第五弾・ブラック・アウト
Hand in Handに登場する女性キャラ、橘莉桜の軍人時代のストーリ。
某乾燥地帯国で行われた戦争を題材にして、それをHIHの世界観に当てはめてぶっ飛ばす予定。
同作品登場スナイパー、片ノ坂音遠もロシア軍として登場する(橘は米国レンジャー連隊)
予定としては戦争らしい戦争にしたいがどうしていくかはその時の気分次第でしょうねw
他作品と共に進めていきたい
その一室には眩しく、乾いた日差しが差し込んでいた。
お世辞にも綺麗とも言えない一室の中でしかし、それに反した綺麗なクラシックが日差し同様に乾いた空気を振動させている。
時刻はまだまだ朝になって久しいと言ったところか。しかしこの地区の位置、環境のせいか既に日は高く、日差しも嫌という程に地面を焼いている。
室内だというのに直射日光を全身に浴びているような鬱陶しさを感じる。ここが日本であればさぞジメジメした空気だったろうが生憎とここは日本ではない。そこから遠く離れたとある発達途上国だ。
地域故に乾いた空気と目に見えた水不足。そしてその環境から生まれる人間はみな肌が黒い。差別するつもりはないのだがやはり白い肌を持つ米国人と薄黄色の様な肌の日本人とはやはり得られる印象が変わるというものだ。
だがそんな現地民である人間らに対しても、夜間勤務に当たっている者を除いた、今頃惰眠を貪っているであろう全ての彼らは特段差別的な考えを持っている、というものは少ない。
職務柄、と言えばいいのか多くの国を行き来する彼らからすれば肌の色や人種などは気にするものではないのだろう。慣れというものだ。
その一人である彼女は、とても女性とは思えないズボラな格好のまま寝息を立てている。丈をあえて短くしているのか肌にぴっちりと張り付き、その平均よりは多少発育の良い胸を強調するタンクトップ。その下は下着を曝け出している。
この熱地だ。熱さゆえに睡眠時くらいは肌を出したい気持ちもわからないでもないが冗談でも淑女らしい振る舞いとは言えない。
格好だけでなくその周辺もそうだろう。
石造りの日に焼けた部屋の中には使用済みの下着が散乱されており、洗濯後の衣服も乱雑に椅子だったりベッドだったりに放られているだけだ。これでは区別もつくまい。
「ん……」
突然部屋内に大きなベル音が響いた。どうやら古い型の目覚まし時計のようだ。
この部屋には家具らしい家具はない。必要最低限にベッドと机、椅子があるだけである。先ほどから流れるクラシックもどこか別のとこから流れているようでステレオ機器は見当たらない。申し訳程度に、ぐらいの気持ちで目覚まし時計を置かれているのだろう。
そしてその少ない家具の一つであるベッドで彼女は寝息を立てている。いや、立てていた、だ。
彼女、橘莉桜は如何にも面倒くさそうに寝返りを打って、親の仇のような目つきと勢いでその目覚まし時計を叩いた。瞬間けたたましかったベル音は息の根が止まるように停止した。同時に時針と秒針も止まった。完全に壊れた。
「んだクソ」
どうやら彼女は寝起きが悪いらしい、忌々し気に舌を打ってゆったりとした動作で体を起こした。そしてまた面倒くさそうに舌を打ちながら頭を掻きむしる。
その首筋にはやはり気象的問題か、汗が流れている。寝起きで汗浸りでは彼女でなくとも不機嫌になるだろう物だがしかし、やはり彼女の性格的問題もあるだろう。
「タチバナ少尉!お時間よろしいでしょうか!」
すると目覚まし同様突然部屋の出入り口である扉が勢いよく開けられた。
少しだけ発音がおかしい声だ。彼女の名前が日本のそれなのだから難しいのだろうが。
