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月天の使徒  作者: 4ox
3/8

[3]少女とあの日の機体

2話と同時です

三日前のあの日。

私はあの人形機体の素性を知る前に、救急車に乗せられ病院に向かったのだった。結果として、私も女の子も多少の擦り傷で済み、怪我人はそれだけ。人的被害はほぼ皆無と言ってよかったのだろう。

女の子の母親からは何度もありがとうありがとうとお礼をされ、お母さんからは心配と称賛、お父さんからは無茶をするなと叱られたが、後にお母さんから「誰よりも心配して誰よりも自慢の娘だって褒めてたわよ」と伝えられ、挙げ句の果てに助けた事が学校にまで伝わっていたらしく、朝礼で校長直々のお褒めの言葉をいただきました。実名で。


「助けたのは私じゃないんだけどね…………」


そんな慌ただしい日々も平静に戻り、食堂で祷里といつものようにラーメンを食べている。

率直な所、三日前の事は素直に喜べずにいた。


「香奈も律儀だねぇ。そんなの『あーありがとうございますー。そんなつもりじゃなくてー。体が勝手にぃー』とか言っとけばいいのに」


「そんな訳にもいかないでしょ。あの人が来てくれなきゃ私も女の子も今頃空の上だって」


私がしたのは女の子の上に覆い被さっただけで。

あれじゃ助けた所か、死にに行った様なものかもしれない。

お父さんの言う無茶ってのも間違ってはいないのかも。


「あの人、ねぇ…?あれ、あれ、って香奈『メカオタ』?ってヤツでしょ?何てロボットか知らないの?」


「あのねぇ、機械好きなのは私じゃなくてお兄ちゃんだから。あんな、わざわざ英文学の大学行ったのに趣味に走って良くわかんない機械系の仕事に就く人と一緒にしないで」


日暮一生。私の兄だ。容姿端麗で文武両道な自慢の兄─

─ではない。そうは問屋が卸さないのだ。

近所の粗大ゴミから電子機器を持ち出し、解体するのは日常茶飯事。

部屋には訳の分からない自作のロボット。それもアームやエンジンの部分だけ。

新しい機構を見つけた等と、おままごとに勤しむ幼い私に延々と理論を垂れる。

就職活動してると思ったら、3週間も家を開けて、帰って来たと思ったらに『香奈!お前達の未来は俺が守るからな』とか言って再び家を開ける。

頭のネジすら解体して何処かに放ってしまったのでなかろうか。ポイ捨てするならリサイクルBOXにでも入れて欲しいものだ。


「日暮ー。日暮香奈はいるかー?」


溜め息を吐いていると、食堂の奥から担任の岩泉の声が聞こえる。


「またデスカ…………」


「いってら~。頑張れヒーロー。あ、ヒロインか」


全く祷里は……。他人事だと思って………っ!

感謝は時に重荷になるのだ。それが他人の荷なら尚更。


「おう日暮。ここにいたのか」


そこにいたのは、岩泉源治。40代半ばの中肉中背の体育教師。所謂、古典的体育教師タイプで、熱くはあるが、暑苦しくもある。現在妻と娘と別居中と、先日本人がぼやいていた。


「またですか?だからあれは私が助けたんじゃ─」


「いやいや。今日はその事じゃ無いんだ。…………いや、その事かもしれんな」


どっちだよ。はっきりしてくれよ。そして話を聞いてくれよ。


「いやそれどういう意味ですか。と言うかそもそも私──」


「まぁ会ってから判断してくれ。来客だそうだ」


「だから人の話を──来客?私に?」


てっきり地元紙の取材かとも思ったが、取材なら私個人ではなく学校を通すのでは無いだろうか。と言うことは、親族?友人?


「確か日暮って名乗ってたみたいだから家族じゃないか?ほら、背の高い、イケメンの」


非常に嫌な心当たりがあった。




* * * * * *




所変わって、高校の客間にあたる職員室の奥の部屋。


「久しぶりだな香奈!元気にしてたか!」


「言霊ってホント怖いわぁ………」


もう口に出さない様にしようか。


「ん?言霊?何の事だ?……………………まぁいい。積もる話も多々有るだろうが、今日は時間が無いんでな。簡潔に用件を伝えよう」


「ストレスなら常に積もってるけどね。で、何?用件って?」


「そうだそうだ。これを見てくれ」


お兄ちゃんは普通のビジネス使用のカバンから数枚の書類を机に置いた。


「………え?ちょっと待って。お兄ちゃん」


そこにあるのは、マル秘と書かれた書類の束、それに、同様ながらも、写真に写った見覚えのある双眸。


「何でこんな」


「質問は後だ。まず俺から説明しよう。俺の職場は知ってるよな?」


「いや?」


これっぽっちも存じませんが?言われて無いのに何故知ってると思う?


「あれ?言ってなかったか?…………俺は今、J.A.N.A.T.って防衛省の管轄機関で働いているんだが、この『AM』に見覚えあるよな?」


差し出されるあの日の機体の写真。

私は素直に頷いた。


「なら話は早い。香奈、お前これに乗る気は無いか?」



…………………。静寂が訪れる。



「……………………は?」


沈黙を破った一言は、意識の外から口をついだ、すっとんきょうな声だった。




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