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3章 第9話 悪役令嬢の野望・宇宙編

 侵入したA・リアンは五所川原Jが倒した二匹だけだったらしい。

 輸送艦の方では、あれからもう一匹発見したものの、それもエリザベスXとクッコローネRの手により退治済みだ。


 念のためレーダーやセンサーを作動させつつ、研究所内をゴブリンロボット達にパトロールをさせているが、今のところ問題は無さそうである。



 安全を確認し終わったノジャロリーナSはノジャロリオンに指示を出して輸送艦へと近づけると、手を伸ばしてその船を掴み、その輸送艦を背中に背負った。

 いや、ノジャロリオンが人型をしているためにそう見えただけで、本当は背負っているわけではなく、背中部分がドッグになっていて宇宙船を格納できるようになっているのだ。


 ドッグと言っても戦艦クラスを格納できるような巨大なものではないが、この輸送艦くらいまではなんとか許容範囲内だ。

 輸送艦はゆっくり沈み込むようにノジャロリオンの背中に格納されて行った。



 A・リアンが居たせいで少々手こずった点もあったが、無事に輸送艦の回収を終えたことでこれで予定は終了したと言えるだろう。

 そしてこれを報酬として受け取った事で、この前のドーラ・エーモンに関わるゴタゴタが今やっと終わったのだ。


 「……これでやっと、契約内容が全て履行されましたね」


 『契約』に強いこだわりを持つエリザベスXは、やっとスッキリした……と言うようかの様に、僅かに安堵の表情を浮かべ……そしてすぐ、宇宙の全てを小馬鹿にしたかのようないつもの表情に戻った。





 ーーーー 



 その部屋には、水の音が響いている。



 「ふぅ……久しぶりの贅沢だなぁ」


 ライトは今、シャワーを浴びていた。

 今までもシャワーを浴びることはあったが、それは水を霧のように細かい粒にした状態で浴びて、その後に体を除菌・消臭して、最後に乾燥させるというもので、使用する水量はかなり節約したものであった。


 だが、今は水をしっかり使用した一般的なシャワーを浴びている。

 輸送艦の積み荷からかなりの量の水を手に入れたため、たまの贅沢として普通のシャワーを浴びる事が許可されたのだ。


 まあ、贅沢といっても結局ここで出た廃水も浄化して再利用するのだから水の消費としては大したことは無いのだが、宇宙で水を大量に浴びる事ができる……というだけで贅沢な気分になれるのだ。




 ウィーン、と扉の開く音が聞こえた。

 どうやら誰かがシャワー室に入ってきたようである。


 「ライトきゅん! シャワーを浴びてると聞いて、背中を流しに来たよ~!」


 入ってきたのは五所川原Jだ。その外見はオタク中年モードに戻っている。

 ……ライトは、ホッとしたような残念なような、複雑な気分であった。


 もしも少女の姿でシャワー室に乱入してきたなら問題だが、かと言ってメタボなオッサンに背中を流して貰うのが嬉しいかと言われれば、それは当然否定する。

 ましてや今、五所川原Jは海水パンツ(薄紫のビキニ)のみしか身につけていないのだ。 せめて地味なトランクスタイプの水着は無かったのだろうか?


 ……まあ全裸じゃないだけマシ……という考え方も無くはないが。



 ライトは五所川原Jのぷよぷよの体をじっくりと見つめる。

 いや、なにもライトにメタボなオッサンに夢中になるようなエッジの効いた趣味があるという訳ではなく、気になる事があったからだ。



 「五所川原J……怪我は大丈夫なの? 見た目には傷は無さそうだけど、痛みとかは?」


 ライトは、まずはあの戦いのダメージの心配をした。

 ビキニパンツについてはスルーする。 ……というか視界に入れたくもない。



 「ライトきゅん……心配してくれるなんて嬉しいにゃあ。 でも、大丈夫だよ、外傷はほとんど修理が終わってるし、エネルギーの残量もこっちのモードなら問題無いくらいは残ってるからね」


 「こっちのモードなら……ってことは、やっぱりあの女の子の姿の方が消耗が大きいんだね。 凄く強かったもんね」


 

 ライトに『凄く強かった』と言われて、五所川原Jは「てへっ」っと照れ笑いをしながら頭を掻いた。

 少女の姿なら可愛いのだろうが、残念ながら今はオッサン状態である。



 「今のこの中年モードは、言ってみれば省エネモードなんだよ。 あっちの体は強力なバリアを素早く展開するために、常に体にエネルギーをまとっているから、立ってるだけでもどんどんエネルギーを消費しちゃうんだ」

 

 どうやらあの少女の状態はエネルギーの消費が多いらしい。

 ……どう見てもメタボなオッサンの方が燃費が悪そうに見えるのだが。



 「ライトきゅんライトきゅん。 ところで、背中は流さなくて良いのかな?」


 そう言って小首を傾げる。

 少女の姿なら可愛いのだろうが、残念ながら今はオッサン状態である。



 (うっ……正直、遠慮したい……!)


