3章 第8話 五所川原Jの真の能力
ライトはモニターに映されているこの研究所の……今は人型兵器・ノジャロリオンとなっているその姿をジーッと見ていた。
ライトは別にロボットオタクではないが、それでもやはり男の子だ。心の内のどこかには巨大ロボットへの憧れを持っていたのだろう。
自分が今、巨大ロボットの中にいるんだと考えると、自分でも意外なくらいワクワクしていた。
「そう言えばこの研究所のロボット形態……えっと、ノジャロリオンだったっけ? これってやっぱり強いの?」
ライトは争いは好まないが、人型の巨大ロボを目の当たりにすればそれが強いかどうかはやっぱり気になるものだ。
「うっ……。 つ、強いことは強い……のじゃが……な?」
質問されたノジャロリーナSは、目を逸らしながら奥歯にビーフジャーキーの筋が挟まったような言い方で答えた。
「このノジャロリオン自体は強いのじゃが、実は妾は操縦は下手なのじゃ……。
だからまともに戦わせることが出来ないのじゃ~」
恥ずかしそうに呟くノジャロリーナSに、ライトは意外そうな顔をした。
「え? ノジャロリーナSは、この研究所の機能を使うことに特化したタイプっていう話じゃなかった?
それにさっきホウキをスタイリッシュに振り回してたよね? あんな動きができるなら操縦が下手ってことは無いと思うけど……」
「妾の専門は用意されたプログラムを管理する事なのじゃ、だから操縦する技術があるかどうかは別の話なのじゃ~。
ホウキを振り回してたのも、あらかじめボタン1つで決めポーズを取るように設定してあっただけじゃし、漂流物の掃除も、掃除する範囲の指定だけすればあとはほぼオートだったのじゃ」
ノジャロリーナSのその言葉を引き継ぐようにミリィちゃんが更に説明を続けた。
「そもそも操縦の上手い下手の以前に、このノジャロリオンは人間が操縦する前提で作られているから、アンドロイドが操縦する場合はほとんどの武器が封印されちゃうんだ。
今回この形態になったのは漂流物の掃除がしやすい事と、あの輸送艦を回収する時に手が使えるって理由だから、戦えるかどうかは最初から考えてないんだよね」
「あ、そうなんだ」
巨大人型ロボットに変形しておいて、やることが掃除や船の回収だけということに少し拍子抜けしたライトだったが、すぐに考え直した。
(戦いが無いならそのほうが良いに決まっているよね)
頷きながらそう考えたライトの、その背中をポンと叩く手があった。
五所川原Jだ。
「ふっふっふっ……! ノジャロリオンが戦えないといっても心配はいらないよ、ライトきゅん。もし何かがあっても、このわっちが守るからね!」
グッとサムズアップする五所川原J。
その直後にノジャロリーナSもぺったんこの胸を張る。
「五所川原Jが出るまでも無いのじゃ! 妾は戦いは苦手じゃが、研究所の機能を使う事には自信があるのじゃ! 今も周囲に変な金属反応が無いかをチェックし続けているのじゃ! 敵が居ないことはチェック済みなのじゃ~!」
自信満々のセリフだったが、ライトはその中に少し気になる点があって聞き返した。
「金属反応が無いかをチェックしてる? ……それって金属以外の物はチェックしてないって事じゃないよね?」
「……のじゃ?」
コテンと首を傾げるノジャロリーナS。
この様子を見る限り、どうやら金属以外の物はチェックしていないらしい。
……確かに周囲に宇宙船が無いかをチェックするのなら金属反応を探せば良いだろうが、果たして本当に宇宙船だけを警戒すれば安心と言えるのだろうか?
なんとなく不安になったライトは、先ほどからノジャロリオンの全身を映し出しているモニターをじっと見つめる。
なにも本気で何かがあると思ったわけではなく、なんとなくやっただけの行為なのだが、モニターをチェックしたライトの目に、気になるものが映った。
「……ねえ、何か変なモノが映ってる気がするんだけど、この映像って拡大できない?」
「のじゃ? じゃあやってみるのじゃ、ズームするのじゃ」
モニターの映像がズズズと拡大されると、そこに黒っぽい何かが映っている。
それは宇宙空間を泳いでやって来て、そのままノジャロリオンの体に張り付くと、背中側に向かって這うようにして走り出した。
「うわぁっ! 何か居る! 何あれ!?」
驚いて大声を上げるライト。 彼はその黒いモノが何なのか分からなかったのだが、後ろからモニターを覗き込んでいた五所川原Jは、それに心当たりがあったようだ。
「ギョギョッ!? あれはA・リアンだ! 危険な宇宙生物だよ! ノジャロリーナS、振り払うくらいはできないかい!?」
「の、のじゃ!? えっと、振り払うのは……こ、このボタンなのじゃ!?」
ノジャロリーナSが何かのボタンを押すと、スピーカーから熱い歌が流れだす。
ノジャロリオンのテーマだ。
「のじゃ!? このボタンじゃなかったのじゃー!」
焦って操作ミスをしたようだ。
ミリィちゃんが、「ちょっと待ってて!」といって取り扱い説明書の基本操作ページを読み始めた。
「え~っと、振り払いの動作は、そっちにあるコントローラーでスティックをグルグル回しながらボタン4つをガチャガチャ連打だよ!」
「えっと、えっと……ガチャガチャ! ガチャガチャ! なのじゃー!」
彼女は一生懸命ボタンをガチャガチャするが、ノジャロリオンは振り払うような動きではなく、突然何もない空間に向けて大振りのチョップを繰り出した。
「のじゃっ!? ミスってボタン2つの同時押しになったのじゃ!
