[4]少女と黒い妖精①
読んで下さっている方々、
ありがとうございます
とても励みになっております。
今回もどうぞよしなに
「……私が?」
「そう。香奈が」
「…………あの人形機体に?」
「そう。『AM』に」
「乗るぅ!?」
「乗るんだ」
目を丸くする。とはこういう事を言うのだろうか。
私があの人形………えーと、『AM』に乗る?
どうして私が急に乗る事に?
どうしてそれをお兄ちゃんが告げる?
そもそも『AM』って何?J.A.N.A.T.って何?お兄ちゃんが何?乗るって何?
「香奈。落ち着いてくれ。状況が飲み込めないのは分かる。それに、それも承知で頼んでいるんだ」
はっと我に帰る。
…………いまボケーっとした変な顔してなかった?
「だが結論は急いでほしい。香奈ならおそらく乗りこなせると俺は思ってる。信じてほしい」
お兄ちゃんはそう言うと、カバンから別の厚い書類の束を取り出した。
「『AM』と、J.A.N.A.T.、それから『AM』に乗る上で知って置くべき事をあらかた纏めておいた。また明日ここに来る。それまでにそれを読んで、結論を出しておいて欲しい。無理強いはしない。香奈の兄貴からのお願い程度に思ってくれて構わない。それじゃあ、よろしく頼む」
それだけ言い残すと、お兄ちゃんは急いで出ていってしまった。
「『AM』に、乗る…………」
それは、考えもしなかった出来事。選択し得ないはずの出来事。
だが、
「あんな顔、初めてみた…………」
それを告げた兄の顔は、幼い思い出に残る趣味を楽しげに語るモノとは一線を画した、凛とした真っ直ぐなモノだった。
* * * * * *
その夜、私は兄から貰った書類をひととおり読み終え、机に伏していた。
『AM』、対異特化型古代駆動巨大兵器、オートモービル。M.O.が開発される何百年も前に存在した古の遺産。
『AM』の開発元、開発年代は不明、『AM』のエンジンに相当するエネルギー供給機関『グランドライヴ』の原理も不明。その殆どが地中から出土と言う形で発見されるが、古代の技術では製造不可とされ、地中に存在する理由も不明。
『AM』は現在世界に12機存在する。J.A.N.A.T.が所有するのは『シルフ』『レプラコーン』『バンシィ』の三機。
各『AM』は、それぞれ武装に個体差があり、『グランドライヴ』を有し、同一規格である程度に共通点がある。
J.A.N.A.T.、日本対ネイガス殲滅機動部隊。防衛省直轄の、『AM』を以てネイガス(後述)の侵略を阻止すべく活動している部隊。兄はここの戦略支援官だそうだ。
ネイガス、異門と呼ばれる転位門から出現する堅牢な装甲を有した機械生命体。人を捕縛する姿が確認されている。『AM』はこのネイガスに対抗するために産み出されたとされている。現在、『グランドライヴ』からのエネルギーを用いてのみ、決定的なダメージを与えられている。
───こんな所か。
つまり兄は私に『エイリアンから日本を守る手伝いをしろ』、いや寧ろ『守ってくれ』と言っているのか。
「……………はぁ…………」
溜め息をついた。
それもそのはずだ。馬鹿にしていた兄が想像もつかない職に就いているし、自分はその最前線に立たされようとしているし、日本を救え?荷が重いにも程がある。
これが良く知ったかつての兄の言葉なら「へぇーすごいじゃん。私は救世主かー」と茶化したものだが、こんな本格的な書類まで持ち出されては茶化す訳にはいかない。
侵略者から日本を守る。
嫌いな響きではない。
兄の言った『守る』という言葉もあながち間違いでは無かったようだ。
「でもなぁ…………」
とは言っても、昨日の今日まで世間一般のしがない女子高生の私が、人形ロボットに乗って国を守る、だなんて。アニメやゲームの主人公じゃあるまいし。はい乗ります、なんて二つ返事を返すわけにもいかなかった。
「うーむ……………………」
結局その日は、一晩中考えても答えが出ることは無く、翌日私は寝不足気味のまま学校に向かうはめとなるのだった。
学校についても相変わらず答えは出ない。
このまま一人で悩み続けても結論は出ないだろう。かと言っても、「私、ロボットに乗って日本を救わないかって誘われているんだけど……」とでも言おうものなら、電波扱い、中二病扱い
は免れまい。
昨日からこの調子が続くと、時おり自分は何に悩んでいるのかと思うまでもあった。
「私はどうすればぁぁっ…………!!」
「…………とりあえず食堂行く?」
祷里の言葉で我に帰った。時計の針は既に頂点を過ぎている。どうやら半日近く上の空だったらしい。昼までに結論を出さなきゃいけないのに…………昼までに…………………昼?
「もう昼!?」
「だからそうだって。寝不足ぅ?珍しい事もあるもんだねぇ」
* * * * * *
「それで、結論は出てないと」
「……………………はい」
直後、再び岩泉に呼び出され、兄と共に昨日の部屋にいた。
「まぁしょうがない。軽々とはい乗りますって言われても、それはそれで不安な部分もあるしな。結論を急がせて悪かった」
実際に兄と会えば何か結論が出るかとも思いはしたが、そう簡単にはいかなかった。
未だに私が悩んでいると、突然兄は柏手を打った。
「そうだ。それなら1度、J.A.N.A.Tに来てみればいい。俺から話をつけておこう」
きりが悪いですが、
今回はここまでです。
次回も早めに投稿します
どうぞ宜しくお願いします