3章 第1話 彼の名はJ
とある病院の一室、ベッドの中で、一人の男が目を覚ました。
「……うっ……ここは……?」
「ん? ……ああ、社長、お目覚めのようですね。 状況は理解できていますか?」
そう言ったのは今ちょうど廊下から入ってきた男……髪をオールバックにセットした強面の男であった。
彼に質問された男……マエザー・ユサック社長はベッドからだるそうに上半身を起こしながら、少し考えて答えた。
「僕は……エリザベスXとの戦いに敗れて……今まで気を失っていたのか?
あれから何日経った? 会社は? ……それに、あの組織との取引は……?」
「やはり少し混乱していますね。社長はあれから一度は目を覚ましていますよ。
ですが見舞いに来ていた社長の婚約者を名乗る女性が、目覚めた社長を見て感極まって力いっぱい社長を抱き締めたんですよ。
全身からパキポキボリぐしゃ! っと凄い音を立てて、社長はまた長い昏睡状態に陥りました。……社長の婚約者は、凄いパワーですね……」
「ああ、そうだった……。思い出したよ、あれは痛かった……。
彼女は生まれつきの特異体質で、実に剛力でね。 職業は女優なのだが、知っている人なら『剛力な女優』と言えば、ああ、あの人! っと分かるくらいに剛力で有名なんだ。
剛力過ぎてアクションシーンの撮影中に、うっかり共演者を殺めてしまいそうになった事もあるくらいだ。
……だが、可愛い所もあるんだぞ? 聞きたいかね?」
「ノロケ話なら遠慮しておきますよ。それより例の組織についてですが……今回社長が物資の輸送に失敗した事には怒ってましたが、期限を延長するからそれまでにもう一度用意すれば不問にする……だそうですよ」
それを聞いたマエザーは演劇やドラマのようにオーバーに肩を竦めるアクションをした。
「やれやれ、偉そうな言い方だねぇ。僕は部下じゃなくてあくまでもビジネスパートナーなんだがね。
……まあいい、もう一度くらいは従っておいてあげようかな」
そう口にしたマエザーを見たオールバックの男は、以前からの疑問を訊ねてみた。
「ところで社長は、なんでテロリストの残党なんかと取引してるんです?
社長は過激な政治的思想とは縁の無いタイプに見えますし、彼らは商売としての利益もあまり期待できない相手です。
正直、オレには社長が手を貸す理由が思い付かないんですがね?」
聞かれたマエザーは、ベッドに腰かけたまま足を交差させて膝を組み、両手を広げて首を傾げる。
キザで演技がかったポーズだが、彼には似合っていた。
(似合うだけで、格好良いとは言っていない)
「分からないかな? ロマンさ、男というのは一度は悪役に憧れるものだろう?
僕は金も名声も美人の婚約者も手に入れた。 そろそろ利益を二の次にしてでもロマンってヤツを追い求めて良い頃だと思わないかい?」
「ロマンの追求……ですか。まあ理解できなくはありませんけどね。
じゃあこれからもあの組織に協力を続けるんですか?」
「ビジネスパートナーをそう簡単に裏切るわけにはいかないだろう?
協力は続けるさ、今はまだ……ね」
含みのある言い方でそう答えたマエザーに、男は更に質問した。
「では……ナーロウ博士の遺産を発見した事も報告するんですか?」
マエザーは、「まさか」と鼻で笑う。
「僕はロマンを追い求めていると言っただろう? 伝説の天才博士の遺産なんてロマン溢れるものを他人に譲るはずがないだろう。
あの組織には悪いけど、彼女たちは僕が手に入れる」
マエザーはニヤリ笑いながらそう答えたあと、スッと笑顔を消して、真顔で男に訊ねた。
「で……君は僕の眠っている間にナーロウ博士の遺産の事を、あの組織に伝えたのかい? ……君達の傭兵団は、僕に雇われる以前からあの組織とも繋がっていたのだろう?」
「……気づいていましたか。確かに我々は彼らともそれなりに繋がりがあります。 で、なぜ彼らに情報を流していないかと言うと……
彼らと社長のどちらかにつくかを考えて、社長につく方を選んだからですよ。……社長の方が金払いが良いので」
男は冗談を言うようにそう言った。 ……半分以上は本気なのだが。
それに対しマエザーは大袈裟に肩をすくめて苦笑いをした。
「僕を選んでもらえるとは嬉しいね。うーん、だけど理由は金払いの良さかい?
