[5]少女と黒い妖精②
サブタイ詐欺と化し始めてます。すみません
次話回収します。
御容赦。
日、私は電車を乗り継いで兄に指定されたJ.A.N.A.T.の前まで来ていた。家からここまでかなりの距離があり、今月のお小遣いの大部分を持っていかれてしまった。後で請求してやろう。
そんな思いでたどり着いたJ.A.N.A.T.の本部はと言うと、外観は思いの外素朴で、郊外にある中規模程度の工場といった感じだ。とてもじゃないが大型のロボットで国防を担っている組織の様には見えない。
「でもJ.A.N.E.T.って書いてあるし…………」
正門付近の壁にはしっかりと『防衛省特殊防衛局J.A.N.E.T.』と彫られている。
門前には屈強な警備員が二人睨みを効かせて立っている。流石防衛省の機関だ。恐らくあの人達も自衛隊やそれに類する組織の人なのだろう。入りたいのは山々なのだが、下手うってあの人達に何か疑われたらNoでもYesと言ってしまいそうな雰囲気を醸し出している。
その後、門の前で入ろうか否かと悩みつつうろうろとしていると、警備員の人達が本部のある建屋まで案内してくれたのだった。途中、こちらを見ながら胸元のトランシーバーのようなもので何か連絡をとり始めた時は、通報でもされたのかと思い焦ったが、中の人に確認をとってくれた様だった。優しい気の利く人達で良かった。
受付に着くと、係員の女性から『GUEST』と書かれた1枚のカードを受け取り奥へと進むように促された。こういう時って誰か案内してくれる人がいるんじゃないか、とも考えたが、なにぶん突然の事だ。兄がそこまで気を回してくれているとは考えづらかった。大した規模の施設ではなさそうだし、兄ぐらい簡単に見つかる。
…………………………と、思っていました。
「………ここ、何処……………?」
J.A.N.E.T.の局内は外観から推察するよりもずっと広く、その大半が地下に広がっている。そもそもあの大きな機体を三機も抱え、その管理修繕のための設備も相当な量になるだろう。それくらい考えれば簡単に分かったのではないだろうか。
何度もエレベーターや階段を縦横無尽に行ったり来たりしていると、自分が今何処を通って何処まできたのか、分からなくなってしまっていた。
「私ってここまで方向音痴だったっけ………?」
現状に本格的に危機感を覚える。一体どうしたものか……。
このままここに立ち止まっていても埒が開かないので、あては無いがとりあえず進んでみる。
さらにしばらく歩くと、ドスンッ!ドスンッ!っと大きな音と震動が襲った。今のは一体……?
震動は何度も不定期に響いてくる。でも、音がしているってことは音源となる場所には誰かいるのかもしれない。
「とりあえず、道を聞くだけでも」
音のした方へ小走りで向かう。次第に音は大きくなっていく。廊下の突き当たりの大きな扉の先から鳴っていた。受付で貰ったカードをリーダーに通して部屋へと入っていく。
部屋の中はというと、PCなどの機器が並んでいて、正面奥の壁一面がガラス張りになっていた。
「おじゃましまー…………うわぁっ!?」
そのガラスの向こう、廊下まで響き渡っていた音の正体があった。片方はナックルガード、もう片方は大盾を装備した2体の赤い外装の機体。あの機体は…………?あれも『AM』なのかな…?兄から貰った資料には載って無かったと思ったけど。
2体のうち、ナックルガードを装備した機体がもう一方の機体をひたすら攻め続けている。
『はっはぁー!もっともっとー!逃すかぁー!!』
あの声!
ナックルガードの方の機体から聞こえた聞き覚えのあるあの声。口調にも覚えがあるし、恐らく先日の『AM』から聞こえた声で間違いないだろう。
よく見ると部屋の片隅に、2機が戦っている大部屋へと出られそうな扉があった。扉をくぐってみると、そこはどうやら大部屋の2階通路にあたる部分のようで、ガラス越しの時よりも強い衝撃が私を襲った。
『よっしゃぁー!まだまだいくよー!!…………………ん?あれ?…ちょっとストップ!』
声の方の機体が、突然攻撃を止めた。その機体は拳を下げると、あろうことか私の方へと歩いてくる。
ヤバイ。やはり勝手に立ち入ったのはまずかったか。そしてその機体は、私の前までくると、立ち止まってこちらを覗き込んだ。
『ねぇ、もしかしてなんだけどさ。アナタ、こないだ博物館のトコにいた人でしょ!』
「…え?………あ、はい!」
『やっぱりそうだ!あの女の子を守った人!』
立ち止まった機体の胸部が可動、展開した。どうやら勝手に立ち入った事を咎めるつもりでは無いらしい。
2重3重にもなったハッチが全て開き、中のコックピットとおぼしき所から女の子が現れ、手すりを軽々と越えて、私の前に立った。
「今日はまたどうしたの?こんなトコに来て」
……………小さいっ!?
声からして多少幼い感じかと思ったが、それほど背の高くない158cm程度の私よりもずっと小さい。150あるかどうかといった感じか。また、髪も片側だけを星の飾りのゴムでまとめてサイドテールにしているのが、尚更少女の幼さを際立たせている。私はこんな子に助けられたのか………。
「今日はその、兄がここに勤めていて、それで見学をしてみないかって」
「そっか見学かぁー。見学っていってこれだけ広いと迷わない?私もよく迷ってたし」
少女の幼さにも驚いたが、それ以上に響いたのが、こんな子があれほどの機体をああも雄々しく乗りこなしているのかという驚愕。もし、もし私が『AM』に乗るのだとすれば、この子の隣で戦うのか。
「というか、ここに来たのも迷った結果なんだよね…。覚えられるか不安だよ」
「……………もしかしてさぁ、ココで働く予定の人?」
「いや、働くっていうか、パイロットに誘われ──!?」
少女は突然私の両手を掴み、きらきらとした目で私の両手をぶんぶんと縦に振っている。
「ほんとに!?乗るの!?じゃあ私の後輩さんになるんだ!私、宵月双葉!こないだの『シルフ』って機体に乗ってるのね!」
少女──双葉ちゃんは、嬉しそうにまくし立てる。これだけテンションが上がっていると、この状況で「いや、乗るかどうかまだ決めてないんですー」とは言えない……。
「あとね、血液型はB型で、出身は山形、誕生日は8/12で、年は『18』で──」
…………ん?18?…………18歳!?年上ぇ!?
双葉ちゃん──いや、宵月さんはその大きな瞳でこちらを見上げて、嬉しそうに語るのだった。