ガード崩しの特殊攻撃が出ちゃったのじゃ~!」
「ちょっ……! そんな事をしてる内にも、アイツが背中側にあるゲートをガンガン殴り始めたんだけど、大丈夫なの!?」
「あと15秒は大丈夫なのじゃ! つまりそれを越えると大丈夫じゃないのじゃ!」
「それって普通にピンチだよね!?」
ライトとノジャロリーナが動揺している後ろで、五所川原Jが普段よりキリッとした表情で立ち上がった。
……まあ普段が普段なので、それと比べてキリッとしていると言っても、別にイケメンに見える訳ではないが。
「これはもう間に合わないよ! わっちが迎撃に出るから、ミリィちゃんはライトきゅんの護衛をお願いするよ!
わっち1人で倒すつもりだけど、念のためスティーブン舞倉とシェフにも戦闘準備をさせといて!」
五所川原Jは早口でそう言うと、廊下へと飛び出そうとした。
「五所川原Jっ!」
ライトは、彼を呼び止めて駆け寄り、心配そうに問いかけた。
「……負けないよね?」
そう言ったライトに向かって五所川原Jは、無言で一度ウィンクをしてからまた駆け出した。
……その様子はアクション映画で最後の戦いに出発する直前のシーンのようで格好良かった。
(シチュエーションが格好良いのであって五所川原Jが格好良いとは言っていない)
ーーーー
積み荷の搬入用ゲートをぶち破り、A・リアンは研究所の内部へと侵入した。
A・リアンは人間の体に卵を産み付けて繁殖する性質を持っているため、研究所の中から人間の気配を感じ取り、引き寄せられたのだ。
A・リアンは、近くに人間の気配がある事を改めて確認し、そちらに向かって進み始める。
するとその時、騒々しいアラームが鳴り響き、研究所内の至るところに分厚いシャッターが降りてきて廊下を塞いだ。
だがA・リアンからすればシャッターがあったところで破壊すればいいだけの話だ。手間が少し増えるだけで、大した問題ではない。
A・リアンはシャッターを破壊しようと歩き出した。
……だが、その前に1つの影が現れて立ちはだかる。
「……悪いね。ここは通行止めだよ」
五所川原Jだ。
彼はA・リアンに手に持ったメイスを突きつけて、挑戦的な目で睨んだ。
その言葉は理解できないだろうが、自分への敵意は感じ取ったのだろう。
A・リアンは五所川原Jを敵と見なしたようである。
威嚇する様に尻尾をユラユラと動かしながら、その腕を振り上げる。
五所川原Jもメイスを振り上げるが、まだ攻撃には出ずに相手の動きをじっくりと見つめた。
お互いにすぐ攻撃ができる構えのまま、ゆっくりジリジリと距離を調整する。
そして、五所川原Jが、すり足で更に数センチ距離を詰めた瞬間、射程に入ったと判断したA・リアンが床すれすれの高さを薙ぎ払うようにして尻尾を振り回した。
足払い……いや、それどころか並みの人間あれば足の骨ごと持って行かれかねないほどに勢いが乗ったその攻撃を、五所川原Jはジャンプで避けながら接近する。
それを叩き落とそうとA・リアンの右腕が降り降ろされるが、五所川原Jはその腕の側面をメイスで殴って攻撃を反らした。
「うひ~、硬いな……。 腕を破壊するくらいのつもりだったんだけど。
それに動きも速いし、こりゃあ結構強敵だなあ……うわっと!」
続けて左手の突きが繰り出しされたのを横にステップして避け、巻き付けようとして伸ばしてきた尻尾を右手に握るメイスで払いのける。
そして空いている左手で、胴体を殴りつけた。
五所川原Jは戦闘タイプのアンドロイドだ。素手のパンチとは言ってもかなりの破壊力がある。
だが胴体を殴られたA・リアンは、半歩ほど後ろに下がった程度で、さほどのダメージは受けていなさそうだった。
「ひー、本当に頑丈だなあ、もう!」
五所川原Jが悪態をついた次の瞬間、その顔面に向けてA・リアンが唾液を吐きかけた。
「ほぎゃあぁ、毒霧攻撃っ!? 悪役レスラーみたいな真似を……!