そこは人徳や人間的魅力とか言って欲しかったなあ」
「それは失礼しました。ですがオレたち傭兵から見れば、金払いの良い依頼主というのは充分に人徳があって人間的魅力に溢れた存在と言えますよ。
どうか社長にはこのまま魅力的な依頼主でいてもらいたいものですね」
その言葉にマエザーが、「善処しよう」と答えた所でドアがノックされ、医者が入って来た。
マエザーが意識を取り戻した事を知って、様子を見に来たらしい。
「さっそく検査かな? やれやれ、仕事が溜まっていると言うのに……
まあ仕方ない。君は退室していてくれるかい?」
男は無言で頭を下げると、医者と入れ違うように部屋から出ようとしたが、そこにマエザーが思い出したように「ああそうだ」と声をかけた。
「近い内にまた彼女達に会うために出発するつもりだから、君もそのつもりでいてくれよ」
「了解しました。……ですが、まずは社長が無事に退院することですね。
お大事にどうぞ」
そう言い残して退室する男の背中を見送って、マエザーは、検査器具を持った医者や看護師を見てから、「なるほど……違いないね」と呟いた。
ーーーーーー
ライト達が惑星モフ・フモッフを後にして研究所へと帰って来た翌日のこと。
慣れない土地でゴタゴタに巻き込まれたライトはやはり疲れていたのか、昼近くになっても自室で眠っていた。
だがその時、夢の中にいたライトを、至近距離から突然響いた音楽が叩き起こす。
「うわっ!? なにっ!? なんの音っ!?」
飛び起きたライトが見たものは、自分が寝ていたベッドの真ん前に椅子をドンと置き、そこに腰かけながらヴァイオリンを演奏するエリザベスXであった。
「あら? お目覚めかしら、ライト・ノベル。 お疲れでしたらまだ眠っていてもよろしくてよ?」
「いやいや……枕元でヴァイオリンのゲリラライブが始まったら、眠れと言われても眠れないよ」
「まあ! せっかく私が、貴方がリラックスして眠れるようにと思って演奏して差し上げたというのに、眠れないと言うのですか?
そんなに私の演奏が下手だと言うのですか? 失礼ですわね」
「いや、演奏自体は凄く上手かったよ。 でも今の曲ってリラックスするにはアップテンポでパンチがあり過ぎじゃないかな? 一発で目が覚めたよ。
……これ何て言う曲?」
「貴方は『カノン』と言うクラシック曲を知っていますか? あれを私なりにアレンジしたカバー曲で、曲名は『メガカノン・フルバースト』と言いますわ」
「なにその広範囲殲滅攻撃みたいな名前!? アレンジするにもほどがあるよ!」
「あはは♪ 相変わらずのやり取りだねー。やっぱり二人は仲良しだね♪」
笑いながら部屋に入って来たのはミリィちゃんだった。
「朝ごはんにも昼ごはんにもちょっと半端な時間だけど、そろそろお腹空いてるよね?
軽食を持って来たから食べて食べて」
そう言って彼女がテーブルに置いた皿に載っていたのは、一口サイズに切ったサンドイッチだった。
シンプルな玉子サンドだけは分かるが、他は彩りまで考えられた華やかでおしゃれなサンドイッチで、庶民のライトでは見ただけでは具材が分からなかったが、どれも凄く旨そうだ。
「確か好物なんだよね? シェフがモフ・フモッフから色々と仕入れて来たから、出せる料理のレパートリーも増えたんだよ♪
……と言っても私が作ったのはその玉子サンドだけで、他はシェフが作ったんだけどね。
ほら、見比べたら私の作ったのだけ形が悪いでしょ? 少し恥ずかしいかも」
「確かにシェフのは綺麗で豪華だけど、ミリィちゃんの作ったのもなんか温かみがある感じで、凄く美味しそうだよ」
「あはは♪ 良かった~! それじゃあ召し上がれ♪」
「おやおや。せっかくこの私がバイオリンを披露して差し上げたというのに、その横でミリィちゃんとイチャつき始めるとは、礼儀がなっていないのでは?」
冷たい視線でライトを睨みながら言ったそのエリザベスXの言葉を聞いたミリィちゃんは、少し考えてから「あれ?」といって首を傾げた。
「エリザベスX……もしかしてちょっと拗ねてる?」
「私が拗ねる? 何を言っているのですか? 目か頭がおかしくなりましたか?
