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月夜のバースデー  作者: K-NOA
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 歩き回っているうちにわかったことがいくつかある。

 まずはここが閉鎖空間だということだ。四方を厚めのガラスに囲まれ、出口らしきところはない。天井こそないがガラスの高さは僕の身長の四倍は優に超えているだろう。登ることが不可能なのは明らかだとして、割ることも然り。

 思わず出た感想は一つ。

「動物園みたいだな」

 次に家具が数点。明らかに人が住む場所ではないはずなのにタンスやベッドなど人が暮らしていくために必要な家具が一通り揃っている。まるでさっきまで誰かが使っていたかのような生活感があるため余計不気味だ。

 そして中央にある木製のテーブルの上でひたすらに存在感を放つ金属製の箱。RPGでいういわゆる宝箱のようなもの。どうやらダイヤル式の鍵がかかっていて四桁の数字を揃えないと開かない仕組みらしい。

 他にも文句を言いたい場所はあるが目を引くのはこの三点だろう。

「これじゃあ……人に会うことすら絶望的じゃないか」

 表に出そうな焦りを誤魔化すかのように大きな音を立て椅子に座る。

 ふと、ちょうど目線の高さにあった本に目を奪われる。

『スマホの使い方 -フリック入力より断然プッシュ入力派-』

「そうか! スマホなら!」

 即座に立ち、本を片手に持ちながら制服のポケットを探る。胸、スラックスの前、後ろ……あった!

 本を取り落しそうになったため脇に挟み、後ろポケットからスマホを引きずり出す。

「は?」

 目の前に現れたそれはスマホと呼ぶにはおこがましい、見るも無残な機械の塊だった。画面が割れるのにとどまらず中の基盤まで飛び出している。どおりで掴んだ瞬間痛かったわけだ。

「どうやったらこんなに派手に壊れるんだ 」

 その問いに誰も答えてはくれない。

 が、沈黙を破ったものはあった。

「ん? なんだこれ」

 脇に抱えていた本からカサリと紙切れが落ちる。それを空中でキャッチした。

 抱えていた本を本棚に戻す。

 二つ折りになっていたそれを開く。書かれていたのは、

 『あく』

 それだけ。果たしてこれはなんだろうか。ただの落書きか、

「それとも、これを開けるための鍵か」

 先ほど確認した金箱に視線を移す。現状この状況を打破する可能性がある唯一の希望と言えるだろう。何が出てくればこの閉鎖空間を抜けられるのか想像もつかないが。……C4とか? いや、自分で言っておいてなんだが、それではガラスと共に僕が爆発四散だ。

 さて、紙切れの文字だが『あく』といわれても解釈はいくらでも存在するだろう。開く、明く、空く、飽く、悪。思いつくだけでもこれだけ。おそらく調べればもっと出てくるはずだ。最も有力なのは箱が『開く』ということだろうか。

 可能性としてはもう一つ。この二文字が暗号の場合だ。しかし仮名文字を数列に変換する暗号なんか腐るほどある。どれが当たりかなんてわからない。虱潰しでもいいのだけれど仕掛けたやつがまともなのなら確実にヒントがあるはずだ。

「調べ直してみるか」

 金箱の周辺。簡素なテーブルなだけにヒントになるようなものはなさそうだ。

テーブルの裏。紙か何か張り付いているかと思ったがそこまで単純ではなかったようだ。

布団の中。僕の温もりが残っている以外目ぼしいものはない。

 本棚。『いじめ哲学』『クサノオウ・ヒャクニチソウの栽培方法』『幼馴染と約十二年ぶりに再会したら忘れられていた件について』『防衛機制の支配』なんだこの意味不明な蔵書のラインナップは。興味をそそられないと言えば嘘になる。しかしぜひ見たいとなるほどでもない。まさに絶妙。

 そのまま背表紙を人差し指でなぞりながら手掛かりになりそうなものを探す。

 すると一冊だけ赤い本が目に留まった。

「これは……、『スマホの使い方 -フリック入力より断然プッシュ入力派-』」

 さっき手に取ったときは全く気がつかなかった。この本以外は全てレンガ色なのに対し、この本だけは綺麗な真朱色である。

 現在のキーワードを確認する。

 この本とこの紙切れの関係性。さらに文字列を数列に変換する暗号の鉄板ネタ。スマホ。文字。数字。フリックとプッシュ。『あ』そして『く』。

 これから推測するならば、『あ』と『く』は金箱についているダイヤルロックを解除するための四つの数字を表す暗号であり、それを解くヒントは紙が挟まっていた本自体。

「そういうことか」

 金箱のもとへ向かう。

 ダイヤルロックを手に取り、声に出しながら数字を合わせる。

「1……222っと」

 カチリ。開錠の音が心地よく鳴る。

 さてこれでここから出られるのか? こんな箱に何が入ってるっていうんだろう。

 箱の中身は……。

「飴玉?」

 包み紙からして某有名会社のいちごみるくキャンディだろう。小さい頃よく食べた。

 いやいや、そんなことはどうでもいい。というかなんでだ! 脱出のためのアイテムじゃなかったのか、僕の早とちりでしかなかったのか?

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 意味もなく叫ぶ。混乱した頭をリセットする。冷静な思考を取り戻す。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――。

 …………振り出しか。


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