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序章 第1話

 時は星歴(せいれき)0078年 


 政治・ビジネス……そして犯罪や戦争。

 あらゆる物事が、その舞台へと宇宙に移した後の時代の話。今や、多くの分野で労働力として活躍しているのは、人ではなくアンドロイドであった。


 アンドロイドの開発には多くの企業が参入し、ここ数年でその技術は大きく発展したように見えた。

 だが、一般人には公表されていないが、実は現在稼働しているアンドロイドの性能は、初期型のモデルに遠く及ばないのだ。

 いや、厳密に言えば、初期型の中の、()()()()()()()()に……だが。



 アンドロイドを一般向けに売り出したのは、ホリィ・エーモン社長が率いる、ライブゲートという会社であり、その年商は十年以上の間、業界トップであった。

 だが、技術の分野でトップに居たのはライブゲートでは無かったのだ。



 ショウ・セツカ・ナーロウ博士。


 彼こそがアンドロイド開発技術の最高到達点に立つ人物であり、常人には理解できない謎の新技術を扱う事から『異世界の賢者』と呼ばれた天才博士である。


 彼は、予め用意された特定のプログラムを何度も流用する『テンプレ式』と呼ばれる方式を採用し、大幅なコストダウンと大量生産を可能にしたのだ。


 また、生産量だけを重視しすぎて品質が下がる事を避けるため、選ばれた数人のモニターに試作品を無料で貸し出し、そのモニターからの評価をダイレクトに反映させる『ポイント評価システム』を導入。低評価のモデルは凍結された。


 余談であるが、その凍結された低評価モデルの処分を担当していたのは、博士の助手であるコーシン・エタル氏であり、彼の名前から、プロジェクトが凍結される事を『エタる』や『エタった』等と表現するスラングが生まれ、一部の層がよく口にした。



 業界では有名であったが、アンドロイド技術に興味を持たない一般人にはあまり知られていなかったナーロウ博士の名が世界的に有名となった切っ掛けは、やはり、クーデターの鎮圧だろう。



 宇宙空軍大佐・アラシ・クレームメール。


 この男が『魔王』を名乗り、武装勢力を率いてクーデターを起こしたとき、ナーロウ博士が戦地に戦闘アンドロイド部隊を投入したのだ。

 このアンドロイドは、通常時は平凡な性能であったが、一度機能停止したあとで大幅にバージョンアップされて復活する『転生システム』が実装されており、戦場で猛威を振るった。


 そして戦争は、魔王アラシの居る宇宙要塞に突入した博士の秘蔵の一体である、勇者型アンドロイド・タロウDSが、自爆装置『アニメカ』を発動させ、アラシと共に盛大に炎上、爆死した事で終結した。


 これは星歴24年の事、つまり50年以上前の話なのだが、現在のアンドロイドのスペックは、量産品であるテンプレ式は越えたものの、転生システム実装機には及ばず、勇者型にいたっては構造の一部すら解析できていない状態である。

 ここまでの話だけでナーロウ博士の技術がとてつもない物だとわかるだろう。



 ……だが、いつの世も目立ちすぎた天才は、凡人の嫉妬を受けるものである。

 ナーロウ博士は、冤罪や悪評などをでっち上げられ、住んでいたスペースコロニー『ユーシャパー・T』から追放されてしまったのだ。


 「なあに、別に構わんさ。 辺境コロニーか開拓惑星辺りでのんびりスローライフでもして生きてゆくだけじゃ」


 そう言って笑って追放を受け入れたナーロウ博士だったが、乗っていた宇宙船の事故で助手のエタル氏と共に死亡し、望んでいた第二の人生を送る事はかなわなかった。

 ……そもそも、この事故が本当にただの事故だったかも不明なのだが。


 様々な国や組織が、無理やりこじつけたような理由で正当性を主張し、博士の研究を奪い取ろうとしたが、博士の研究所の中枢部分は、博士の死と共に宇宙に射出されて何処かへ消えてしまった後であった。


 かろうじて回収できた僅かなデータから作り出されたアンドロイドはそれなりのスペックを見せたが、所詮ナーロウ博士が作ったモノのコピー品に過ぎず、事情を知る者達はこのコピー品をナーロウ博士の模倣品と言う皮肉を込めて『ナーロウ系作品』と呼んだ。


