[8]少女とその決意②
もう上げないと言ったな。あれは嘘だ。
という訳で無事データ復旧しましたので、改めて続きを上げていこうかと思います。
またよろしくお願いします
機体が射出され、全身に圧力がかかる。まもなく、モニターに写る景色が、射出口の灰色の天井から青空に変わった。
座席のレバーを思いっきり引く。
すると、機体にかかっていた圧力がゆっくりと小さくなっていった。
『そのまま機体を前傾姿勢にして、右足のペダルを踏みっぱなしにするんだ』
兄の指示に従う。すると仰向けだった機体が反転して翼を広げたまま、空を飛び始めた。
「うわー、すごいなこれは……」
眼下の景色が後ろに流れていく。徐々に機体が安定して、振動が減っていくのがじかに分かった。
『香奈、ちゃんと聞こえるか?』
「うん。聞こえてるよ」
『よし。今回の目的はシルフ到着までの足止めだ。予測では、バンシィと同等サイズの中型機、ガーゴイル1機。それから小型機、バットが2機だ。ここまではいいな?』
「り、了解!」
えっと、中型機1機と、小型機2機ね。
忘れないように指令を頭に叩き込んでいく。
『続いて、バンシィに登載されている武装だが……悪い。緊急を要したせいでマウントされているのは2丁のハンドガンのみだ。弾数は各10発。予備の弾倉は無い』
「え…それって大丈夫なの……?」
「万全ではないが、バンシィのスペックならガーゴイルには負ける事は無いはずだ」
「それってつまり……」
勝てるかどうかは私次第、って事か……
『気を引き締めろ、ゲートが見えてきたぞ』
銚子沿岸の海上に、黒い靄のようなものが見てとれた。おそらく恐らくあれがゲートなんだろう。見たところそのサイズは比較的小さめだが、徐々に肥大化している様にも見えた。
ハンドガンを両手に構える。今一度深呼吸をした。
『落ち着いて、無理をするなよ。健闘を祈る』
そう言って、通信は切れた。
……………よし、やってやろうじゃないか。
* * * * * *
香奈がゲートに到達する少し前。
俺はバンシィが出撃したのを見送ってから、指令室へ走った。
「室長!3番ガレージのカタパルトが展開しています!」
「3番だと!?…………まさか、バンシィか!誰だぁバンシィを動かしたのは!」
「現在、端末の起動IDを確認中です!」
指令室では、既に軽く騒ぎになっている。それもそのはずだ、シルフに指令を出していたら、パイロット不在の機体が突然動き始めたのだ。そりゃぁ混乱するだろう。特定されて呼び出される前に、こっちから行こう。
「失礼します」
「日暮か。おい、お前今まで何処に─おい!」
俺を咎めようとした室長をシカトして、自席に着く。インカムを手に取り、チャンネルをバンシィに合わせる。室長には右手で軽く「すんません」と示した。
「香奈、聞こえるか?」
「あの、日暮さん?誰と話してるんですか?」
「日暮、お前3番ガレージにいたりしなかったか?」
隣のデスクの同僚、藍原と室長が後ろから話しかけてくるが、それどころじゃない。早く香奈に伝えることだけ伝えなければ。
「おい!日暮ぇ!」
悪いと思いながらも、香奈への伝達に集中した。
「──無理をするなよ」「失礼しました。えぇ俺です。俺がバンシィに妹を乗せました。完全に独断です。誰の許可も得ていません」
「い、妹ぉ!?」
「……………それは本当か」
藍原が声をあげ、室長顔が露骨に曇った。それもそうだ。俺がやったのは重大な規則違反にあたる。防衛機密に勝手に一般人を乗せたのだ。事は俺のクビだけで済む話では無い。
「はい。現在、香奈はバンシィに乗って出現予測地点へ向かっています。妹が上手くいけば当該地域の被害をゼロにできます。勝手な判断ではありますが、妹を出撃させる事が最善であると、そう判断しました」
「…………適性テストはしたのか?」
「はい。バンシィの拒絶反応は、ほぼ誤差範囲内の数値でした。メンタルチェックも結果は良好。それに現在も問題なく操縦しています」
シルフのオペレーターにまで雰囲気が伝わったのか、空気が重くなっていく。
「………………そうか。ならば仕方あるまい。──釜木!藍原!お前らはバンシィのサポートに回れぇ!坂町!足立!空いた穴はお前で埋めろ!現時刻より、作戦を変更する!各自全力であたれ!」
「「はい!!」」
室長の号令で、総員が動く。
「日暮。お前のやったことについての処分は後だ。バンシィのオペレーションはお前がやれ、日暮」
「無論です。ウチの妹の実力、見てやって下さいよ」