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月天の使徒  作者: 4ox
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[2]少女と鋼の機体

随分空いてしまいましたm(_ _)m

退屈なまま時間は過ぎ、博物館の土産物屋で随時解散となった。


「あー、終わった終わった」


「いやぁー何も面白いもの無かったねぇ。寧ろスゴいわ」


祷里の言うとおり館内は終始変わらず、盛り上がりなどは全くと言っていいほど無かった。


「じゃ、原宿でも寄って何か食べてこー」


「また甘いものぉ?こないだ痩せるって言わなかったっけ」


「いーのいーの。せっかくこのへん来たんだし、行かない方が良くない良くない。今日は歩いたし、ご褒美~♪」


大体こんな展開になる。ダイエットしたくても出来ないのはもう女子の性だね。うん。ライ○ップにでも頼るしかないのか。

博物館を出ようとすると、外がやたらと騒がしいのに気づいた。


「何かの催し?」


「こんなトコでぇ?」


それもそうか。じゃあ大道芸人でも…………いや、違う。あれは歓声というか…………悲鳴?


「ねぇ、祷里。ちょっと見に行こうか」


「え?うん、まぁ…って香奈!?急に走んないでよ!」


祷里の手をとって走る。途中何人か逃げるように走る人とすれ違った、やっぱり何か起きてる?


「…………ねぇ、香奈。何あれ…」


目に写ったのは、「マシナリ・オペレーター」通称、M.O.と呼ばれる大型の重機。人の様な形をしていて、サイズは3m程。両腕は三本指のアームになっていて、そのアームで大きな電動機具を用いる。胴体に相当するドーム型の部分に人が乗って動かす近年普及し始めている人型重機だ。

その大きな特徴は、人型をしている事でほぼ人間と同じ挙動が出来ること、そして人間では発揮し得ない強靭な力を持っていることだ。


そんなM.O.が暴れている。大きなアームで植木やベンチを引き剥がし、あたりの人には目もくれずに放り投げたり叩きつけたり、まるで半狂乱の様だ。


「ねぇ香奈!あれはヤバイって警察呼んで早く逃げよう!?」


…………でもおかしい。

M.O.は、その性質上大きな欠点として操作の複雑さが挙げられる。人間と同じ挙動を実現するのに、両手両足で様々なハンドルやペダルを操作しなければならない。だからわざわざ、オートメーション化の進んだこの時代に人が乗るのだ。AIでは処理不可能なレベルの操作を人間がするのだ

…………なのに。


「…………無人?…祷里!あのM.O.誰も乗ってない!!」


「だから何!? 香奈、早く逃げようよ、危ないって!」


祷里は私の手を引っ張る。そうだ、私がここですべきなのはM.O.の不自然さに悩む事じゃない。自分の身を守る事だ。

祷里の手を握り返し逃げ出そうとした時、ふと私の視界が女の子をとらえた。


「…………っ!?」


女の子はお母さんと逃げる途中、持っていた縫いぐるみを落とし、立ち止まってしまったのだ。

しかも、暴れているM.O.の目の前で。


「ちょっ…………香奈っ!?」


コンクリートを蹴って駆け出す。反対方向に向かう人を避けつつ、最短距離で女の子へ向かう。

泣き叫ぶ女の子に、鉄を纏った剛腕が迫る。


「────ッ!!」


テレビで見たメジャーリーグよろしく、女の子を抱えに飛び込んだ。細腕をめいいっぱい広げて、しっかりと女の子を捕らえた。


────やった!


一瞬の安堵。

瞬間、目の前に向いていた五感が戻り、『聞こえなかった声』が耳に届いた。


「香奈ぁっ!!後ろぉっ!!!」


─音が近い。先程まですぐ先で荒れ狂っていたあの駆動音が今はすぐ後ろに聞こえる。

背筋だけでなく、全身に悪寒が走った。首筋に冷たいナイフが押し当てられた様な緊迫感。

視覚で捉えずとも、確定的に浴びせられた『死』の感覚。

このまま自分は、あのベンチのように──


逃げなきゃ。ここから。早く。


迫る。迫る。迫る。

統べからくを破壊しようとするあの恐ろしい駆動音が。

今、たった今自分のすぐ後ろに迫っている。


─ガァンッ!!


衝撃音。金属の塊が、同じ金属の塊に弾き飛ばされる音。


……………………"金属"が"金属"に?


振り返るとそこにいたのは、胴体部のひしゃげたM.O.。

それから、M.O.よりも二回りほど大きな人形の機体。


『ギリセーーフッ!!』


くぐもったような機械音が聞こえた。あの人形機体のパイロットだろうか。

その機体はM.O.を蹴り飛ばし、私の真上に着地した。


『っしゃ!対称のパイロット信号000、Unknown。パイロット無し!手加減無用!』


人形機体は傍若無人のごとき姿だったM.O.を、いとも容易く叩き伏せてゆく。

私はすぐ眼前で繰り広げられる攻防とも言い難き光景を、M.O.の駆動音が消えるまでつぶさに見入っていた。


『対称沈黙!ミッションコンプリート!』


至るところがひしゃげたM.O.は、先程までの勢いを失い声もあげぬ鉄塊と化していたのだった。

人形機械は人らしく両手をはたくと、こちらに向き直った。


『大丈夫?』


蒼銀の体躯の上部に掲げられた双眸が、私をじっと見下ろしていた。


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