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4章 第10話 動き出すクラスタ

 楽しい時間はすぐに過ぎ去るものである。気がつけばライトは仲間たちとの別れの時を迎えていた。

 例えるなら、まるで物語の作者が細かい経緯を書くのが面倒になって、あ~……この辺は適当に流しとくかぁ……と手を抜いたかのようにあっという間に流れて行ったのだった。

 (あくまでも例え話です)

 


 本気を出すと言った皆の働きは凄まじいもので、作業はハイペースで進み、研究所の周りの土台部分もバリア覆われ、その範囲内にはちゃんと酸素があり、植物も植えられた。


 更に巨大なアンテナも取り付けられて、それによって研究所全体の通信機能も強化され、多少離れた惑星やコロニーと通信のやり取りが可能になった。


 ライトは、植物が生えてアンテナが建っているエリアが宇宙空間にポツンとあったら目立つんじゃないのか? と心配したのだが、どうやらバリア部分に何もない宇宙空間の映像を映すことで見た目を誤魔化しているらしく、ちょっと見られたくらいでは気づかれないようになっているらしい。


 当然そのバリアは見た目を誤魔化すためだけの物でなく防御性能も高く、燃費の都合で長時間の使用はできないものの、短時間なら宇宙艦隊の総攻撃にも耐えられるものだ。


 研究所は、本当に5日以内に宇宙要塞と呼べるものになったのである。





 出立の日……エリザベスXとエルメスTは商業コロニー・フリマ・メルカリィまで一緒に来て、船に乗り込むライトを見送った。



 「ライト・ノベル。貴方は約束通り、研究所が本来の機能を取り戻すまで私達の元にいてくれました。感謝いたします。

 ……これにて契約は完了ですわ。ご苦労様でした」


 別れ際にエリザベスXがそう言ったのを聞いてライトは、そういえばそういう契約だったな、と思い出し、少し寂しくなった。


 皆がライトに優しくしてくれた気持ちに嘘は無いだろう。

 その気持ちを疑うつもりはないが、そのきっかけに契約というドライなものがあったのは確かなのだ。


 その時、エルメスTがクスクスと笑った。


 「ライト君~、エリザベスXは素直じゃないから~、言葉通りに受け取っちゃダメよ~? うふふ~、『契約は完了』って事は~、次に会う時は契約とか抜きで~、友達として歓迎する~、って言っているのよ~」


 「……えっ? それって……」


 「……そんな事実はありません。それはエルメスTの勘違いですわ。人工知能に不具合があるのでは? 帰ってからメンテナンスを受けることをオススメいたします」



 そう言うエリザベスXの表情はいつもと同じだったが、その言葉はいつもより少し早口だった。

 目線を僅かに逸らしていることも含めて、照れているのだいう事が分かる。 

 なんだかその態度が可愛く見えたライトが思わず笑ってしまうと、エリザベスXがムッとしたように睨みつけた。


 「ライト・ノベル、何を笑っているのですか? 言いたい事があるなら早く言って、終わったらさっさと船に乗り込んで出発しなさい。

 見送りしているのもそれなりに面倒なのですから、早めに視界から消えていただけませんか?」


 「うふふ~、これ以上そばにいたらまた別れが辛くなるから~、呼び止めたくなる前に行っちゃって~、って言ってるのよ~」


 「……そんな事実はありません。どうやらエルメスTは本格的にバグっているようですわね。今すぐここで分解清掃いたしましょうか。ええ、そうしましょう」



 髪の毛のドリルを回転させるエリザベスXと、笑いながら「あ~れ~」と気の抜ける悲鳴をあげるエルメスT。

 別れ際まで騒々しいが、そんな別れの方が自分たちらしいだろう。


 ライトは「じゃあ……また会おうね」と、再会を誓う別れの言葉を言って、船へと乗り込んだ。

 これ以上そばにいると別れが辛くなる、というのはライトも同じ気持ちだったから。






 ライトの故郷、オレッツ・Aへと向かう船の中。

 最初は故郷に着いてからの事などをイヌイと話していたのだが、船が宇宙に飛び立ってから三時間ほど過ぎると、話題も少なくなってくる。

 そして話題が減って無言の時間が増えると、自然とあの研究所での日々を思い出してしまうのだ。


 

 「ご主人さま……やっぱり寂しいです?」


 イヌイがライトの顔を覗き込んだ。


 「まあ……そりゃあね。心は決まってるはずなんだけど、静かになるとどうしても色々考えちゃうね」


 「静かなのはダメです? じゃあ賑やかにするです! どーん! どーん!」


 どーん、どーんと言いながら両手を上下にバタバタさせるイヌイ。

 本気でやっているのか、ライトを笑わせるためにわざとバカな事をしているのかはわからないが、とりあえず周りの人が驚いているのは確かだ。


 「ちょっ、他の乗客に迷惑だから、やめて……」



 ドーンッ!!