早めのメンテナンスをおすすめしますわ」
「……んふふ~♪ にやにや」
「その笑いは何ですか? ……ふう、私はもう行きますわ。 では失礼」
そう言うとエリザベスXは部屋から出て行ってしまった。
「あっ、からかい過ぎたかな? それともお客さんとお話してる所に私が入りこんだのが気に入らなかったのかな? ……悪い事しちゃったかも」
「ええ? まさか。 エリザベスXがそういう事で機嫌を悪くするとは思えないよ。 単に何か用事があっただけじゃないのかな?」
ライトがそう言うとミリィちゃんは、少しだけ責めるような目をライトに向けながら言う。
「分かってないなぁ。あんな態度だけど、エリザベスXはお客さんと一緒にいる時間を楽しみにしてるんだよ? お客さんがモフ・フモッフに降りていた日も、『ライト・ノベルは、まだ戻らないのですか?』ってセリフを3回くらい言ってたし……あっ、これは口止めされてたんだった!」
口止めされていた事をさらっと言ってしまうミリィちゃん。 ……だが、これは仕方ないことなのだ。
ミリィちゃんは高い社交性を追求して造られたアンドロイドなわけだが、肝心のそれを造ったナーロウ博士自身の社交性が低かったため、社交性が高い=おしゃべりってことでいいよね? という博士の適当なイメージでプログラムされた部分があり、結果としてミリィちゃんは無意識にポロッと口を滑らせてしまうというミスを一定確率でやらかすように設定されているのである。
なかなかに迷惑な話だ。
「えっと、とにかくエリザベスXはエリザベスXなりにお客さんとお話をしたがってるはずだから、食事が終わったら会いに行ってあげてくれないかな?
あっ、私が口を滑らせたのは秘密にしてね♪」
「わかったよ。俺も彼女と会話するのは楽しいし。 ……まあ、疲れたり気が抜けたりするんだけどね。 じゃあこれを食べたら行ってくるよ」
そう言ったライトだが、せっかく作ってもらったサンドイッチを流し込むように食べてしまうのも違うと思い、しっかり味わいながらも早めに食べるという、やや難易度の高い食事を始めるのであった。
ーーーー
「さて、エリザベスXに会いにいくのはいいけど、どこにいるのか分からないや。
この研究所も広いし、まだ俺の知らない部屋もたくさんあるからなあ……ミリィちゃんに居場所を教えてもらうべきだったか」
独り言を言いながら廊下を歩くライト。
何度か雑用をしているゴブリンロボットとすれ違ったので質問してみたが、「ギャギャ」とか「ゴブ?」とかの言葉しかしゃべってくれないので、会話が成り立たなかった。
「量産機とは言え、あのナーロウ博士が造ったロボットの知能が人と会話ができないスペックとは思えないし、多分また博士なりのこだわりでわざと人間の言葉をしゃべれないように設定してあるんだろうなあ」
ゴブリンロボットの言葉が分からなかったライトは、また当てもなく歩き始めた。
しばらく歩くと、修練場と書かれた部屋の前にたどり着いた。
中から物音が聞こえる。 中に誰か居るようだ。
ライトは中を覗いてみることにした。
入り口の上に飾られた掛け軸には、筆と墨で書いたと思われる文字で、
『毎日は真面目な修業を続けるのは体が強くなれる秘訣でありこの事は素晴らしいです』
というバグったような日本語が書いてある。
多分、翻訳ソフトの変な翻訳をよく確認せずにそのまま書いたと思われるが、ライトはそれに気づくほど日本語に詳しくなかったので普通に素通りした。
意味もなくずらりと並べられた甲冑と茶器と日本刀。 どこからか、ししおどしのカコーンという音が響き、そのくせ所々に中国や朝鮮っぽい模様が混じっているという間違った日本風の修練場。
その中心辺りでクッコローネRが剣を振っていた。
彼女はライトが入って来たことに気づくと、剣を下ろして振り向いた。
「おお、ライト卿! ここで会うとは珍しいな。 もしやライト卿も修業か?