……ん? う、うわわ、なんか熱いっ!!」
最初は驚いただけであった五所川原Jだが、唾液をかけられた顔面全体から煙が上がり始めると、さすがに驚くだけでは済まなかった。
A・リアンの唾液は強い酸を含んでおり、それを浴びた生物は致命傷を避けられない。
顔面に直撃して苦しむ五所川原Jを見てA・リアンは勝利を確信した。
そしてとどめを刺すべく腕を大きく振り上げ、それを五所川原Jの背中に向かって降り下ろす。
「お~っとぉ! まだまだあっ!」
五所川原Jは、その大振りの一撃を横回転しながら避け、そしてその遠心力を乗せたメイスを横っ面に叩き込んだ。
強烈な一撃を食らったA・リアンは、入り口付近までぶっ飛んで倒れた。
生物なら致命傷を負うような酸を浴びたとはいえ、アンドロイドである五所川原Jにとっては皮膚が焼けるくらいは大したダメージにはならないし、肉体的な痛みは自由にON・OFFの切り替えが効くのだ。
酸を浴びせた程度で勝利を確信して大振りの攻撃をしたことは、明らかにA・リアンのミスであった。
「あちち……わっちの自慢のもち肌に火傷の痕が……。 これは後でリペアポットでお昼寝タイムだね……」
顔の火傷を撫でながら、倒れているA・リアンの元へと近づいてメイスを振り上げる。
彼は制限によって人間は殺せないし、仮にそんな制限が無くても、意味も無く生き物を傷つけるような性格ではない。
だが、人間の事を大切に思っているからこそ、人間と相容れない危険生物を駆除する事に躊躇いは無いのだ。
「ゴメンねー、ライトきゅんに危険が及ぶかもしれないから、見逃すわけにはいかないんだよね」
そう言って、A・リアンの頭に向かってメイスを降り下ろしたその瞬間。
「ぐえっ!?」
何かが躍り出たかと思うと胴体に強い衝撃が走り、五所川原Jは吹き飛ばされ、壁にぶつかって倒れた。
「うぐぅ……。 な、なにがあったの?」
とりあえず自分のコンディションをチェックしてみると、残り耐久値が『通常』から『ちょいヤバ』までダウンしていた。
……結構なダメージだが、まだ焦るほどの被害ではない。
とにかく何が起きたのかを確認しなくてはいけないと思った五所川原Jは、ゆっくりと立ち上がりながら周囲を確認する。
……そして、それを見て、嫌そうに顔を引きつらせた。
「うひ~っ……二匹目? 一匹でお腹いっぱいだったんだけどね……」
五所川原Jの視線の先には、A・リアンがもう一匹立っていて、尻尾をユラユラと揺らしていた。
……恐らく、先ほどの攻撃はあの尻尾で殴られたのだろう。
五所川原Jが立ち上がる頃には、ダウンしていた一匹目も立ち上がっていたため、完全に一対二の構図になってしまっていた。
「流石に厳しいなぁ……援軍が欲しいところだけど」
五所川原Jは仲間逹の事を考える。
戦闘力の低いノジャロリーナSは除外するとして、別のゲートを警戒しているスティーブン舞倉と、ライトの護衛をしているミリィちゃんも、A・リアンが複数いると判明した以上は持ち場から離れるべきでは無いだろう。
そして、シェフはトンカツを揚げている最中だから調理場から離れられないと言っていた。今日の昼食はカツカレーなのだ。
全員が重要な任務に就いていて動く事ができないし、ゴブリンロボットを呼んでも無駄に被害が増えるだけだろう。
「やっぱりわっちが頑張るしかないか。……ライトきゅんを守るって約束したもんね」
気合いを入れ直し、戦いを再開した五所川原Jだったが、その後の戦況は厳しいものであった。
一対一の時でも五所川原Jが僅かに有利という程度の差だったのだ。
それが一対二になれば、圧倒的に不利なのは当然とも言えるだろう。
不利な状況ながらも、なんとか善戦していた五所川原Jであったが、やがてどんどんと押され始め、耐久値は『ちょいヤバ』から『マジヤバ』に変わり、動きも鈍くなり、もはや立っているだけのサンドバッグと化していた。
そんな状況をモニター越しに見ていたライトは、泣きそうな顔をしていた。
画面からは今も「ひでぶ!」「あべし!」「たわば!」という五所川原Jの悲鳴が聞こえている。
「ねえっ! 誰か助けに行ってあげられないの!? もう見ていられないよ!」
堪えきれずにライトがそう訴えたが、ミリィちゃんは首を横に振った。
「大丈夫だから、五所川原Jを信じてあげて!」
「俺だって信じてはいるよっ! だけど……っ! ああっ!」
画面の中で、遂に倒れたまま動かなくなってしまった五所川原Jの姿を見て、ライトは大きな声を上げてしまった。