 船を突然の騒音と衝撃が襲い、少し遅れてアラームが鳴り響いた。


 「ち、違うです! これは私が騒いでいるわけじゃないです!」


 「わかってるよ! 窓を見て!」


 窓の外にはいつの間にか小型の宇宙船がいて、ライトたちが乗る船の入り口側に体当たりを仕掛けて来ていた。


 それを数回繰り返し、この船がダメージでスピードを落とした所を見計らい、謎の襲撃者は折り畳みの橋のような物を伸ばしてこの船の入り口部分に取り付けると、何かの道具でドアのロックを解除してそこから船に侵入を始める。

 一人の船員が駆けつけて銃を取り出したが、それを構える前に襲撃者に殴り倒されてしまう。

 動きが鈍い。どうやらこの船のスタッフは荒事に慣れていないようだ。



 襲撃者たちは次々に船員を殴り倒す。

 もちろん船員も無抵抗ではないが、襲撃者たちはパワードスーツを着ているため、生身の船員では勝負にならず、すぐに全員が叩き伏せられてしまった。


 そして次に襲撃者は銃を乗客たちへと向けた。


 「動くな! この船は我々『クラスタ』の大義の為に頂戴する!」


 その名を聞いて乗客たちはどよめいた。



 『クラスタ』……それはアラシ・クレームメールが率いていたクーデター軍の名称である。

 よく見ると襲撃者たちが装着しているパワードスーツの胸元には、アラシ・クレームメールが使用していたシンボル……赤い封筒に×印が描かれていた。


 (クーデター軍の残党……やっぱり本当に活動してたのか)


 ライトはマエザー社長の船でそのシンボルマークを見たが、それ以来その組織が大きな動きをしている所を目にする事も無かったため、アラシ・クレームメールの事など忘れかけていた。

 それなのに平穏な日常に帰ろうとしているこのタイミングで出会ってしまうとは、皮肉な運命のイタズラというべきか。



 「抵抗すればこの銃が火を吹いて、お前らは蜂の巣になるぞ! 念のために説明するが、べつに撃たれたら本当に蜂の巣に変身する魔法の銃だって意味じゃなくて、蜂の巣みたいに穴だらけになるっていう例え話だからな? 面白そうだと思って撃たれようと思うなよ!? きっと痛いからな!?」


 銃を構えたまま丁寧に解説する男の姿は緊張感が足りないように見えるが、それでも武器を持たない乗客たちにとっては脅威だ。誰も笑ったりツッコミを入れたりはしていない。

 ……ライトだけは条件反射でツッコミを入れそうになっていたのだが、なんとか口に出さないように耐えた。

 いきなり犯人を刺激するのは控えたい。



 「……ご主人様、どうするです?」


 イヌイが小声でライトに尋ねる。

 ここで、『制圧しよう!』と言えれば良いのだが、それはなかなか難しいだろう。


 イヌイはエルメスTの改造とクッコローネRの特訓によって、並みの量産品の戦闘アンドロイドなどよりも上の戦闘力を手に入れた。

 そしてライトも今は変身ベルトを着けたままなので、即座にパワードスーツに着替えることが可能だ。

 

 相手は四人いるが、着ているパワードスーツは一世代前の量産品のようだ。

 持っている銃も旧式で、おそらくライトのパワードスーツを貫通する威力は無いだろう。

 何よりも相手はライトやイヌイが戦えると思っておらず、ほとんど警戒をしていない。

 これなら戦えばおそらく勝つことはできるはずだ。


 ……だが、ライトには周りの人間をかばいながら戦うような技術や知識は無い。万一にでも人質など取られてしまえば、対応は不可能だろう。

 戦うのなら、隙をついて一瞬で終わらせるくらいのつもりでやる必要がありそうだ。



 「……今は大人しくしよう。戦うにしても逃げるにしても、チャンスを見極めてからじゃないと……」

 

