日本の技術を守るファンド
日本の誇り、技術のT芝 が経営危機で売りに出されることになった。二兆円は下らないとの価格に恐れをなしたのであろう、国内からの白馬の騎士は待てど現れなかった。
世K大臣は迅速に、国防技術の技術流出を防ぐ観点から、共産国であるChu国へのT芝売却を認可しない旨を明言した。しかし同盟国であるK国やTW国への売却を退ける大義名分が立たないことに大臣は苛立った。彼らへの技術流出を憂慮する世K大臣の苦悩は深まるばかりであった。
日本の技術の危機に一つのファンドが立ち上がった。その名も「日本の技術を守るファンド」。企業や政府に頼ることなく、国民の一人一人が白馬の騎士になろう、千円でも二千円でも自主的に出資して、日本の技術を技術流出から守ろう ー 発起人は熱く呼びかけた。初めはマスコミも懐疑的だったが、応じる人が徐々に増え始めた。なけなしの一万円を出資する一般国民だけでない。大富豪S氏やY氏は兆に迫る私財を投じたと報じられた。そのことについてS氏、Y氏は口を濁したが、富豪には富豪の事情があるのであろう。
ついに出資金は3兆円に達し、「技術を守るファンド」はK国やTW国を退け、T芝を落札した。簡素ながら売却認可のセレモニーが行われた。世K大臣はファンド発起人とともに出席し、庶民も大富豪も一体となった日本人の愛国心と、日本の技術への誇りに涙したものだ。
国民の自らの愛国心への確信と日本の技術への誇りも半年続いた。ファンドが集めた3兆円のうち、2兆9900億円がChu国政府の出資であること、日本国内からの出資は100億円に過ぎなかったこと、(決して少ない額ではないけれども、)が明らかになったのは、その年の暮れであった。
翌年、T芝はChu国の国有企業 紫G集団の傘下に入った。売却認可セレモニーまで済ませてしまったからには、そうなるよりなかった。発起人の行方は、誰も知らない。