ違いでリビングに来たのだろう。

 

 彼はライトたちの姿に気づくと口の中のサンドイッチをスープでグッと流し込み、声をかけた。


 「ああ、ライトとイヌイちゃん、おはよう。……おや、その荷物はなんだい?」


 「お世話になっていた人達からもらったお土産だよ。イヌイ、そっちのソファーの横のテーブルに置いてくれる?」


 「はいです、それじゃあ置くです」



 イヌイがお土産を置くと、ノクターンが興味深そうな視線を向ける。

 話し声が聞こえたのか、奥のキッチンで食器洗浄機を使っていたラブも「見せて見せて!」と言いながら駆け寄って来た。

 ライトの両親は二人ともわりと好奇心が旺盛なようである。


 「こっちのお土産には変なものはないはずだから、自由に見ていいよ。……あっ、でももしもドリルみたいなリボンをつけてあるお土産が紛れ込んでいたら触らないでね? わりと本気で安全性に不安があるから」

 

 「お土産なのに安全性に不安? ど、どういうことかわからないが、とりあえずドリルの形のリボンの物には気をつければいいんだね?」


 ノクターンは当然ライトの言っている事の意味がわからないが、ただの冗談ではなさそうだったため、とりあえずドリルのリボンに注意することにはしたようだ。


 ただ、幸いここに持って来た物は、ちゃんと食べ物だけだったようだ。



 「種類が豊富なのは嬉しいわね。たくさんの種類の食べ物を色々とつまんで食べ比べできると考えれば、ちょっと贅沢な気になれるわ」


 ラブは右手に麻婆豆腐、左手にポトフを持ちながらそう言った。

 


 「ん? これに描いてあるキャラクターは何かな?」

 

 不思議そうな顔のノクターンが持っていたのは、おでんの缶詰めだ。

 表面には漫画チックにデフォルメされた太ったオッサンが顔の前で横ピースをしているイラストが描いてある。

 ……デフォルメされてはいるが、どう見ても五所川原Jだ。


 「うわ……おでんなのに下手な油ものより胃にもたれそうだなぁ……。ていうかあんまり時間の余裕は無かったはずなのに、缶のデザインまでしたのか……。

 そういえば、あそこのみんなは細かい部分にこそ力を入れるタイプが多いもんなぁ」

 

 おでんの缶にノリノリで五所川原Jのイラストをつけているみんなの姿が思い浮かび、ライトはクスリと笑い……そして少しだけ寂しくなった。

 

 

 「……ご主人さま?」


 イヌイがライトの顔を心配そうに覗き込む。


 「あ、いや。なんでもないよ。 えーと……じゃあその食べ物は母さんにあげるから、昼飯か晩夜にでも好きに使ってよ。俺はちょっと部屋に戻るから」


 普段よりも少し早口でそう言うと、ライトは自室へと戻った。

 それを見たイヌイは、パッと跳ねるように立ち上がり、ノクターンとラブに向かって頭を下げながら、「それじゃあ私も失礼しますです!」と言うと、ライトを追って部屋に向かった。





 部屋に戻ったライトは、力が抜けたようにペットに腰かけた。


 (実感したなぁ……ここは俺の日常だ。分かっていたけど……本当に戻って来ちゃったんだ)



 両親と共にいる事に不満はないし、平穏な生活は望むところだ。

 だが、研究所のみんなの事を思い出して、()()()()()と感じてしまったことで、自分がみんなのいた生活を『現在』ではなく『過去』だと認識している事を自覚してしまい、少し悲しくなってしまったのだ。



 「ご主人さま……大丈夫です?」


 イヌイは、ライトが悲しんでいる事にすぐ気づいた。

 だが、気づけたのは悲しんでいるということだけであり、何を思って悲しんでいるのかを感じ取る共感力が足りていないイヌイは、どうすればライトを励ませるのかが分からなかった。


 (うぅ……ご主人さまが悲しんでいるです! でも、どうすれいいのか分からないです……!)


 頭から煙が上がる勢いでテンパりながら視線をキョロキョロ動かして、この場を切り抜けるヒントを探していたイヌイは、ライトのそばにある小箱に気づき、ビシィ! っとそれを指差した。


 「そっ、それですっ! それを開けてみるです! きっと何か暗い気分をドーンと吹き飛ばしてくれる面白いものが入ってるです!」


 

 ライトは2~3秒ほどキョトンとした表情で固まったあと、ブッ、と小さく吹き出してしまった。



 (イヌイ……俺が寂しがってることに気づいて、意識を別の事に向けようとしたんだろうけど……話題の振り方が不器用だなぁ……。

 でも、お陰でなんか微笑ましい気分になれたから感謝するべきかな)