 「わかったです」


 

 ライトたちは、黙って座席に座ったまま、様子を見ることにした。

 他の乗客も戦う手段の無い一般人ばかりだったらしく、怯えた様子で抵抗する者はいないようだ。

 

 「へへっ、賢明だな。物わかりの良い乗客ばかりで何よりだ。……おい、ここは制圧した。お前は奥の貨物室を見てこい」


 リーダー格らしき男が指示を出すと、一人が奥の部屋へと移動した。これでこの部屋のテロリストは三人だ。

 ライトは自分の腰に手を伸ばしてチャンスを待つ。

 別にそこに武器を隠し持っているという訳ではない。以前持ち歩いていた拳銃は研究所に置いて来たため、ライトは武器を持っていないし、仮に持っていたとしても、船に乗る時に没収されたはずだ。


 その腰にあるのは……水筒だ。そう、飲み物を入れるあの水筒だ。

 だがそれは、いざという時のためにエルメスTが用意した護身用のアイテムでもあった。

 

 (パワードスーツもあるし、コレもある。……怖いけど……隙をつけばどうにでもなるはず!)



 襲撃者の一人が銃を構えたままニヤリと笑って乗客たちに言い放った。


 「さて、乗客の皆さまには、これから我々『クラスタ』の為に、善意の募金をお願いしようと思っている。そっちの端から順に順に集めるから、全員財布を出すんだ」


 強制する時点で明らかに善意の募金ではないが、武装した犯人相手に文句も言えず、全員が青い顔で財布を取り出した。


 襲撃者たちは、一人が財布を回収し、もう一人はその少し後ろで銃を構えて待機している。

 そしてリーダー格の男は全体が見える位置に立ったままだ。

 反撃に備えたフォーメーションなのだろう。

 ……だが、一見万全のようだが、内心は油断しているのだろう。

 彼らは銃を構えてはいるが、その引き金に指をかけていない。



 (……行ける。イヌイ、俺たちの所まで来たらやろう)


 (任務了解したです)


 ライトは他の人に聞こえないように、口の中でモゴモゴと呟くように指示を出した。

 とても小さな声だったが、聴覚に優れた獣人タイプのアンドロイドであるイヌイには、ちゃんと伝わったようだ。



 犯人たちは今、ライトたちの二つ前の席の客から財布を回収している。

 ……ライトはパワードスーツのキーとなるしおり(ブックマーク)をベルトに挿入した。


 犯人たちが一つ前の席に来て、財布の回収を始める。

 ……ライトは腰の水筒を手に持ち、そのフタをゆるめた。


 そして、遂に犯人たちがライトの席に来て、財布を取ろうと手を伸ばした。

 近くで見ても、やはり犯人たちはニヤニヤしていて警戒が甘いことが良くわかる。


 「今だ! ブクマ登録!」


 「はぁ? 何を言って……うおっ、まぶしぃ!?」


 変身時の演出であるフラッシュに驚いてのけ反った犯人Aの腹に、ライトがボディブローを放つ。

 ライトは少しだけクッコローネRに戦闘訓練を受けたことがあるだけの素人だ。……素人だからこそ、今のような緊急時に手加減をする余裕などないのだ。

 エルメスTの手によって改造されたパワードスーツのパワーで、手加減無しで放たれた攻撃はライト自身が考えていたよりも強力で、犯人Aは悲鳴すら上げる余裕もなく無言で倒れ込む。

 仮に犯人がパワードスーツを着ていなければスプラッターな光景が広がっていただろう。


 そしてライトは即座に離れた所にいるリーダー格の男に向かって水筒を投げつける。

 ライトは特にコントロールが良いわけではないが、パワードスーツの命中率アシストもあり、水筒はリーダーの手に直撃して中の液体をぶちまけた。


 「ぐおっ……熱っ!? このガキっ!?」


 「テメエッ!」


 リーダーは怯んだため、すぐに反撃をしては来なかったが、犯人Bはすでに銃を構えてライトに向けていた。だが……


 「ううー、わんっ! です!」


 銃を構えたその腕にイヌイが飛びかかり、押さえ込んだ。

 人間に攻撃できないイヌイでも、取り押さえるくらいはできるのだ。

 そして一度取り押さえてしまえば、量産品のパワードスーツくらいの力で振りほどくことは簡単にはできない。


 「ぐおっ……なんてパワーだ!? こいつ、獣人かと思っていたが、サイボーグ……いや、アンドロイドかよっ!?」


 

