第三弾・『壊れた街』
本作は『一ノ瀬明と俺との強制的な名推理』と『HOPE』の番外編になります。一ノ瀬(ryに登場するたっくん目線です。
第四弾・『囲われた街』との同時進行ストーリでもあり、時系列的には瀬戸大輝シリーズ(Hand in Hand)で最も過去のストーリーとなります。
内容は推理メインのアクション、人間対人間を題材にしています殺人物ですw
上手く事件などの展開を作れるように勉強しなければですねw
「君はこの世界をどう思う?」
ふと目が覚める。
ここはどこだったか。どうやら座って寝ていたらしく体が重く、痛い。
いやそれ以上に暑い。今はまだ春だと言うのに真夏のようじゃないか
顔を起こして周りを見渡す。しかしやはりここがどこだかわからない。
記憶を辿ってみるが見覚えのない場所だ。
見た所屋内であるのは見たままである。レンガ造りの様で無骨な壁質。そこに寄りかかるようにして座っている。
そして異様なのはレンガ造りの壁だけではない。その壁、幾個にも巨大な歯車が設置されている。
だが何故か回っていない。動こうとして軋む音を鳴らしてはやはり軋むような音を鳴らして元の位置に戻る。その動作を延々と繰り返していた。
しかし石造りは通気性が悪いと聞くがまさか春先にこんな暑くなるものなのか。さすがにここに長時間居続けたら体調を崩してしまうだろう。
一旦立ち上がってもう一度周りを見渡してみる。しかしやはりわからない。
いや?そうでもないのか?少しだけ見覚えがある。
確かここは、ほんの一時期だけだが昔通っていた高等学校ではなかったか?それの時計塔。当時一度だけ忍び込んだことがあるのだがその時に見た内装とどことなく似ている。もちろん歯車が狂っている、という事はなかったけれど。
しかし何故こんなところにいるんだろう?今更高等学校に用がある歳ではないしそもそも本の一時期しか通っていなかった高等学校に出向くほどセンチメンタルな性格でもないと思うだが。
そもそも記憶がない。確か自室で仕事をしていたと思うんだけれど。うーん。
「この世界は君にとって何だ」
……
びっくりした。
突然。正しく突然。この空間に声が響いた。
当然誰もいない。だと言うのに声が響いた。しかもなんだ?何だか空間全体に響くような、それでいて耳元で囁かれる様な、いや、頭の中に直接語り掛けるような。
こいつ、直接脳内にっ!
……ふざけている場合でもないか。ないのか?
しかし何だろう?どうすればいいのだろうか?見た感じはここは時計塔の中。それの螺旋階段の上だ。こんな所で寝ていれば例え枕があったとしても体を痛めるだろう。
それにしても忍び込んだ時も思ったのだが異様に広い。そんな金があったのならもっと学業的設備に回すべきだったと思う。確か少なくとも当時は飲用の水道がなかったはずである。今はどうか知れないが誰も見やしない時計塔なんかに金をかけるくらいならそっちを優先すべきだと思うのだ。
……今更興味もないけれど。
しかしどうすべきだろうか?全く身に覚えのない場所で目が覚めた場合、人間はどうするべきだろうか?
はて?さすがに経験がないな。いやあったか?確か蓮縫さんに拉致監禁された時だって似たような物だったかもしれない。
逃げるにしたってあの声が気になる。寝ぼけていたから聞き間違い?幻聴か?いや寝起きは悪くないと自負がる。目覚めて直ぐに早口言葉を言える自信だってある。さすがに嘘だが。
試しに話しかけてみようか?いや他人に見られていたらさぞ悪い風に記憶に残ってしまうだろうし最悪通報されかねないがしかし幸い周りに人はいない。いや?むしろ通報してもらえればここから出られるじゃないか。なんてことだ。何故このタイミングで誰もいない。
……。
時計塔の内部に人がいる時点で恐怖だと気付く。馬鹿だなぁ。
ん?でも誰もいない。であればあの声は?やはり聞き間違い?なんだ。案外寝起きが悪いんじゃないか。新たな発見として帰ったら日記に記入しておこう。
……だからどうやって帰るんだよと。
いやもしかしたら下まで降りればあるいは出口かも知れない。そう思って階段の、手摺も付いていない危険極まりない階段から下を覗いてみる。
ふむ。おかしい。どこまでも続く闇である。どういう訳か階段のすぐ下ですら全く見えない。文字通り闇である。暗弱ってこういう意味だったのか。違うか。正確には愚かであることを指す。あるいはやる気がないなどにも。
うーん。
二度寝したら目が覚めるのだろうか?またここで目が覚めたら自殺する自信があるが。
うん。二度寝する前にやっぱり試しにさっきの声に話しかけてみよう。声に話しかける。狂気的だ。
「えっと。どなたでしょうか?」
先ずはこんなものだろうか?まずは名前とか教えてくれればコミュニケーションが取りやすい。
「ふむ。名前を言えばいいのかな?そうだね。ここはあの少年が言っていたように『魔女』とでも名乗ろう。そう呼んでくれて構わないよ」