 これらはショウ・セツカ・ナーロウと言う人物が偉大な科学者であったと示す多くの逸話の内の一部だ。

 そして、ここまでは史実であり真実である。


 だが、ナーロウ博士に関わる話には、根拠は無いが説得力はある噂……

 いわゆる都市伝説のような話もいくつかあるのだが、その中で最も多く話題にされるものに、こんな話がある。


 ナーロウ博士の秘蔵のアンドロイドであるタロウDSの胸元には、7という数字があった。

 もしそれがシリアルナンバーならば、同程度のスペックを持つ兄弟機が、最低でも6体あるのではないか? 宇宙に打ち上げられた研究所には、残りの6体が隠されているのではないか? と言うものだ。


 とはいえその噂は、可能性は否定はしきれないが、信憑性は低く、所詮は都市伝説の範疇から出ない、ただの噂話と思われているのだ。 ……そう、今はまだ。





 ーーーーーーーー



 「え……  えっ!? 出航してる? 嘘っ!?」


 少年は困惑していた。

 アルバイトで宇宙船への荷物の搬入を手伝っていた彼は、間違えて別の船に荷物を運びこんでしまった。

 そしてその後船内で迷子になっている内に、どうやら宇宙船が出航してしまったようだ。


 実は、手伝う予定の船が搬入作業をしていたタイミングで偶然この船も搬入作業をしていたため、船員に呼び止められる事もなく入り込めてしまったのだ。

 そして更に偶然だが、この船の乗組員が作業着として着ているジャケットと少年が着ていた私服のジャケットが似た色合いだったというのも、船に入り込めた理由だったかも知れない。

 ……誰にも止められずに入り込んだ事が、幸か不幸かは別の話だが。


 「普通はこんな事が無いように、出航の前に細かい検査とかをするはずなのに……よっぽど急いでいたのかな?」


 出航前の検査は犯罪の防止や治安維持の為に行っているものであり、急いでいるから行わないでよい、などという話では無い。

 つまり、検査も無く出航した時点でこの船は怪しいのだが、少年はそれに気付いていなかった。



 「密航だと思われない内に事情を説明しなきゃ……。

 あと、宇宙服も借りたいよなぁ、この船は生身の人間が生きられる環境に調整してあるみたいだけど、やっぱり宇宙服なしで宇宙に出るのは心細いし」


 少年が、間違えて荷物を運び込んだ倉庫から出て通路を進んだ先の部屋に入ると、その中には複数のコンテナが乱雑に置いてあった。


 「お邪魔しま~す。……あれ? ここも倉庫なのかな? でもこっちの部屋は物の置き方が雑だなぁ。

 まあ事故とは言え、不法侵入した身で文句を言うなんて何様だって感じだけどさ」


 少年がキョロキョロと辺りを見回すと、フタの開いたコンテナが数個並んでいるのが視界に入った。 少年は興味を引かれて、そちらへ近づいて行く。

 もし、フタが閉まっていたならわざわざ開けようとは思わないが、フタの開いている物を覗きこむくらいは許されるだろうと思ったからだ。


 「どれどれ、何が入ってるのかな……  えっ!?」


 少年の目が驚きに見開かれ、額に汗が一筋流れる。 そこに入っていたのは、こんな民間業者の船に積まれていて良い物ではなかったのだ。


 「銃……それに重火器。 こ、こっちは戦闘アンドロイドの予備パーツ!? なんでこんな物が……」


 今までの人生で一番の驚きを感じた少年だったが、直後にそれ以上の驚きを感じる事になった。

 ……コンテナのフタの内側に、あってはいけない刻印を見つけたからだ。


 「う、ウソだろ!? 赤い封筒に×マーク…… アラシ・クレームメールのシンボル……!」


 そう。それは、かつてクーデターを起こし、十二のコロニーを占領し、魔王とまで言われた男……。

 アラシ・クレームメールのシンボルであった。


 呆然としていた少年であったが、ある音に気づき、ハッと正気に帰った。


 (電子ロックを開けた音!? 二つ隣の部屋くらいかな……)