 ライトはそんな事を思いながら、イヌイの頭を撫でた


 「わふっ? ……あっ! 笑ってくれたです! 良かったです!」


 普段はナーロウ博士のアンドロイドたちと比べると少し人工的に見えていたイヌイの笑顔だが、この時、ライトの目には、自然で柔らかい笑顔に見えていた。


 「うん。イヌイのお陰で少し元気になったよ。ありがとう。

 ……さてっ! じゃあイヌイの言う通り、エリザベスXのお土産を開けてみるか!」



 イヌイを心配させないようにわざとテンションを上げて、「さーて、何かな?」なんて言いながら小箱を開けるライト。

 ……だが、その中身を見た瞬間、ライトの表情は固まった。



 それは、手のひらサイズの土台に、赤くて丸くてドクロマークが描いてあるスイッチがついていた。

 ……どう見ても自爆スイッチだ。


 「ちょっ……!? た、確かにイヌイの言う通りドーンと吹き飛ばしてくれるものが入ってはいたけど、これは違うよね!? エリザベスXっ……なんてものを!?」



 「あっ、ご主人さま。一緒に手紙も入ってますよ。……えっと、読みますね」


 箱の底にあった手紙に気づいたイヌイが、それを読み上げる。



 「……『ライト・ノベル。貴方がこれを読んでいるという事は、その時すでに私は、紅茶をお代わりしているでしょう』」


 「いやっ! なんでそんな『すでに死んでいるでしょう』的な書き出しでどうでもいい報告するの!? 別に紅茶くらい好きなだけお代わりすればいいでしょ!?」


 

 読んでいるのはイヌイなのだが、ライトはついエリザベスX本人が居るかのようにツッコミを入れてしまう。


 「えっと、『さて、甘えん坊ベイビーな貴方の事ですから、そろそろ私たちの事を思い出して寂しくなっている頃でしょう』」


 「うぐっ……!」


 甘えん坊ベイビーなどと言われるのは心外だが、今まさに寂しくなってイヌイに励まされたところだったライトは、何も言い返せず、ただ唇を噛んだ。



 「『私たちに会いたいと望んでくれる事は、私も悪い気はいたしませんが、焦って無理に私たちに会おうとしなくても良いのです。

 私たちは貴方を忘れる事はありません。貴方が大人になっても年老いても見間違えることはありません。ですがハゲてデブったら他人の振りをします』」


 「途中までちょっと感動してたのに、なんで最後に落とすの!? ハゲてデブっても温かく迎えてよ! いや、ハゲないしデブらないけどさ!」


 「『いいえ、貴方はハゲますわ。そしてデブります』」


 「手紙に言い返されたっ!?」



 「『さて、ハゲやデブの件は置いておくとして、私が言いたいのは、私たちはいつかきっと再会できるので、変に思い詰めずに気楽に貴方の人生を進みなさい……と言うことですわ』」


 「……思い詰めなくても再会できる……か」


 「『ということで、気楽に生きる手助けとして自爆スイッチを送りますわ。その気になればいつでも好きなときに終わりにできると思えば、気が楽になるでしょう? お守りとして持っておきなさい』……っと、ここで手紙は終わりです」



 「なんか斜め上の発想のお守りだなぁ……いや、むしろ斜め下かな? まあエリザベスXらしくて確かに気が楽に……というか、力が抜けたけどさ」


 あははっ……と力無く笑うライト。

 なんだか変に疲れた気がするが、代わりに寂しさや暗い気持ちはすっかり晴れていた。


 「あー……変な感じで部屋に戻って来ちゃったから、父さんと母さんも心配してるかな? ……ちょっと顔出してくるよ」



 ライトはリビングへと戻り、キッチンにいる母に呼び掛けた。


 「ねえ、母さ……」   ピンポーン!


 ライトの声に被さるようなタイミングでチャイムが鳴った。

 キッチンからラブが顔を出す。


 「あら、どちら様かしら?」


 皿でも拭いていたのか、彼女の手には布巾が握られている。


 「ああ、いいよ。俺が出るからさ」


 布巾を持ったまま玄関へと歩き出した母を呼び止め、ライトは代わりに玄関へと向かった。



 「はーい、誰ですか?」



 ライトは、後になってこの時の自分はなぜ無警戒に玄関を開けたのか……いや、そもそもなんで居留守を使わなかったのかと後悔した。



 「……やあ、久し振りだね。ちょっと話があるんだが……付き合ってくれるね? 心配しなくても物騒な話にはならないさ。

 ()()()()()()()()()()()……ね」


 そう言ってニコリと営業スマイルを浮かべていたのは、ライトにとっても因縁深く、そしてもう会いたくなかったあの男……


 ……マエザー・ユサックだったのだ。

次回も金曜日の投稿予定です。

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