ウンチがゲロに変わる刹那
夕日が鮮やかにある一点のみを映し出す。
丘に建てられた小さな十字架の墓だ。
老いた男は皺がれた声で絞り出す。
「なぁ…俺はお前に報いられたのだろうか…」
彼の人生の中で十字架の男の存在は必要不可欠だ。
「俺はお前に救われた命だ、だからお前の為にならなんでもしてきたつもりだった…それもまぁお前がこの世界に存在してない以上なんの価値もない行為に過ぎなかった」
彼が余生で行ってきた事全ては彼自身の自己満足であり本当にあの男が望んでいるかすらもわからない。
「俺はもう疲れたんだ…俺もそっちの世界に行ってもいいかな?」
老いた男は今にも消え入りそうな声でそう呟いた。
そして冷たい十字架に触れた。
返事はない。当たり前だ。死人に口はない。
だがそれでもあの男の発する言葉が欲しかった、鮮烈な迄に記憶に残るあの男の、のたれ死んでもおかしくなかった彼を掬い上げてくれたあの男を、死ぬときですら、笑顔で逝ったあの男を。
不意に、風が彼の頬を撫でる。頭を上げると沈み掛けている太陽が視線一杯にその存在感を示している。
「あぁ、そうだったなぁ…お前と初めて出会った夕日もこんな色だったなぁ…」
彼はまた立ち上がるだろう。英雄は倒される事を拒むものだから。