 先ほどは、乗組員を探して話をしようと思っていた少年だったが、明らかに密輸と思われる武器に、テロリストのシンボルまで見てしまっては、もはや乗組員と話し合いをしようとは思えない。

 状況から考えるとここの乗組員は、良くて密輸業者、悪ければテロリストの一員なのだ。どちらであっても真っ当な相手ではないだろう。


 少年は、とっさにコンテナから大型ハンドガンを取り出した。

 通常の小型ハンドガンでは心細いが、それ以上大きいアサルトライフルなどは使いこなせないと思っての選択だ。

 どちらにせよ人に向けて撃てる自信など無いが、勇気をくれるお守りという程度の意味はある。

 そう思ってそれを懐に入れ、少年は物陰に隠れた。



 やがて、数人の足音と話し声が近づいて来て、ついに少年が隠れるこの倉庫のドアが開いた。


 「社長、こっちです。物資はここに運び込んであります」


 「どれ。……むっ! 随分と乱雑な置き方だな、もう少し整理して置けなかったのか?」


 最初に入ってきたのは、とても一般人とは思えない威圧感がある男だ。

 日常では見ることの無い、素人目にも理解できるほどの物騒な気配に息を飲んだが、少年が本当に驚いたのは、二番目に部屋に入ってきた男…… このゴツい男に『社長』と呼ばれていた男を見た瞬間だ。


 その男は、大富豪として、そして、世間を騒がせる名物社長として、多くの人間に名前を知られている著名人だったのだ。


 (えっ!? あれは、JOJOTAWNの社長の、マエザー・ユサック!?)


 ガツッ! という音が、室内に響く。

 あまりの驚きに後ずさりした少年の足が、コンテナの角に当たってしまったのだ。


 (うわあっ! ドジった!?)


 「っ! 誰か居るのか!?」


 マエザー社長の焦ったような声が飛ぶ。

 ……今は、姿を見られていない。だが、このまま隠れていてやり過ごせる状況とも思えない。

 少年は覚悟を決めた。


 (部屋の入り口までは、俺の方がずっと近い。行けるはずだ!)


 少年は、深呼吸を数回した後、入り口に向かって一気に駆け出した。


 「いた! あそこにガキがいる!」


 柄の悪い怒鳴り声に、少年は畏縮(いしゅく)してしまいそうになるが、歯を食い縛って耐え、とにかく少しでも速く走る。

 幸い、少年の足は速い。本格的に陸上競技をやっているわけではなく、あくまでも同年代の平均より速いという程度だが、それでも何とか男たちに捕まる前に部屋を出ることには成功した。


 (閉じろぉ!!)


 部屋から出ると、即座に開閉ボタンを押し、ドアを閉める。

 少年にとって幸運だったのは、このドアは閉めるのは誰でもできる事と、閉めるとオートロックがかかる事だろう。

 この船の乗組員である追跡者たちは、当然カードキーを持っているが、懐からそれを取り出し、そして機械がそれを認識するまでの時間は、少しでも遠くに逃げたい今の状況では、かなり大きな価値がある物だ。


 逃げている最中、廊下の途中で外の様子を映し出しているモニターが取り付けられていたので、確認すると、この船はすでに宇宙空間まで達しているようだ。


 これで少年の取る手段は二つになった。

 あいつらの部下になる事を誓って命乞いするか、脱出用の小型機か何かを盗み出して宇宙空間に逃げ出すかだ。


 だが、どちらも成功率は極めて低いだろう。

 前者は、著名人がテロリストと繋がっているなどという秘密を知ってしまった厄介な存在。しかもずば抜けた特技があるわけではなく、仲間にするメリットも少ない。

 そんな人間が部下になるから助けてくれなどと言って、見逃してくれるかと言えば、望みは薄いだろう。


 ならば後者はどうかと言えば、まず、小型機を見つける事と盗み出すという事の時点で簡単ではない上に、宇宙空間に逃げたとして、そのあと無事に何処かにたどり着くことができる保証も無いのだ。


 絶望的だ。だが後者の方が可能性が高いのでは? 少年はそう思った。

 なぜなら、出航した時間から考えてまだここは少年の住んでいるスペースコロニー『オレッツ・A』から、まだそれ程離れていないはずだからだ。


 居住用コロニーの周辺は、パトロールの小型偵察機や、コロニー間を繋ぐ定期便が飛び交っている。例え宇宙を漂流したとしても、発見されて救助される可能性は低くない。


 少なくとも小説投稿サイトで初投稿で日間ランキング一位になる確率よりはずっと高いはずだ。

 ほら、だってアレって本当に無理っぽいし。



 (思い出せ……確か、ガレージは後方の上部にあったはず……! 俺が入った搬入口は側面下部だったよな? そこから逃げながら走ったルートを考えると、進むべき方向は…… こっちだ!!)