 「くそっ、舐めた真似をっ! これを見て後悔しやがれ!」


 水筒をぶつけられて怯んでいたリーダーが態勢を立て直し、目に強い怒りを浮かべながら銃を構えると、それをライトたちではなく、近くの座席にいた子供に向けて、迷わず引き金を引いた。


 犯人からすれば人質はまだまだいるのだ。子供の一人くらいは消えてもかまわない。

 これは逆らったライトたちへのペナルティであると同時に、ただの脅しではなくて本当にやると見せつけるためのデモンストレーションでもあった。

 だが……。


 「なっ!? これは……銃が撃てないだと!?」


 そう、これが先ほどぶつけた水筒の……正しくは、水筒の中に入っていたコーヒーの効果であった。


 エルメスTの誇る、とある魔術的な科学技術によって生み出されたそのコーヒーには、触れた銃を熱膨張で変形させて撃てなくする効果があるのだ。

 特別な理論によって生み出された超科学的な現象なのだから、

 『え? 連続発射時の放熱にも耐えられるように設計されている銃がコーヒーの熱程度で熱膨張を起こすの?』とか言ってはいけないのである。



 「やああぁぁぁっ!」


 ライトは動揺して隙を見せたリーダーに駆け寄り、殴りかかった。

 パワードスーツのアシストによって相当なスピードが出ているライトだが、動きそのものは素人だ。実戦経験の豊富なリーダーはそのパンチを見切って避けると、その腕を抱え込んでそのまま関節技をかけようとした。

 だが装備しているパワードスーツの馬力に差がありすぎたようで、どれだけ力を入れてもライトの関節を極めるどころか、まともに押さえ込むことすらできなかった。


 「ちくしょうっ! そのパワードスーツ、どんだけパワーがあるんだよ!?」


 ライトは掴まれた腕をを力ずくで引き戻し、その勢いでそのままリーダーを投げ飛ばす。

 技術も何も無い、ただパワードスーツの性能に任せただけの投げ技なのだが、明らかな力の差があったためにリーダーは抵抗もできずに転がった。


 だが、性能が高くないとはいえリーダーもパワードスーツを着ているのだ。一度投げ飛ばされただけで行動不能になったりはしない。即座に態勢を立て直そうとしたのだが……


 「イヌイ! 取り押さえれる!?」


 「はいです! わおーん!」


 すでに犯人Bを取り押さえ終わっていたイヌイは、その犯人Bを抱えたまま、リーダーの近くまで来ていたのだ。


 ライトの指示を受けた彼女は、立ち上がろうとしていたリーダーの上に座り込む。

 人間に危害を加える事ができないはずのイヌイだが、座り込むくらいはできる。

 ……実は、『女の子のお尻で潰されたい!』という一部の紳士のニーズに応えるために、人間に座ることはアンドロイドのタブーに設定されていないのである。


 パワードスーツを着たリーダーのパワーなら、それくらいの重さは大したことないはずだが、立ち上がろうとしている途中だったため、バランスを崩して倒れ込んだ。

 その隙にライトが駆け寄り、動けないように押さえつけた。



 周りの乗客たちは状況を把握できずに呆然としていたが、やがて犯人たちが制圧されたという事に気づくと、歓声をあげてライトたちを称えた。


 「あ、いや……このパワードスーツが凄いだけだから、あんまり褒められても困るんだけど……」


 ライトは照れ臭そうに、乗客たちから視線を反らす。

 すると動かした視線の先に貨物室へのドアを見つけ、その奥にまだ犯人がいる事を思い出した。



 「あっ、奥に行った残りの一人も捕まえなくちゃいけないな。……えっと、この男たちのパワードスーツを脱がすには……こうかな? よいしょ!」


 ライトとイヌイがこの場を離れてしまったら他にパワードスーツを着た相手を取り押さえておける者はいなくなってしまうため、まず男たちのパワードスーツを脱がしてから、乗客の一人が持っていたロープで拘束して転がした。

 

