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司書室

 外見の物物しさとは違い、内装は開放感のあるインテリアながらもモダンクラシックな雰囲気を損なわない空間。

 それはそれで緊張するが、棟内地図を確認して司書室を目指し階段を昇る。

 二階司書室、そのドアを目の前にして深呼吸。

(ひとまず事情を説明して切り抜けよう。それから担任と話し合って決めよう)

 そう心に決め木製のドアをノックと共に開ける。


「失礼します。あの……」

「菅野灯也ね? いきなり遅刻とはやってくれるじゃない」

 灯也が室内に一歩足を踏み入れた段階で、顔すら確認していない人物に怒られた。

 一瞬硬直してしまう灯也だが、どうにか入室する。

「すみません。昨日風邪で欠席してて、自分が図書委員だってさっき知ったんです」

 相手が誰かは判らないが、とりあえず謝罪を口にする。が、相手はあまり聞いている様子が無く返答がない。

 灯也の目の前には、アンティーク家具に囲まれた室内に、テーブルと椅子が設えてあった。


 しかし、何よりも目を引くのは正面、恐らく今の声の主で窓辺に軽く腰かけている女子生徒。

 腰まである黒い髪に、完全に整った顔立ちが何処ぞの御令嬢という風に見えた。しかも窓辺に居ることで一枚の写真や絵画のようにも見える。

「欠席。それで素直に来たのね」

(素直に?)

 内心で首をかしげる灯也。

「新人はそいつか?」

 灯也から見て右奥に視線を移して驚いた。そこには椅子に座った女の子が居た。服装が制服ではなくフリルドレスで派手に目立つはずだが、声が発せられるまで全く存在感が無かった。


「そんなに驚くな。私は校憑こうつきだよ」

「司書さん、彼は昨日休んでたから校憑の説明も受けてないわよ。きっと」

 フリルドレスと御令嬢による意味のわからないセリフが続いている。

「なら、説明してやればいいだろう」

「……そうね、まあ良いわ。呼びつけた代わりに教えてあげる」

 灯也に椅子に座る様に促し説明に入る。

「まず、私は図書委員会委員長の帝綾女みかどあやめ。他の委員は一人。今は給湯室にいるから後で良いとして、早速本題に行きましょうか」

 そう言って綾女も空いている椅子に座る。


「さて、毎年入学式の次の日に『校憑』ってものが説明されるの。完全にオカルトだけど、事実だから黙って受け止めなさい」

 曰く、土地柄により学校に『守り神』がいる。そして『委員会』と『部活』にも『守り神の様なもの』が憑く。

 灯也には一つ心当たりが浮かんできた。


『浅雨高校には八百万の神々がいる』


「以上よ、わかったかしら。これが校憑という存在、図書委員会で言えば司書さんよ。因みに生徒手帳にも校憑に関する項目が記載されているわ」

 当然、すぐに信じられるはずがない。一歩間違えば盛大なドッキリである。普通の学校ではなく、オカルトが存在するだなんて整理がつかない。

 灯也は横目で司書さんを見る。その視線に気づいた少女は手を振った。

 一度頭を振り、ブレザーの内ポケットから生徒手帳を引っ張り出す。これは肌身離さず持っていたものなのですり替えられてはいない。

 目次を見ると『校憑』という項目が確かにある。該当ページには、今説明されたことが書いてあった。


(……生徒手帳に書かれているなら、冗談とかじゃ無く本当の事なのか? でも神様がいるからなんでって言うんだ? あがめろ、とか?)

「質問があるだろうから最初に答えておくわ。戦うためよ」

 灯也の質問を先回りして答える綾女。

「戦う理由は様々。部活間の揉め事、校内風紀の違反による取り締まり等よ」

「あとは腕試し、とかもありますね」

 その声と共に灯也の目の前にティーカップが置かれる。

 灯也は声の先を見ると、髪を後ろで三つ編みに下げた眼鏡の女子生徒が微笑んでいる。


「私は二年の水沢悠みずさわゆうです。冷めないうちにどうぞ」

 進められるまま、礼を言って一口すする。今までパックの味しか知らなかった彼にとって、衝撃的に味が違った。

「美味しい? 司書さん以外はたいしたリアクション無くて淋しいんですよね」

 そう言いつつ綾女と司書さんにカップを渡していく。

「私はただ、美味しいものに対して簡単に声を出さずに味わっているのよ」

「美味しいものを美味しいと評価するのは大切だぞ綾女?」

 二人同時にカップを傾ける。一方は満足そうな笑みを咲かせ、一方はほぼ無表情な事が悠の言っていることが本当だと物語っていた。

 紅茶のおかげでリラックスしていた灯也だが、現実にもどらねばならない。騙されている可能性を念頭に、校憑の話を積極的に話してボロや矛盾がないか確認してみることにする。


「戦うってなんですか? 素手で殴り合うとか?」

 灯也の質問に、紅茶を飲みきった司書さんが、悠におかわりを催促しながら否定する。

「そうではない。校憑たる我々が委員や部員に力を貸すのさ。恩恵や付与と言い換えても良い。校憑は、その委員会や部活動に準じた能力を持っていてそれを貸すのさ」


 悠からのおかわりを受け取って話を続ける。

「そして戦う。それが浅雨高校であり、最強の一角たる図書委員会なのだよ」

 悦に浸りながら力説する司書さんをさえぎって灯也が綾女に聞く。

「腕試しってそういう意味なんですか? 最強の一角だから、他の委員会や部活の人が勝負を挑んでくるって事ですか?」

「そうよ。だから素直にここに来た事に納得したのよ」

 灯也への説明より、図書委員会のすごさを語っている司書さんの話は続いていた。


「図書委員会は少しばかり能力が特殊でな、先達の学生たちが必死に技を磨き上げ、最強の名を手に入れたのさ」

 と自慢げに胸を張る。


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