少しの間を開けると少し悩むような口調の声がまたこの場に、もとい頭の中に響いた。やはり聞き間違いでもないらしい。どうなってるんだろう。
しかし魔女と呼ばれているのか。そのあだ名を考えた少年とやらは絶対性格がねじ曲がっていると思う。
しかしこんな脳内に直接語り掛けるような芸当が出来る時点で普通の人間ではないのだろう。ここで驚かない辺り、自身の鈍感さに少し辟易する。
だがここで唯一の語り相手である魔女さんの機嫌を損ねるわけにも行くまい。何としても会話を取り持ってここから出してもらおう。流れ的にここに連れ込んだのはどうせこの魔女さんだろう。物語的に考えればそうだ。
しかしどうでも良い話。かなり読書家な自信があるのだが、いや乱読派なのだけれど最近の小説はどうしてあんなに少年少女に超能力が宿るのだろう。もしそうなれば世界バランスなど崩落してしまうだろうに。年単位で仕事がなくなりそうである。機械化が進む世の中の次が人体化、とか。ああそれだったら仕事はむしろ増えるのか。逆に機械の活躍の場がなくなるので発明した人たちは枕を濡らすのだろうか?少し興味があるな。誰かそう言う本を出してはくれないだろうか?絶対誰も買わないと思う。
ふむ。しかし何の話題を振ろうか?下手に「ご趣味は」とか聞ける雰囲気でもないだろう。まあありきたりに現状の確認でも行ってその後はその時に考えようか。
「えっと。じゃあ魔女さん。ここはどこでしょう?いやここがどこなのかは心当たりがあるのですがしかし、何故ここに連れてこられたのでしょうか?」
「特段理由はないよ。ただ君の物語を観察するのが私の役目なだけ。もうこれでどれ程になるのか、一億と八千回目だろうか?いやまあ良い。繰り返すが特段理由はない。なるべくしてなっただけだよ」
無茶苦茶じゃないか。理由もなくこんな場所に連れてこられたなど勘弁してくれないか。暇人を自称してこそいれ、実際に暇な人間は実際問題少ないと思う。
しかし物語。物語性。ふむ。何のこっちゃ。
そして一億と八千回。
そして観察。
確信。
魔女は電波である。
なるほどこれが最近流行の『中二病』だろうか?声の感じでは下手すれば年上なのだがどうも本気で言っている感じがして止まない。いや冗談で言っていると中二病にはならないのか?やはり中二病か。
だがこんな場所に連れてくる事や階下が全くの闇に包まれている事、そして何より、この声はどうやっているのだろうか?まさかそう感じているだけで実は耳の裏にスピーカーでも付いているとか。
「探したってスピーカなんて出てこないよ」
……心を読まないでもらいたい。
うーん。もしかしたら本物かも知れないぞ?
そもそもスピーカが付いていたりなんかしたら小型であってもさすがに気付くか。
ではやはり本物?超能力者って本当にいたんだ。
いや一度本物にあったことはあるのだけれど。
「えっと。じゃあ次の質問です。良いですか?」
「構わないよ」
「先ほどの質問の意味は?」
先ほどの質問。正直聞き間違いである可能性もあるが確かこう言っていたはずである。
「『この世界をどう思う?』『この世界は君にとって何だ』だったね」
そう。心を読んだようなタイミングで魔女さんは繰り返してそう言った。やはり心が読めるのか。プライバシーの概念が根底から覆りそうである。
しかし意味が分からない。
世界をどう思う。世界情勢や経済事情などだろうか?仕事で関わったりもするが正直あまり詳しくはない。だからそう問われても分からないな。
次。君にとって世界とは何だ。……ここで世界は俺の庭だとか言えたらカッコいいんだろうが。生憎そこまで征服欲はない。せいぜい自室くらいはそう思っている程度だろう。
だったら何だろう?地盤とかだろうか?わからない。
「そのままの意味さ。わからないかな」
「はあ……。まあわからないですね。説明を求めても?」
「いや、それは却下だ。ここで私が説明したとしても意味がない」
強敵だ。いたなぁ学校の先生に説明じゃなくて形式しか教えない先生。結局その回はみんな赤点で何かしらの対処が下ったと噂で聞いたが元気にしているのだろうか?名前も覚えていないけれど。
しかし質問の意味が分からなければ答えようがないぞ?いや物理的な物ではないのか?あくまでも心理的な物の事か?だったら答えは簡単である。
住処。
……
物理的だった。
「まあ今はわからなくてもいいよ。『最後』にわかる」
少しだけ何かに期待していてそれが裏切られたような浅いため息を吐いて魔女さんはそう言った。
最後。死ぬのだろうか?さすがに死ぬのはまだ嫌だな。生きる事に固執するタイプでもないし死ぬのが怖いなどとも思っていないがしかし、嫌ではあるな。来週発売予定の新刊の表紙だけでもせめて見て死にたい。表紙って……。
「それまで、せいぜい悩んで、見つけたまえ」
少し、覇気のある声を発した瞬間、頭に鋭い痛みが走った。その痛みからうっかり目を瞑ってしまう。
次に目を開けた時には円卓に座っていた。