 エリザベスXのように明らかにからかっている様子ならズバッと断るのだが、五所川原Jに関しては悪意無しにライトが喜ぶと思って提案しているのだから、あまり冷たく断るのも気が引ける。

 だが、やはりビキニパンツのメタボ中年に背中を流されるのはキツい。


 「えっと……悪いんだけど、ちょっと遠慮したい……かな」


 「え~……残念だなぁ。 ……あっ! ライトきゅんも男の子だし、女の子に洗ってもらった方が嬉しいよね? うーん、エネルギーが少し不安だけど、ライトきゅんが望むなら、わっちが女の子になってから背中を流そうか?」


 「い、いや、それは……」

 

 ライトは口ごもる。

 ……答え難い。 女の子に背中を流してもらう事にも問題はあるが、何よりも複雑なのは、あれが五所川原Jだということだ。


 確かにあの少女の姿は可愛かったが、あれはここにいる紫ビキニパンツのメタボ中年と同一人物なのだ。

 もしも背中を流してもらってドキドキしたりしてしまったら、負けな気がする。

 何に対してなのかは不明だが、確実に負けな気がするのだ。

 


 「い、いや、俺ももう汗は流したし、そろそろ出ようと思っていたんだよ。それに背中を流すためなんかにエネルギーを消費してまで変身するのは勿体ないよ。うん」


 「うーん、そう言われればそうだよね。うん、じゃあ今日は止めておくよ」


 少し残念そうな顔でそう言ってシャワー室から出て行く五所川原J。


 (あはは……素直に引き下がってくれて良かったよ。 ……それにしても五所川原Jって、どうやって変身してるんだろう? 性別も含めてまるっきり別人だもんなぁ)


 ナーロウ博士のアンドロイド達の能力は理不尽なものばかりだが、見た目のインパクトでいうなら五所川原Jがオッサンから美少女に変わるというのはかなり上位のぶっ飛び具合だ。

 あれは一体どういうギミックで変身しているのだろうか?


 不思議に思いながら、立ち去る五所川原Jの後ろ姿を見送っていたライトは……ある事に気づいた。


 驚いて二度見した。

 目を擦ってから見直した。

 目を細めてしっかりと見つめた。


 だが、見えるものは変わらなかった。



 (五所川原市Jの背中に……チャックがある……!?)


 そう。五所川原Jの首の下から腰の上くらいまでの間に、大きなチャックがあるのだ。

 それはまるでテーマパークにいる着ぐるみのような……


 「着ぐるみ……? いや、確かに中年男性の五所川原Jと少女の五所川原Jの体格差を考えたら、中に入るくらいは……。いやいや……流石にそんな……ねえ?」



 ……もしや、オッサンの皮を着てるだけ?


 そんな仮説が頭の中をクルクルと回り、呆然としてしまうライトであった。






 

 気になる事もあったが、とりあえずシャワーを終えて体を乾かしたライトは、エリザベスXに呼ばれて休憩室へと向かった。


 ドアを開けると、そこには主要メンバーが全員集合している。



 「来ましたか、ライト・ノベル」


 エリザベスXは一番奥のソファーに深く座り、紅茶を片手に微笑んだ。

 ……相変わらず妙な大物オーラを醸し出している。



 「うん、来たけど……休憩室にみんなを集めて何をするの?」


 「もちろんみんなで遊ぶのじゃー!」


 元気に答えたノジャロリーナだが、その直後にエリザベスXに「違いますわ」とバッサリと否定されて、涙目で口を閉じ、ショボ~ンとした。



 「目的の品は回収したことですし、これからの事を話したいと思って集まってもらったのですわ。話し合いの場をここにしたのは、この人数ではライト・ノベルの部屋では狭いですし、会議室では堅苦しいと思ったからです」

 

 ライトはそう言われてここにいるメンバーを見渡す。


 エリザベスX、クッコローネR、ノジャロリーナS、ミリィちゃん、五所川原J、シェフ、スティーブン舞倉、そしてライト本人。

 確かにこの人数が集まるなら、もうライトの部屋では狭すぎるだろう。


 「うん、確かにこれからはみんなで話をするならここの方が良さそうだね。で、これからの話っていうのはどういう事を話し合うの?」


 「まずはこれを見ていただきましょう。 ……ではノジャロリーナS。dの177のデータを表示してください」


 「了解なのじゃ」


 ノジャロリーナSが返事をした直後、モニターに何かのリストが表示された。



 「……小説投稿サイトにおけるPVとブックマークの比率(ジャンル別)……?