そこには一人の若い男が立っていた。無駄の少ない体躯を黄土色の迷彩服と同色のブーツで包み、部屋に入るや否や即座に彼女へ向けて敬礼をする。その肩には米国を象徴する星条旗が描かれたバッジが縫い付けられている。
だが直ぐに彼は気まずそうに慌てて顔を逸らしてそれを誤魔化すように喉を鳴らした。部屋に入って目の前に半裸の人間、それも女性がいれば誰でもそうなるだろう。若い男であればなおさらだ。
彼女、橘は美人と言って良いのかわからない顔立ちだが魅力的な体をしているとは言える。女性にしては高めの体躯に平均よりは少し大きめな胸。そして今は露わになっている太ももは白く、それでいて太過ぎず細過ぎずとバランスもとれている。男からしたらかなり魅惑的だろう。
だがそれを台無しにしているのは見たままのズボラさと常に苛立ったような目付きの悪さにあるだろう。その目付き通りに彼女の性格は荒いの一言に尽きるし暴力的だ。恐らくそれが無ければ、品のない表現だがモテた事だろう。
しかし当の本人である橘はそんなの気にもせず欠伸をするように大きく伸びをしながら口を開いた。そのような仕草をとると格好のせいもあって胸が強調されて男は更に気まずそうに顔を伏せた。どうやらかなりうぶな質らしい。
「なに?どしたの軍曹」
言われて彼は慌てて再度敬礼の体勢を取って恐縮だとばかりに背筋を伸ばした。
「はっ!お言葉ですが自分は上等兵です!」
「知ってるよ。あとお前硬い。アメリカは自由の国謳ってんだ。もっと肩の力抜け。つってもまあここは祖国じゃあねえけどな」
言いながら彼女はベッドに座ったまま脇に置いてあった衣服、男同様に黄土色の迷彩服に足を通した。
それに安堵したのか気まずさが消えた表情で敬礼の解いた。
彼女はブーツの紐を弄りながら彼に説明を促すように鼻を鳴らした。
「起きて早々申し訳ないですが仕事です」
「仕事?当直じゃないの?」
「はい。今日は『現場』です。恐らく戦闘になるものかと」
「あ~オケ」
橘はブーツを履き終えて立ち上がり、椅子に掛けていた迷彩服の上着を手に取った。彼女はそれを勢いよく振ってその流れで腕を通す。彼女のその迷彩服にも男同様に米国を象徴するバッジが縫い付けられている。
言うまでもないが彼女らは軍人。米国陸軍の現地駐屯隊の一つであるレンジャー連隊だ。
今現在は乾燥帯国である某国にて警護、あるいは現地正規軍との共同作戦のために米国より出兵中だ。今彼女がいるこの部屋もそのために用意された駐屯地内にある貸し部屋である。
その中で彼女、橘莉桜は少尉の階級を与えられている。
高い階級とは世間的にも軍隊的にも言えないだろう。だがその年齢を考慮すれば瞠目するべきだし何よりその実力は階級を置いて行くほどに極めて高い。
上官をよいしょと持ち上げて出世した者はもちろん、地道に経歴と結果を積んだ一平の生真面目な、それこそ目の前の男のような兵士でも、彼女を刮目して見る事だろう。
それ程までに彼女は強いのだ。軍人だと表現するのが申し訳ないまでに。
だがしかしやはり彼女は軍人である。
規律など気にも留めない彼女でも仕事としては当直だろうと警護だろうと、そして、戦場だろうと果たすだろう。それが軍人だ。
そして軍人の仕事は、つまりは任務だ。
彼女は任務を無碍にするなどと言ったことはなかった。上官からの命令、だからだ。
さすがにこの時代だしこの世界だ。上官の命令を無視して銃殺に処されるなどと言ったことはないけれどやはりそれなりの処罰が下るものだ。それを恐れているわけではないだろうが軍人としての気位か、あるいは祖国である米国への愛情か。彼女は命令とあらば誰であっても銃を向けてきた。殺してきた。
そして彼女、橘莉桜はその命令の度に目付きの悪い顔で不遜にも、不敵にも、皮肉にも笑いながら言うのだ。
「それじゃあ行こうか。ピクニックの時間だ」