 ……ちなみにロープをくれた乗客は、ボンテージファッションのセクシーお姉さんで、荷物にはロープの他にも仮面と鞭とロウソクも入っていたが何に使うつもりで持ち歩いていたかは追及しなかった。



 「よし、じゃああとは貨物室に行った男を捕まえよう」

 

 「はい! お供するです!」

 


 


 

 貨物室には、欲にまみれたネチャリとした笑顔を浮かべる男がいた。


 「おっ、結構金目の物があるな……この宝石なんかはサイズは小さいが、なかなか良い金になりそうだ。

 ……へへへ、これ一つくらいなら、くすねてもリーダーにバレないよな?」



 「待てっ!」


 乗客の荷物をあさっていた男は、突然の声に飛び上がらんばかりに驚いたが、振り向いてライトの姿を見るとすぐさま銃を構えた。


 「だ……誰だてめえ!?」


 「仲間は捕まえたぞ! お前も抵抗を止めろ!」


 「なんだと!? ……くそっ、イヤだ! 捕まってたまるかよおぉ!」


 半ばパニック状態になった男は、手にした軽機関銃をライトに向かって乱射した。


 「うわっ!?」


 「ご主人さま!?」


 

 咄嗟にイヌイが体を盾にしてライトをかばうが、防ぎきれなかった数発がライトに命中した。

 結局二人とも複数の銃弾を浴びてしまった。だが……



 「ああ、びっくりした……。イヌイ、かばってくれてありがとう。ケガは無い?」


 「はいです。でも服に穴が空いちゃったです」



 パワードスーツを装着していたライトもエルメスTに強化されていたイヌイも、ダメージらしいダメージは無かった。

 それを見た男は戦意を喪失して座り込んでしまったため、その後は抵抗も無くに捕まえることに成功。

 この男たちが乗って来た船にも運転のための仲間が一人残っていたのだが、それもあっさりと降伏。無事に賊は制圧完了となった。



 ライトは歓声をあげる船員や乗客に愛想笑いしながら手を振り、パワードスーツを解除して座席に座った。

 そして隣に座るイヌイに目をやった。


 彼女は「無事に終わって良かったです」と言って笑っているが、服の所々には銃弾による穴があいていた。


 ……彼女がもし生身の人間だったらどうなっていただろうか。

 いや、アンドロイドだとしても、もしエルメスTに強化されていなければ、無傷で済んでいたかどうか分からない。

 イヌイもそうだが、なによりライト自身だ。

 撃たれた時にパワードスーツが無ければ、命は無かったはず。


 結果だけを見れば楽勝だったが、一つや二つの間違いがあればライトは死んでいてもおかしくなかったのだ。



 「あはは……今になって怖くなって来たよ……」



 ライトにはパワードスーツという戦闘手段があった。

 結果的に乗客も船員も助けられたのだから、ライトが戦ったことは正しかったのだろう。だが、戦うにしてももっと慎重なやり方があったのではないのか?

 なのにライトの中には『何とかなる』という楽観的な気持ちがあり、実際にその勢いで行動に移した。

 


 「まずいな……これ、感覚がマヒしてるよなぁ」



 不可能を可能にし、数々のトラブルも難なく切り抜けてきたエリザベスXたちと暮らしてきたことで、自分の中に妙な万能感が生まれていたことにライトは気づいた。


 ……万能なのは周りの皆であって、ライト自身は平凡な学生に過ぎないというのに。



 「緊張感が足りないなぁ……こんなんじゃ油断して、また危険な目に会いそうだよ」


 そこまで呟いたあと、ライトはブンブンと首を横に振った。


 「いやいや、そもそもこれから平凡な学生生活に戻るんだから、そうそう危険な目になんて会うことはないよね……ははっ」


 「あっ、ご主人さま、そういうのって確か『フラグ』って言うですよね? エリザベスXから教わったです!」

 

 「ちょっ……何を言ってるの!? 不吉な言葉言わないでよ!」


 「? フラグじゃないです?」


 首を傾げるイヌイに、ライトは苦笑いしながら否定する。


 「違うって。はははっ……」


 そう言って笑ったライトは、微笑んだまま遠くを見つめて言葉を続けた。



 「俺……故郷に帰ったら、平穏に暮らすんだ」



 

 ぴこーん。


 どこかでフラグの立つ音がした。


これで4章は終了です。次回から5章になります。


次回の投稿も金曜日の予定です。

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