ミリィちゃんは、取り乱しそうになったライトを安心させるように後ろからぎゅっと抱きしめ、そして問いかけた。
「ねえ、お客さんはナーロウ博士の造ったアンドロイドの中には、転生システムを搭載してる機体があるのは知ってるかな?」
転生システム。
過去に、クーデター軍との戦いで主力となった戦闘アンドロイド逹に搭載されていた機能で、一度機能停止してからバージョンアップされて復活するというものだ。
ナーロウ博士とクーデター軍の戦いの中でもわりと有名な逸話であり、多くの人が知っている話だ。当然、ライトも知っている。
「それは知っているけど…… まさか?」
「うん。五所川原Jは……」
その時、ゴミの様に転がされていた五所川原Jの体が、強い光を放ちながらゆっくりと浮き上がって行き……そして次の瞬間、閃光弾が爆発したかように光が広がった。
モニター越しでも目が眩むその光に、ライトは目を閉じた。
「五所川原Jは、北斗七星で唯一の転生システム搭載機だよ♪」
ミリィちゃんの声が聞こえた。
そして光が収まったのを感じたライトはゆっくりと目を開けて、モニターを確認する。
そこに映っていたのは……12~13歳ほどの少女であった。
ストレートロングの髪、そして大きくクリッとした瞳の色はどちらも黒く、鼻が低めで彫りが浅い顔立ちと合わせて、典型的な日本人顔に見える。
服装は神官の法衣を動きやすくアレンジしたような物を着ていた。
彼女はクルリと一回転してから、顔の前で横ピースを決めてウインクした。
「TS転生聖女モード起動! さあキミ逹、覚悟はいいかにゃ~?」
セリフと共に右手を高く上げて広げると、足元に転がっていたメイスがフワリと浮き上がり、吸い寄せられるように手の中に収まると、光りながら変形した。
無骨な鈍器というデザインであったメイスが形を変え、シンプルながらも要所には美しい装飾がついた杖へと変化した。
『一回転してポーズ』『手にメイスを吸い寄せる』『メイスが変形』のプロセスの間は隙だらけだったのだが、A・リアン逹は攻撃せずに待っていてくれた。
意外にちゃんとお約束を理解しているらしい。
ちゃんと変身シーンが終わった事を確認してから飛びかかるA・リアン逹。 ……結構律儀である。
「やらせないよ! 超聖女スーパーセイント結界シールド!」
空中に魔法陣が浮かびあがり、光の盾が五所川原Jを包み込む。
A・リアン逹の攻撃はその光に阻まれて、彼……いや、彼女に傷一つ付けることはできなかった。
もちろんこれは魔法などではない。
実際は魔法陣はただの演出のための立体映像であり、これは科学的なバリア装置を起動しただけなのだが、その防御性能が高いこととネーミングがダサいことは確かである。
そのあともA・リアンたちはムキになったように攻撃を続けるがダメージはまるで通ってはいない。
A・リアンたちが、超聖女スーパーセイント結界シールドの防御性能とネーミングのダサさに焦りを見せたその隙を、五所川原Jは見逃さなかった。
「っ! 今だ!」
五所川原Jは手にしていた杖を空中に放り投げて両手を空けると、一気にA・リアン逹に接近し、左右の手をそれぞれ一匹ずつの腹にグッと押し付けた。
「超聖女スーパーセイント結界シールド・聖なるホーリー粉砕クラーッシュ!」
超聖女スーパーセイント結界シールド・聖なるホーリー粉砕クラッシュとは、相手の体に手を押し付けて、そこから相手の体内に高出力のバリアを展開することで、内側から破壊するえげつない技である。
手加減不可能の無慈悲な攻撃であり、決して人間相手には使えない禁忌の技とも言えるものだ。
それを食らったA・リアン逹は、体内に展開されたバリアとネーミングのダサさで肉体を破壊され、閲覧注意な肉塊と化してしまった。
だがこの研究所のカメラにはセーフモードが採用されているため、ライトが見ているモニターではちゃんとモザイクがかかって『見せられないよ!』という文字が表示されているので、ライトがグロ画像を目撃することは防げたようだ。
「ふうっ……。 ライトきゅん! 勝ったよー!」
五所川原Jは、カメラに向かって笑顔で手を振った。 戦いは終わったのだ。
……ちなみに、せっかく格好良く変形した杖は一度も使われなかった。
後にライトは、『床の上に転がっている杖から哀愁が漂っている様に見えた』と語ったと言う。
次回も金曜日の投稿予定です。