ならば、貴公が良ければ、及ばずながら私が指導役を務めよう」
「修業かあ……ちょっとだけ興味はあるし、クッコローネRが教えてくれるっていうのは魅力的だけど……。 でもゴメン、今はエリザベスXを探してたんだ。
修業はまた今度お願いしようかな」
「う、うむ、そうか。 残念だが仕方ない、では次の機会にしよう」
一度がっかりと肩を落としたクッコローネRだが、すぐに普段の堂々とした立ち姿に戻ると、「少し待ってくれ」と言ってこめかみに手を当てて、数秒だけ動きを止めた。
ライトには分からなかったが、レーダーを起動させているようだ。
「ふむ、どうやらエリザベスXは寝室にいるようだな」
「寝室?」
寝室と聞いたライトは、ここに来た初日に見たエリザベスXの自室にあったベッドを思い浮かべたが、クッコローネR否定した。
「ああ、寝室と言っても人間が考えるような寝室ではなくて、休眠中のアンドロイドたちが居る格納庫だ。 ナーロウ博士は格納庫の事を、『子供たちの寝室』と読んでいたので、つい私もそう言ってしまった。
ライト卿はメンテナンスルームは知っているな? あの部屋の中に格納庫への扉があるのだ。
エリザベスXはそこにいるから、用があるなら行ってみると良い」
「うん、ありがとう、それじゃあ行ってみるよ。
……あ、今度は本当に修業をしに来るから、その時は先生をお願いするね」
立ち去ったライトを見送った後、クッコローネRの口元がふにゃりと歪んだ。
「わ、私がライト卿の先生…… フフフッ、先生か、良い響きだ」
しばらくニヤけた後にキリッと表情を引き締め直した彼女は、先程までよりも力強く剣を構えた。
「よーしっ! 気合いを入れて修業を続けようか! ライト卿から先生と呼ばれるにふさわしい存在にならなくてはな!」
この日は結局クッコローネRは日が落ちるまで修練場にこもっていた。
ーーーー
メンテナンスルームに到着したライトは部屋の中を見渡した。
「扉、扉……あっ、これかな?」
彼はここには何度か入ったことがあるが、室内に溢れる未知の機械の方に気を取られていたせいか、奥にある小さな扉の存在には、今初めて気づいたようだ。
その扉は小さいながらも見るからに分厚く硬そうな金属で造られていて、一目見るだけでもこの先の空間が厳重に守られている事がよく分かった。
「来たのは良いけど……どうやって入ろうか?」
「あら、ライト・ノベル。 こんな所に何かご用ですか? ここは重要施設なので関係者以外は立ち入り禁止なのですが……まあ良いでしょう」
扉の向こうからエリザベスXの声が聞こえると、少し間を置いてガコンと何かが外れたような音に続いて、プシューという蒸気が吹き出すような音を響かせながら金属の分厚い扉が開いた。
「さあ、お入りなさい。 ……ですが、勝手な行動は控えてくださいね」
「えっと、じゃあお邪魔します」
未知の場所に対する緊張と好奇心を抱きながら、ライトは招かれるままに扉をくぐった。
その部屋は薄暗く、素人では何に使うのか分からない数々の装置と人間が入れるサイズの円柱状の透明なカプセルが並んでいた。
奥の物はよく見えないが、手前の方に並ぶ二つのカプセルは空っぽのようだ。
「ここは私たちアンドロイドが長期の休眠をする時に使う部屋ですわ。寝室、もしくは格納庫と考えてください。
その空っぽのカプセルはシェフとミリィちゃんが眠っていた場所ですわね」
部屋の奥の方から声が聞こえた。 ライトがそちらに目をやるとカプセルの前に立っているエリザベスXの姿を見つけた。
彼女は振り向かずに何かの装置を操作しながらライトに問いかける。
「それで何の用でしょうか? これからまた仲間を一人か二人、起動させようとしていたところだったのですが……まあ急ぎではないので用があるなら話くらいは聞きますわよ」
「あー……実は用事ってわけじゃないんだ。ただ君ともう少し話をしようと思ってさ」
ライトがそう答えると、エリザベスXは驚いたように目を丸くして、手を止めて振り向いた。
「……私と雑談をするためだけに来たと? そのためにわざわざ追いかけて来たと? ……貴方はしつこいナンパ男かストーカーですか?