 少年は全力で走る。

 途中、足音や話し声などを敏感に聞き分け、人間と遭遇しないように逃げながら、上手くガレージ部分を目指し、駆け抜ける。

 ……だが、絶体絶命の状況が訪れるまでは、長くはなかった。


 「こっちだ! 逃がすな!!」


 後ろから追跡者の怒号が聞こえて来た。そして、前の部屋からは、オーディオ機器から楽しげな音楽が流れていて、室内に人が居るのは確実と思われる。

 ……隠れる先は横にある小部屋しかない。たとえ、すぐに見つかってしまうと理解していても。


 (たのむ! この部屋に、何か状況を変えられる物があってくれ!)


 祈りながら小部屋に駆け込んだ少年は、即座に中を見回すと、非常用の脱出装置を見つけた。

 幸運といっても良いだろう、だが、少年は躊躇(ちゅうちょ)した。

 なぜなら、非常用脱出装置の脱出ポッドは操縦できるタイプではなく、本当に脱出するためだけの物だったからだ。

  これで脱出して誰からも回収されなければ、永遠に宇宙空間を漂い続ける運命となる。


 (他に方法は無い! 大丈夫……きっと大丈夫だ、こういう物には救難信号を送る機能くらいはついているはずだ。それを使えば偵察機辺りが見つけてくれる!)


 脱出装置の横に備え付けられたケースの鍵を先程持ってきたハンドガンで壊し、その中にあった宇宙服を手早く着る。

 機械が自動で着替えをアシストしてくれるタイプだったおかげで、装着は問題なく済んだが、ケースの鍵を壊す時の銃声で居場所はバレただろう。


 もう、もたもたしてる暇は無い。

 少年は脱出ポッドに乗り込み、射出ボタンを押す。丁度その時、部屋にさっき倉庫で見たゴツい男が入ってきたが、ギリギリのタイミングでポッドは宇宙へと射出された。


 「よしっ! 取り敢えず、脱出は成功してっ……!?」


 ガツン! と何かがぶつかる音がポッド内に響き、少年は衝撃を感じた。

 瓦礫か何かが当たったようだ。だが幸い大きな損傷は無いようだ。


 この時はそう思っていたが。 だが少年は後になって、重大な損傷があった事を知る。



 「えっ…… なんで? 嘘だろ!? 救難信号が出せない!? ……つ、通信機能が全部死んでる……」


 少年は、しばらく呆然としていた。 救難信号はおろか、その他の通信も送れないと言うことは、本当に偶然、何者かが発見してくれる以外に助かる道は無いと言うことだ。


 「あ……あははっ……」


 少年は力無く笑ったあと、絶望に震える指先で、コンピューターを操作する。

 ピッ、という電子音と、何かが起動する音が鳴り始め、少年は半泣きの顔で僅かに安堵した。


 「……良かった。この機能は壊れていなかった……」


 少年が起動させた物は、所謂(いわゆる)、コールドスリープ装置だ。

 長期の宇宙漂流の肉体的、精神的な消耗を軽減するため…… そして、救助されなかった場合、せめてそのまま恐怖も苦痛も無く死ねるように……という意味もある。


 宇宙を漂う金属の揺りかごの中、少年は静かに眠る。

 大きな絶望と、ほんの僅かな希望を胸に抱きながら。





 ーーーー その後…… 宇宙のとある場所にて……



 「……あら? これは脱出ポッドですわね。中身は…… まあ! 生きた人間ですか、これは都合が良いですわね。

 フフッ、さぁ貴方。 この(わたくし)が助けて差し上げますわ。

 ……ですから、その代わりに…… 少々、私たちの役に立って貰いますわよ?」

本日17時くらいにもう一話投稿します。

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