 え~っと……このリストを見ながら何の話し合いを……?」


 「ノジャロリーナS……私が言ったのはdの177ですわ、このデータはbの177ではありませんか?」


 「のじゃっ!? 間違えたのじゃ! こっちなのじゃ!」

 

 

 ……どうやらdとbを間違えたようだ。

 ノジャロリーナSは恥ずかしそうにワタワタしながらデータを切り替える。

 すると今度は、この周辺の地図が表示された。



 「まず、現在位置はこのマップ中央の暗礁宙域の辺りです」


 エリザベスXがそう言うと、現在位置に赤いマーカーが表示された。


 「この暗礁宙域についてですが、実際にここに来て確認したことで分かったのですが、想像していたよりも過酷な場所ですわ。 漂流物の量も多いですし、何より小惑星の破片に含まれる鉱物がレーダーを狂わせるようです。

 まあ、幸いこの研究所のレーダーは簡単に狂わされるような物ではありませんが、並みの宇宙船ではまともに移動できないでしょうね。 大量の積み荷を積んだまま長年放置されていたはずの輸送艦が荒らされていなかった事を見ても、この辺りは宇宙海賊やパトロールの偵察機などもあまり近づかない事が分かります」

 

 そこで紅茶を一口飲んでから、また説明を続ける。


 「ですが、過酷で他人が近づかないというのは、隠れ住むには向いているということですわ。 更に……これを見ていただけますか?」


 エリザベスXがそう言うとマップが上方へとスライドして行き、そしてある地点にマーカーがついた。



 「ふむ……そこが何か?」


 クッコローネRがそう尋ねると、マップがぐぐっと拡大された。

 するとマーカーのつけられたその場所に建造物が写っているのが分かる。 どうやらスペースコロニーのようだ。


 「一般的に見れば決して近いとは言えない距離ですが、私達なら行き来も充分に可能な距離ですわ」



 ミリィちゃんがポンッと手を叩く。


 「あっ、分かったよ♪ 身を隠すのに向いていて、行動範囲内にコロニーもあるって事は……これからはここを生活拠点にするっていう話かな?」


 「正解、そういう事ですわ。 あの輸送艦から物資の補充をしたばかりですし、ここには再利用できそうな漂流物も沢山あります。 それでも足りない物があれば、あのコロニーの中で購入すれば良いでしょう。 ……まあ、もちろん先にあのコロニーがどういう物なのかを調査する必要はあるでしょうけれど」


 「定期的に食材を購入する事もできるのか……それなら……」


 シェフは目を輝かせて何かを呟いている。



 「うむ、悪くなさそうだな……。 ライト卿もそれで良いかな?」


 突然クッコローネRに話を振られたライトは少し焦った。


 「えっ……多分それで良いとは思うけど……でも俺はこの研究所の事はよく分かってないから、聞かれてもあまり参考になることは言えないよ?」



 困惑するライトに五所川原Jが笑いながら言った。


 「別に意見が無くても良いんだよ。わっちらにとっては最後にライトきゅんが同意してくれたっていう事実が大事なんだ。 ……あっ、もちろん意見があるなら大歓迎だよ? 遠慮なく言ってね」



 ここにいるアンドロイドたちは、自分で物事を決めて行動できるだけの自由度のある人工知能を持ってはいるが、やはり人間のために生み出された存在である以上、人間から同意が得られた方が気持ちよく動くことができる。


 いや、気持ちだけの問題ではなく、出せる能力にも大きな違いが出るのだ。


 ライトも、アンドロイドは人間のために動く時のほうがポテンシャルを引き出すことができるという事を思い出したため、こう言った。


 「俺も賛成だよ。 楽しみだなぁ、拠点作りってワクワクするよね」


 その言葉は皆を気持ち良く動けるようにするためのものではあるが、同時にライトの本心でもあった。

 ライトは、仲間と共に新たな拠点を作るというシチュエーションに胸を踊らせていたのだ。


 ライトの表情や仕草から、彼が本当に楽しみにしていると分かった皆は、やる気がどんどん湧いてくるのを感じた。


 

 「よし、ならば私は使えそうな漂流物を拾い集めよう!」

 

 クッコローネRがそう言って自分の胸を叩く。 ……胸が揺れた。


 「なら妾は、近くの小惑星に資源が無いかをサーチするのじゃ!」


 ノジャロリーナSも胸を叩く。 ……揺れるほど胸は無かった。


 「わっちは働くのは嫌いだけど、でも、今回は頑張るよ!」


 五所川原Jも胸を叩く。 ……胸と腹とアゴの下が揺れた。



 「快適な生活拠点になると良いねー♪」


 ミリィちゃんがそう言った時、エリザベスXは少し考え込むような仕草をして、「生活拠点ですか……」と呟き……


 ニヤリと微笑んで、その言葉を口にした。



 「いえ、どうせなら……宇宙要塞を作りましょう!」



 セリフと共に、ドドーン! という効果音が響き、モニターに『ミッションスタート!』という文字が表示された。


  彼女は、無駄に芸が細かいタイプの悪役令嬢なのである。

 

次回から4章になります。

次回も金曜日の投稿予定です。

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