なにやら生理的な恐怖を感じますわね」
「うっ……」
ライトは何も言い返せなかった。
わざわざ追いかけて来てまで、『さあ、雑談をしよう』というのは、確かにナンパやストーカーっぽいと言われれば否定できないかも知れない。
「フフッ、まあストーカー行為にはドン引きですが、そこまで私を求めている……と解釈すれば、まあ悪い気はしませんわね。
その病的に拗らせた情熱に免じて、しばらく雑談にお付き合いしましょうか。
あまり冷たくしたら思い詰めて犯罪行為に走るかもしれませんし」
「……酷い言われようだけど、君の口が悪いのはいつもの事だからまあ良いや。 それじゃあ少し話をしようか。
えーっと、仲間を再起動しようとしてたって言ってたけど、次はどんな人を起こすつもりなの?」
「そこの彼女ですわ。 錬金術師型アンドロイド・エルメスT……生産・加工のスペシャリストですわ。
まあ生産・加工といってもスティーブン舞倉とは得意分野が少し違いますが」
エリザベスXはそう言って一つのカプセルを指差した。
ライトは彼女の指差す方にそのまま視線を動かしていって……
「ぶっ!?」
カプセルの中では、腰まで届く長い白銀の糸のような髪が特徴的な20代前半くらいの美しい女性が眠っていた。 ……全裸で。
真っ赤な顔で急いで目を閉じるライトを見てエリザベスXは楽しそうに言った。
「生真面目ですわね。 チャンスだと思ってじっくり見ても私は文句を言いませんわよ? 本人が目覚めた時にどんな反応をするかは知りませんが。
まあ、女性の裸を見るのに罪悪感があるというなら、後ろ側を向いてください。
そちら側なら目を開けても問題はありませんわよ」
「本当に? そう言っておいて、こっち側にも別の女の子が眠ってるとかいう罠じゃないよね?」
「失礼ですわね、そんな真似はしませんわよ」
「……信じるよ? じゃあ目を開けるよ」
ゆっくりと目を開けたライトの前には、確かに女の子は居なかった。
そう、女の子ではなく、目の前にあるカプセルで眠っていたのは、太った全裸のオッサンだった。
しかもカプセルは微妙に高い位置にあり、ちょうどライトの目線の正面にオッサンの下半身が来る構図であった。
「うわあっ!?」
驚いて後ろに飛び退いたライトは、その拍子に何かの機械にぶつかってしまった。
そしてその機械から、ピッという電子音が鳴る。
「……あ」
珍しくエリザベスXが間の抜けたような声を出した。
「えっ……もしかして今、何かまずいスイッチとか押しちゃった?」
「……私は再起動の準備をしていたわけですが、誰を再起動するかを選択する所で作業を中断していたのです。
……どうやら貴方がぶつかった拍子に決定されてしまったようですわね」
エリザベスXの言葉が終わった直後、ウィーンという音と共にカプセルが開いて行く。
……そう。 太ったオッサンの入っているカプセルが。
「……ふわあぁ~……んー? もう朝ですかな?」
そんな言葉と共に全裸の太ったオッサンが、眠そうに目を擦りながらノッシノッシと重そうな足取りでカプセルから出てくる。
エリザベスXは微妙に困ったような顔で呟いた。
「ああ、エルメスTに起きて欲しかったのですが彼が目覚めてしまいましたか。……あまり今すぐ必要な人材ではないのですが……まあ目覚めてしまった以上は仕方ありませんか」
そう言って彼女はそのオッサンをライトの前に連れてきて、紹介を始めた。
「彼はオタク中年型アンドロイド・五所川原Jです。
一応は私と同じ北斗七星の一員ですわ」
「んー? おたくはわっちの新しいフレンズかな? わっちは五所川原Jだよ、よろぴくね。 ゴッシーって呼んでくれても良いよ」
ゴッシーこと五所川原Jは、ニコリ、というより、ニゴリッ! という感じに笑って、顔の前で横ピースを決めた。
太った全裸のオッサンが、顔の前で横ピースをしながら「よろぴくね」とか言っている光景に、ライトはいきなり顔面パンチを食らったような衝撃を受けた。
だが挨拶を返さないのはマナー違反だと思い、ひきつりそうになる顔をなんとか動かして営業スマイルを作って、「ラ……ライト・ノベルです。よろしく」とだけ返すことになんとか成功した。
この日、ライトの周りに愉快(不快?)な仲間が、また一人増えた。
先週は一度休みましたが、これからはまた毎週金曜日に投稿していく予定です。




