[6]少女と黒い妖精
投稿遅くてすみませんっ!
次は早めに。
一瞬でも『双葉ちゃん』と呼んでしまった自分が恥ずかしい。
「えーっと、アナタの名前も聞いていい?」
「………え?あぁ名前ね。日暮香奈。よろしく」
「よろしく!香奈ちゃん!」
今度は私から手を出し、ふ…宵月さんと握手を交わした。
「そうだ!ねぇ香奈ちゃん──────。どう?」
* * * * * *
「いや………『よろしく』じゃないよ…………」
先程はついつい宵月さんに乗せられて、よろしくと言ってしまった。もはや『AM』に乗らないとは言えなくなってしまっている。
「そもそも、乗れるかどうかも分からないし………」
今さらだが、私はそもそも自分が乗る機体を見たことが無い。資料によると『バンシィ』という機体の様なのだが、『バンシィ』が一体どんな機体なのか、それの詳細がほとんど書かれていなかった。
最近見つかった『AM』の様なのだが、私自体『AM』をまともに見た事が無く、宵月さんの『シルフ』と先程の訓練用の赤い『擬似AM』、『ドワーフ』のみだ。
『準備はいいー?』
向かいの『ドワーフ』から宵月さんの声がする。私は手元の操縦桿を握った。
宵月さんの思い付きで『AM』の操縦練習をさせてもらえふ事になった。先程の戦いはAIの防御実験立ったらしい。『AM』の操縦は思っていた程難しくは無かった。というのと、『AM』の操作系統はその大半が脳波による半自動操縦になっている。手元の操縦桿やスイッチ、ペダル、計器類はその細かなズレを修正するためのものらしい。割合で言うと、脳波7、手動3といったところか。
宵月さんがあぁも軽々と乗っているのと多少は納得がいった。
だが、
「………っ!ぐっ……!」
それでもなかなか思うようにいかない。頭でイメージするだけとは言っても、何メートルもある巨大な鉄塊を自分の手足のようにイメージするなど、素人がそう簡単にできるはずがない。
『ほらほらー!攻めないと負けちゃうよー?』
加えてこのスパルタだ。
さっきからガードしか、いやガードすらまともにできていない。これでも宵月からしたら手加減をしてくれているのだろう、博物館の時よりも連撃のスピードは半分以下に見える。
明らかにジリ貧なのは理解しているが、思考が追い付かない。
ここは、捨て身でも一発見舞うか─?
「…………っ!てりゃぁーー!!」
隙を見て、辛くも放った拳は空を裂き、腹部にカウンターが極る。赤い鉄塊は私を乗せたまま、地を離れて宙を舞った。
* * * * * *
『準備はいいー?』
向かいの『ドワーフ』から宵月さんの声がする。私は手元の操縦桿を握った。
「はい!」
宵月さんの思い付きで『AM』の操縦練習をさせてもらえる事になった。先程の戦いはAIの防御実験をしていたらしい。『AM』の操縦は思っていた程難しくは無かった。というのも、『AM』の操作系統はその大半が脳波による制御になっている。手元の操縦桿やペダル、レバー等の機器類は負担軽減や細かなズレの修正を行うためのものだそうだ。
宵月さんがあぁも軽々とシルフを乗りこなしていたのにも納得がいく。
「……っ!………ぐっ…!」
それでもなかなか上手くいかない。脳でイメージするだけだと言っても、何メートルもある巨大な鉄の塊を、自分の手足のようにスムーズに動かすイメージなど、素人にはそうそうできるはずが無かった。
『ほらほらー!攻めないと負けちゃうよー?』
宵月さんのドワーフの拳が肩を掠める。それでも私の体にかかる衝撃はかなりのものだった。その衝撃に思考が囚われ、さらに動きが鈍る。先程からガードしか出来ておらず、隙が無い。
「…………てりゃぁぁ!!」
一か八か、宵月さんが拳を放った直後、外側から回すように右手を振るう。──ボクシングで言うところのフックだ。
『っ!甘いっ!』
瞬時に宵月さんは拳を引き、半身をそらしてフックをかわした。そして、私の機体は半身を宵月さんに預けた様な姿勢になる。
──っ!ガード!!
私が腕を構えるよりも速く、メインモニターに映った右拳。
直後、私のドワーフは宙を舞って床に伏した。
* * * * * *
「いやー、すごいね香奈ちゃん!」
「………いや……全…然……だっ……て……………」
あれから数十分に渡って、組み手を続け、息が上がってしまっていた。手足が振動でビリビリと麻痺した様な感覚が残っている。終盤になってきて、私も多少は動かせていたと思う。
「ううん!あれだけ動かせてれば上出来だよ!どう?『AM』の操縦、楽しいでしょっ?」
宵月さんは笑顔で疑問符を浮かべて首を傾げた。
…………楽しい、か、確かに『AM』の操縦は私が想像していたよりも、自由に動かせた。あれがゲームであれば私は見事にハマっていたかもしれない。でも、あれは実際には………
「……そう、だね」
昨日とは違った色の不安を覚え、私は曖昧な返事を返すしかなかった。
「『AM』ってさ、スゴいんだよ。いや、凄く古いとか凄く強いって意味じゃなくてね」
「スゴい…………?」
確かに、『AM』は遺跡や地中等から発見されているし、M.O.の装甲を一撃でひしゃげさせる程の力があるけど、そうじゃないって……?
「あれに乗れるってことはさ、自分のこの手で誰かを守れるってことなんだよ。私みたいな小さな手でもさ、『AM』に乗ると何倍も大きく広げられるし、誰よりも速く走れるんだよ。そりゃね、強い敵もいっぱいいるし、攻撃されたら痛いし、大変な事はいっぱいあるよ。でも、この手で誰かを助けられた時の、「助かった」「ありがとう」って」
私に話しかけていた宵月さんは、次第に、自分の言葉や思いを噛み締めるように話し始めた。
「モニターを通してでもね、助けた人の助かったって表情を見ると、俄然やる気が出るんだよ。だからね、それが出来る可能性をくれた『AM』に乗れるってスゴい事だと思わない?」
宵月さんは、今日一番の笑みで私にそう言った。
直後、アラームがけたたましく鳴り出した。
『緊急。緊急。パイロット、オペレーター各位に通達。ゲートの出現反応を確認。各員直ちに持ち場へ急げ。繰り返す──』
「あはは、何か語っちゃったね。それじゃ、行かないと」
「あ、あの!」
立ち上がり、『シルフ』の格納されたガレージへ向かおうとする宵月さんを、半ば無意識に引き留めた。
「ん?」
「こないだは、助けてもらってありがとうございました!えっと……私も頑張るんで、頑張って下さい!」
つい、必要以上のボリュームで叫んでしまった。はっとして、今引き留めてまで言うことでは無いと思い、口をつぐんだ。
「うん!」
宵月は相変わらずの笑顔でサムズアップして、走っていった。
……………それが、宵月さんの原動力か…。
「なら、私も…………」
私の前に現れた、二つの選択肢。どちらを選ぶか、迫れた時に私は…………。
突如、鳴り響いていたアラームが止まった。遠くの方ではまだアラームが微かに聞こえる。
『あー、あー、こちら日暮。香奈、まだ訓練室にいるだろ?』
「お兄ちゃん!?」
スピーカーから聞こえてきたのは予想もしない兄の声。
でも、何で?
「お前に『妖精』を見せてやる。3番ガレージまで来い」
妖精………?
ただそれだけを言って、声はブツリと切れてしまった。