[7]少女とその決意
少し短めです。
確か3番ガレージは、ここまで来る途中に見かけ確かにと思い、来た道を急いで引き返す。案の定、無事に3番ガレージに着くことができた。
「時間がない。手短に説明する」
ガレージの前に立っていた兄が来ていたのは、さっきの宵月さんが着ていたのと似たようなデザインの服。おそらくここの隊服なのだろう。
「今、宵月がシルフに乗って作戦に出ている。今回の襲撃は、神奈川沖と、銚子沖。二ヶ所同時に展開する」
「二ヶ所って……宵月さんだけで大丈夫なの?」
「いや、おそらくどちらかに被害が出る。海岸に陸軍の車両を借りて対処するが、通常の兵器でどこまで足止めになるか分からん」
兄は淡々と告げた。被害が出るって………人が、死ぬかもしれないって事……?
「それじゃぁ!」
「そこでだ。片方のネイガスをお前に頼みたい」
…………え?
「え?い、今なんて?」
「片方をシルフ、もう片方をバンシィで同時に叩く。神奈川沖には宵月が向かってる。お前はバンシィに乗って銚子へ向かえ」
「い、いや、ちょっと待ってよ。私、今日は見学に来ただけのはずじゃ……」
「お前がさっきまでドワーフに乗っていたのは知ってる。それに、全て倒せとは言ってないし、宵月が終わればそちらに向かわせる。二つのゲートからネイガスが出現するまでもうあまり時間がない。頼む……!お前ならそれが出来る!」
…………っ!……私なら、出来る……。私に、人が救えるだろうか。『AM』に乗れるのと、『AM』で人が救えるのとでは、意味が違うことぐらい私にも分かる。今、『AM』に乗ると言うのは、後者の責任を背負うと言うことだ。
私はお世辞にも『AM』に上手く乗れるとは言えない。失敗する可能性の方が高いかもしれない。
────でも。でも、私に出来る可能性があるのなら。ここで迷っているのは時間の無駄に過ぎない。
「私に、出来るのなら…………」
────私は、私に出来る事をやろう!
「わかった。私、乗るよ。バンシィに、乗ります!」
「よく言ってくれた…!」
兄がカードをリーダーに通す。ガレージの扉が開き、中の証明が着く。
その広大な倉庫のような場所には、天井からクレーンのような物が吊り下がっていたり、工具類があちこちに置かれていた。
中でもその中央、全身に黒い装甲を纏った『AM』が鎮座している。
これが、黒い妖精……バンシィ…………。
「発進準備は俺がする。香奈は早くバンシィに乗ってくれ。作戦の詳細や、各種武装については後で話す」
「分かった!」
私は既にバンシィの胸部へと延びているタラップを駆け上がり、コックピットへ座った。タラップが引いていくのを確認してからハッチを閉じる。ヘッドセットを装着し、グランドライヴを起動。モニターが表示される。
ラジオを点けた時のノイズのある音がしてから、兄の声がヘッドセットを通して聞こえた。
『よし、準備はいいか?このまま機体を仰向けに倒して射出する。射出されてカタパルトからパージしたら、座席横のレバーで背部の翼を起動しろ。それで飛んで向かう。今回は空中戦闘だ。戦闘になってもそのレバーはいじるなよ』
「わ、わかった!」
本当は専門的な単語ばかりで正確には分からなかったが、機体が発射されたら横のレバーを倒せ、と言うことらしい。
一度、深呼吸をする。コックピット内の空気を肺に溜め込んで、吐き出す。目的は足止めだ。無理に倒さずに、宵月さんが来るまで陸地に近づかせなければいいだけだ。落ち着いていこう。
『それでは、3番ガレージ、『AM』バンシィ。射出準備に入る』
機体が後ろに倒れて、30度ぐらいで止まった。何だかジェットコースターみたいだ、と思うまもなく、兄のカウントがスタートした。
『3……2……1。射出!!』