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一生に一度のオーディション

作者: あきらさん

サクッと読めるショートショート作品です!!

「何で今日に限って……」


 いつも寝坊なんかした事ない僕が、オーディションの当日に寝坊してしまった。

 飛び起きた僕はトイレに駆け込んだ後に急いで着替え、身支度もそこそこに家を飛び出した。

 オーディション会場まではここから約1時間。

 今からだったらギリギリ間に合う。

 駅までは全速力で走れば5分で着く。

 8時の電車に乗れれば何とか9時のオーディションには間に合うはずだ。

 僕は一生に一度のこのオーディションの為に4年間の全てを注いできたんだ。絶対に遅れる訳にはいかない。


「……たい……い……痛い……」


 僕が歩道を全力で走っていると、前の方でお婆さんがうずくまっているのが見えた。

 近づくにつれてお婆さんの声が大きく聞こえてくる。


「痛い!痛い!痛い!」


 だ……大丈夫か?

 明らかに苦しんでいる様子だった。

 周りには僕以外誰もいない。

 今、お婆さんを助けられるのは僕しかいなかった。

 しかし、ここでお婆さんを助けていたらオーディションには絶対に間に合わない。

 そう思いながらも僕は走るスピードを若干ゆるめ、お婆さんの横を通りすぎる時に前から様子を確認した。

 両手を地面につきながら苦しんでいるその姿は、人の助けなしではどうにもならなそうな雰囲気だった。


「大丈夫ですか、お婆さん!」


 立ち止まって駆け寄ったこの瞬間、僕は人生の全てを懸けていたオーディションを捨てた……

 お婆さんはお出掛けをする所だったようで綺麗に着飾っていたが、額には汗が滲み出ていた。


「痛い痛い痛い」

「どこが痛いんですか? 救急車呼びましょうか?」


 僕の問い掛けに気付いたお婆さんは僕の顔を見上げて首を横に振った。


「救急車は呼ばなくて大丈夫です。ありがとうございます」

「大丈夫ですか? どこが痛いんですか?」


 苦しそうにしているお婆さんは僕の手を握り、壁の方に寄り掛かりたいと言った。

 僕は肩をかしてあげてお婆さんを壁に寄り掛けた。少し背中をさすってあげながらお婆さんの様子を見つつも、心の中ではオーディションに間に合わなかった絶望感と戦っていた。

 遊ぶ事をやめて食事制限もし、バイトをしながら毎日コツコツ努力していたのに……

 苦しんでいるお婆さんを目の前にしても、僕は悔しくて悔しくて今にも泣き出しそうだった。


「みず……何か水のようなものを持っていませんか?」


 急いで家を飛び出した僕が水など持っている訳もなく、辺りを見回してみると道の向こう側に自販機があるのが見えた。

 自販機で買ってきた水をお婆さんに渡すと、ゴクゴクと2、3口勢い良く飲み、やっとの事で落ち着いた様子だった。そして一息つくとお婆さんはゆっくりと喋りだした。


「親切にありがとうございます。助かりました」

「いいえ。それよりも大丈夫ですか?」


「大丈夫です。ただの口内炎ですから」


 僕はこの時、強炭酸のレモンスカッシュでも買えば良かったと心から思った。

最後まで読んでいただきありがとうございます!あきらさんです!!

これは思いつきだけで書いた作品ですが、楽しんでいただけたでしょうか。

また次回作も宜しくお願いします!!


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